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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第68話 デジャブと記憶


 記憶が蘇る。


 悠菜を突き飛ばし、強引に範囲の外側まで出したあの瞬間が。


 同じだ。

 あの時同様、青白い光の魔方陣。

 

 あれを踏んだと途端、この世界に飛ばされてーー


「おい、マジでどうしたんだよ?」

「ーー」


 目の前の景色が嘘のように感じられて、何回か瞬きをし、大げさに目を擦る。

 だが、再び目を開けてもそれらはそこに存在し、消えてはいなかった。

 幻覚でも具現化した願望でもなく、しっかりとそこにある。

 

 ……やっと、見つけた!


 まさかこんな形で見つけられるとは思ってはいなかったが、実際に見つかったのならばそんなことはどうでもいい。

 これでやっと、帰れる。


 この世界に来て数日、短いが、強烈な日々だった。

 辛く、厳しく、苦しみが続き、生きるので精いっぱいだ。

 理想の異世界だったところで、自らに特殊な能力とかが無いとただの別世界だ。


 誰もが憧れているのは剣と魔法の異世界ではなく、自分が活躍できる異世界生活だ。

 こんなところ所詮現実であり、思い通りになど行きはしない。

 それこそが、理想の正体だ。


 ……でも、振り返ってみれば悪くはなった。

 

 敵はバカみたいに強く、平和な日本で暮らしてきた俺にはとても敵うものじゃなかった。

 だが、それでも抗えた。

 何度も死にかけるような思いをして、それでも生きてこられた。


 それだけじゃない。

 この世界の人々も優しく、頼もしかった。

 誰もが必死に生きていて、だからこそ必死に抗っている俺を助けてくれた。


 ーー帰れるとわかった瞬間、走馬灯のようにここ数日の記憶が蘇ってくる。


 実際に混乱の渦にいた時はとてもこんなこと思えなかったが、過ぎてしまえばもういい思い出話だ。

 いずれ、誰も体験したことない不思議体験に成り下がる。

 

 ここでの経験も、もうすぐ手の届かない過去のものとなる。

 この話をしたところで、信じてくれる人は全然いないだろう。

 けど、きっと話題ぐらいにはなるはずだ。



 ……悠菜は、心配してくれているだろうか?

 突き飛ばしたことを、怒っているだろうか?

 そうだったらいいな。


 それに、母さんにも、父さんにも迷惑をかけてる。

 息子が数日失踪とか、どう説明すればいいんだ……?


 もしかすると、ニュースになっていたりするかもしれない。

 誘拐事件として捜査が進められてたりとかして。


 他にも、最近はあまり遊べていなかったが、友達だって心配をかけている。

 そして、また後悔のないぐらいに遊びたい。

 また会って、話してーー


 今まで当たり前だと思っていたことが奪われ、一瞬のうちにすべてを失くした。

 失なって初めて、その大切さを親身に感じられた。

 ……もちろん、それらをないがしろにしていたわけじゃない。

 その大切な時間を、俺なりに楽しんできた。

 でもーー


 足りなかった……。


 突然すべてが消え、残ったのは後悔だった。

 ああしていればーー

 こうしていればーー


 考えてもどうしようもないのに、そんな考えだけが頭を過り、支配していて。

 

 今考えてみれば、いつかはきっとなくなるものなのに……当たり前だと思って、その現実から目を背け続けていた。

 けれど、今だからこそ言える。

 いつ無くなってもおかしくない。そんなはかないものだからこそ、後悔のないように生きなければならないのだと。


 とりあえず、帰ったら両親に謝ろう。

 今回の分、そして今までの分。

 その後、ありがとうと言わなければならない。

 今度こそ、手遅れになる前に。


 そしてなによりーー


 悠菜に、彼女にーー


 伝えなければいけない。


「おい、ケイト! 待て!!」


 みんな、元気にしてるかな。

 会いたいな。早く。


 もうすぐだ。

 もう、目の前にあるじゃないか。


 1歩進むたびに、1歩近づくたびに、記憶が蘇っていく。

 何気ない日常がより鮮明に色を出していく。


 自分でもわからないまま、引き寄せられるように1番近くにある魔方陣へと向かっていた。

 

 もう、音も何も頭に入ってこない。

 頭にあるのは、懐かしい光景だけだ。


「やっと、帰れるーー」

「おい、ケイト? 聞こえてんのか?!」


 ーーもう少し、もう少しで。


 その時、不意に肩に重さがかかり、半ば強制的に歩みを止められた。

 だが、倒れるように地面に四つん這いになり、その重さを向けて目へ進んでいく。

 魔方陣へと。

 肩を掴まれたーーという簡単なことすら理解できないままに。


「正気かよ? おい!!」


 耳に入るうるさい声を無視し、四つん這いのままに進んでいく。

 俺を止めようとしていたあの声の持ち主も、この短い魔方陣との距離をカバーできるものではなかったらしい。


 そして、光る歪な模様の中に指の先を入れ、勢いを落とさないまま全身を入れる。

 もう、俺を止めるものは何もない。

 これで、やっと終わりだ。


 ーー今度こそ、後悔しないために。


 ……後悔、しないためにーー


 後悔……?


 もう逃げないように、目を逸らさないようにするために、心に植え付ける。

 だが、同時にその言葉がよぎった瞬間、心が重くなった。


 ……これでいいのか?


 ゲイルが、必死に叫んでいる。

 他の誰でもなく、俺に向かって。

 

 こうやって一緒に歩いた時間はほんの少しだったのに。

 彼は、俺のことを仲間だと思っているのだろうか?


 確かめようとしても、もう遅い。


 既に魔法陣へと足を踏み入れた体は、薄く消えつつある。

 透き通って、そしてーーいなくなる。

 この世界とも、お別れだ。

 ようやく、彼女に会える。


 『悠菜にーー

  レイナにーー』


 ーー!!


 名前が、重なった。

 呼び慣れた名前と、呼び慣れそうだった名前。

 さっきまで、また話そうとしていた彼女だ。


 途端、頭を埋め尽くしていた日本での思い出の中に、新しい記憶が捩じ込まれてくる。


 仲間だと思っていたら、彼女に殺されかけたこと。

 そしてとある、2人に救われたこと。


 レイナが、泣いていたこと。


 体は半透明になり、体からは奥の景色が透けて見えるようになっている。

 それが、もう戻れない証拠だ。


 後悔しないと胸に刻み込んだ直後で、また後悔を重ねる。


 衝動的な行動のせいで、後戻りできない選択をしてしまった……。


 今からでも確かめたい。

 レイナが、何を思っていたのか。

 それに、助けてくれた2人にもお礼が言えてない。


 ……。


 でも、今、この瞬間じゃないと魔法陣は発動していないかもしれない。

 もう少し飛び込むのが遅かったら、消えていたかもしれない。

 それこそ、あの日のように。


 後悔をしないために、さらに後悔を重ねるのか?

 取り返しのつかないことを、自分の選択を悔やむのか?


 俺は、あの世界へ戻らないといけない。

 ……これは、絶対だ。


 しょうがない。だって、他に選択肢など存在しないのだから。


「テメ、バカかよ!!」


 最後に、彼の声が聞こえてきた。

 そこからは緊迫感が伝わってきて、嘘偽りのない言葉だとわかる。

 

 元々、俺はこの世界の住人なんかじゃない。

 いわば、本来いるはずのない人間。


 これで、良かったんだ。

 これこそが正しくて、これだけが唯一の道。


 レイナが何を思っていたかも、もはや俺には関係ない。

 2人が仲間だったのかも、知らなくていい。


 どうでもいいんだ。

 もう、俺には関係ない、はずなんだ……。


 考えるな考えるな考えるなーー


 後悔なんてするな。

 俺は正しい。…‥正しかった。


 目的を思い出せ。

 この世界に来た時の怒りを思い出せ。


 この世界にいるべきじゃない。

 未練なんて……

 後悔なんて……


 考えるな……


 考えるな!


 帰れば、悠菜が待っている。

 みんなが、待っている。


 それで終わりだ。


 ーー終わらせないと。


 

 時が進むにつれ、体は薄くなり消えていく。

 これで、全て終わりだ。


 だが、最後の最後までゲイルは何か言っていた。

 ……その声は、聞こえてこなかったが。

 

 それが、どこか嬉しくて、それでいてどこか悲しい。

 帰れるという喜びを、あまり感じられない。 

 もちろん、それは嬉しいし、正しかったと思っている。


 だが、胸は締め付けられ、最後の最後には俺の方へ走ってきたゲイルの姿を見ないように目を閉じていた。


 ーーこれで、良かったんだ。


 もう、何も音は聞こえない。

 彼の声も、足音も。

 きっと、転移できた証拠だろう。


 これで、全てが終わったーーそう自分に言い聞かせ、閉じていた瞼を開く。

 瞳孔には、少しずつ光が入り込み、前に広がる景色を脳へと届ける。

 肌の感覚も、先ほどとは変わって少し冷たくなくなっていた。


 ーーこれで、ようやく!


 感覚で感じ取り、ようやく無謀な願いが叶ったと分かった瞬間、心を締め付けていた苦しさが少し無くなった。

 あるのは、達成感と、高揚感。

 それらが、負の感情を包み込み、隠していく。


 そして、そこでようやく瞼が完全に開いた。


 あの時のような暗い空間に、所々の光が灯っている。

 地面は平らで舗装されており、明らかに人工的に作られたものだ。

 そして、それが奥までずっと続いていた。


 そんな光景が信じられず、足の力が抜ける。

 もう、目を擦って確認する気力すらない。


 そのまま、膝から崩れ落ち、力無く前に広がった光景を眺める。

 

「ーーうそ……だろ?」


 声にならない声が、暗闇の中に寂しく消えていく。

 周りが無音だからか、その声がこの空間に響き渡っていく。


 暗い空間に、青白い光の魔法陣がある。

 地面は紺色で、壁と天井と同じ人工的に作られたものだ。

 そして、それがずっと奥まで続いている。


 ーー目の前に広がっていたのは、さっきと同じ、魔法陣がそこら中に敷き詰められた通路だった。


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