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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第67話 道のりとデジャブ


 無音すぎる空間が、恐怖をさらに掻き立てている。

 それこそ、さっきまで戦っていたことを忘れてしまうほどに。


 人間は、空間に響きわたる音を怖がるのに、無音の空間も怖がるという……。

 もうどうしようもない生きものだ。


 だが、確かにここは不自然すぎる。

 虫の這いずる音すら聞こえてこないのだ。

 今までは、どんなに暗いところでも、狭いところでも、洞窟の中には蜘蛛ぐらいどこにでもいた。

 しかし、この空間にはそれすらないのだ。

 なんなら、蜘蛛の巣が存在しないおかげでこの遺跡がさらに綺麗に見える。

 まるで、すぐ直前まで人がいたぐらいには。


 野生の動物は、自身がどうやっても勝てないような相手の気配を感じた時、逃げていくらしい。

 なら、この静けさこそ嵐の前の静けさなのか。

 考えすぎだと分かっていても、そう感じてしまう。


 もちろん、強者の気配の正体はエウンゲイルという可能性もある。

 だが、こんな状況になっている以上、目の前に転がる問題を楽観視はできない。


 できるだけ事前に脅威を防ぎ、そして地上に戻ること。

 それだけが、今回の目標だ。


 もはや、俺がなぜ遺跡を探索しに来たのかもあまり覚えていない。

 王のグレイルが言ったんだっけか?


「ケイト。なんかこの壁怪しくないか?」

「……確かに、言われてみれば」

「一応、ここからも道は続いてるが」

「高低差もなく、ずっと平坦なまま」

「じゃあ、行くしかねえよな!」

「とりあえず様子見だけでもする価値はありそう」

「だろだろ!」


 考え事をしている最中に掛けられた声に反応し、言葉を返していく。

 もちろん、声の持ち主はエウンゲイル・ガルラートーー略してゲイルだ。


 出会いは最悪で、この短い間にも何度も戦い合った。

 その割には、結構仲良くやれている。

 このどこかもよくわからない場所で極限状態っていうのもあるのだろう。


 ……なんというか、本当に仲間みたいだ。


「っていうか、まず食料と水を見つけないとやばいんじゃないのか?」

「残念ながらその通りだ。だからこそ、この道はダメだ。音すら聞こえないのはマジで論外だ」

「まぁ、そうだよなぁ」


 目の前にある怪しい壁。

 そこには溝があり、正方形の形を浮き出させている。

 これを見るだけでも、正直隠し通路的なのがあるのは簡単に予想がつく。

 

 というか、隠されてない感じだ。

 言ってしまえば、ただの扉のような……


「本当に、ここのダンジョンはなんなんだ?」

「あれ? お前知らねえのか? ここは太古に滅んだ文明ーー」

「いや、そのぐらいは流石に知ってる。俺が聞きたいのは、何のために作られたのかっていうことで……」

「確かにな、そう言われてみればこの住みにくそうな通路は何だ?」

「やっぱそうだよな」

「ま、でもそんなのは考えてもわからんことだ。その辺は考古学者とかに大人しく丸投げしとけ」


 そんなことを言いながら扉を弄っていると、触れた場所の一部が沈み込み、壁だったものが扉のように奥へと開いた。

 

「うわっ……」

「お、本当に開くのかよ! でかした!」


 開いた扉の隙間からは闇が広がっている。

 そこへ、ゲイルがランタンを近づけ、そして僅かに明るくなった先の道を確認する。


「ケイト。お前、これどう思う?」


 すると、中を除いたゲイルが俺にランタンを手渡してきた。

 つまり、俺も中を除けということだろう。


 今のところ、依然として音は聞こえてこない。

 つまり、扉の奥に生き物はいないはずだがーー

 それでも、ゲイルは俺にも確認するように言った。


 なら、何かがある。


 基本的に洞窟の知識はゲイルの方が圧倒的にあるので、進む道の判断はゲイルにしてもらう。

 ……まぁ、今のところそんな分かれ道はこの長い一本道の前後どっちに進むかぐらいしかなかったが、少なくとも今はその予定だ。


 ……あれ? 

 おかしくないか?


 俺はまだこの道しか通っていない。

 だが、彼の話だと虫が攻めてきた時、洞窟の床をぶち抜いてそこから落ちてきたらしい。

 つまり、この長く続く一本道は上から落ちてきたところにあった通路となるはずだが、とてもこの綺麗すぎる空間の天井に穴が空いているようにも思えない。

 それに、上から落ちてくるにしては、この通路はやはり狭すぎる。

 やっぱり、何かおかしい。


「なぁゲイル」

「何だ?」

「俺たちって、上から落ちてここにいるんだよな?」

「その通りだな」

「じゃあさ、その落ちてきたところから元の場所に戻れば良かったんじゃないのか?」

「……」

「だって、移動の時も少しだけど飛んではいたし……そうしてたらレイナ達とも合流しやすかったと思うんだけど」


 俺が言い終わっても、彼の口元が動く気配は無かった。

 だが、流石にそのまま無かったことにはならない。

 ようやく諦めがついたのか、ついに口を開く。


「あーあ、バレちまったか。まぁ隠し通せるとも思ってなかったけどさ」

「ーーえ?」

「あ、勘違いすんなよ? わざとやったわけではないし、何なら俺だってこの状況はまずいんだぞ?」

「つまり?」

「確かに説明してなかった俺が悪かったが、そう怒らないでくれよ。俺は説明が苦手なんだ。説明するのはいつもユカの役目でーー」

「つまり?」

「……結論から言うと、俺もあの時ーー洞窟に空いた穴から落ちた後、記憶があやふやなんだ」

「は?」

「おいちょっと待て、まだ俺は結論しか言ってない。過程を言わせてくれ」

「まぁ、わざわざ隠してたぐらいなら何か事情があったんだろうし」

「その通りだ。その事情なんだが……確かに穴に落ちる時、意識を失って落ちていくお前をキャッチして、いくつかあった横穴の1つに入り込んだ」

「横穴?」

「俺たちが落ちたところは、深い縦穴だった。けど、広さで言うとそこまでだった。で、その穴の壁に当たる部分に大量の横穴があったってわけだ」


 ゲイルの話を聞く限りだと、俺たちが落ちたところはでっかい木の中にいたような感じだ。

 一番でかい縦穴が幹で、大量にある横穴が根。

 

 ……というか、もしそうだとすると、まるで巣穴だ。

 蟻の巣のような、人ではない何かが作り出したようなーー


「続きを話すぞ? ユカとお前のお仲間も別の横穴に入り込んだ。そこまでは確認済みだ。……ただな、そこに入った瞬間、一瞬で景色が変わってこの遺跡の中にいたってわけだ」

「え、それって、本当に何の前触れもなく?」

「ああ。俺もその後記憶がなくなったのか、それかーー」

「転移……した」

「そうなるな。正直どっちも考えられないが」


 ゲイルの話が本当なら、転移した可能性が高い。

 むしろ、それ以外考えられない。


 俺がこの世界に来たのが転移魔法だとするなら、元の世界にに戻れる。

 ……やっと、悠菜に!


「で、転移してきた場所はどこだ!? どれぐらい歩いてきた!?」

「まぁそう焦るなって。俺だってそこはしっかり探したさ。けど、何もなかった」

「そう……だよな」


 ここでゲイルが嘘をつく理由はない。

 だから、本当に探して、実際なかったのだろう。


 俺の目的は、近くにあるっていうのにーー


「とまぁこんな感じだ。正直、結構時間取られるから隠しておいたんだが、逆に良かったかもな」

「ーー?」

「俺もこの話をしたおかげで、考えなかった可能性に気づけた」

「それはーー」

「いいから覗いてみろよ。ずっと手を掛けたままだぞ?」


 そう言われ、自身の腕の先に視線を移す。

 そして、やっと半開きの隠し扉にずっと手を置いたままだったことを思い出した。


 こういうダンジョンには似つかわしくない、手前側に開く扉だ。

 壁と同化していなかったら、それこそ普通の家にあるような扉に見えてくる。

 紺色の隠し扉だと分かった時はもう少しサイバー感のあるものだと思っていたが……こうしてみると何だか呆気ない。

 ただ隠されていただけだった。


 そんなことを思いながら、掛けた腕に力を加えて扉を押すように開いていく。

 見た目、大きさに反してかなり軽い。

 これぐらいなら、片手で簡単に開けることができる。


 すると、扉が開いていくにつれ青白いような光が漏れ出していく。

 ここにある光源はゲイルの持っていたランタンだけだ。

 そのおかげで、先の光がより際立つ。


 もちろん、扉の中なので俺たちが持ち込んだ光源ということはあり得ない。

 なら、何がーー


 扉がちょうど90度まで開き、そこから顔を出して奥を覗く。

 暗闇に浮かぶ光は、思いの外眩しくはなかった。


 むしろ、ほのかに周りを照らしてくれるちょうどいいぐらいの明るさだ。

 まるで、人に都合のいいように作られているようなーー


 ーーっ!!


「先はこの景色だ。どう思う?」


 扉の先の景色を見て唖然とする俺に対し、彼は声をかけてくる。

 だが、もう俺の耳には届いていない。


 ーー見覚えがあった。

 

 強く印象に刻まれ、そして何度も思い出した存在。


 全ての始まりであり、元凶でもある。


 そんな存在が、無数にーー


「おい、どうした?」

「ーー」


 そこには、知ってる大きさ、知ってる明るさの魔法陣があった。

 天井、壁、地面の全てに、びっしりと隙間なく。


 俺の転移の元凶ーーそんな魔法陣が、視界を覆い尽くしている。


 辿り着いたこの場所は目的地には程遠く、だが目指していた場所だった。

 

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