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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第45話 交渉とパートナー


 右は自然に作られた凹凸のある壁。

 左側は、人工的に作られた平らな壁。

 後ろは、あのデカい口がいた洞窟。


 ーーそして、前方にはあの男が立ち塞がっている。


 この戦闘が始まってから数秒の間に、俺の逃げ道は完全に失くなったわけだ。


 その証拠に、俺が今さっきまでいた場所からは岩でできたつららが出てきた。

 もちろん、先は尖っていて、殺傷能力は高い。


 それが、一定間隔で地面から突き出し続けている。


 相手からしてみると、剣をメインにして戦う俺はこれでもう近づけなくなったことになる。

 そうすれば、残りはモグラたたきのように、近づいてきたら叩くだけだ。


 ……だが、一見詰みのような状況でも、まだ打開策は残っている。

 それは、俺たちが2人だということだ。

 

 俺と同様に、彼女もこの場で分断されている。

 だが、それを対処する相手は彼一人しかいない。


 もし、これが本当の1対1だったとしたら瞬殺されていたと思うが、俺には頼れるパートナーがいる。

 つまり、またまた彼女のおかげで俺は生かされてるわけだ。


 ーーこれで生きれたら、ちゃんとお礼を言おう。


 地面からの攻撃を避けながらも、そんなことを思う。

 とにかく、今考えるべきはこの包囲からの脱出だ。


 まず、最初に浮かぶのは、後ろの洞窟に退避することだ。

 だが、そこは実質行き止まり。

 それこそ、本当に袋のネズミ状態だ。


 じゃあーーどうやって……


 俺が思考を巡らせて頭を、そして攻撃を避けるために体を必死になって動かしている時、薄い壁の向こうから何かが崩れる音が聞こえた。

 それに合わせ、目の前に立つ男もそちらへと視線を向け、杖を持っていない左手で魔法を放っている。


 ーーレイナも、向こう側で戦っているんだ。


 しかも、相手が魔法を使ってる中で。


 そもそも、俺たちの武器で戦う側からだと相手に距離を詰められない時点で攻撃は当たらない。

 だから、どうにか間合いを詰める必要があるのだが……


 ーーその時だ。

 再び、大きく何かが崩れる音が隣から響き渡った。

 ……彼女の微かな呻き声と共にーー


 急いでその方向へ顔を向けるが、その視線の先に立ち塞がる壁がそれを許されなかった。

 すぐ隣にいるのに、1枚の壁を隔てたその向こう側で、何が起こっているのかはわからない。

 だが、そっちだけに意識を集中させるわけにもいかない。

 俺が見るべきは、見えなくなったパートナーのの方向ではなく、目の前の敵だ。


 それでも、彼女がどうなっているのかは気になってしまう。

 単に行動できなくなったのか、それともーー

 それが原因か、男の攻撃の対象が明らかに彼女から俺に移り変わっていた。


 そして、気がつくと今まで一定周期で出ていたあのつららが姿を現さなくなっていた。

 しかし、男は杖を俺の方へ向け、何かを詠唱している。


 ーー洞窟へ逃げるか?

 いや……これ以上狭い場所に行くことは、自殺に他ならない。

 それに、ここで俺が逃げたとしたらーーそれこそ、彼女が……


 必死になって頭を回転させるが、打開策ら見当たらない。

 それどころか、俺の動けない理由の方が大きくなっていく。


 その上、まるで考える時間を与えないようにするためか、すぐに先端が光りそこから風が生まれた。

 だが、それは普通の風なんかじゃない。


 ーーここからでもわかる。

 まるで、青白く輝くカッターの刃のような鋭く尖った孤を描いたような斬撃が、俺へ向かって跳んできている。


 1、2……いや、3つだ。


 風をどうやって数えればいいのかわからないが、3つの斬撃が、逃げ場を無くすように、左右と中心へと迫る。

 

 逃げれない……俺の魔法じゃ、あの攻撃はどうしようもできない……。

 ーーなら、


 瞬きする暇も無いほど一瞬で距離を詰めた斬撃に対しーー剣を縦に構え、迎え撃つ。

 ……やっと、武器の出番だ。


 そして、衝突の瞬間は構えた瞬間にやってきた。

 すぐ頬の横を、鋭い風が通過していく。

 冷たい空気が押し出され、ただの風として髪を撫で、肌を掠めていく。

 

 その感覚が途切れないうちに、剣に重みがかかった。

 それが、剣を俺の方向へとさらに押していく。


 てっきり、風の魔法だとすぐ当たっただけで四散してくれると思ったが……まさか本物の刃のように消えてくれないとはーー


 縦に構えた剣が、少しずつ押し返されていき……俺の顔の目の前まで剣の刃が迫る。

 すぐに足を後ろへと下げるが、それでも押し出されそうな剣はそのままだ。


 その瞬間、最後に迫っていた刃が、肩を擦った。

 鋭い痛みが走り、それが大きくなっていく。


 ーーそのせいで、剣を支える右手の力が一瞬抜けた。


 抜けたのはたった一瞬だ。

 だが、この状況だとその一瞬こそが命取りになる。

 

 右の力が抜けたことにより、剣が右側へと傾いた。

 それだけだはなく、剣の向きも変わってしまった。

 さっきまで、剣の刃の部分で当たっていたのが、少しだけ腹の部分を向けてしまう。


 この、僅かな変化だけで、剣がさらに重くなった。

 剣と斬撃で釣り合っていた均衡が崩壊した。


 力が戻った右手を全力で抑えても、少しずつ剣が押し出される。


 しかも、剣を支えようとすればするだけ、右肩への痛みが大きくなっていく。

 見ると、パーカーの上からでも、黒いシミができているのがわかった。


 このままだとーー


 誰の目にも、やばいのは明らかだ。

 力を抜いた瞬間でも、時間の経過でもーー


 その奥で、男がさらに何かを唱えているのが見えた。

 見えないタイムリミットが、見えるようになってしまった。


 この状況で、さらに攻撃が来ようものならーーもう……


 その時、剣が悲鳴を上げた。

 不快な金属のすれていく音が、振動が、剣から鳴り響く。

 見ると、斬撃が剣の腹に侵入し、その剣に食い込み始めている。

 腹がえぐれて生き、刃がが割れ始めーー


 だが、剣に完全に食い込む前に、俺の手の方が先に限界を迎えた。

 今の怪我をした右手だと、この衝撃に耐えられない。

 

 力が抜け、剣が俺の顔をめがけて倒れ始める。

 剣が、そして風の斬撃が、目と鼻の先にあった。


 だが、剣が倒れた瞬間、どうにか握っていた手を放しーー空いた左手を地面に向けて風を噴射させた。


 俺の魔法だと、全然距離が出ない。

 せいぜい、頑張って1メートル届くかどうかだ。

 だが、魔力の制御がうまくいっていないらしく、威力だけは高いらしい。


 それを利用すればーー!


 風だけなら折れかけた剣先を吹き飛ばすぐらいの力はあった。

 なら、俺の体ぐらいならーー吹き飛ばしてくれるはずだ。


 先ほどの彼女の魔道具と同じように。

 攻撃が動かないのなら、自分が瞬間的に動けばいいだけだ。


 俺の狙ったとおり、俺の体は右へ飛ばされ、無様に背中から着地した。

 ただでさえ流血までして痛む右肩に、さらに衝撃が加わる。


 それとほぼ同時に、頭の上空から鋭く吹き抜ける風を感じ、硬い地面に落ちる金属音が耳へと響いた。

 それが、この状況を切り抜けたことを教えてくれる。


 しかし、狙い通りに言ったとしても……まだ解決したわけではない。

 なにせ、この危機を乗り越えただけだ。

 俺の状況は何も変わっていない。


 ……あと、もう少し吹き飛ぶものかと思っていたが、俺のいる場所はほとんど変わっていない。

 まだまだ、威力が足りない証拠だ。


 ……いや、今はそんなことよりーー


 痛まない左腕で体を支え、前方に立つ男を見る。


 だが、彼はまるで俺が避ける前提だったかのように杖を構える。

 それが光り始め、杖へ到達しようとていた。


 なのに、俺の武器は後方へ落ちていた、地面に倒れこんだままだ。

 これで、さっきのつららを食らおうものなら……


 途端、冷や汗が額を撫でた。

 この体勢で、あれを避けるのは……いや、そもそも、どうやって倒すんだ。


 ここで、この狭い空間の中で耐えてるだけなら、終わりだ。

 ただのジリ貧でしかない。

 

 せめて、近づかなければーー

 いや、まずは体を起こしてーー

 違う! この攻撃をーー


 頭の中が錯乱していき、うまく体が動かせない。

 痛い。

 肩が動かなーー

 いや、転がれば……その前に、立ち上がってーー


 考えがうまく纏まらず、どの攻撃が来るのか予想しようとしても、わからない思いつかない思い出せない。


 杖の色は紫だ。

 斬撃は何に色だった?

 俺は、どうすればーー


 突然、視界が暗くなった。

 俺の周囲だけ不自然に。

 

 周りは明るく、偽の太陽は昇ったままでーー


 そこで気づく。


 ーー影だ。

 俺の、真上にーー何かが……


 そこで、線と線がつながった。

 この影は鉛筆の先のような形をしーー早い話、鋭く尖っている。

 つまり、これはさっきまで散々見てきたあのつららだ。

 それが真上にある。


 さっきの攻撃は、地面からしか来ないと油断させるためだけのものでーー


 それがわかった瞬間、頭の中の錯乱が収まりーー否、悪化し、頭が真っ白になった。

 可能性がまだあり、焦っていたのから、可能性が無くなった、恐怖へと変わっていた。

 

 その間にも、影は大きくなり続け、俺の体より大きいつららの影が地面に描かれていた。

 必死に、体を動かす。


 痛む肩なんて関係ない。

 腕を、足を動かして、どうにかーー


 間に合わないとわかっているのにーー


 立ち上がるため、両手に力を入れた時、影の大きさは皮合っていなかった。

 あとはーー落とすだけなんだ。


 ここの広い空間は、天井が高い。

 だが、それはあくまでも洞窟と比べたもおでしかなく、あの大きさのものが落ちてくる時間は、ほんの一瞬だ。


 それがわかっていても、力の入らない腕に力を加え続け、足を懸命に動かしてバランスを取ろうとする。

 ここが普通の地面なら、平坦な床だったらーー

 怪我なんてしていなかったらーー

 もっと、強かったら……


 最後の最後に出る考えは、どれも仮定の話で、現実なんて見ていなかった。


 そして、視界の端に映る彼の腕が降り下ろす前兆のように上がりーー


 いやだーー死にたくーー



 キイン…………


 

 全ての時間が止まった。

 だが、未だその音だけはこの空間を彷徨っている。


 しかしそれで、動けることをようやく思い出し、転がるようにして影の範囲脱出した。


 だが、それでもつららは降ってこない。

 ーーそれもそうだろう、

 彼の右手ーーいや、両手が、壁を跨いだ向こう側に向けられていた。


 そんな彼の表情は、どこか焦っている。

 想定外のことが起きたかのように。


 だが、すぐに男がこちらへと向き直した。

 その直後、俺の傍に岩の塊が落ちてくるが、もう遅い。

 この一瞬の時間は、俺が冷静になるには十分すぎる時間だった。


 地面に当たり、砕け、飛び散る岩の破片を浴びながらも落ち着いて、力の入る足を使いどうにか体を起こす。


 それとほぼ同時のタイミングで、右腕を突き出しーー光らせた。

 しかし、俺の方へと向けられたその腕にはもう水晶玉のついた杖は握られていない。

 握られているのはーーレイナの方の左手だ。


 次の攻撃の手段、それを予測していると、再びあの音が響いた。

 キインーーと。


 そこで、ふと思う。

 この音をつい先ほど聞いたような気がした。

 直前の音ではなくーー


 そうだ、これは、金属音で……


 ーー繋がった!


 さっきは、気が動転しているせいでわからなかったが、あの音を最初に奏でたのは俺だ。


 前に立ちふさがる男が、再び壁を跨いだレイナの方へ向く。

 ……そういうことか、レイナ!


 そう思うと同時に、彼がレイナの方に意識を取られている間に、近くに落ちていた剣を手にする。


 レイナの意図がそうだとするとーー次は、俺の番だ。


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