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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
一章 別れがあるということは、出会いだってある
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第7話 出会いと発見


「ほら、立て。もう動けるだろ」

 

 その言葉と同時に、残っていた足の枷も外された。

 立とうとするが足が痺れていて力が入らなかったため、仕方がなくカーペットであぐらを掻く。


 そして、もう一度彼女の方を見た。

 背丈からして俺と同じか、少し上ぐらいの歳だろうか。

 それでも、彼女の言動にはその歳相応の幼さを感じられない。


 俺が彼女の後ろ姿を見ていると、グレイルの隣にいた青髪の人が近づいてきた。

 紛れもなく俺に攻撃をしてきた奴だ。

 少し距離を取りたいが、今の足の状態だとそれは叶いそうにない。

 とりあえず、逆効果かもしれないがそいつを睨んだ。

 それでも、彼女は止まることなく近づいてくる。


 ……あれ? これもしかしてやばい?

 そう気づくと同時に、他の2人に助けを求めるべく視線を送るが、片方はそっぽを向き、もう片方に関しては笑顔で手を振ってくる始末……。


 そこで、やっと俺の脳裏に1つの可能性が生まれた。


 ーー騙された……とかないよな?


 人を1番の絶望に叩き落とす方法は、1回希望を見せてから現実を見せることーーと、どっかの本に書いてあった。

 そして今回の場合、残念なことにそう考えると辻褄が合ってくる。

 

 逃げ、逃げなきゃ…… 殺される。

 ーー死ぬ……!


 左足を立て、精一杯力を入れて立ち上がったーーが、痺れた状態で力が入り続けるわけもなく、すぐに体勢を崩し、尻餅をつく形で再び床に座り込んでしまった。


 そうしてる間に、奴はほぼ目の前まで迫っていた。

 その綺麗な容姿も、今の状況から見てみれば、死へと誘い込んでくる死神にも見える。


 そして、ついに奴が立ち止まった。

 距離は目と鼻の先、おそらく1メートルの間隔すらないだろう。

 もうこの先は見たくない。

 ーーまただ。

 また、あの時のようにひどい痛みを味わい、抉れた傷と血を見ながら……苦しんで…………、


 その光景が頭に浮かんだ瞬間、反射的に目を閉じてさらに、頭を守るように右手を頭上までもっていく。

 次の瞬間、体中に激しい衝撃が襲ってーーそんな光景を想像していた。

 

「本当に、あの時はーーすまなかった」


 そう。この言葉を聞くまでは。

 恐る恐る目を開けると、そこには手を体の横に着けたまま頭を腰まで下げた奴の姿があった。


「あの時、私は攻撃に夢中になりすぎていて、ケイト様だということに気づくことができなかった。あの場所は本来、人が立ち入れない場所とはいえ……油断して確認を怠った。これは、完全に私自身のミスだ。こんなことで許されるとは当然思っていないが、謝罪させてほしい」


 ……驚いた。

 彼女には悪いが、いきなり攻撃してきたことに加え、目は逸らしてくるし、何も言ってこないしで勝手に狂人扱いしていた。


 だが、後の2つがただ単に気まずさから来た行動だったとしたら、こっちはこっちで辻褄が合う。

 それでも、今の彼女の言葉は正直言って信じきれない。

 そもそも、攻撃に夢中になりすぎてーーって、どっちにせよやばい奴には変わりないんじゃないのか?


 そんな俺の疑問が伝わったのだろうか? 今さっきまで手を振っていて何もしてくれなかったニコニコが口をはさんだ。

 

「まーまー、確かにミカワ君の気持ちもわかるよ? 突然攻撃とかされたらさすがに誰だって怒るし。けど、セレシアの魔法は、ちょっと桁違いというか……何というか、複雑でさ。だから、許してほしいとまでは言わないから、多めに見てほしいかな」


 再び奴の方を向くと、驚くことにいまだに頭上げていなかった。

 ……俺が何か言うまで、ずっとこうしてるつもりなのか?


 正直なところ、許せるか許せないかだけで言ってしまうと、許せない。

 たとえ傷ついた体を直してくれたのだとしても、死にかけたのは彼女のーー


 ……。

 いや、違う。


 …………思い、出した。

 そうだ、俺は彼女に会う前にも1度死にかけた。

 消えないあの痛みは。


 左腕に目を向ける。

 もちろん血は流れていないし、噛み痕すらも残っていない。

 あの狼もどき、もしもあれが彼女の魔法で追い払われてなかったら、俺はどうなっていたんだ?

 狼が途中で逃げなかったら、俺は無事にたどり着けたのか?

 いや、そもそも彼女にここまで連れてこられてなかったら、今頃どこをさまよってた?

 ………。


 結果的にみると、俺は彼女に救われている。

 彼女のせいで再び拾った命を落としかけたが、結果だけ見ると彼女がいなかったら死んでいた可能性の方が高い。

 それがわかってしまえば、俺がするべき行動は1つだ。

 

 攻撃した時のことはやっぱり許せない。

 それでも、だ。

 

「いや、まぁ結果的に助けてもらったんですし、顔を上げてください。確かに、次があるならもう少し気をつけてほしいですけど……、そこまで気にしないでください」


 俺がそう言い終わって少しすると、彼女が頭を上げた。

 

「その寛大なる許しに心からの感謝を。お詫びと言っては難なのだが、私にできることがあったらかまわずに声をかけてほしい。できることならなんでもやると約束しよう」

「あ、ありがとうございます。……ところで、ちょっと一つ質問なんですけど、なんで俺の名前に『様』をつけるんですか?」

「ケイト様は、現在客人という扱いになっている。客人には『様』をつけるというのが騎士の規則なんだ」

「いや俺だって救ってもらった立場なので、様とかは別につけなくていいですよ。どちらかと言えば、その呼び方の方が違和感あるので……」

「そ、そうなのか? では了解した。自己紹介が遅れて申し訳ないが、私の名はセレシア・アーネットという。これから、よろしく頼む」


 そう言って手を差し伸べてきた。

 例えここが異世界だったとしても、人とのかかわり方には大した差はないのかもしれない。


 俺はその手を握った。


「改めて、三河恵斗です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 確かなぬくもりが、手の平を通して伝わってくる。

 手と手をつなぐ、ただの1つの行為でしかないが、不思議とこれをするだけであの攻撃のことも水に流していいような気持ちになってくる。

 

「それと、私に敬語は使わなくてもいい。客人という立場である君に『様』をつけていないのに、私は敬語を使ってもらうのは少しばかり不公平に感じてしまう」

「そういうことなら、俺も楽に話させてもらいます」


 少し苦笑いしながらそう言い終わると同時に、隣から手をパチパチと叩く音が聞こえてきた。

 

「おめでとう! これで和解成立、過去のことはお互い水に流して仲良くやってこー!!」

「えっと、あなたは……」

 

 突然、さっきからずっとニコニコしていた金髪の少女が話に割り込んできた。

 俺がさっきグレイルが言っていた彼女の名前を思い出そうとすると、浮かぶよりも先に彼女が口を開いた。

 

「あー、ごめんごめん。私もまだ自己紹介してなかったね。 名前はミルナ・ラーレスク。騎士団の……えっと、セレシアのちょっぴり下らへんの立ち位置かなー。呼ぶときは、気軽にミルナでいーよ!」

「えっと、じゃあミルナさん。これからよろしくお願いします」

「君ってば、まだどこか硬いよー。 もっとフレンドリーに柔らかく! 敬語なんてめんどくさいもの使わなくていいからさー。 ね? レイナもそう思うでしょ?」

「……はぁ、なんでそこで私に話を振ってくる? ーーけど、確かに挨拶ぐらいは済ませておいた方が後々楽か」


 レイナと呼ばれた人物は、ため息とともにそう言うと俺の方を向いた。

 すると、どこかけだるそうに軽く右手を挙げた。


「レイナだ。聞いての通り、お前の監視を担当することになった。……まぁ、短い付き合いだろうが」

「ちょっとー、言うならまずはよろしくとかでしょー! 初めて会うときに関係の終わりの話とかしちゃダメだって習わなかったの?」

「うるさいな。大体、お前だってよろしくとか言ってるようには聞こえなかったぞ。それとも、単に私の耳が悪かっただけか?」

「私はもっと軽く接してるからいいの! そんなことより、レイナもそんな人を寄せ付けないみたいな態度やめなよ? ごめんねー、ミカワ君。レイナはいっつもこんな感じでとげとげしてるけど、実は意外と寂しがりやなんだよ? それと結構強いし」

「はぁ、付き合ってられない」


 見たところ、ミルナは明るい性格だが、レイナの方は……、なんというか、接しにくい。

 彼女が言うには寂しがりらしいが、正直なところとてもそうには思えない。

 

 この人が俺の監視役か。

 確かに、あの状況から助けてくれはしたけど。もう少し怖くなさそうな人が良かった……。

 いや、でもツンデレ的なあれかもしれない。

 もしかしたら、悠菜みたいにーー


「おい、どうした? 着いてこないなら置いてくぞ?」

 

 俺が彼女のことを考えてるうちに、ミルナさんとの会話は終わっていたらしい。

 見てみると、もう彼女は大きな扉を開けているところだった。

 ーーあ、マジで置いてかれる。

 

 そう察して、彼女の元へと小走りで向かう。


「では、また近いうちに」

「じゃーねー!」


 後ろから全く違う挨拶が聞こえる中、ふと思った。

 そうだ、俺は、彼女ーーレイナのことを何も知らない。

 彼女のことを知れば、そのげんどうの意味が理解できて、怖くなくなるかもしれない。

 

「あの、レイナさんはーー」


 そこまで言ったところで、言葉が詰まってしまった。

 俺の呼びかけに反応して振り向いた彼女と目が合ってしまったからだ。

 光が全く灯っていない目ーーそれは、俺が聞こうとしたことのすべてを物語っていた。

 

「私のことは、レイナでいい」


 そう冷たく言い放って、彼女は王室を出た。

 俺も、何も言うことができないまま、少し間を置いて後に続く。


 ーーかくして、俺の異世界での生活が始まった。

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