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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第63話 土俵と混在


「なぁ」

「えっと……なんでしょうか?」

「私の耳には、走れるって聞こえたんだけど」

「多分って言ったじゃないですか」

「いや、でもあの流れだったら普通こうはならなくないか?」

「……すいません」


 まぁ、確かにこの人の言っていることはもっともである。

 そう。さっきまでの流れは良かったのだ。

 ーー流れだけは。


 確認だが、俺は本来この異世界とは無縁の地球生まれ日本人という立場だった。

 今の平和な日本だと、移動と学校での体育ぐらいしか体を動かす機会はない。

 運動部に入っていたことも、もう前のことだ。


 対して、この世界はどうだろうか?

 平和……かどうかは分からないが、少なくとも街から出れば危険なところは無数にある。

 しかも、猛獣どころではない怪物がウヨウヨと彷徨っている。


 そんな世界で、しかもそれらと戦うこともある冒険者という職についているのだ。

 毎日のように体を動かし、鍛え、それでも尚一瞬の気の緩みが死へと繋がる世界。

 そのため、彼ら彼女らは日本人よりも圧倒的に体力や力を持ち合わせている。


 だから、当然と言えば当然なのだ。

 俺が、レイナに走っただけじゃ追いつけないのは。

 そして、この人の速さにもついて行くことができないのは。


 一応、後先考えずに走るのであればこの人のペースにも合わせることができる。

 これでも、足はまぁまぁ速い方だった。


 だが、それができたとしても一瞬で、その後に待っているのは走れなくなるほどの疲労感だ。

 つまり、そのペースを保ち続けることはできない。

 

 少し走ったところで、この人にそのことを感づかれ、情けなくもおんぶしてもらった。

 そして、今この状況に繋がる。


 ……本当に申し訳ない。

 少し年上ぐらいの女性におんぶーーこの世界に来て、男女関係なく色々な人に助けられてきたが、ここまで自分が情けなく思えるのは初めてだ。

 実力でも何でもないたかが体力でも、この世界の人たちの足元にも及ばない。


 しかし、それでもこの人は俺を置いて行こうとはしなかった。

 文句を言いながらも、こうして背負ってもらっている。

 そして、同じ標的に対してともに向かっている。


 正直、俺にはもう誰が悪なのかもわからなくなってしまった。

 この2人を悪人と思い、レイナを悪人と決めつけ、俺も同類になった。

 人をーーそれも、仲間だと思っていたこともある人物を刺したのだ。

 俺はもう、善人ではない。


 そう。俺が決めつけた彼女と、全く同じ立場だ。

 

 最初に裏切ってきたのは彼女の方だ。ーーそう思うところもある。

 未だに、自分の正当性を信じている俺がいる。

 そして、仕方が無かったとも思ってしまう。


 人は、殺さないといけない立場になって初めて人を殺す。

 俺は、多分その立場だった。

 ……だから殺した。


 しかし、そう思い込もうとすると、必然と湧いてくる疑問があった。


 人は、殺さないといけない立場になって初めて人を殺す。

 ーーなら、レイナが俺を見捨てたのは、そして殺そうとしたのは、そうせざる負えない事情があったからではないのか?

 彼女は、俺と会って初めのころはそんな素振りを全く見せなかった。

 鬱陶しく、目障りで、邪魔だったはずだ。

 それこそ、いつ見捨てられたっておかしくはなかった。


 ずっと誰かに助けられ、永遠と誰かの足に枷をつけてきた俺だからこそわかる。

 この世界は、誰かの助けを借りて、やっと生きれるほど過酷な世界なのだ。

 

 誰もが憧れるような、剣あり魔法ありの異世界。

 だが、それは自分が強く、他人には無いような力を持っているのが前提だ。

 自分が思うようにやり、そんな思いどおりが叶う世界。

 ーー昔、思い浮かべた異世界の想像は、そんな感じだった。


 憧れであり、そして夢だ。

 異世界に抱くものは。

 ……憧れは妄想でしかなく、夢は所詮夢でしかない。


 人間が魔法を使うということは、敵も魔法を使い、そして使われることを想定し、その結果生まれてきた怪物。

 時代も今の地球程進んでおらず、問題も山済み。

 どこへいても命の危機があり、お金もそう簡単に手に入るわけではない。


 そんな過酷な世界だ。異世界というのは。

 これが、誰もが憧れたものに隠れていた裏側だ。


 そんな場所で、俺は助けられてここまで来たのだ。

 役になど立ったことはなく、ただの足手まといとして。

 それだったら、命の危機にさらされた時、そんな存在は捨てるべきだ。

 そうしなければ、死ぬのだからーー


 だとすると、彼女もまた、仕方が無かったのではないか?


 走る彼女から伝わる振動が、心までを揺さぶる。

 どこまでも続くこの暗闇が、心の闇の深さにも思えてしまう。


 どっちにせよ、レイナを責める権利などない。

 なるべくしてこうなった。

 

 諦めはつく。

 仕方がないと思う。

 彼女を刺した時以上に。

 そして、戻れるとも思えない。


 それでも、進まないという選択肢は出てこなかった。

 例え、この人に迷惑をかけたとしても、俺はもう一度レイナと会わなければいけない。


 そうだ。俺は彼女を刺した。

 刺してしまった。

 ーー殺そうとした。

 ……そして、彼女も。


 確かめたい。

 彼女が、俺と同じだったのか。

 俺なんかよりよっぽどすごい彼女が、本当にそれだけだったのかと。

 

 あの憎悪と涙、どっちが本当の感情だったのかを。


「気持ちの整理はついたか?」

「…………」

「いままでに人を殺したことは?」

「……ないです」

「そっか。まぁそうだよな」

「何が言いたいんですか?」

「あれは別に殺しても誰にも責められない状況だった。というか、私だって殺そうとしたんだけどな」

「……」

「少年は、そこで思いとどまったんだ。あれが仲間なのか契約者なのかは知らないが、それだけで十分だろ」


 甘い囁きが耳に入る。

 俺が、俺に対して抱いている怒りを忘れさせるように。

 

 自分を許すことは、もうできない。

 この罪悪感は、忘れてはならない。

 でなければ、同じ状況に陥ってしまった時、また繰り返す。

 繰り返し、また後悔を増やす。


 ……この人は、きっと優しさで言ってくれている。

 俺が苦しみすぎないよう、理由を与えてくれている。

 だが、それには乗れない。


「もっと、他のやり方があった。……俺が、もっとーー」

「いいや、違うね。ちょっと考えて見な? 少年はまだ可能性を残してるんだよ。また元の関係を築ける可能性を」

「無理ですよ。俺とレイナじゃ、何もかもが違いすぎる」

「そう弱気になるなって。どうせまだろくに反してないままなんだろ?」

「……まぁ、」

「あれじゃ流石にな。ーーだから、私が話せる状態まで持っていく」

「え!?」

「調べた限り少年は白だ。だから、持ってるとあれしかいない。で、このまま殺したところで隠されてたらそれで終わりだ。だから最善手は、話し合いで解決だったんだよ。最初っから」


 名前のわからない男と女。

 どちらも助けてくれた2人。

 だが、攻撃を仕掛けてきたのはその2人だった。


 彼らが何故攻撃し、そして何故俺を助けるのか。


 2人は、ずっと、自分の目的だけを見ている。

 だから、こうやって敵にもなり、味方にもなってくれた。

 ……やっと、納得がいった。


 ちょっと前なら、白状だとか自分勝手だとか思ったかもしれない。

 利用しているだけなのかもしれない。


 だが、今はそれを知って安心できた。

 それがわかって、少しだけ信用できた。

 ーー少なくとも、何を考えてるのかわからない奴よりはよっぽどマシだ。


 彼らには、盗まれた、あるいは無くなったものを探すという目的しかない。

 それこそ、最初から。


 再び暗闇に包まれた空間を、たった1つの光だけで進んでいく。

 地面には、一定の間隔で乾いていない血痕が残っている。

 それこそが、彼女へと繋がる最後の道しるべとなっていた。

 

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