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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第33話 入り口と備え


 強く足踏みしてみても、全くビクともしない橋を渡っていく。


 土魔法的なので作られていて特に金属も使われていないらしいが、かなりの完成度だ。

 そもそも、雨に濡れても何もない時点で少なくとも素材は土ではない気がする。


 そんな橋の下からは、緩やかな水の音が聞こえてくる。

 国と森との隔たりとして流れている川だ。


 見る感じ流れが急なわけでもなさそうなので、例えここから落ちたとしても、死にはしなさそうだ。

 絶対に落ちたくないのには変わりないが。


 周りの景色に目が行ってる間に、硬かった地面はどこか湿り気のある土へと戻っていた。


 そこで正面を向き直すとーーやはり禍々しい洞窟の入り口があった。

 あまり光を灯さないせいで、中の様子が伺えない。

 その上、所々に見える人工物が、さらにその歪さを駆り立てていく。


「レイナ、あの洞窟に入るんだよな?」

「そりゃな」

「じゃあ、洞窟の周りに見える人工物って一体何?」

「言っただろ、ここは昔に滅んだ国の遺跡だ。あの話の通り、今は山と地面に埋もてる」


 なるほど、埋もれた……か。

 ーーけどなんか、おとぎ話とはちょっと違う気がする。


 あの話では、崩壊とか言ってたが……崩壊=埋もれるなのか?

 もしくは沈んだのか?

 アトランティスは海ではなく陸に沈んでいたのか?


 いきなり、なかなか考えさせられる。


 そうだ。遺跡が見つかったところで、全てがわかるわけじゃない。

 だから、きっとロマンが詰まっていて、冒険者が好んでやってくるのだろう。


「まず周辺を見ておきたい。まだ中には入るなよ?」

「了解です」


 子供に言い聞かすがごとく忠告が入るが、禍々しさからくる不安とは裏腹に、確かにこれは好奇心を揺さぶってくる。

 高校生は、まだ全然冒険をしたい年……のはずだ。


 というか、普通に直行すると思って心の準備をしといたのにな……。


 洞窟への入り口を避け、どんどん離れていくレイナの背中を追っていく。

 相変わらず彼女が前に出るとペースが早く、少し早歩きしてやっと追いつけるぐらいだ。

 ーーそういえば、俺が先に歩いてた時舌打ちって……


 うん。もっと早く歩くようにしよう。

 まぁ鍛えると思えば丁度いいか。


 こうして、俺が追いつくの必死になっている時にも、彼女はペースを落とすことなく進んでいく。

 視線を落としながら右を見て、左を見て、再び前を向き直す、という繰り返しだ。


 正直なところ、俺からしてみると彼女が何を探してるのか検討すらつかない。

 そもそも、まだ中に入ってすらいないのだ。

 もしかすると、洞窟の入り口付近からもうすでに遺物的な物が転がっているということだろうか?


 ただ、いつも通り俺を気にかけないぐらいには彼女は集中しているので、話しかけないでおこう。

 どうせ疑問はすぐに解けるはずだ。


「あった」


 その直後、彼女からそんな声が漏れた。

 そのまま、方向を変えて走っていく。


 急いで俺も続き、彼女が止まったところを見渡してみるーーが、特に何かあるわけではない。

 これと言って周りの景色と違いはなく、目立ったものも見当たらない。


 すると、何やら彼女が地面を漁り始めた。

 土を掘り返し、そこに埋まっているものを取り出していく。


「何それ?」


 そんな俺の疑問に答えるかのように、地面が見えるように移動してくれた。

 そして、彼女の掘った地面に目を向ける。


 そこは、抉られたところだけが不自然に黒かった。

 しかも、どう見ても自然にできたものではない。

 誰かが意図的に埋めたように見える。


 そして、ツヤのある黒のいくつもの物体。

 それはまるでーー


「炭?」

「まぁ正解だな。焚き火跡だよ」

「じゃあ、俺達以外にもこの洞窟に来てるってことか?」

「そうなるな。ただ、よくあることだ。ーー問題はそこじゃない」


 確かに、同じ場所に冒険に来るぐらいでいちいち問題にしていたらキリがないもんな。

 

 そこから、たっぷり貯めて再び彼女が口を開く。


「本来なら、焚き火跡は出来るだけ残しちゃいけない。この周辺には、炭とかの焦げた木ですら食べる生き物がいるからな。けど、ここにいた奴はそんな常識すら分かってない。……つまり、余程の初心者か、漁夫の利を狙ってるバカな奴かだ。警戒しとけ」


 そう強く言って、来た道を戻り始める。

 確かに、言われてみれば焚き火の跡だが、それだけでここまで多くの情報を抜き出せるのは素直にすごい。

 彼女が戦闘ではなく、探索が得意だというのはきっとこういうところなのだろう。


「はぁ……」


 気づけば、いつもの彼女同様にため息が出ていた。

 戦闘でも、周りの観察力考察力も彼女の方が圧倒的に上。

 さらに、現代知識無双をするとどころか、この世界の常識すら知らない始末。


 足手まといどころの話ではない。

 何か俺ならではの役割か、せめて何か少しでも役に立ちたいところだが……。


 来た道と言えども、目的地が分かっているとあまり長くは感じない。

 まあ、たかが数分歩いた程度の距離ではあるが。


「準備はいいか? トイレなら今のうちに行っておけ」

「一応、うん。おそらく多分……大丈夫」

「それが死因にならないといいな」


 そんな言葉と共に、光の入らない暗い世界へと足を踏み入れた。

 入り口付近は、まだ地面に草が生い茂っている。

 そのため、少し暗くなっただけだと、意外にも洞窟だという実感が湧かない。


 だが、それも本の数メートル進んだところで変わった。


 境界線のように、1つのラインから全く草の生えてない地面が現れた。

 その先にも、緑色をした植物が生い茂っている様子はない。


 さらに、一気に気温が下がった気がする。

 一応、いつも通りにパーカーを着てきてはいるが、袖から出る手には、冷たい空気が触れる。


 大きかった入り口が、奥に行くほど狭くなっている。

 だんだん光の入ってくる量も少なくなり、視界が悪くなっていく。


 ーーもう、ここからは俺の知る世界ではない。


「まだ何かが出てくることはないが、念のため常に警戒はしておけ。特に足元と後ろはな」

「了解……」


 最初に遭遇したあのオオカミも、後ろから迫ってきていた。

 やはり、野生で生きてる生き物は死角から襲ってくるのだ。


 それに加え、洞窟は足場が悪い。

 今はまだなだらかな下り坂だが、それでも地面はでこぼこで歩きにくい。

 

 入り口で目に入った人工物はこの空間には一切無く、本当にただの洞窟だ。

 遺跡でも何でもない。


 まあ、どちらにせよ、俺はついていくことしかできないわけで……。


「レイナ、さっき漁夫の利を狙ってる人がいるかもーーとか言ってたけど、それって盗賊とかそんな感じ?」

「関所の近くにいる盗賊団とかとはまた変わってくるが、大まかにはそんな感じだ」

「そういうのって、関所の近くだとまだ分かるけど、こんな足場の悪い洞窟で本当に成立してるのか?」

「隠れる場所が多いってのもあるからな。こっちの方が危険だが、奇襲しやすいっていうメリットはある。 ……それと、足場が悪いってのはちょっと違うな。ここはーーいや、どうせすぐに分かる」


 なんか、丁度気になるところで切られてしまった。

 だが、やはりこのままただの洞窟では終わらない、ということなのだろう。


 ここまでは緩やかな坂道が続いていたため、どうにか微かな光が届いていたが、今見えてる曲がり角からは全くと言っていいほど先が見えない。

 この先に道が続いているのか、はたまた壁があるのか。

 

 道が見えなった途端、自然と不安が襲ってくる。

 何が待っているかわからず、予想できることが何一つない。

 

 視界が奪われるだけで、来た方向も現在地すらも分からなくなっていく……。


 こんなところを進むのだとしたら、絶対にすぐ死んでしまいそうだ。

 

「……灯りがあるなら、そろそろつけた方がいいんじゃないか?」

「そうするか。そろそろ目が慣れてきたから、丁度いいか」


 良かった、灯りはあるのか。


 彼女はそう言って、自身のカバンからランタンのようなものを取り出す。

 暗くて細かくはわからないが、大体形は同じだ。


 そしてそこに火を灯すーーのかと思いきや、そこに軽く手を当て、短い詠唱が始まった。

 どんな意味なのかはわからないが、ざっくり10秒ほど彼女が唱えた直後、そこから光が漏れ出した。


 次第にその光は大きくなり、この空間の中を明るく照らしていく。

 蛍光灯の、オレンジ色の光のような、そんな感じの光だ。

 それが、かなり広い範囲を照らしていく。


 先が見えなかった前方は、見えるようになるどころか、壁の岩肌すらもはっきりと見える。


「おぉ……すごいな」

「まぁ、それなりに値が張ったからな。これぐらいの仕事はしてもらわないと困る」


 彼女はそう言いながら、次はポケットを漁り始め、小さい石のようなものを取り出しす。


「この灯りの簡素版みたいなものだ。少ない魔力でも発動できるから、いざという時のために持っておけ」


 その言葉と共に、俺の方に投げてきた。


 それを俺は鮮やかにキャッチーーできるわけもなく、手で触れたはいいものの、そのまま落としてしまった。


「気をつけろよ。それも別に安くはないからな?」

「いや、じゃあ投げちゃダメだろ」


 そんな正論ツッコミを入れながら、落ちた石を拾う。

 それは、少し赤みがかってはいるが、本当にただの石っころだ。

 落とすところが違っていたら、普通にどれがそれなのかわからなくなっていた……。


「で、この石はどうやって使えばいいんだ?」

「魔法を使う時に流れみたいなのを感じるだろ? それをそのまま石に伝える感じでいい。子供でも光らせられるから、多分お前でもできるだろ」

「えぇ、じゃあ試してーー」

「それ一回しか使えないぞ?」

「え? まじで?」

「残念ながらまじだ」


 まさかの事実発覚!

 いくら便利なものでも、使えなければ意味がない。

 猫に小判、豚に真珠だ。

 

 まぁ、きっと子供でも光らせられるならいける……はずだ。

 レイナの言葉を信じよう。

 転ばぬ先の杖だ。


 そんな、事前に話して欲しかったことを色々と聞きながら歩き続けていると、彼女の足が止まった。


「ほら、ここからは歩きやすくなるぞ」


 その言葉を聞いて、落としていた視線を正面に戻す。


 ーー!!


「これが、遺跡か…………」


 視線の先、照らされる前方には、空間があった。

 

 四面を暗めの紺色の壁に囲まれ、どこまでも奥へと続いている。


 例えるなら、長い直方体の中に入ってしまったかのようなーーそんな場所だ。


 そんな、明らかな人工的に作られた廊下が、この洞窟の先に広がっていた。


 それは、ゲームで言うダンジョンのようでありーー


 異世界ならではの迷宮そのものだった。

 

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