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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第36話 奇襲と休息


 ゴトッーー


 そんな音が、前方から聞こえた。  

 空気が震え、その振動が届いた気がした。

 

 まだ、さっきのグリムリーターと出会ってから数分しか経過していない。

 にも関わらずだ。


 それでも、レイナの言ったように、敵は俺たちのことを待ってはくれない。


 相変わらず先の見えない暗闇を見つめる。

 さっきとは違い明らかに静かすぎるので、レイナも警戒してか、歩くペースを少しばかり落としている。

 

 冷えた空気が、より冷たいものに感じ、それに冷やされた汗が体を伝っていく。

 だが、体を撫でていくそれに気づかないほど、体のすべての神経は今ーーこの瞬間に集中していた。

 当然剣を抜き、前回の反省を活かして今度は両手で剣を支える。


 両手で支える持ち方は当然片手と比べて素早さは落ちるが、長い時間支えていられる。

 今回、少ししか音が聞こえてこなかったということは、あの速度で突っ込んで来たりはしないだろう。


 いくら慎重に歩こうとも足音が響くこの空間では、飛んだりしない限り足音を消して勢いよく近づいてくるというのは無理な話だ。

 現に、前を少しずつ進んでいくレイナも長い槍の前後を幅を開けて持ち、一定の角度で安定させている。


 それでも、一向に襲ってくる気配がない。


 ーーもしかして、気のせいなのでは?


 と、一瞬浮かんできた甘い考えを即座に否定する。

 そもそも、気のせいだったらレイナがここで武器を構える理由はない。

 確かにあの不自然な音は鼓膜を振動させ、何かがあったことを物語る。


 小さかったが、距離は離れてはいなかったはずだ。

 レイナから事前に聞いたもので、透明化する敵の話はなかったが……、それでもいないとは言い切れない。


 最初に合ったオオカミ、あれも気配を消して姿を消して迫ってきていた。

 なら、この洞窟の中にそういった生き物がいても何ら不思議ではない。


 時間が経過するにつれ、剣を支える腕が震えてきて、吐き出す息の量も多くなっていく。

 それなのに、あれから音の一つも聞こえなくなった。


 ただ、遠くで生き物が走り去っただけなのだろうか?

 もしも、敵がこうやって獲物を翻弄するーーという作戦なら、大成功だ。

 グリムリーターとの戦いで少し不だけ疲弊しているのもあるが、集中力が持たない。


 目の前だけを週っ有して警戒していればいいだけのはずなのに、余計な思考がそれを邪魔してくる。

 時間が経てば経つほど違う可能性が浮かんでいき、この現実を嘘で終わらせたくなる。


 一度、念のため後ろを見たのを境に、増えてきた壁のひび割れや、砂埃で汚れた地面に目線が行ってしまう。

 

 ーーもしかすると、敵は待ち伏せしているのではないだろうか?

 レイナは、この先に広い空間があると言っていた。

 この道が一方通行なのをいいことに、音でおびき寄せて、俺たちを殺す準備をしているのではないか?


 ありえない見た目をした悪魔か、グリムリーターのような生き物の大群か…………

 それらが、この闇の奥に潜んでいるのを嫌でも想像してしまう。


 変わらず明るいのはこの周りだけで、そこから奥は完全に想像の世界だ。

 来た道すらも、見たままで残っているか分からない。

 まるで、パンドラの箱だ。

 この洞窟ーーこの長方形の空間そのものが、パンドラの箱のように惑わせてくる。


 ーーゴトッ


 再び聞こえたその音で、前で振り返ったレイナと目が合った。

 だが、それも一瞬のことで、次の瞬間には俺も後ろを向いていた。


 石のような硬い物体が地面へと落下する音。

 聞きなれているようで、実はそこまで聴く機会がない音ーー。


 そんな音が、悪魔の旋律に聞こえてくる。


 俺たちは、ここに来るまでに何ともすれ違っていない。

 最初に聞いた音は、確かに前から聞こえてきた。


 それなのに、今のはーー後ろから聞こえた。


 俺たちが歩いてきた道ーーそこからだ。


 俺はともかく、レイナが見逃すなんて、ありえるのか?

 いや、そもそも何故敵は俺たちとすれ違ったのにも関わらず、襲わなかったんだ?

 そんな能力があったなら、想像したくはないが簡単に仕留められたはずなのに、しなかった。

 ……何故?


 ーーいや、今はそんなこと考えてる暇なんてない。

 

 どれだけ考えようと、追い越した理由なんてわかるはずもないし、この状況が変わることもない。

 目を逸らした次の瞬間には死ぬ。

 ただ、確実なのは、何かが後ろにいること。ーーそれも、俺の近くに。


 今までは、レイナの後ろでサポートという感じだった。……出来ていたかは置いておいて。

 だが、今回は俺が前に出ている。

 しかも、この立ち位置を今交換するのは命取りだ。


 さっきの音は明らかに近づいていた。

 相手の位置を掴めてない中で、下手に動くのは危険だ。


 だが、やはり引っかかるところが多すぎる。

 今回のことで、待ち伏せという可能性も薄くなった。

 狙ってるのはーー


 ダメだ。

 ……また、意識が思考に行ってる。

 悪い癖だ。

 せめて、この瞬間だけは集中力を切らせてはいけないのに……


 だが、待っても待っても、全くと言っていいほど来る気配がない。

 あれ以降音も響かず、空気の振動もない。

 何も、変化が見られないままだ。


 その間にも冷たい隙間風が通り抜けていき、服から出ている素肌を冷やしていく。

 動けないまま1、2分が経過した。

 両手でもこの重量のものを支えるのは辛く、腕に負担がたまっていく。


 はっきり言って、この体勢を維持できる限界が近づいている。


 レイナの考えもそこに至ったのだろう。

 彼女の声が聞こえた。


「敵の狙いは何だと思う?」

「……俺たちを翻弄してるか、精神の消耗ぐらいしかーー」


 ーー考えられない。

 俺の結論はそれだ。


 待ち伏せでもなく、罠を仕掛けてる訳でもない。

 それなのに、レイナの索敵を逃れるほどの能力がある。

 すべてが矛盾しているような状況で、最後に考えられる可能性がそれだ。


「私が後ろを歩く。そっちは警戒しながら前を頼む」

「わかった」


 レイナの案に短く返事返し、後ろを見つめながら下がる。

 槍を構えたレイナの真横を通り、そこで奥へとーー本来行くはずの方向へと再び顔を向けた。


 後ろは、レイナに任せよう。

 俺なんかより、ずっと実力があるんだ。


 それより、問題があるのは俺の方だ。

 今、狙われているからと言って別の生物から狙われない保証はどこにもない。

 また、さっきのようにグリムリーターが飛び出してくるかもしれない。


 この得体のしれない何かよりはずっとマシだが、いきなり突っ込んでくるのを俺一人で対処しなければならないのだ。

 目ですら捉えきれない生物たちを。


 レイナを追い越して、そのスピードを落とさないまま歩く。

 彼女は、器用に後ろ歩きでそのペースに着いてきた。


 たとえ何と出くわそうとも、今の俺たちには進むしか選択肢がない。

 

 明かりとなるランタンはレイナの腰についているので、それが陰にならないように位置を調整する。

 彼女の距離分、明るくなる範囲が狭まっているが、こればかりはしょうがない。

 今、槍を構えているレイナからはランタンを取れない。

 より、目を凝らして進むしかーー


 ガコッーー


 …………!!


 声を上げる暇もなく、音が響いた。

 あの、何かが落ちるような音だ。

 

 ほぼ真後ろといってもいいところから、その音が響いた。

 

 予想できたことだったのに、それが聞こえてびっくりしてしまった。

 

 そのせいで、反応が僅かに遅れた。

 振り向くのが、少し遅れたーー。

 

 すぐ真後ろで、何が起こったのかーー


 そもそも、レイナは無事なのか?


 一瞬のうちに様々な感情が、様々な可能性が頭を支配していく。

 だが、そのいずれも振り向かないと答えはない。

 

 後ろで、何がーー

 レイナはーー


 焦りは不安と変わり、不安は心と思考にモヤをもたらす。

 そんな不安が、悲しみに変わる前にーー


「レイナ!!」


 気づけば、振り向きながら彼女の名前を呼んでいた。


 この狭い空間の中、彼女の名前が響き渡る。


 そして、振り向いたその先にーー

 

 レイナが腕に力を抜いてをだらりと垂らして、片手で持った槍を地面に付けて立っていた。

 彼女が、暗闇の先を見つめながら……立っていたーー


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