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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第29話 旅立ちと生活


 誰かとすれ違い、追い越され、そしてまたすれ違う。

 

 様々な場所から人の声が聞こえ、この空間をより明るいものにしている。

 お店から、そして建物から、人が出て、入っての繰り返し。


 そんな中、俺はというとーー場所も分からずウロウロしている。

 もちろん、なんの根拠も無しにフラついているわけではない。

 手には、紙に細かく書かれた図面ーー地球でもお馴染み、地図を持っている。


 あの宰相の人が、レイナの家がわからないと言ったらざっと書いてくれたものだ。


 これで、順調に目的地へ辿り着けるとも思えたのだがーー残念なことに、現実はそう甘くはなかった。

 なにせ、手書きの地図に載っている城以外の目印が、まるで分からないのだ。


 この街には、城以外に突出して目立つ高い建物はない。

 どっかの国のように時計台などもあると便利なのだが、どうやら城に併設してあるらしい。

 つまり、地図に書かれている目印になる場所が、何一つ分からないのだ。


 もし、城の庭など知っている場所が書かれていたのなら話は違ったが、ここに書かれている方向がわかる目印は全て知らない店の名前。


 ……。

 いや、ちゃんと説明しなかった俺も悪かったけど……。


 だが、分からないものはどうしようもない。


 というわけで、そのお店を探すべく周辺を回っている。

 正確ではないが、なんとなくの距離感的にはこの辺のはずなのだがーー


「やあ、そこの兄ちゃん。さっきからこの辺りをウロウロして、一体どうしたんだい? やる事がないんだったら、俺のとびきりナイスな料理を食べていかないかい?」


 突然、隣から声がかけられた。

 一度、左右を見渡してみるがーー当てはまりそうなのが俺しかいない。

 さっきからウロウロしてるのも俺なので、つまり俺のことか。


 声のした方を向いてみると、肩ほどまで髪を伸ばした男が屋台のような場所から顔を覗かせてる。

 その上、俺がまだ気づいていないと思ったのか、口元に手を当ててもう一度呼ぼうとしていた。


「おぉ、気づいてくれたな。どうだい? なんか悩んでることがあるなら、俺のこの究極うまいタレスコットを食べるとたちまち気持ちが晴れていくぜ? そんな小さい紙ばっか見つめてると、大きい世界に置いていかれるぞ?」

「あ、ありがとうございます。けどーーお金が……」


 そこまで言いかけたところで気づいた。

 ついさっきの話だ。


 そういえば、給料をもらっている。


 流石に手で持つのはまずいということで、ウエストポーチのような小さめのカバンを貰ったため、俺がそれなりのお金を持っていることは知られてないはずだ。

 それでも、この人は声をかけてきた。

 

 ……レイナと分け前の相談をする前に使いたくはないが、店から漂ってくる香ばしい香りが、いい具合に空いたお腹を刺激してくる。


「ちなみに、その……タレスコット? ってどんな食べ物なんですか?」

「おっとおっと、まさか知らないときたか! 珍しい客もいるもんだな。ちょっと待ってくれな、今目の前で焼いて見せようじゃないか! なに、決断を下すにはまだ早すぎるってもんだぜ? 俺もちょうど腹が減ってきてるしな!」


 そう言い終わるーーいや、言い終わる前に、店の奥にある調理器具で早速料理を始める。

 鉄板に薄切りの肉のようなものを置き、緑色のソースみたいなのをかけていく。

 …‥緑の、ソース?


 少し待つと肉に焦げ目がつき、それをヘラで素早くパンへ移していく。

 そのパンは、長細く、中央に溝が入っている。ホットドッグのパンとほとんど同じだ。


 最後に、野菜と卵? を載せて完成ーーと思いきや、店主の指先が光りだし、パンに熱風を吹きつけた。


「一丁上がり! どうだ? これで食べたくなってきただろ? 俺の場合は、最後に魔法を使って表面を軽く炙ってるからな。このタレスコットは、他では食べれない味だぜ?」

 

 そう言って、これみよがしに見せつけてくる。

 見た目は完全にソーセージがベーコンになったホットドッグだが、ソースやパンなど細かいところは違う。

 しかも、最後に炙られたせいか、香ばしい香りが漂ってくる。

 ーーめっちゃうまそう。


「じゃあ、お願いします! ……いくらですか?」

「おお! そうかそうか、やっぱり誰もタレスコットの魅力には抗えないな! ところで、ちゃんとお金は持ってるのか? なんだったらツケにしといても構わないが……」

「いや、お金はちゃんと払いますけど……」


 そう言うが、なかなか値段を言ってくれない。

 仕方がないので、ポーチから巾着袋を取り出して口を開く。

 そのままその中身を見せつける。


「1個分のお金取ってください」

「おいおい、それは流石に不用心じゃないのか? ここに値段書いて……って、銀貨ばっかじゃねぇか!? 客人、さてはお金持ちのボンボンだな? 金はもう少し慎重になった方がいいぜ?」

「あ、いえ、これはさっきもらった報酬で……」

「そうかそうか! 客人はかなり仕事ができる人みたいだな! それに、他国から来たんだったりゃ、お金の扱いが知らなくても無理はないか。ま、とりあえず俺のタレスコットは銅貨1枚だからその銀貨もらって銅貨9枚のお釣りな」


 そう言って、巾着から器用に1枚の銀貨を摘み出した。

 するとすぐに、銅貨9枚をそこへ戻す。


「ほいよ、俺の超特製タレスコットだ。ところで、客人。さっきから地図を持ってるみたいだが、もしかしなくても方向音痴か? 初回サービスってことで教えてやるよ」

「なら、お言葉に甘えて……」


 片手にタレスコットなるものを持っているため、どうにか片手で紙を広げて店主へと見せる。


「まず、今どこにいるのかがわからなくて……」

「おいおいまじか、そこからかよ! って、なんだかこの地図も大概だな…‥」


 そう言いながら、彼は地図の中央に指を指す。


「まず、このでかく書かれてるのが城だ。んで、俺の店はちょっと下のここ。この地図だと……ありゃ、大通りが小道より小さく書かれてんな。んじゃここだ」

「あ、思ったりより近くだ」

「まさか……ほんとに何も分からないまま歩いてたとはな……。けど、そのおかげで俺のタレスコットの味が知れたもんな! ほら、あの道に魔法を披露してる人がいるだろ? そこの角を曲がった4階建ての建物だ。通りに4階建てのところはそこしかないから、すぐ分かると思うぞ?」

「わかりました。ありがとうございます!」

「いやいや、大したことはしてねぇよ。それじゃ、また気が向いた時に俺のタレスコットでも食いに来な! 味わって食えよ!」


 そう言って、大きく手を振ってくる。

 俺も軽く手を振ってそれに返し、その場をあとにする。


「それと、もうそいつには地図書かせない方がいいぞ。見にくくてしょうがない」

「肝に銘じておきます……」


 最後にその言葉のやり取りをし、右手に持つタレスコットとやらを一口齧る。

 日本で言うハンバーガーのように、紙に包装されたそれは食べ応えもかなりホットドッグに近い。


 それでも、肉とチーズのような食材の組み合わせが、確かにその味を舌に植え付けていく。

 ホットドッグと似たような食べ物だが、味は全然違う。

 もしかすると、あの店主の腕が自分なりの味を出しているのかもしれないが……


 マスタードやケチャップに頼らずとも、少し刺激のある辛みのある味だ。

 何より、バンズや具材が香ばしく仕上がっているのがまた味を引き出している。


「おいしい……」


 レイナと会ったら、彼女にも教えてあげよう。

 いっそのこと、半分残しておくか?

 ……いや、でもせっかく給料で買ったなら、全部食べたいしな。


 悩みながらも、足を動かして道を進んでいく。

 途中、大道芸のように魔法を披露している人が、手から発射する水を高くまで飛ばしていた。

 さらに、炎で輪を作ったりなど、なんでもありだ。


 少し街を回るだけでも、人々の生活を感じられる。

 世界の違いなんて関係ない。

 本質的には全部同じでーーだからこそいい。


 この世界と地球を行き来できたら面白そうだが、それ以前にまず戻らないといけない。


 いつの間にか、手に握っていたのはタレスコットの匂いと僅かな温もりが残った包み紙だけになっていた。

 そのタイミングで、ふと前を向き直してみると、道の左側に周りよりも大きめの建物があるのが見えた。

 きっとあそこだろう。


 わかりにくい地図だったが、304と部屋番号だけは大きく記入してある。

 それに従い、扉を抜けて正面にある階段を登ろうとするがーー


「あのー、お客様? どのようなご用件でしょうか?」


 受付の女性に止められた。

 まぁ、確かに時代背景的にも今の日本などと比べてもそこまで防犯が高いイメージはない。

 当然、友達のマンションに遊びに行く感覚だと止められて当たり前だ。


「あ、すいません。304号室の人に会いたいんですが……」

「304号室ですね。お名前はわかりますか?」

「レイナです」

「確認致しました。304号室レイナ様ですね。どうぞお入りください」


 ようやく受付を突破し、見えていた階段を登っていく。

 

 確かに、根本的なところは同じだが、マナーなどは少しずつ違いもある。

 ……1人で出歩いたりするなら、もう少しこの世界での常識を身につけないといけないかもしれない。


 そして、扉の前へとたどり着いた。

 木製で小さい扉には、304という札がかかっている。

 ここで間違いないはずだ。


 そこで、2回ほどノックしてみるがーー


 ……。

 …………。


 特に誰も出てこない。


 念のため、もう一度ノックをしてみるとーーそれが終わる前に、ガチャという音を立てながら勢いよく扉が開いた。


「はぁ、誰だ? こんな早くからうるっさいな」


 と、早々に文句が聞こえ、ご立腹のレイナが顔を覗かせた。

 

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