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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第32話 歩みと入り口


 所々に立つ木々が日を遮り、暖かさと涼しさが交互にやってくる。

 竜車に乗っている時よりも景色を感じやすく、今では見慣れなくなってしまった人工物のない自然を思う存分堪能できる。


 正確な季節はわからないが、春っぽい心地いい風が頬を撫でていく。

 

 そんな中、舗装されていない獣道の乾いた地面を踏みながら考える。


 あの男と女の子は、最後に何を思って……何を伝えられたのか。

 それはもう、あのおとぎ話の中では語られていない。


 知りたいし、気になるが、それはきっとあの2人だけのものなのだ。


「はぁ、まだあんな話で感傷に浸ってるのか?」

「いや、普通にいい話ーーかどうかは確かに微妙なとこだけど、結構印象に残るタイプじゃん」

「どこまで行ってもただのおとぎ話だ。信憑性なんてあったもんじゃない。それに登場人物もバカだらけ。逆に、何にそんな惹かれてるんだ?」

「うわっ、作り話にマジレスする人だ……。けど、例えそうだったとしても話の構成とかは良かったし、何よりやっぱ感情を揺さぶるような話だったんじゃないか?」

「……どうだかな」


 レイナの部屋に置いてあるものはかなり少なかった。

 しかし、そのおかげで置いてある数少ないものはすぐに目に入る。


 そんな中目に入ったのが、あのおとぎ話を含む3冊の本だったわけだ。

 レイナ曰く、遺跡ができた経緯が一応書いてあるとのことだったので読んでみたがーーまさか、たかがおとぎ話がここまで印象に残るものだとは……


 ちなみに、その間レイナは本当に寝ていた。

 いつも口の悪い彼女の寝顔を拝もうと思ったのだが、残念なことに壁の方を向いて寝ていたので、見れなかった……。

 ーー次の機会こそは、いたずら書きでもしてやろう。


 そんなアホな思考をしていても浮かんでくるのは、やはりあの話だ。

 ……なんというか、かなり考えさせられる話だった。


 おそらく、男は世界一美しく、世界一儚い告白をしたわけだ。

 それが実ったかどうかはわからない上に、そのまま全て無くなってしまったわけだが。


 それでも、その話ですら少し羨ましく思ってしまう自分がいる。

 例えそれが、全ての終わりを招くのだとしても……男は自分の思いを伝えられていた。


 ーーけど、俺は……そんな暇さえ無かった。


 あまりにも突然で、考える暇もなく……、

 最後に話した内容も、いつでも話せるようなことだった。

 

 悠菜のことを守れたのはよかったが、それでも心残りにしては大きすぎる。

 少しでも前に、ほんの少しの勇気を振り絞れば……

 そうすれば……


 ーーいや。

 

 現実が、そう簡単に行くわけない。

 それは、ここ数日で思う存分思い知らされた。


 例え、上手く行っても行かなくても、俺がこの世界に来るのはきっと変わらない。


 悠菜には、何の心残りも残らないまま、ただ居なくなった友達として扱われていく。

 その程度がきっと、彼女からしても幸せなのだろう。


 だからーー


 絶対に戻って、今度こそーー

 今度こそは、伝えなければいけない。


 もう、後悔しないようにーー


 次こそはーー


「止まれ」


 突如聞こえたその言葉と共に、後ろから鞄を引っ張られた。

 そのままバランスを崩しそうになるが、肩から下げていたウエストポーチをさらに強く引っ張られ、どうにか転ぶ直前で静止した。


「ちょっ、いきなりーー」

「シッ、ちょっと黙れ」


 少し後ろの方を歩いていたレイナに引っ張られ、挙げ句の果てに言葉すら封じられたが、彼女がこうする時は大体緊急時なので大人しく指示に従う。


 今、来ている動物はトカゲか、オオカミか。

 前のようなバケモノはやめて欲しいが、彼女が静止を言うほどだ。只者じゃないだろう。


 同じ道を歩き、ほとんど取っている行動も同じなのに、彼女はこうやって事前に危険を察知できている。


 第6感でもあるのだろうか?

 それとも、やはり長年(?)の勘なのだろうか。


 とりあえず、何が起きてるのか全くわからないまま辺りを警戒する。

  

 先程、武器屋で磨いてもらった剣を引き抜き、いつでも戦えるように構える。


「そこにいろ」


 短い言葉が飛んできたを直後、素早く彼女が動きだした。


 持っていた槍先を斜め下に向くように構え、大股で素早く、それでかつ音を立てずに動く。

 そして、10メートル近くまで向かった先でーー持っていた槍を勢いよく地面へと突き立てた。


 ーー何を狙っているのかはわからないが、おそらくこれが戦いの始まりのはずだ。


 その思考に辿り着き、小刻みに震える足に力を入れてどうにか誤魔化し、持っている剣へと意識を集中させる。

 

 彼女が向いている方向からくるのか、

 はたまた地面から……

 

 緊張が、汗という形で流れ出る。


 未だ、彼女は地面に槍を刺したまま、動かない。

 

 不安で集中力が切れていく中、ついに彼女から声が発せられた。


「仕留めた。もう動いて大丈夫だ」

「……え、あれ? もう終わったの?」


 そんな俺の疑問に答えるかのように、地面に空いた穴から何かを取り出した。

 それは、赤い液体に染まっていてわかりにくいがーー元は白い毛をした小動物のようだ。


 それを確認できた瞬間、一気に力が抜けた。


「以外といいものが取れたな。夜はうまい肉が食えるぞ」

「もしかして、ご飯の調達だった感じ?」

「もしかしなくてもその通りだぞ。大体、こっちの目的は討伐じゃなくて探索だからな。無駄な戦闘は極力避けるつもりだ」

「そ、そうだよな」

「こっちには足手纏いがいるからな、尚更だ」

「足手纏い……っていうのは否定できないけど、流石に酷くない?」


 そんなやりとりしながら、再び歩き始める。


 てっきり今回も竜車に乗っていくのかと思っていたが、まさかの徒歩で現地まで移動だ。

 レイナによると、第2大橋ぐらいまでは全然歩いて行けるらしい。

 何なら、竜車も決して安いものではないという。

 お金がないのは、どの世界でも世知辛いものだ。


「なぁレイナ」

「なんだ?」

「あとどれぐらいで着くんだ?」

「そうだな、それなりに進んでるはずだが」

「まだもう少しあるのかぁ……」

「いちいちうるさいな。そんなに歩きたくないんだったら、国に戻って飲食店でも開いたらどうだ?」



 ーーあの国、レセンブルクはかなり発展しているように見えた。

 勿論、日本などと比べてしまうと足元にも及ばないのだが……


 ただ、そんな国でもこうやって少し外に出てしまえば、文明おろか人工物すら全然見れなくなってしまう。

 一応、所々に休憩所らしき建物はあったりもするが……倒壊寸前だったり汚れていたり、とてもあの文明に釣り合っているとは言えない。


 そして、今はそんな休憩所ですら恋しく思えるほどの自然に囲まれている。


 ああいった建物がどんな間隔で建っているのかは分からないが、見かけなくなったということは目的地に近づいているということだろう。

 

 その証拠として、さっきは所々に生えていた木が、今はこの場所からはそこら中に見える。

 簡単な林と言ってもいいぐらいだ。

 

 前に広がる景色も、木が邪魔して奥まで見えなくなっている。

 ここからは、わずかに残る獣道とレイナの記憶が頼りだ。


 それをレイナもわかっているのだろう。

 いつの間にか抜かされて、最初の立ち位置と逆転している。


 一応、レイナからは、遠くに見える山岳の方に向かえーーと言われているが……、あまりにも心許ない。

 この世界にも、方位磁針的な道具があるればーーいや、魔法が何かでもいい。

 それとも、レイナが言っていないだけで実はあったりするのか?

 積極的に話してこないレイナのことだし、全然あり得る話ではある。


「来たぞ」


 その声が聞こえ、思考を中断する。

 彼女が指しているものは一つしかない。

 斜め横にいるレイナから視線を外し、再び前を向き直す。


 そして、視界に大きく入ってきたのは、いつぞやに見たあの橋だ。


 ーーいや、正確には別物なのだが、姿形は全く同じものだ。

 エトレイク森林 第1大橋。


 だが、すぐに、それよりもよっぽど特徴的なものに目を奪われた。


 橋の先に広がる岩の壁ーーそこに、大きく開いた洞窟らしき穴がある。

 ただ、明らかに人工物であろう柱のようなものが、その穴を支えているのだ。


 しかも、その壁もよく見ると、所々に人工物のような模様が見える。


「今から進むのは、あの中だ」


 一方のレイナは、特に驚きもないまま足を進めていった。

 

 おとぎ話の残骸へとーー


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