第31話 オトギバナシ
……むかしむかし、ある所に1つの大きな国がありました。
その国は、とても発達した文明を持っていました。
例えば、ドアは全て自動で開き、魔法を使わずとも夜は明るいまま。
そのうえ、地下施設も発達しており、とても強度な建物が至るところに立っていました。
そんな国の、とある小さい町の中。
そこに、一人の男が住んでいます。
男は、その国の技術の管理をしており、いつもいつも、とても忙しく働いていました。
ある日のこと、いつも通りその男は気持ちが悪くなるまで仕事をしていましたが、1つのトラブルによって機械が止まってしまい、いつもよりも早く帰ることができました。
男は、ヨロヨロになって帰路に着きました。
そんな時のことです。
公園の中心にある広場がにぎわっているのに気が付きました。
男は、疲れている体をどうにか動かしてその様子を見に行きます。
すると、どうでしょう。
ーーかわいらしい黒髪の女の子が、素晴らしい魔法を披露しているではありませんか。
男は、疲れていることも忘れ、その姿に没頭してしまいました。
美しい魔法が、新しく生み出されてははかなく消えていきーーいつしか、終わりを遂げていました。
そして、女の子が別れに、笑顔で手を振っています。
男に、そして観客の全員に、平等に。
そこで、男は思いました。
ーーあの姿に追いつきたい……と。
男のやっている管理の仕事は、その国の限られたものしかなれない、とてもすごいものでした。
しかし、男はその仕事が嫌いでした。
そして、魔法に……とても美しい魔法に心を打たれたのです。
その日から、男は美しい魔法を使うため、努力を重ねていきました。
それこそ、今の仕事に就く時よりも、ずっと……。
男は、すぐにうまくなっていきます。
最初は水の出し方すら分からなかったのに、今では水の温度も調節できます。
そして、とある日。
男は、無理やり仕事を終わらせて、ある場所に向かいます。
もちろん、向かう場所はーー女の子がいた公園です。
走って、走って。
ようやくたどり着いたその場所には、前と変わらず、たくさんの人に魔法を披露している女の子の姿がありました。
数々の魔法が美しく飛び交っていき、男の心は再び奪われてしまいました。
そして、またすぐに別れの時がやってきて、女の子が手を振ってきます。
男は、この瞬間に自分の魔法を披露する予定でした。
しかし、なぜかそれをすることなく、項垂れていました。
次の日からの仕事のやる気が無くなっていき、珍しくミスもしてしまいました。
男は、数日の間落ち込んでいました。
いつも努力していた魔法の練習すらやらないぐらいに。
けれど、男はあきらめませんでした。
再び、努力すると決めたのです。
それから、男は寝る間も惜しんで努力しました。
いつもやっている仕事よりも頑張りました。
時々、倒れてしまうほどに一生懸命になりました。
魔法も、岩を作り出し、炎を作り出し、風を巻き起こし…………
新しく魔法を生み出し、合わせ、その腕を磨いていきます。
仕事をできる限り早く終わらせ、本を開き、実践して。
数々の経験を積み重ねていきます。
いつしか、建物を建て、温度を変え、天気を変えるほどにまで成長していました。
そうして、今度こそ男は決心します。
自身の成長を見てもらおうと。
けれど、仕事は忙しく、とてもそんな暇はありません。
最近は、まともに休むことのできないほどまで仕事が切羽詰まっていました。
しかし、男はあの女の子に会いたくてたまりません。
そして、男は嘘をついてしまいました。
嘘をついて、仕事を早く切り上げてしまいました。
そうまでして、向かいます。
あの女の子の元へーー
いつも通り、女の子はそこにいました。
変わらず、笑顔で魔法を披露しています。
周りにいるお客さん達もみんな笑顔で、男もその様子をずっと見ていました。
しかし、そんな時間もいつしか終わってしまい、ようやく女の子と2人きりになれました。
そこで、男は女の子に声をかけます。
女の子は、首を傾げながら男の言葉を待っています。
そして、ついに男が女の子に魔法を披露します。
女の子がやっていたものから、自身で生み出したものまで様々に。
そうして、別れの時がやってきた時、女の子は手を振りました。
男もまた、手を振り返します。
こうして、一日は終わりました。
けれど、なぜか男は満足できません。
それがどうしてなのか、男は分かりませんでした……。
次の日から、男は仕事の途中にも魔法を研究するようになりました。
当然、仕事のミスも多くなっていきましたが、それをどうにか隠していきました。
次第に、魔法の技術だけでなく、魔力の量を増やす研究もしていきました。
寝ないで、仕事すらおろそかにして。
そして、ついに男は、極地まで到達したのでした。
その魔法は、誰の者よりも美しく、誰の者よりも難しく、そして……誰の者よりも強い威力を持っていました。
誰が見ても、その魔法を、そして男をほめたたえるほどです。
中には涙を流す人さえいるでしょう。
男は、それが完成した瞬間、仕事すら忘れて飛び出していきました。
あの女の子がいるところへ。
笑顔で手を振ってくれる、女の子のいるところへ。
走って、走って……その先には、やっぱりいました。
今日もまた、多くの観客に向けて、たくさんの魔法を披露しています。
笑顔で手を振る子供、挨拶をしてその場を去る青年、そして深々と頭を下げてお礼を言う老人。
誰もが、笑顔でその場を去っていきます。
そして、また、男と女の子の二人だけが残りました。
女の子は、何も言いません。
しかし、そこにいつもの笑顔は宿っていませんでした。
どこか悲しそうに、男のことを見てきます。
その様子を見て、男は魔法を披露しようとします。
女の子が何か言おうとしているのも、それすらも遮って。
魔法が、人を笑顔にするなら、女の子はきっと笑顔になるはずです。
男は、自分が作り上げた、最も素晴らしい魔法を披露し始めました。
しかし、ちょうどそのころ、町は暗く、闇に染まってしまいます。
男が投げやりになってしまった管理のせいで、町は停電してしまったのです。
それは、ここ、地下の公園も例外ではありません。
もちろん、暗くなってしまっては、せっかくの魔法が見えなくなってしまいます。
男の目に、女の子は映らなくなり、どこまで続くか分からない闇だけが入ってきます。
しかし、男はあきらめませんでした。
まず、男は空間を歪めます。
光が入らなかった地下に、光が灯るようにしました。
男の目には、再び女の子の姿が目に移ります。
その顔は、悲しみか、驚きか、分からない表情をしています。
それでも、男はあきらめません。
今度こそ、最高傑作の魔法を発動させます。
水と炎が混在し、この世のものか分からくなるほどの美しい音色が、光が、風景が、広がっていきます。
それは、女の子だけではなく、町中の人の目にも移ります。
先ほど、女のこの魔法を見ていた目にも、見ていなかった人にも。
次第に、国中の人がそれを目にしていきます。
それを、ある者は感動して涙を流し、またある者は夢と疑い、さらにある者は、神に感謝しました。
それは、男の仕事場でも同じでした。
突如として現れたその音は、光は、とても美しく、人々は皆手を止めてしまうほどでした。
そうして、崩壊が始まります。
地面は割れ、壁は崩れ、全てが男の魔法の一部となっていきました。
壮大で、この世に2つとない美しいものへと変わっていきます。
人々は、そんな美しさに捕らわれたまま、美しさの波に溺れていきました。
きれいな景色のまま、皆が感動に包まれたまま、崩壊していきます。
しかし、女の子は違いました。
必死になって、男に呼びかけます。
それでも、男は魔法をやめません。
一時の魔法を、より美しいものに作り替えています。
女の子は、必死になって呼びかけます。
女の子は、美しいこの音よりもーー
女の子は、美しいこの風景よりもーー
ずっと、男の方に目を向けていました。
男は、そこでやっと、女の子の方に目を向けます。
その女の子の目には、感情が溢れ出ていました。
しかし、それは、男が求めていたものとは、似ているようで、全く違うものです。
男は、身を削ってまでさらに強力に魔法を発動します。
けれど、女の子は変わらず叫び続けます。
男へと、訴えかけます。
「どうして!? どうしてあなたは! そんなに苦しそうなの!?」
男は、何も言いません。
「どうしてっ!? どうしてあなたは……! そんな苦しそうに魔法を使うの!?」
男は、何も言えません。
「あなたは! 私に……、 どうして!? なんでっ!?」
男は、知りませんでした。
男の気持ちの正体が。
男は、理解できませんでした。
女の子が、笑ってくれないのが。
男は、わかりませんでした。
これを、どうやって伝えればいいのか。
その優秀さが、
仕事しか目になかった過去が、
それらが、どうすればいいのか、導き出すことを邪魔していました。
ふと、男の魔法を放っていた手が止まります。
それが、疲れから来るものなのか。
集中力が切れたことから来るものなのかは分かりません。
その瞬間、男は女の子を抱きしめました。
これで合っているのか、最後まで男は分かりません。
すべてが崩壊し、消えていく中。
その中心で、男は思いを伝えます。
言葉なんて発さずに…………。
そして、止まらない崩壊は、何もかもーー最期の2人すらも飲み込んでいきます。
「それなら……、こんなことしなくても……、私の答えはーー」
最後に、男にはそんな言葉が聞こえてきた気がしました。
音すらも判別できなくなった世界の中、ついにその国から、人は消えてしまいます。
誰しもが、平等に、最も美しい終わり方をしました。
最後は、誰もが感動し、幸せになって消えていきました。
ーー誰1人、例外なく。
こうして、最も幸せと感動に包まれた国は……地図から消えてしまいました。
人々の思いと共にーー




