第71話 関係と転移
突然滅んだ国に、突然現れた転移魔法陣。
そして、その国の遺跡となった場所に存在する数多くの転移魔法陣。
何の関係もなかったものが、ここに来て線と線が結ばれた。
突然人が消えたーーというのは、まさしく俺が転移した現象と同じだ。
どういう経緯かは分からないが、俺がこの世界へ来たのもその1つ。
……なら、消えた「彼ら」はどこへ行ったのか?
「この国が滅んだのって、いつのことなんだ?」
「さあな、岩に埋もれてるところとか、その時の全容がおとぎ話になって伝わってるところからも数百年ってどころじゃねえわな」
「……そうなのか」
確かに、この遺跡を見ている限りでも、欠けた地面に、いたるところに張られている蜘蛛の巣、さらには原形をとどめていない通路の数々。
それらが、とても数百年という単位ではないことを物語っている。
だが、ここが滅んだのがかなり前だったとすると、俺の転移との関係はないのか?
普通に考えて、そんなに前のことと結びつけるのは無理がある。
もしかすると、ここを滅ぼした奴が魔法を後世へと受け継ぎ、その何代もあ友の人物が俺を転移させたのか?
衝動的な行動、そして安直に出した結論は、少しの矛盾が出ただけで瓦解していく。
証拠という証拠を集めようとしても、集めるたびに出てくるのは疑問だけ。
さすがに、早とちりしすぎた。
結論を急ぎすぎるあまり、間違った推測のまま物事を進めたとしても、得るものは何もない。
「じゃあ、この魔方陣と俺の転移は関係ないのか……」
「いや、そうとも言い切れない」
「でも、何百年と間が空いてるんだろ?」
「確かにその通りだ。だけどな、城の禁書庫っていうのも、もうずっと前からあるんだ。ーーそれこそ、国の開国からな」
「え?」
「この国の開国は、さすがにこの遺跡には劣るが、それでも数百年は歴史がある。それから禁書庫の魔法は1回も外に持ち出されることはなかった。あの革命まではな」
「そして、革命が起きたのが……ほんの10年前!」
「あぁ、一致するんだよ。ーーっていうか、この遺跡のことといい、レセンブルグのことすら知らないなんて、お前ほんとどこの国から来たんだ?」
「国? えっと、日本っていうところだけど」
「二ホン? 聞いた事ねえな。帝国の先あたりか?」
特に隠すこともなく本当のことをしゃべっていたが、どここか会話が噛み合っていない。
まるで、俺がこの世界のどこから来たようなーー
そこまで思った時に、ゲイルが何を勘違いしているのかが分かった。
俺は確か、彼に魔方陣の奥から来たといった。
つまり、別の世界から来たということは話していなかったのだ。
普通、それこそ魔法を使うのが当たり前の世界では、別の世界から来たなんて信じないだろう。
俺だって、最初は信じられなかった。
なら、彼がそう思わないのも当然だ。
「もし……もし仮に、ここにある魔方陣が別世界とかに繋がってたらどうする?」
「は?」
「いや、例えばの話。別の世界があって、ここが滅んだろ気に、ここにいた人が別の世界に送られていたとしたら」
自分でも、隠すのが下手だと思った。
別に、俺が地球という世界から来たということが彼にバレても、問題ないのに。
だが、隠したせいで勝手にドキドキしてる俺に対し、彼は少し考えるようなそぶりをしてから口を開いた。
「なるほど、そういう考え方もあるのか。……なら、試してみるか」
「ーー試すって?」
「いいか? こちとら誰かさんのせいで2回も魔方陣をくぐってんだ。ここが別世界だっていうんなら、もう手遅れだっつーの」
「…………」
「この場所は多分そんな物騒な場所なんかじゃねえよ。見たところ、同じ遺跡の何処かだ。けど、問題はここが最初に入った魔方陣部屋じゃないことだ」
そう言われ、周りを見渡す。
今まではどうしても、その目立つ魔方陣に目が行ってしまい気づかなかったが、俺たちが入ってくるのに使った扉が無い。
……いや、よく見ると魔方陣の配置、そして明るさも微妙に最初と違っている気がする。
つまりーー
「魔方陣を潜るたびに、似たような場所に転移してる」
「そうなるわけだ。ま、それじゃまだ別世界に来てる可能性も否定しきれないんだけどな」
「なら、試すって……まさか?!」
「ああ、そうだ。知ってる場所に行きつくまで、この魔方陣を潜り続ける」
「ーー本気か?!」
「さっきまで当然のようにそれをしてたやつが、何言ってんだよ」
「ぐっ……」
得体のしれない、行き先がどこかもわからない魔方陣を潜る。
冷静になって改めて考えると、これほど馬鹿げたことはそうそうない。
その光の先は、太平洋のど真ん中の可能性もあれば、酸素のない宇宙空間の可能性だってあるのだ。
今思えば、完全に常軌を逸していた。
そして、未知に対してさっきまでとは比べ物にならないほど恐怖がある。
衝動的にやっていた行動を振り返ってしまえば、その行動力は失われてしまう。
たとえそれが、人の作り出した防衛反応なのだとしても。
「もちろん、俺だって当てずっぽうでこの空間を彷徨う気はないさ」
「ってことは、何か法則とかがわかったのか?」
「まぁまぁ落ち着けって。他の場所に転移した時点で、ここにある魔法陣は禁術だ。そんな禁術の仕組みがそう簡単にわかるわけないだろ」
「ええ……」
「だがな、これは仮定に過ぎないんだが、魔法陣をよく見てみろ」
その言葉の通りに、一番近くにある魔法陣へと目を向ける。
そこには、やはり何も変わらない魔法陣がいくつか固まって描かれている。
さらによく見ると、魔法陣の中に書かれている模様も少し違うような気がするが、ほとんど誤差程度だ。
「よく見たけど、それで?」
「この部屋にある魔法陣はある程度まとまってグループになってないか? 1つの魔法時の周りに4個から6個ぐらいの魔法陣が囲んでる感じに」
そう言われ、次は1つの魔法陣ではなく全体を見てみる。
すると、確かに彼の言った通りの形をしている。
まるで、外側の魔法陣で中央の魔法陣を守っているような……
「で、俺たちが2回入ったのは外側の魔法陣だ」
「ってことは、中央のやつに入れば別の場所に?」
「ああ、多分ここ以外のどこかには出るだろう」
よくよく思い返してみれば、俺はいつも最も近い魔法陣に入っていた。
その結果、行き着いた先は2回ともほとんど同じような空間。
まだ2回だ。決めつけるには早すぎる。
だが、中央のものに鍵がある可能性が出てきてしまえば、もう試す必要はない。
俺たちの今の目的は、この謎の究明ではなく魔法陣を通してここから脱出することなのだから。
「ところでさ、ゲイルはどうやって俺の入った魔法陣を特定したんだ?」
「ん?」
「だってさ、俺が飛び込んだ時にゲイルの姿はなかったからさ。どうして俺の入ったところがわかったんだ?」
「ここの魔法陣、起動すると消えるっぽいんだよ。ただ、消えるまでにそこそこ時間がかかるらしくてな。だから消える前に消えかかってたやつに入った」
「消えかかってても転移はできるのか……」
「そうだな。明らかに普通の魔法とは違う」
ゲイルの発見がありながら、これらの魔法陣について推測していく。
当然、実際に潜ってみないと真相は分からないが、危険を犯す前にその真相を考える。
……思えば、ゲイルのおかげで色々とわかりつつある。
流石一流の冒険者と言ったところだ。
ーー俺1人じゃ、絶対に気づかなかっただろう。
「ゲイル、ありがとうな」
「おう、言うのが遅ぇぞ」
俺の言葉に対し、彼は不敵に笑っていた。
その顔を見ると、自然と不安は消えていく。
ここにレイナと、ユナさんもいれば……
それこそ、きっとこういう異世界ファンタジーのパーティ的な存在になるのだろう。
それが、きっと仲間のような存在に……
「んじゃ、行くぞ。潜るのは中央のやつだから、間違えて別のとこに入るなよ?」
「流石にそんな間違えはしないって」
「どうかな?」
そんな会話をしながら、光り輝く模様の上に足を踏み入れる。
硬い地面の感触が踵から伝わってくる。
日がさしていないため、洞窟の内部は意外と肌寒い。
ランタンの光で明るさは誤魔化せても、太陽の代わりにはなってくれない。
だが、この地面から漏れる青白い光に体を通した瞬間、そんな肌寒さが少し軽減した。
そして、時間が経つにつれ体は透明になり、ここから消えていく。
空気の匂いが薄くなっていき、五感も役に立たなくなっていく。
まるで、空間そのものを遮断しているかのようだ。
光は少しずつ大きくなり、体を包み込む。
そして、完全に光へと包まれた次の瞬間。
再び空間が暗くなり、冷たい空気が肌に触れる。
無音だった空間に、微かな虫の這いずる音や、何かの生き物の鳴き声も混じっている。
それだけで、ここがさっきとは違う空間だということがわかった。
ーーそうとわかったのなら、話が早い。
重い瞼を開き、視界を広げる。
彼の持つランタンから僅かな灯りを取り込み、周囲を見渡した。
そこには魔法陣の1つもなく、俺たちが来たようなあたり一面紺色の遺跡の中だ。
そして、その遺跡は所々がひび割れ、場所によっては自然の岩肌が露出してきている。
それで、魔法陣の部屋へと続く不気味な廊下でないことがわかった。
「転移……できた」
見たところ、ここは俺たちがいた洞窟の中だ。
つまり、とりあえずは元の場所に戻れた。
それがようやく理解でき、安堵の息を漏らす。
「ゲイル! 成功したぞ!」
その事実をゲイルと分かち合うため、ほとんど無意識に彼の方へ話しかけていた。
だが、中々返事が返って来ず、彼の方へと振り向いた。
「おい……嘘だろ? じゃあ、まじだって言うのか……」
そこにあった彼の顔を一言で言い表すとすれば、「驚愕」だ。
あり得ないものを見たかのように、彼の顔は固まっている。
「いや、確かに転移したのはすごいことだけどさ、そこまで驚くものでもーー」
「よりにもよってーーなんで第4洞窟の中にいるんだよ……」
そんな彼の力ない響きが、暗闇の奥へと消えていった。




