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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第40話 気配と独白


 一度、レイナの言葉を思い出してみよう。


 彼女は、遺跡内で誰かと鉢合わせることは少なくないーーと言っていた。

 だが、今回はどうだろうか?

 彼女の口から発せられた言葉は確かーーまあまあやばいやつがいる……だった。

 

 何をどう根拠にして言ったのかはわからないが、彼女が言うにはきっとそうなのだろう。

 そもそも、あんな綺麗にとてつもない速度で走るグイムレーターの首を切れるのが異常なのだ。


 あの死骸には、首以外に特に切り傷は見当たらなかった。

 つまり、走ってくるグイムレーターを直接切ったか、魔法で一時的に拘束してから切ったかの2択になる。


 どちらにせよ、ただならぬ実力の持ち主なのには変わらない。

 ーーだが、同時にそれが俺らにどう関係してくるのかが分からない。


 ただ、探索するところがかぶってるとやっかいなだけなのか?

 ーーいや、それなら、こんなに慌てて方向転換しなくてもいいはずだ。


 あの死骸の確認を終えた後、彼女の判断は早かった。

 なにせ、すぐさま方向転換して来た道を戻ろうと言い始めたのだ。

 どうやら、さっきの分かれ道まで戻り、もう一方を進むらしい。


 あの天然洞窟のようなところを進んでいかないといけないのは少し嫌だが、こちらに不都合があるならしょうがない。


 ーーまぁ、その不都合とやらが分からないわけなのだが。


 いったい何なんだ?

 彼女はタイミングがーーと、口にしていた。


 ……何か、この場で誰かと会ってはいけない事情でもあるのか?

 それとも、単に探索する場所がかぶるとやっかいなだけだからか?


 できる限り彼女には頼りたくないが、正直俺の頭だけであとお手上げだ。

 不安要素や分からないことを残しておくぐらいなら、この場で聞いておいた方がいいだろう。


「なぁレイナ」

「なんだ?」

「何であの死骸を見て慌てて進路を変えたんだ?」

「…………」

「だって、遺跡には殺気みたいな分かれ道がいくつもあるんだろ? じゃあ、わざわざ最初まで戻って別の道に行くことないじゃんか」


 俺がそう問いかけると、彼女は珍しく悩むようなしぐさを市……その数秒後にようやく声が聞こえてきた。

 

「入り口に焚火の後があっただろ? それとあの死骸、どっちも新しいものだった。ーーつまり、時期が被ってる」


 ふむふむ、なるほど。

 で、それがどうしたんだろう。


 そう思い、続きの言葉を待ってみるが、一向に彼女は離そうとしない。

 ーーそこで、一つの可能性が頭に浮かんだ。


「えっ? あれ!? もう終わり?」

「説明はした」

「いや、説明になってなかったって。状況だけで終わってたじゃん」

「……はぁ、これはじゃあくまでも可能性の域に過ぎない。変に意識されるとめんどいから……出来れば言いたくなかったんだけどな」


 そう言って、彼女はようやく話を続けた。

 説得と言えるほど説得らしいことはしてないが……彼女が折れてくれたのが幸いだ。


「あのグイムリーターを倒したのはかなりのやり手だ。それは間違えない。ーーけど、そんなやり手が地上で焚火の痕を消さないっていうのを知らないはずもない。それなのに、それらの時間が被ってる」

「つまり、2組以上いるってことだろ?」


 そう。そこまではわかるのだ。

 だが、それらのつながりが見えてこない。

 初心者と、ベテランが一緒にいても、特に何も問題は起こらない気がする。


「なんだ、そこまではわかってたのか。時期がほとんど一緒で、しかも別行動中の初心者とやり手がいる。で、補足しておくと、焚火痕を消さない冒険者なんてものは基本的に遺跡になんて来ない。知識がないまま潜るのは、武器を持たずに潜るのと同じだ」

「え……じゃあ俺は?」

「うるさいな……お前は例外だ。話を戻すぞ。そんな初心者が遺跡に近寄る理由は一つしかない。ーー誰かに雇われてる」


 なるほど。

 確かに、そういうダークなところから雇われたら、お金目的の人たちが来ることも多くなるだろう。

 だが、それがわかったところで、いまだに繋がりが見えてこない。


「状況は全部説明した。で、ここからは考えられる可能性の話だ。それも、考えられる限り最悪な。ーー頭に入れとくのは勝手だが、それを前提にするなよ?」

「わかった……」

「もし、そんな最悪が起こってる場合ーーグイムリーターを倒した方のやり手が狙われてる。賞金首か、個人の依頼かはわからんがな」


 ーー賞金首。


 罪を犯した罪人を徹底的に追い詰めるための手段だ。

 いわば、指名手配みたいなものだ。

 まぁ、確かにこの世界にもあって当然だろう。


 そんな奴が、ここにいる可能性がある。

 間違いなく、危険な奴がーー


 だが、それを言い終えた直後に、再び彼女の口が開いた。

 それは、この話がまだ終わっていないことを意味している。

 

「何をやらかしたかわからない賞金首と、金で雇われた初心者。そういう連中は、何をやってくるかわからん。そこに私たちが巻き込まれようと、奴らからすれば関係ない話だからな。遭遇するだけで命の奪い合いなんてのもある」

「でも、それじゃもし、地上の焚火痕が関係ないひとのものだったらーー」

「だから、あくまでも可能性って言ってんだろ。状況証拠しかない段階では、はっきりわかることなんてない。だから、少しでも遭遇する可能性は排除するべきだ」


 彼女がその結論を言い終わると同時に、この空間に沈黙が戻った。

 再び、この空間に響くのはかすかな足音だけとなった。


 今まで来た道を逆に戻ることーーそれは当然のことながら、一番警戒をする方向も前後逆になるということだ。


 少なくとも、今まで通ってきた道の中では、未だ生きている生物を虫ぐらいしか見ていない。

 つまり、もう一方の洞窟から出てこない限り、こちらへと向かってくるものはいないはずだ。


 だが、来た道を途中で引き返すとなるとまた話が変ってくる。


 まだ見ぬ先に広がっていたはずの道の世界ーーそこに背を向けているのだ。

 つまり、背後から何かが迫ってくるということになる。

 ーーもちろん、破片が落ちているようなこの場所で、後ろ歩きをするなど論外だ。


 そのため、レイナには変わって俺の後ろに着いてきてもらう形となっている。

 行きの陣形が、そのまま反転した状態だ。


 そのため、ランタンは後ろの方にあり、さっきよりも前を照らす範囲が減っているが、1度ーーそれもさっき通ったばかりの道なので少しだけ安心感がある。 


 それに、早々に出会ってはいるが、遺跡のそこら中におぞましい生物が潜んでいるという訳でもない。

 彼女の話が正しければ、出会ったばかりに別の敵に遭遇したりは少ないらしい。


 その代わり、地下深くに住む生物は音やにおいに敏感なのだ。

 戦闘音や血の匂いがあると、すぐに寄ってくるという。

 つまり、今のところは特に大声を出していないので、寄ってくる可能性が低いということだ。


 それでも、今俺たちがいる状況が変わるわけでもない。

 だから、さすがに警戒を解くことはしさすがにできないわけなのだが……。


 しばらく歩いていると、光が届かないような広い空間へと出た。

 間違えなく、さっき休憩した場所だ。


 ……一度通ってきた道だからなのか、最初の分かれ道まで戻ってくるのは意外と早かった。

 やはり、先の道がわかっているというだけで、感覚はかなり変わるものらしい。

 

 見たことのないうえに先の見通せない暗闇を歩くのと、暗闇に包まれているが1度通った道を通るのとでは、心の余裕が全然違うということだ。

 

 幸いにも、ここまで来るまでに音らしい音も聞こえなかったし、後ろから何かにつけられているということもなさそうだ。 

 それに、もしそうなら俺よりもレイナが先に気づいているだろう。


 ともあれ、スタート地点まで戻ってきたわけだ。 

 ーーここからは、レイナですら言ったことのない未知の世界。

 今以上に警戒が……それだけじゃない、実力も、何もカモがこれまで以上に必要だ。


 そんなことを考えながら立ち止まっていると、少し遅れてレイナが到着した。

 響かなかった足音が、砂利のような細かい砂をこするような音に変化する。


「ここから、また私が前だ。こっちはそこよりも足場が悪い。だからと言って地面だけに気を取られるな。ーーいいな?」

「わかった」


 いつも通りの短い会話を終え、再び道が広がる暗闇へと足を動かす。

 実際には、前に歩く彼女が明かりを持っているためこの暗闇に足が届くことはないのだがーー


 こっちの道は岩肌が向き出しとなっているが、歩けないほどでもない。

 その代わりなのか、こっちの方がさっきの道よりも下向きに角度が付いている。


 よりこの暗闇が底へ向かっているような気がして、少し不気味だ。


 ただ、壁が地面と垂直に立っていないため、しっかりと両サイドに光が当たるので、この明かりが届く範囲だったら安心感がある。

 壁の色が、暗く感じる紺色ではなく、茶色というのもあるかもしれない。


 それでも、天然ということもあり、洞窟全体が歪んだように左右に曲がっていて、先を見通しずらい。

 もともと暗闇で見えないのに加えると、見通しの悪さははっきり言って最悪だ。


 光が当たって、やっと見えたと思ったら壁で、続いてる道は 右側にあったーーなんてことが結構な頻度である。

 グイムレーターなどが一直線で向かってこないというのは確かにいいことだが、それと同時に待ち伏せされている可能性も上がっている。

 そのため、今まで以上に前方を警戒しないといけない。


 そうして、少し進むと、光がとおらない暗闇の空間が2つできていることに気づいた。

 片方は、レイナの陰に隠れて見えにくいが、先へとつながる通路だ。

 ーーじゃあ、もう一方は……?


 そう思っていると、レイナがその前で立ち止まった。

 やはり、何かがあるようだ。


 急いで、腰の剣のさやへと手を伸ばすがーー


「分かれ道だ。右と左……どっちがいい?」

「あれ、また分かれ道なのか?」

「ああ。遺跡から外れてる洞窟には、かなりの頻度で分かれ道がある。ま、もともと歩くことなんて想定されてないからな」


 それを聞いて、今にも抜きそうだった剣の鞘から手を離した。


 なるほど。

 確かに、遺跡は滅ぶ前では通り道として使われてた可能性はあるが、天然洞窟は全くそんなことないのか。

 こうして言われてみると、色々なことが推測できてくる。


 だが、そうなるとこうして普通の洞窟が遺跡の中にあるのも不思議だーーだが、きっとそういうものなのだろう。

 それを言ってしまえば、遺跡がこうして地面に埋まっているのもわからないのだ。

 ーー大人しく、この辺の分野は考古学者にでも任せよう。

 いるのかどうか知らないけど。


「ちなみに、なんかレイナは知った風に言ってるけど、本当にこっちの道には来たこと無いんだよな?」

「そりゃな。遺跡や洞窟の構成なんて基本的にどこも変わらないんだよ」


 質問は答えてくれたが、彼女は進もうとしない。

 やはり、ここは俺が道を決めるべきなのか。


 まず、ここから見るにはどちらも大きな違いも無さそうだ。

 どちらも、緩やかに下に向かって伸びている。

 その先は暗闇で隠れていて、わかる情報はここまでだ。


 だが、ここまではきっと彼女も同じなのだろう。

 だから、俺に頼んだはずだ。


 ……えーと、確か迷路とかで使う右手の法則みたいなのがあったようなーー


「じゃあ、右でお願いします」

「わかった。なら、ここからは基本右に進んで行くぞ?」

「了解です」


 ここからずっとと言うのは、きっと戻ることも考えてだろう。

 こうすることで、帰りは右側の道を進んでいけば簡単に帰れるわけだ。


 ーーやはり、こうして一緒に考えてみると、彼女はこうした考察力や考えが共に備わっている。

 その辺りは、やはり経験からなのだろうか?

 

「やっぱレイナって、さっきみたいに考察力あるけど、それってえ実際の経験から来てるのか?」

「あ?」

「なんか……例えば、さっきので言うと、賞金首と昔出会って、ひどい目にあったーーとかさ……」

「さぁな」

「いやでもーー」

「ちょっと黙れよ!! だからお前にはっーー」


 いつも冷静で、感情をなかなか出さなかったレイナの口から……怒鳴り声が漏れ出した。


 激しく声を荒げて……いや、怒っているのか。


 警戒しっぱなしだと、自分で思っている以上に肉体や精神は疲労していく。

 そのせいなのだろうか。


 また深く考えもせずに、軽い気持ちで聞いてしまった。


 ーー彼女は過去を嫌っていると、薄々勘付いていたのにも関わらず。

 ーー前に1度、同じようなことを聞こうとしていたのにも関わらずに…………


「だから、もうっーー」


 今まで足音すら出していなかったのが嘘に感じてしまうほどの大声が、この狭い空間に響き渡りーー

 

 暗闇の先へと消えていった。

 

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