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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第66話 音と道のり


 地面が硬く、その上冷たい。

 それでかつ、光は刺さず瞼の裏からも無限に続く闇が予想できる。

 寝るにはほぼ最悪に近い場所だ。


 そんな中、俺は目を閉じて壁に背を預けている。

 今こそ意識があるものの、この状況に至る経緯がわからない。

 つまり、さっきまで本当にここで寝ていた、それか気を失っていたということだ。


 疲れからか、手足が異様に重い。

 そして、当然怪我が治っているわけでもなく、体中にある擦り傷が微かに痛む。

 空気も悪く、かなり冷たい。


 だが、生きていた。


 この不快に感じるような空間で、まだ不快に思うだけの余力はある。

 大した怪我もなく、体力もまだ残っていた。


 ……動かないと。


 このような状況では、動き始めるのが遅れるほど厳しくなっていく。

 とりあえず、優先すべきは現状の確認だ。

 そう判断すると同時に、重い瞼を上げる。


 目を閉じていた時から薄々勘付いてはいたが、場所は洞窟の中のままだ。

 そして、当然光源は何もないーーはずだった。


 まず、視界に入ってきたのは灯りだった。

 それが、この暗い空間を仄かに明るくしている。


 そして、目線をそのまま上に上げる。


「ようやくお目覚めか」


 すると、声が降ってきた。

 あの男だ。


「えっと……とりあえず、ここってどこですか?」

「まぁ当然の疑問だよな。……正直言って、よくわからん。少なくともまだ洞窟の中だ」

「じゃあ、レイナたちはどこに?」

「レイナ……あぁ、それがあいつの名前か。それがわかれば俺も苦労してないんだがな」

「ーーつまり、迷子になったってこと……ですかね?」

「……そういう言い方もできなくはない」 


 迷子。

 確か、この洞窟に入るときあたりにレイナからそれっぽいことを聞いた気がする。


 ーー迷ったら出られなくなると……


 大丈夫なのか? これ。

 というか……


「いつの間に迷子になってるんですか?」

「…….質問に質問で返すことになるが、最後に覚えてるのは何だ?」


 そう言われ、記憶を探ってみる。

 気を失っていたのもあってか、妙に記憶が散らばっていてまとまりがない。

 時系列がごちゃごちゃな感じだ。


 だが、最後に見た、あの衝撃な光景はとても忘れることはできない。


「ゴキブリみたいな虫がたくさんーーってところですね……」

「ゴキブリ? かどうかは知らんが、とりあえず虫がうじゃうじゃといたってのは合ってる」

「で、結局そこから何があったんですか?」


 どこかこの先の話を後回しにされている気がして、少し強めに訴えかける。

 こんな大事な話題を逸らされるのは流石にまずい。


「その、何だ……こっからは少し言いにくいんだが、まぁ、簡単に言うとこうなってんのは俺たちのせいなんだ」

「へ?」

「詳しく説明すると、俺たちが探してたものがあったんだよ。あの虫の大群の中に」


 そう言うと同時に、彼の肩から下がったカバンに自身の腕を突っ込み、何かを取り出した。

 よく見ると、それは土でできたような、茶色の細長い瓶のようなものだった。


「知ってるかもしれないが、遺跡の中では魔道具が落ちてたりする。これもその一種だ」

「聖水とかですか?」

「お、やっぱ知ってたか」


 ゲームで見たそれっぽいものを試しに言ってみたら、まさかのドンピシャだった。

 聖水ーー本来、アンデッド系のモンスターに有効だったりする液体。

 だが、それはあそこまで必死に取り返さないといけないものだったのか?


「なんのためにーー」

「まぁ待て。順に説明していく。あまり知られてないし見つけられるのも極稀なんだが、聖水は一部の病気を治すことができるらしい。だから、目撃証言があったここに俺たちは来た」

「……なるほど。じゃあ、それが今この状況とどんな関係があるんですか?」

「そうだな、あの虫の大群が迫ってきたところから話すとーー」



   *****************************************



「少年、それと少女。今すぐにここ引き返せ。ーー逃げろ」

「ずいぶんな言いようだな。さっきまでお前らが追いかけ回しておいて」

「事情が変わったんだよ。死にたくなかったら早く引き返しな」

「それがお前らのーー」

「逃げろよ!! いいから早く!!」


 そう叫ぶように告げて、女は刀を振り上げる。

 それに続き、男が腕を前に突き出し、手を赤く光らせる。


「おい、洞窟で炎とか……」

「ユカが忠告しただろ。死にたくなかったらーー」


 時は、記憶が無くなる前、前に立つ2人がゴキブリの大群へと向かっていったところまでさかのぼる。

 俺には、その光景が嘘のように思えた。


 目の前に、レイナがいる。

 そして、ここでしっかりと話をつけて、謝らせて、……そして、謝って、それですべてが解決する。

 また、前のような関係に戻れるかは分からない。だが、そうできる可能性は巡ってきた。

 これで、やっと終われる。

 このたかが数日の長すぎる冒険が。


 ーーだが、それは俺だけであり、俺以外の人物の都合は考慮されていない。

 

 つまり、俺は勝手に終わる気でいただけなのだ。

 誰の都合も考えることなく、ただ自分勝手にいただけだった。


 まだ、あの2人の冒険は終わっていない。

 まだ、レイナの目的は分かっていない。


 そして、あの2人の目的、『探し物』は、目の前のアレだ。

 人の形をしたーーいや、それじゃない。

 その肉塊となった手の中に握られているもの。それこそがーー


 その時、俺の左腕が掴まれた。

 破れてしまった長袖のパーカーの、刃だが見えた穴の部分から冷たい肌が振れる。


「逃げるぞ! 今すぐ!!」


 そう言って、掴んだ腕を引っ張ろうとしてくる。


 だが、俺はここを離れられなかった。


 彼らを、見捨てることになるから。


 ーー彼らは、逃げろと言った。

 俺と、そしてレイナに。

 つまり、逃げないとヤバいぐらいのことをする予定なのだ。

 この狭い空間の中で。


 死ぬ怖さも、痛みも知っている。

 死にかけた。

 何度も。

 殺されかけた。

 体も、心も、その痛みが限界になるほど味わった。


 だが、俺も加害者になった。


 もう、あんな思いはしたくない。


 ここで逃げるのは、彼女のように見捨てるのと同じ行為だ。


 だが、ここに残っても何もできないーーそれもまた、事実だった。


「いいから来い!!」


 今まで見たこともないほど必死にそう訴えかけてくる。

 引っ張る彼女の力は強く、体はすでに傾いていた。


 その時だ。

 音がした。

 何かを燃やすような、炎の燃え盛る音が。


 見ると、燃えている。

 白いゴキブリが、赤い炎をまとっていた。


「何考えてんだーー」


 レイナの力なく零れ落ちた発言をよそに、ゴキブリの中にいる2人はその魔法でゴキブリを燃やし、飛んでくるものはそ刀の制度で地面にたたき落としていた。

 そして、死体まで近づき……握られていたものを腕ごと引きちぎって回収。

 そのまま、こっちへ振り向こうとした。


 カサーー

 カサカサカサカサカサカサーー


 後ろから、そんな音が聞こえてきた。

 とても耳障りで、不愉快なそれが。


 ……そんなわけない。

 だって、さっきまではーー


「チッ、これだからーー」


 もはや、彼女の舌打ちも耳には届かない。

 それほどまでに、近づいていた。


 さっきまで何もいなかった後方ーー俺たちが来た道から。


 振り返らなくてもわかる。

 いるのだ。

 脅威そのものが。


 俺たち4人を格好の餌としか思っていない、小さな脅威の集合体がーー。


 正面では、未だにあの2人が戦っている。

 燃やし、切るの繰り返し。

 だが、それでも数は減ることがなく、少しずつ追い詰めていく。


 ただゴキブリが燃えた黒い煙だけが充満していく。


 掴まれたままなものの、既に彼女の引っ張る力は感じられない。

 きっと、もう手遅れなのだ。

 前もう後ろも、同じような光景が広がっている。


「おい! どうやって抜けるつもりなんだ!!」

「そんな策ねえよ! 気合いだ気合い!」

「本当に死ぬぞ!」

「んなことわかってやってんだよ!」


 レイナの最後の疑問も解決することなく、えらく抽象的な返事が返ってくる。

 前も後ろも虫で挟まれ、四面楚歌絶体絶命の状況だ。


 そして、ゴキブリが燃えた時に出た黒い煙が、俺の元まで届く。

 それを吸った瞬間、息ができなくなった。

 何度となく咳を出し、どうにか体に入った煙を吐き出す。


 だが、それでも少しは吸ってしまったのか、頭がくらくらしてきた。

 意識が朦朧としてきて、息苦しい。


 ……狭い空間、そして火を使うーー

 そこで、やっと何が起こってるのか理解した。

 

 一酸化炭素中毒ーー。

 自殺にも使われるその現象が、今ここで起きていた。


 魔法が使える世界でも、そんな法則は変わらない。

 酸素が無くなれば呼吸できなくなり、二酸化炭素が増えてもそれは同じだ。

 そんな初歩的なものに、殺される。


 すると、レイナが自身の槍で壁を叩き出した。

 だが、その程度では当然無視は消えてくれない。


 消えていく音が、よりその絶望を醸し出していた。

 それでも、次は少し離れた位置を叩いたりと、彼女は辞めようとしない。

 

 ーーどうせ、無駄だ。


 そう思った。

 しかし、彼女の顔にも焦りが現れていて、真剣にやっているように見えた。

 この最後の瞬間までも冷静に、そして誰も思いつかないような策を……


 ドサッーー


 それは、前から聞こえてきた。

 遅れて、金属が落下する高い響きも遅れて聞こえる。


 その方向へ視界を合わせると、本来いるはずの2人の姿が1人になっていた。

 ーーいや、女が立っていなかった。

 視線の先から外れ、地面から低い位置にいた。


 僅かにゴキブリが退いた地面に、力なく倒れてる。

 そこへ、餌だと思った虫たちが近寄ってくる。


 俺よりも煙に近い位置で、しかも体を動かしていたため多くの酸素が必要になった。

 だが、この空間に残った酸素はもう少ない。


 当然と言えば当然だ。

 だが、そこまでの状況に追い詰められても男は諦めない。

 刀がいなくなったことで飛んでくる虫たちが彼の体に張り付いていく。


「下は空洞だ! 貫通させろ!」


 すると、突然レイナが叫んだ。

 虫の羽音にもかき消されない大きな声で。


 まだ、かろうじて呼吸はできている。

 しかし、それも今の話だ。

 あと数分もすれば、どうなるかわからない。


 それならーー


 彼女の行動、それが繋がった。

 槍を叩きつけていたのは、その音の反響で空洞があるかを調べていたからだった。

 

 それならーー


「やってやる!!」


 直後、男の言葉と共に爆発が起こった。

 それも、俺と男のいた場所の中間に、綺麗に。


 きっと、そうなるように狙ったのだろう。

 それでも、誤算があった。


 爆発により開いた穴、そこからヒビが入っていきーー


 俺とレイナ、そして男と倒れている女の子をも巻き込むほどの大きい穴へと変わっていく。


 そもそも、こんな爆発で簡単に穴が開くところだ。

 ここの地盤は、かなり弱い。


 それがわかったところでもうどうしようもなく、そのヒビから逃げるには、もう意識が朦朧とし過ぎていた。

 そして、落下していく。

 重力に倣って、下へ下へと。


「ケイトを任せた! だからーー」


 そうやって、あの戦場から俺たちは離れていった。

 遠くなる意識と共に。




********************************************************



 そういう経緯があり、今に至るらしい。

 もう、その部分の記憶は俺にはない。

 一酸化炭素中毒を起こしていたからか、意識はあったらしいが記憶は綺麗さっぱり抜けている。


 その時の俺が何を考えていたのか、それは既に知ることはできない。

 

 だが、それでも俺たちは生きている。

 なら、レイナたちなら大丈夫だろう。


「一応聞いときたいんですが、帰り道とかわかりますか?」

「いや、ここは見たことすらないな」


 まるで蟻地獄のように、奥へ入ったらさらに奥へと引きづり込まれていく。

 生き物のように姿を変え、俺たちを翻弄しようとしてくる。

 現に記憶の中の岩肌は消え、次は紺色の人工物が表面に出ていた。


 洞窟の次は遺跡。

 本当に、ここにはうんざりだ。


 そんなことを思いながら周りを見渡していると前から声がした。


「盗賊じゃないならお前もどうせ冒険者なんだろ? 同じ立場同士なら敬語はなしだ。……そういや、まだ自己紹介もしてなかったな」


 ここへ来る前にも一度やったようなことを話し、左手を構えて光らせる。

 そして、そこから稲妻のようなものを出して格好付けながら口を開いたーー


「俺はエウンゲイル・ガルラート。見ての通り魔法使いだ。そんで、お前は?」


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