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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第30話 生活と歩み


「お、おはようございます……」

「で、こんな時間から何の用?」

「宰相の人から報酬貰ったので、取り分を相談しようかと……」

「なんだ、あのおっさんに会ったのか。ちょっと待ってろ」


 そう言って、レイナは半開きだった扉を勢いよく閉めた。


 僅かに隙間から覗かせていた彼女の格好は、サイズが少し大きいTシャツだった上に、いつもは整っている髪も所々跳ねていた。

 機嫌が悪かったのもあり、きっとついさっきまで寝ていたのだろう。


 ーー悪いことをしてしまった。


 そんな思いを体現したかのように、辺りはしんと静まり返っている。


 勝手に、中世のこういったアパート的な建物はかなり生活音が漏れてしまうイメージだったが、実際のとこそうでもない。

 ここが中世かと言われると微妙なところだが、文明的にそんなところだろう。

 けれど、ここは一切音漏れをしていない。

 ここへ来てから、どの部屋からも全く音が聞こえてこないのだ。


 この世界では、魔法があることによって地球とはかなり違う発展の仕方をしている。

 洗濯や料理などの日常生活にも魔法が使われてるほどだ。


 だから、建築などにも魔法が使われているのかもしれない。

 防音魔法的なサムシングが。

 ……なんかネーミングダサいな。


 そんなことをぼんやりと考えていると、次は静かに扉が開いた。

 

「悪い、待たせた。入れ」


 短く、顔を覗かせることなくそんな声が聞こえてきた。

 

 ……入るって、レイナの部屋だよな?

 俺が入っていいのか?

 というか、そもそも女子の部屋とか入ったことないな。


 突然の発言にしばし固まってしまったが、無言で扉が閉まり始めたので、急いで体を捩じ込む。


「お、お邪魔します」


 扉がバタンと閉まる音が小さく響く中、扉の先には細長い通路、そしてその奥に部屋が見えた。

 玄関には日本の建築同様の段差があり、靴は脱ぐ方式のようだ。 

 散らばった靴と、それとは対照に整えておかれている靴の間に俺の靴を置いて、部屋へ向かう。


 さすがに、奥の部屋から入ってくる日はここまで届かないようで、この通路はかなり暗い。


「言っとくが、もてなせるものは何もない」

「いや、全然大丈夫なんだけど、それより俺を家に入れてよかったのか?」

「そりゃ、こんな朝早くからやってる店なんてほとんどないしからな。それとも、わたしの実力がそっちに劣ると?」

「いや、そんなことないんだけど……。まぁ、レイナが良かったら別にいいんだ」

「なら、とっとと報酬を出せ」


 そう言って、彼女は話を進めるのを急かしてくる。


 綺麗に整理されてるこの部屋にはベッド、そして四角いテーブルにその両端に椅子と、最低限のものは揃っている。

 壁には、普段使ってるであろう武器や防具が立てかけられていて、かなり実用的な部屋に見える。


 ……いや、違う。

 逆だ。生活に最低限必要なものしか置いていない。

 綺麗で整って見えたのも、散らかすものがほとんどなく、そもそも物が少ないからだ。


 そもそも、この世界での家でできる娯楽ってなんだ?

 読書とかか?

 流石に、テレビはないとは思うが……。


 それでも、暇つぶしのボードゲームぐらいならあっていいはずだ。

 一応、別の部屋にあるというのも考えられるけど……


「レイナって、暇な時間いつも何してるんだ?」

「そうだな、大体剣を振ってる。たまに魔物を倒すこともあるな」

「え、剣振るのってそんなに楽しいの?」

「そんなわけないだろ。ま、時間を無駄にしてるよりはマシだけどな」

「もうちょっと、人生の楽しみとかはないのか?」

「はぁ……」


 俺が聞くと、レイナは深くため息をついた。

 そして、光が宿っていないその暗い目で睨みながら、力強く言い張る。


「人生が……生きるのが楽しいわけないだろ」

「…………」


 その言葉には、憤りと、苦しみと……、さまざまな悪感情がら詰まっているように聞こえた。


 あまりにも、彼女の選んだその言葉が残酷で、何を言おうとしていたか、何を聞こうとしていたか……全て飛んでしまった。

 ーー生きるのが、楽しくない?


 じゃあ…….


 人生は楽しんでこそ。

 その哲学で生きてきた俺にとって、その言葉は理解できなかった。

 人は誰しもが生きる理由ーー楽しめるものを探し、それが人生というもののはずだ。


 じゃあ……


「何のためにーー」

「生きてるんだ、とでも言いたげだな。そんなの、死にたくないからに決まってるだろ」

「それこそ、生きる理由があるからじゃ……」

「はぁ。どうせ、死にかけたようなことが一度もない気楽な人生を歩んできたんだろ。一回でも死の直前に巡り合って、まだそんなこと言っていられるか?」

「それは…………」

「話は終わりだ。さっさと報酬出せ」


 死にたくないから、楽しくもない人生を生きる。

 そんな矛盾に取り憑かれるほど、『死』とは恐ろしいものなのか?


 俺だって、こっちへ来てから何回か死にかけた。

 オオカミモドキに食べられかけ、魔法を喰らい……


 そこで、例外なく感じた感情は何だ?

 ーー恐怖だ。紛れもなく。


 必死に生きることを求め、どうにかその恐怖から遠ざかろうとする。


 俺は、何やかんやで誰かが助けてくれていたが、もし……もしも、それが無かったら?

 1人で、長い時間続く恐怖から耐えることはできるのか?

 もしそうなら、俺だって……。


 じゃあ、まさかレイナも…………


「おい、早くしろ。いつまで待たせるつもりだ」

「あ、ごめん」


 流石にこれ以上、俺の思考で彼女の時間を取らせるわけにもいかないので、ポーチの中から巾着袋を取り出し、机の上に中の貨幣を取り出していく。

 そして、その間彼女は分かりやすく並べる。


 ようやく巾着袋が空になった時には、綺麗に正方形に置かれていた。

「お前、途中になんか買ったか?」

「そうだ! タレスコット? ていう名前の食べ物買ったの忘れてた……。あれ美味かったからレイナも食べる?」

「……なら、その分を合わせたら偶数だな。それならお互い報酬は半分だ」


 そう言って、彼女は机に並べられたコインの半分を持って行こうとするがーー


「え? 俺が半分も貰っていいの?」

「そりゃな。今回の依頼は探索だ。倒した魔物の数とかは関係ない。そっちが役に立ったかは微妙なとこだが、後々トラブるのも避けたいからな」

「それなら、お言葉に甘えてーー」

「ただ、そっちの防具やら剣やらの金は別途貰うぞ?」

「え、あれはプレゼント的なものじゃないの?」

「バカか、当たり前だろ。どんだけ都合のいい頭してるんだ? なんなら、すぐ死にそうな奴になんかに金を貸してやっただけでもありがたく思え」


 まぁ、確かに鎧や剣がそこまでの安物とは到底思えないが……それにしてもせめて何か一言ぐらい言って欲しかった。

 なんか、新手の詐欺に引っかかった気分だ。


 残った半分の硬貨からさらに3分の2ほど取られていき……最終的に残ったのは最初の何分の1になったのか、考えるのもバカらしくなるぐらいにしか残らなかった。

 まぁ、借金するよりかは全然いいけど。


「これで、もうレイナへの借金は完済したっていう認識で大丈夫か?」

「そうなるな」


 武器の値段どころか、この世界の金銭の価値すらわからないので相場よりも多く取られた可能性も捨て切れないがーーレイナのことだしきっとそんなことはしないだろう。多分。


「じゃ、私は寝るからテキトーに武器の手入れでもしててくれ」

「え、寝るの?」

「誰かのせいで起こされたからな。それとも、まだなんかやることがあんのか?」

「いや……一応これからまた冒険に行かなきゃ行けないし……武器屋とかに行った方がーー」

「だから、その武器屋がやってないんだよ。この時間だと飲食店とかそこらしか開いてないな」

「な、なら……これから行く遺跡のことについてもうちょっと教えてほしいんだけどーー」

「はぁ。……まぁ、いいけど」


 彼女はため息を吐きながら、不機嫌そうに了承した。

 朝っぱらから不穏な出だしだ。


 まぁ、朝早すぎてこうなっているわけなのだが……

 

 ーー次来る時は、もう少し時間も気にかけよう。

 せっかく時計の読み方も時計自体も地球と同じだったからな。


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