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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第51話 裏切りと否定

 

 俺とレイナが一緒に冒険していた時期は、確かに短い。

 何なら、今回のを合わせてもたったの2回だけだ。


 けど、その期間は楽しさがあった。

 元の世界に帰るためとはいえ、この異世界が嫌という訳でもなかった。

 

 彼女は全然自分の話をしてくれないし、正直怖い印象だったが、悪い人物じゃないんだろうとーーそう思えた。

 ーー実際、その通りだった。

 

 だって、俺みたいな足手まといが死にかけだったとしたら、まずは自分の身を優先するはずだ。


 彼女は、何も悪いことはしていない。

 むしろ、彼女は至極当然のことをした。

 感情なんかに流されず、冒険者が本来するべきことをやっただけなのだ。


 やっぱり、俺なんかとは違い、本当に優秀だった。

 

 …………。


 それで、潔く終われていたら良かった。

 最後まで彼女をことを尊重し、この窮地も割り切ってしまえるぐらい、強い人間だったら良かった。

 俺は、そんな強い人間じゃない。

 思い知らされた。


 だから、どうしても思ってしまう。

 本当は分かっているのに、間違っているのは俺の方なのに、考えてしまう。

 それを、弱い証拠と知りながら。


 ーー俺たちは、仲間じゃなかったのか?


 もちろん、俺も彼女も、そんなことは口に出さなかった。

 だが、少なくとも俺はそう思っていた。


 短い時間の中でも、お互いを信頼し合い、行動できる仲間だと。


 ……彼女はどう思っていたんだろうか?

 彼女は、どこか俺のことを避けていた気がする。

 元から別れる前提であり、仮でしかない関係性だと思っていたのかもしれない。


 俺と関わるのをめんどくさいと思っていたのだろうか?

 ただの上からの命令だと思っていたのだろうか?


 今となっては、当時の彼女が思ってい事など知る由もない。

 

 けど、少なくとも俺のように仲間という気持ちは無かったんだろうな。

 彼女は、俺といる時に笑わなかった。

 それの原因は俺なのか、他のものなのか。


 やはり、レイナからすると、俺という存在はあまりにも小さいものだったんだろう。


 間違っているのは、きっと俺だ。

 いや、そんな曖昧な表現をしなくてもいい。

 俺が間違っているのだ。

 自覚がなかっただけで、ここは戦場のようなものだ。


 いつ、隣にいる人間を失うかわからない中、そう言った感情を持つこと自体間違いなんだろう。

 だから、この職業は冷たく、辛い。


 俺は、依存していたのだろうか?

 ーー誰かに、彼女に。


 俺は、悪いことをしたのだろうか?

 ーーこの場で、常に正しいのは彼女だった。


 世界とは、やはりどこまでも理不尽だ。

 早く、あの優しい世界に戻りたい。

 この世界は嫌いじゃないが、早くこんな世界から脱出したい。


 すでに希望を捨て、諦め、叶わぬ願望を見つめる中で、ふと思うことがあった。

 ーー彼女の行動は、きっと正しかった。誰もが同じ立場だと、ああするんだろう。

 ……ただ、最後に、


 別れの言葉ぐらいは言ってほしかったなぁ……。


 もうずいぶん前に感じるのに、未だに耳の中でこだまする言葉がある。


「ーーはぁ、もうどうにでもなれ」


 直前のため息は、俺に呆れたのだろうか? それとも、俺に失望したのだろうか?

 ただ、もうどうにでもなれーーというのは、間違いなく俺を捨てた言葉だ。


 捨てられて当然だし、褒められるようなことも結局はできず終いだった。

 それでも……俺が欲しかった言葉は、別れの挨拶の言葉で、そんなため息なんかではなかった。


 冷たい空気が肌に触れ、体温が下げていく。

 体が重く、動かないーー動かせない。

 だが、相変わらず痛みはない。


 そこで、ようやく瞼を閉じていたことに気づき、目を開いた。


「よっ、少年。よく眠れたか?」


 そうして、まず耳に入ってきたのはレイナとはまた別の女性の明るい声だった。

 見てみると、やはり俺たちを襲ってきた1人だった。


「じゃ、さっそく質問させてもらうぞ」


 そして、俺の顔を除くや否や、急に話を進めてきた。

 まだ、状況が追いついていない。

 だが、ひとまず生きてはいるらしい。


 眠っていたのか、瞼が重いが、壁に寄りかかったような体制をしている。

 そして、手は十字のように壁に貼り付けらえているのか、全く動かせない。

 なんか、こういう状況になりがちだな。


「まず……そうだな。私たちのものは何処にやった?」


 その質問が飛んできた瞬間、俺の顔を除く彼女の目が変わった。

 さっきまでは、盾も優しそうなお姉さんという感じの赤い瞳が、光が灯らず、憎悪を載せて睨んできた。


「ひっ……」

「こんな可憐な女性にビビらないでほしいな。流石の私でも悲しむ」


 前に立つ女性は、最初の挨拶こそ明るくしてくれたが、今の言葉はとても低い声音で、そこからも怒りがにじみ出ていた。

 どうにか、この会話の間で現状を確認したかったが、それは無理らしい。


「答えろよ。そんなに難しいか?」

「え……」


 その時、固定されていた右腕の二の腕に、鋭い痛みが走った。


「がああああああああ!!」

「痛むか? なら早く答えろよ。ほら、そうやって騒いでると獣が来るぞ? いいのか?」


 痛い、痛い。

 痛いが……広がっていく。


 何か腕に鋭利なものが刺さっていて、断面から金属の冷たさが触れた。

 そして、すぐにそれが日浮き抜かれ、液体が腕を伝って地面へ落ちていく。

 痛みは、治まらないどころか広がっていく。


 しかも、前の女は、人に傷を負わせながら何も感じていないかの如く声色を変えない。それが、恐怖を煽ってくる。

 淡々とした口調で、尋問を進めていく。


「いだ、ぃ……ぃう! 言いますから!! や、やめてーー」

「だったらさっさと言え。私たちのものは何処なんだ」


 彼ら、彼女らのものがどこなのか。

 そんなもの、俺は知らない。

 知っていたら、とっくに答えている。


 だが、言わないと、この地獄のような感覚を味わい続けることにもなる。

 それだけは嫌だ。

 痛い……早く、答えないとーー


「か、彼女がーー」

「聞こえない」

「…………」

「どうした? まだ痛みが足りないか?」


 痛いのは、もうイヤだ。

 怖い。痛い……

 耐えられないし、味わいたくない。


 だが、ここから先を行ってしまうということはーー彼女を売るということになる。

 ーーいいのか?

 ーー本当に、それで、


 俺たちは、『仲間』なんじゃーー


 ーーその言葉を頭に浮かべた瞬間、心の奥で、何かが崩れる音がした。

 いつも信じていた、何か大切なものが、音を立てて崩壊していた。


 ーー彼女は、俺を見捨てた。

 彼女はきっと間違えず、正しいことをしている。

 じゃあ、俺だって正しいじゃないか。

 だって、これは、彼女と同じ行為なんだから。


 相方を切り捨て、自分の助かる確率を上げる。

 これが、この世界で正しい事なんだ。


 そうだろ? レイナ。

 そうなんだろ……だってーー


 だって、お前が先にやったんじゃないか……。


「ーー俺と、一緒にいた奴が持ってます。……持って、逃げました」


 頭は真っ白で、思考の真ん中にいたのに、口から勝手に言葉が出てきた。

 

 声に出してみると、意外とスッキリした。

 彼女のことを売った罪悪感よりも、売る決断を下せたことになぜかスッキリしているようだった。


 だって、そうじゃないか。

 彼女は、俺に関心など示していなかった。

 彼女は、俺に興味など無かった。

 彼女は、俺に全然説明をしてくれなかった。説明していたら、もう少し命の危機は回避できてたはずなのに。

 彼女は、ほとんど何も話してくれなかった。

 彼女は、俺を拒もうとした。

 彼女は…………

 彼女は……

 

 彼女はーー


 彼女は、俺の仲間なんかじゃなかったんだ。


 俺は確かに間違っている。

 いつも、間違ったことを意しているんだと思う。


 だが、悪いことはしていない。

 そうだ。俺は……悪くない。


 俺がそう思っていた間にも、尋問は進められていく。


「そいつが向かった先は何処だ?」

「いつでも帰れるような状態だったので、出口に向かってなければ……右、側以外の通路だと思います。」

「何で盗んだ?」

「何もーー無かったんですよ。ほら、お金とか。俺は家に帰りたいだけでーー」


 俺の口だとは思えないぐらい、すらすらと嘘が出てきた。

 ……いや、実際は半分嘘ってところなのか?


 何かを割り切ってから、まるで、俺が俺じゃないようだ。

 

 けど、生きれるんだったらーー


 質問を繰り返され、質問を繰り返しーー話を進めていく。

 そんな俺の言葉を、ずっと客観的に、他人事のように聞いていた。


「最後だ。私たちに言い残すことは?」


 その言葉に、少し引っかかった。

 ーー最後? って、まるで……


 普通に考えたら、最後の質問という風に取れるんだろう。

 だが、最後のその質問から、死の気配を感じた

 今まで、そんなもの全然感じなかったのにも関わらずーー


 だが、もちろん答えないわけはない。

 俺は、とっさに言い訳を考え始める。


「……本当にすいませんでした!!」


 地面に、頭をつける勢いで謝った。

 だが、壁に繋がれた手枷が邪魔をし、途中で中断させる。


「俺だって、やりたくはありませんでした! けど……どうしてもーー そう! 脅されたんです! 彼女に!! だから、どうかおーー」

「うるさい。もう黙りな」


 その言葉と共に、前に立つ女は手を真上に突き上げーー降り下ろす。

 その手には、短剣が握られていた。

 その鈍い輝きが、瞳を照らす。


 最後の猶予を使って、必死に考える。

 何か、渡せるようなレイナの情報はーー

 何かーー


 何か何か何か何かーー


「俺は、彼女との取引相手を知ってます! 住んでるところも、全部知ってます!! 嘘じゃないです! だからーー」


 それを言い終わる前にーー早口で言いながら、目をつぶった。

 顔面へと向けられた短剣が、顔に迫っていたからだ。

 だが、その衝撃が来ることは無かった。


「嘘じゃないな?」

「おい、嘘だろ!? そいつを見逃すのか?」

「この少年を殺すことじゃないだろ。私たちの目的は」

「いや、そうだが……」

「それに、目的の物を持ってるやつを見捨てていくものかな」

「それもそうか」


 ここにきて、ようやく俺と戦った男が口を開いた。

 そして、2人で相談している。


 俺は、そんな2人に向け、口を開きーー


「お願いです。なんでもしますから! 協力、しますから!! 1時的にでも、仲間にーー」


 自分で言っているのに、すらすらとそんな言葉を出している俺自身が、みじめに感じられて仕方がなかった。


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