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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第34話 備えと迷宮


 RPGなどでよく見かけるダンジョン。

 ーーそれは、ゲームを盛り上げるための舞台であったり、周回用のステージであったりと様々だ。


 ライトノベルなどでよく出てくる迷宮。

 ーーそれは、ギミックや強大なモンスターがうようよといる物語には欠かせないほどの存在だ。


 だが、よく考えていると……そんなものは自然にできるなんてことはないだろう。

 それこそ、自然にできた洞窟に太古に滅んだ文明とか、きっとそれぐらいだ。


 そんな偶然の産物であり、実際に地球ではそのような未知のダンジョンなんてものはほとんど見つかっていない。


 それでも、もしそんなものが実現したとしたのならーー

 洞窟であり、遺跡である迷宮にたどり着いてしまったらーー


 ……普通に帰りたくなる。


 現実とは、いつも理想通りにいかず、それなのに叶わなくていいようなことは起こってしまう。

 全く、理不尽極まりない。


 異世界ならではのダンジョンがあるぐらいなら、ゲームのようなステータスとかもつけてほしいものだがーー問題はそこなのだ。


 異世界のダンジョンとなると、絶対にトラップやら殺しにかかってくる仕掛けがあるに違いない。

 ベタなものだと、スイッチを踏んだりすると出てくる落とし穴に、突然入り口が塞がって閉じ込められる部屋などだ。


 どれも、話を面白くするためのアクシデントのようだったが、そのような場所に実際に遭遇てみると少なくとも行きたくはならない。

 いつ出てくるかもわからないモンスターどころか、床や天井に仕掛けがないか警戒しておく必要があるのだ。


 それなら、遺跡とかじゃなくて迷宮かダンジョンって言って欲しかったところだ。

 てっきり、古い神殿跡とか、その辺に行くと思ってたのだが……。


 そして思考を巡らせてるうちに、さっきと全く同じ結論に辿り着き、繰り返し思ってしまう。


 ーー帰りたい。


 ……いや、違うだろ。

 俺の帰る場所は宿でも城でもないはずだ。

 そのためにもーー


「床とか壁とかにトラップとかはないのか?」

「ないーーとも言い切れないな。けど、少なくとも私は見たことがない」

「あれ? そうなの?」

「第一、そんなものの目撃者は大体死ぬだろ? だから、あるか無いかで言うとわからない」

「た、確かに……」

「そもそも、この遺跡は昔国だったんだ。国の中にそんなトラップがあるとも思えないけどな」

「言われてみれば、そうかも」


 もし、国に落とし穴やらそんなトラップがあったら、不便とかいうレベルの話ではない。

 普通に国家崩壊だ。


 ーー流石に、そこまで出来すぎた異世界ではなかったらしい。

 なんだか、少し安心はできた。

 異世界といえど、しっかりと世界の理屈は通っている。


 ーー俺が立ち止まって、この未知の景色を前に心を落ち着かせている間にも、いつもと比べるとゆっくりではあるが、レイナは廊下のような硬いタイルの上を進んでいた。


 そして、俺も洞窟と紺色のタイルのような地面の境界線を跨ぐ。

 その感触が特に変わることはないが、踏み出した足音が小さく響いた。

 

 レイナが持っているランタンは確かに明るいが、それでも限界はある。

 まず、腰あたりにつけているので、体に隠れて右側がうまく照らせていない。

 そのうえ、光が届かないさきは、奥にどこまでも先まで続いてるように見える。

 

 それでも、ここ周辺はしっかりと見えるようになっているのは事実であり、壁に着いている汚れや地面の土埃、さらに角に張っている蜘蛛の巣までよく見える。

 だが、それでも地上の光の当たる空間に生きている身からしてみると、視界が悪くて仕方がない。


 流石のレイナも、何が出てくるかわからない中、この暗闇でいつものように進むことはできないらしい。

 

 冷たい空気の中、奥が見えない闇が広がるところを行くのは、実のところかなり怖い。

 いきなりモンスターが突っ込んでくるかもしれない。

 地面に、落とし穴のようなトラップがあるかもしれない。

 はたまた、天井が崩落してくるかもしれない。


 森で探索するのとは訳が違う。

 ゲームとは、比べることすらおこがましい。


 一歩進むだけで、考慮しないといけないありとあらゆる可能性が広がっていく。

 視界は悪く、グローブ的なのを嵌めているとはいえ、手も悴んで力が込めにくい。

 それなのに、この空間は足音がかなり響く。


 つまりそれは、敵から視認されやすいのに、戦いづらいということだ。

 圧倒的に不利な状況にあるクセに、そこをどんどん進んでいかないといけない。


 この時間はレイナとの会話で少しでも親密になろうーーと思っていたが、とてもそんな余裕はすでに無くなっている。


 それでも、お互い無言だがその気配はしっかりと感じている。

 2人のどちらかでも欠けた時、少なくとも計画はガラッと変わるはずだ。

 ーー少なくとも、俺の場合は……。


 時々後ろを振り返り、ボタンのような仕掛けがないか下の方を見る。

 そして、静かな空間の中、耳に意識を集中させて周りの状況に変化がないかを確認する。

 その繰り返しだ。


 そして、少し進んで、それに異変が訪れた。


 ーーカサカサカサカサ

 ーーカサカサカササ


 どこかで聞いたような、物と物を擦り合わせる時にする掠れた音が、どこかから聞こえるようになってきた。

 レイナは、この音に何の反応もしないが、どこか気に掛かる。


 なにか、嫌なものを思い出す。

 何だっただろうか?


 このカサカサ音。そしてじめっとして暗い場所。

 何より、この不穏な気配ーー


 そっと、すぐ右下ーーちょうど、遺跡の角の部分に目を向ける。


 ーーいた。


 黒くて、小さくて、多くの人が嫌いなあれが……


「げっ……」

「どうかしたか?」

「いや、ゴキブリが……」

「ゴキブリ?」

「いや、ちょっと虫が……」

「なんだ、ブラッディナのことか。そんなんで驚いてるなら、この先は行かない方がいいと思うがーー」

「いや、大丈夫。……そうだよな、そりゃいるよな」


 レイナの言葉が言い切られる前に否定し、すぐにゴキブリから視線を外す。

 実のところ、虫はそこまで苦手なわけではない。

 どちらかと言えば嫌いなぐらいだ。


 しかし、やはりこの世界にもGはいるのか。

 というか、ブラッディナ? って、なんかかっこいい名前だな。

 Gのクセに生意気だ。


 一応、事前に聞いていたレイナの話だと蜘蛛は出てきたが、まさかGまでいるとは……。


 まだ、この大きさだと気にしなければいいだけの話だが、もし……だ。

 もし、巨大なGやら芋虫やらが出てきてしまっては、戦うどころの話ではなくなってしまう。

 ここは異世界だ。あり得ない話ではない。


「蜘蛛みたいに、でっかいブラッディナとかは出てくるのか?」

「この遺跡の話に限ると、でかい昆虫は蜘蛛ぐらいだ。けど、第4大橋辺りの遺跡にはいるっていう噂を聞いたな」

「じゃあ、ひとまずは出会わないのか?」

「そういうことになる」


 その回答を聞き、安堵の息を漏らす。

 大きいのが蜘蛛だけなら、何とかなりそうだ。


 そういえば、すでにここの周辺から蜘蛛の巣が張っている。

 自然すぎてあまり気に留めていなかったが、蜘蛛の巣があるということはここまでその蜘蛛が来るのだろうか?


 まだこの世界の知識は浅く、どんなところにどんな生き物が住んでいるのか、ほとんどよくわからない。

 もしかすると、所々に見える薄汚れた紺色の壁のひびの奥にそういったものが潜んでいるのかもしれない。

 

 ……流石にないとは思うが、警戒するのに越したことはないな。

 しっかりと目を向けていこう。


 そう思いながら歩いて行くが、一向に景色が変わる気配はない。

 ただ、汚れの具合や至る所にあるひびが違っているので、ループしているということはないが……


 それでも、景色が変わらずに先が見えないとなると、不安が込み上げてくる。

 

 一方通行でかつ、先もわからないとなるとかなり精神にも負担が積もってしまう。

 現に、最初の原動力であった好奇心はGを見たあたりからどこかへ飛んでいってしまった。

 それでも、命に関わっているという警戒心だけはそのままに、レイナの後ろをペースを合わせてついて行く。


 再び、横からカサカサする音が耳に入って来たが、もう気にしない。

 

 そうして、視線を逸らすべく上の方を向うとした時、


 ーーグギャッ、グ……グガガガガァッ


 突然、前から気味の悪い音が聞こえた。 

 まるで苦しんでいるかのような、嗚咽みたいな音だ。

 

 狭い空間の中、そんな不快な音が永遠と響き渡る。


「来るぞ!」

「わかってる!!」


 すぐさまレイナ背中の槍を掴み取り、俺も遅れて剣を引き抜く。


 音が反響して位置が掴みづらいが、前方からだ。

 だが、奥までランタンの火が届かず、一向に姿が見えない。


 それでも、音の反響は段々と大きくなっていき、近づいてきていることだけは分かる。


 相手は1体か複数か?

 どのタイミングで襲ってくる?


 姿が見えない中、必死になって思考を巡らせるが、どれも結論には辿りつかない。

 

 よく目を凝らして、暗闇の中を見つめる。

 しかし、見えてくるのは黒い闇だけであり、その闇がさらに不安を煽ってくる。


 緊張と不安が入り混じり、どうにかなりそうだ。


 まだ……まだ来ないのかーー


 いつ来てもいいように剣をずっと構えているが、この重さをずっと支えているのはかなりキツイ。

 グローブの中は汗ばむほど暑くなっているのに、そこから素肌が出ている指先は冷たい。


 それでも、今この瞬間に来てもいいように構えておかないといけない。

 いつでも力を入れられるようにしないとーー次の瞬間には死が待っている。


 次第に、音がうるさく感じてしまう程まで反響し、軽い耳鳴りがしてくる。


 ーーそれでも、まだ来ない。


 不規則で聞いてるだけでも嫌になる音が、鼓膜を揺らしていき、集中力を切らそうと襲ってくる。

 それでも、それに意識を取られてしまったらダメだ。


 ーーだが、遂にその音に変化が現れた。

 小さく、ペタペタという音が入ってくるようになっていき……それも時間が経つほどに大きく響くようになる。


 ーーなんだ? この音は。


 これも、どこかで聞いたことがある。

 そうだ。お風呂上がりに、タイルの床を歩く時のような……


 その結論に達した時、暗闇の奥からぼんやりと、何か影のようなものが瞳に映ったーーだが、それが何かはわからない。



 わからないまま、俺たちに向かってその何かがーー


 不気味に生える牙を光らせながら、飛びかかっていたーー

 

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