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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第76話 間際と出口


 洞窟を抜け森を超え、周囲を覆い尽くすほどに木が生い茂っていた森からいつの間にか背の低い植物が地面を覆い尽くす大地へと変わっていた。

 そして、景色が開けたことにより、さらに先が見渡せるようになった。


 大地を照らす日光に、広い視界に限りなく広がる空ーーそれらが、あの狭く広い空間から抜け出したことを嫌と言うほど伝えてくれる。

 

 人間の心というのは不思議で、視界が広くなっただけなのに余裕が生まれた。

 日光のおかげなのだろうか? あれから一切休めていないのにも関わらず、少しだけ疲れが取れた。

 やはり、狭い空間というのはそれほどストレスの溜まりやすいところなのだろう。


「お、見えた見えた」

「え、何が?」

「おいおい、ここまで決まったら決まってるだろ? この森の出口だよ」


 そう言われると同時に、目を凝らして先を見つめてみる。

 すると、この先にうっすらと人工物のようなものがあるのがわかった。


 岩をそのまま使ったような、不恰好で目立たないものが地面にある。

 それを見つめたまま少し歩くと、ようやくその正体に心当たりに思い当たる。


 ここ、エトレイク森林の中の第1から第4洞窟。

 それらの前にあるそれぞれの大橋が、その入り口となり出口となっている。

 実際、俺も第1洞窟に入る前に橋を渡ってきたじゃないか。


 その見た目に合わず、第n大橋という大層な名前をつけられてしまった橋だ。

 だが、それを通らないと森の前を流れる川を越せないのも事実。


 鳥や聞いたことない何かの声が聞こえて来る中、よく耳を澄ませてみれば水の流れる音がそれらに混じっている。

 

「じゃあ、本当に……」

「ああ、めでたく脱出成功ってところだな」


 その間、お互い口を開くことなくその橋へと近づく。

 周りの警戒はしっかりとしながらも、とりあえずの安全地帯へ渡るために早歩きで進む。


 視界にひっそりと映っていた橋は、一歩足を前に出す度にその存在感を増していく。

 最初は名前だけだと思っていた大橋も、その全貌が明らかになると思わず納得してしまう。

 確かに長い。

 その簡素な作りからは想像できないほどの長さだ。

 

 そして、すぐに芝生のように柔らかかった足からの感触が、硬いものへと変化した。

 流れる水の音も真下から聞こえるようになり、柵もなく幅もそこまでない開けすぎた空間に緊張が走る。


「なぁケイト。お前らのとこは竜車の予約とかしてるのか?」


 しかし、そこにまるで緊張感のカケラもない声が響いた。

 慣れてるからなのか、それとも高いところが平気なのか、どちらかはわからないがよりにもよってこの状況で問いかけてきた。

 ……あれだ。ゲイルって吊り橋でジャンプして揺らすタイプの人だ。


 答えるか一瞬悩んでしまったが、別に怖いだけで落ちることは多分ないのでとりあえず気になったことを聞き返す。


「竜車って予約とかできるものなの?」

「知らなかったのかよ! え、竜車で来たんだよな?」

「前回は竜車だったけど、今回は徒歩だったはず」

「ま、第1程度なら歩いて来れるか。けど前回乗ったんなら説明とかなかったのか?」

「その辺はレイナに丸投げだったしな……」

「にしてもじゃねえか? 一応聞くけど、竜車は何回かぐらいなら乗ったことあるよな? 流石に」

「いや、前回が初めてだった。……っていうか、人を襲わない龍もちゃんといるんだな」

「おい……まじかよ。お前どこの国から来たんだよ。グルセコ王国でもそんな酷くないはずだぞ」

「あはは、いや、俺がちょっと知らなすぎただけで……」

「というか、今言ったことが本当なら、お前らってかなりの初心者か!?」

「まぁ、俺はそう。レイナの方は結構やってるらしいけど詳しくはわからない」

「あれでお前、初心者かよ? 俺が言えた話じゃないが、よくあそこを生き残れたな!?」

「おい、ゲイルがそれ言っちゃダメだろ! 今回死にかけた半分はお前らのせいだぞ!」

「悪い悪い、許してくれーーとは言わないから、俺らにも事情があったんだ。結果的に人違いだったが」

「それが問題って言ってるだろ! 帰ったらちゃんと謝ってもらうからな? 土下座しろ土下座!!」

「土下座? お前何言ってんだよ? 新しい星座かなんかなのか、そりゃ?」


 

 気づけば橋も通り過ぎ、水の流れる音も小さくなっていた。

 話しているおかげか、疲労感がそこまで増すことなくなく進むことができている。

 

 そして、次に前に現れるのは橋から続く獣道。 

 この大地の中で、唯一地面に草が生えていないところ。

 誰の手入れもされてないのに、出来上がっている自然の道。


 そこが、今までいかに多くの人がここに足を踏み入れたのかを教えてくれる。

 だが、ここから出ていった人の数はきっと入った人の数よりも少ないのだろう。

 俺だって、運が悪かったら死んでいた。

 そこが第4、第1洞窟、どちらだとしても。


 川を越えてからは、辺りに木は立っておらず平らに広がる平原があるのみだった。


「さて、話を戻すが……1台でも竜車がいるといいが」

「え、洞窟の前には大体止まってるんじゃないのか!?」


 俺の認識だと、この世界での竜車というのはタクシーと同じ存在だ。

 つまり、人の来る場所には当然客待ちをしている。


 それは、第1洞窟の前でもそうだった。

 なら、ここにもいるはずでーー


「考えてみろよ。ここは最難関と言われてる遺跡だ。今までにトップレベルだったパーティがいくつも呑まれてる。そんな場所に人が集まって来ると思うか?」

「あ……確かにーー」

「だろ? だから、ここで客待ちするのは基本損にしかならない」

「なら、俺たちは歩いて帰らないといけないのか?」

「ま、そうなるな。夜にこの辺をウロウロしてたくはないからできることならーー」


 突然、彼の言葉が止まった。

 それと同時に歩みも止めーーたかと思えば、いきなり走り出した。


「どうしたんだよ? ゲイル!」

「竜車だ! 1台見える!!」 

 

 そう言い残すと、腰のあたりにかけていた杖を取り出し、何かの魔法を使う。

 そして、普通に走るより何倍も速い速度で前へ突き進んだ。


 そんな離れていく彼の背を追い、なけなしの体力を使って走る。

 だが、すぐに追いつけないことに気づき、再びゆっくりと歩き出す。

 そして、そこでようやく彼の向かった先へと視界の焦点を合わせた。


 広い草原。

 無事に脱出できたことを祝ってくれているように辺りに咲き乱れる花々。

 前方には背の高い植物はなく、大地と空の境界線が綺麗に見える。


 しかし、そんな中で少し高さのあるものが目に入った。

 ゲイルが向かう先、ここからそこまで離れていないところに、ポツンと1つだけ存在している。

 それには車輪があって、軍のトラックのように布でできた荷台がついた車だ。


 だが、唯一俺の知ってる車と違うのは、その車の前に4速歩行の竜がいて、竜車と繋がっているということだ。

 まるで、馬車のように。

 

 それは、俺が以前に乗った竜車の姿そのものだった。


 そこへゲイルはいち早く着き、数十秒間何かを話す。

 そして話が終わった途端、荷台に乗り込んで竜車は進み出した。

 ーー俺の方へと。


 地龍が鳴き、車輪の回る音が近づいて来る。

 龍の背には、手綱を握った商人らしき人物が載っている。

 そしてーー


「お客さーん! お乗りください。もう連れの方は乗っちゃってますよー」


 またも緊張感を感じられない大声とともに、俺に大きく手を振ってきた。

 そして、俺がポカンとしている間に真横まで竜車を移動させる。

 すると、荷台からゲイルが手を伸ばしてきた。


「さ、いいのが見つかった。行くぞ」


 そう言いながら、手を差し伸べて来る。

 それに対し、俺は迷いなくその手に掴まった。


 俺が乗った竜車は、以前乗ったものと少し形が違う。

 前回のは全て木で作られていたが、こっちはさっきも言った通り木製の枠組みに布が被せてあるだけだ。

 だが、運転手に聞いたところ防水効果はあるらしい。


「……にしても、こんなところで出待ちしてる奴がいるなんてな」

「商売は待ちが重要なんですよ!」

「へぇ、感心だな」

「お疲れのようで……どうぞゆっくり休んでいてください」

「ま、俺たちもそうしたいところだが、まだ一仕事残ってるんだわ」

「と言うと?」

「最初に言っておくべきだったんだが、第1大橋に向かってくれ。合流する相手がいる」

「なかなか面白いことやってますね。わかりました。その代わり、料金は変わりませんよ?」

「構わない」

「いいですねえその大胆さ。……まぁ料金があまり変わらないのも事実ですが、それでは、第1大橋に向かって出発いたしまーす!」


 荷台についた小窓からは、運転手の大きい声が聞こえてくる。

 おそらく、ここが唯一の運転手とコンタクトを取れる場所なのだろう。

 なら、閉めればーー


「じゃ、ちょっと話があるから閉めさせてもらうぞ?」

「どうぞどうぞ。僕にも話せるような冒険の話があったら是非教えてくだーー」


 閉まった小窓により、運転手の声が遮られた。

 どうやら、ちゃんと防音になってるらしい。

 ……それよりも気になるのが、


「なんで突然?」

「まぁ順番に話そう。ケイト。」


 目の前には、真剣な顔をして



「それは、レイナがいる時にーー」

「ちゃんと居てくれればいいけどな」

「え?」

「確かに、ユカと彼女なら、あそこから入り口まで戻って来るのは簡単だ。けど、俺たちはこうやって転移した。なら、2人だって転移して、戻ってないどころか最悪知りもしない場所に飛ばされた可能性もある」

「……」


 ーーなんで気づかなかったんだ。

 あの時だってそうだった。

 俺だけが転移の対象じゃない。


 俺たちが転移したのなら、彼女たちだって……


「ま、これはあくまでも推測でしかない。本気にすんなって」

「……いや、レイナは多分無事だ」

「その根拠は?」

「この俺でもあの地獄から脱出できたんだ。俺よりも何倍もすごいレイナがやられるはずない」

「それはまた大した信頼だな。……お前は、自分のことを過小評価しすぎだ。だが、いいペアではある」

「……」


 その話を流すように、外の景色が見える窓の方へと目を背けた。

 気づけば、平原だったはずの外には木が立ち並んでいる。


 知らない場所から、見たことのある景色へと少しずつ近づいていく。

 この先に、レイナはいるのだろうか?


 竜車は、僅かな不安を残しながらも止まることなく進んでいた。

 

 ーー彼女が居るか居ないか、それがわかるのは例え嫌でもすぐ先のことだ。

 

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