表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
49/101

第48話 離脱と賭け


 ーー甘かった。


 入り口が塞がったからといって、彼らが俺の追跡を止めるはずがない。

 ……そこまでの考えは良かった。


 ただ、同時にこの絶好の機会を相手が逃すはずもないということを考えられなかった。

 ここで勝手に逃げ切れるーーと、他の可能性を自然と排除してしまっていた。

 

 たかが入り口が塞がった程度で追跡を止めるぐらいなら、あんな攻撃なんてしてこないだろう。

 今考えれば、当然のことだ。

 

 少しの油断が命取りーーその言葉が、現実味を帯びて襲ってくる。


 明るくなった入口から、彼が足を踏み入れた。

 そして、入口の方を凝視していた俺と……目が合った。

 その瞬間、憎悪に満ちたような目で睨まれ……

 目を背けるように、背を向けた。


 ……これ以上、ここに止まっている暇などない。

 元来た道へと、足を動かす。


 道を遡るだけだ。

 難しいことではない。

 僅かではあるが、レイナから貰った灯りもある。


 後ろからは、武器が交わるような金属音が響いていた。

 ーーレイナも戦っている。

 この音が途絶えない限り……


 彼女が生きているという、それだけのことで少し安心できた。

 だが、後ろから迫る気配は遠ざかるどころか、少しずつ近づいてきている。


 俺を追う男は走っている筈なのに、足音1つ聞こえてこない。

 きっと、それだけこういう場を走るのに慣れているのだろう。


 積もっていく不安を振り払うため、そして確認のため、一度後ろを振り返った。

 唯一の光源となる入り口から距離が空いたせいで、彼がどんな顔をしていたのかはわからなかった。が、それでも、どの辺りにいるのかはよく分かった。


 ーー近づいている。

 

 明らかに、さっき見た時よりも距離が縮まっていた。


 冷静に考えれば、体育ぐらいでしか走ってこなかった高校生と、この戦いの世界で生きる冒険者の体力やスピードが同じなわけない。

 当然、彼の方が速い。


 だが、それだけじゃない。

 体の陰になって見えにくい中だったが……その手には、俺の方向を向いた杖が握られていた。

 そして、俺が振り返ったちょうどこのタイミングで光が魔法陣を形成しーー


 反射的に、屈んでいた。

 逃げなければいけないということを忘れ、自分の身を守るためだけに足を止め、背を低くして屈んでいた。


 ーーだが、結果的にそれが功を奏した。


 俺のすぐ上空を何かが通り過ぎたのだ。

 切り裂かれた空気が、風となって髪を撫でる。


 そのまま、すぐ正面にある壁へと激突した。

 硬いものが砕けたような音と同時に、その魔法は消えーー凹んだ壁の跡だけが残った。

 不思議なことに、前のように魔法の破片が飛び散ることもなく、小さい瓦礫がパラパラと落ちるだけだ。


 もし、あれに当たっていたらーーと、考える暇も無い。

 体は震え、視界も揺れる中、おぼつかない足取りで、再び立ち上がって走り出す。

 

 もう、振り返る余裕なんてものもない。


 今度こそ、振り返った瞬間に死んでしまう気がした。

 今度こそ、立ち止まっている間に死ぬ気がした。


 幸い、ここからの道は曲がっているお陰で視界が開けていない。

 あんな直線的に飛んでくる魔法は使えない……筈だ。

 

 だが、視界が狭まるのはメリットだけではない。

 俺が持つ光源は、左手に握られた石だけなのだ。

 つまり、入口から差し込む光はもう届かないことになる。


 この、家庭用懐中電灯と同じぐらいしかない明るさだけで、どれだけ進めるか……


 それでも、俺には進む以外の選択肢は残っていない。

 駆け込むように歪んだ道に足を踏み入れ、彼から死角になる位置に素早く移動する。


 その直後、再び後ろで衝突音が響いた。


 狭い空間のせいで、その音がよく響き渡る。

 きっと、数秒前まで俺がいたところが、大きく凹んだんだろう。

 その攻撃の先を見届けられる精神的余裕も、もう残ってはいなかった。

 

 1発の攻撃を避けても、安心感をあられないどころか、どんどん不安が煽ってくる。

 まだそんなに走っていのに、息が乱れている。

 ここまで何も飲んでいないせいで、喉の渇きも気になってきた。


 ポーチに入れてる水筒を手に取りたい。

 腰にある、重い剣を捨てたい。

 どちらも、この場を生き抜くためには必要な筈なのに、今は邪魔に感じてしまう。

 

 もっと速く……もっと速く走らないとーー


 ふと、その思考がいつかの景色と似ていることに気づいた。 

 あの、最初にオオカミに追いかけられた時だ。

 気づいてしまったら、それらの景色が重なり合っていく。

 あの時も、確か振り返った瞬間に……


 冷たい空気が肌をなぞり、乾燥した口内をさらに乾かせていく。

 足から感じる硬い感触が、体力をすり減らす。

  

 ーー何も、変わらないままだ。

 前と、何も変わらない。成長していない。


 同じような状況が続きっぱなしだ。

 なのに、なのに……俺は、いつも同じ間違いを。

 何もできず、周りに迷惑をかけていくだけで…………


 息が上がっていく中、自分のミスを考え続ける。

 おかしくなってしまいそうな恐怖を懺悔で、後悔で紛らわす。

 何より、自分を責めていないとーー


「ーー追いついた」


 ふいに、耳元でそんな声が聞こえた。


 感情の込持っていない、冷たい彼女の声を期待したがーーそれとは似ても似つかない。

 ……その声だったら、どれほど良かっただろうか。


 聞こえた声は、怒りに燃えていてーー


 直後、頭に刺激が走り、勢いよく転倒した。

 硬い地面が腕に、体に当たり、硬い地面を転がっていく。

 倒れた瞬間、どうにか受け身が取れはしたがーーそれでも、打ち付けた個所に痛みが伝染していく。


「何度も言うが、俺らは返してもらうだけでいい。そしたら、お前らを殺す理由もなくなるんだ」


 ーーだから、俺たちは何も持ってないって言ってるんだよ!


 その言葉を出しそうになったが、口の中に飲み込んだ。

 今、そんなことを言っても日に油を注ぐだけだ。

 そのせいで、彼は今こんなにも起こって、俺を殺そうとしている。


 俺は魔法が使えないが、男は魔法が主な戦力だ。

 俺はもう体力が限界になりつつあるが、彼はまだ余裕がありそうだ。

 俺は倒れていて、だが男は立っている。

 

 誰がどう見ても、有利不利は明らかだ。

 

 だが、彼はなかなかとどめを刺そうとはしてこない。

 きっと、これは最後のチャンスなんだ。


 俺が、取ったものを返してこの戦いを終わらせるーーそして、俺が思考を働かせる……


 一度、男の方から目を離し、道の先を見た。

 すると、この先の壁が途切れていて、闇が広がっていた。

 この景色は、見たことがある。

 通と道との、分岐点だ。

 

 それと同時に、ようやく気付いた。

 ーー石が、ない。


 俺の左手に握られていたはずの光源が、手の中になかった。

 ということは、倒れた時に……


 影や明るさから判断すると、どうやら後ろに立つ彼の足元にあるらしい。

 最悪の場所だ。


 つまり、ここから逃げるにしても、ひたすらに続いていく暗闇の中を進まなければならないのだ。


 そんなの……無茶に決まってる。


「おい、まだか? よほど死にたいらしいな。俺の最後の優しさだってのに」


 もう、時間は残されてない。

 道はーー右手の法則を使ってきたおかげで、何となくだがわかる。

 

 ーーこの戦いで、唯一俺が有利に働くもの、

 俺には無くて、彼にはあるもの。


 もし、思い通りにいかなかったら、間違いなく死ぬ。

 

 そんな恐怖に打ち勝つため、両手で拳を作り、肌に爪を立てた。

 そして、口を開く。


「い、今出すので……渡すので! いの、命だけはどうか、た、助けてください!!」


 あえて、恐怖で震える口元をそのままに、彼に話しかけた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ