表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
一章 別れがあるということは、出会いだってある
25/101

第24話 選択と信用


「はあ、はぁ、はぁ……」


 必死になって、酸素を取り込んでいく。

 だが、それでもペースが間に合わず、いまだに苦しい現状は変わらない。

 

 喉の奥には血の味が漂い、乾燥して声を出すことすらままならない。


「ここまで来たなら、大丈夫なはずだ」


 声がした方向を向くと、レイナが地面に座り込んでいた。

 俺ほどではないが、彼女も相当疲れているらしく、吐く息のペースは早いままだ。


 今いる場所は森から出て、ちょうど橋を渡り切ったところ。

 つまり、ようやくスタート地点に戻って来れたわけだ。


 ーーあの後、後ろを再び振り向くことなく全力で走ったが、幸いなことに化け物には気づかれなかったようだ。

 そのおかげで、今ここにいる。


「まだ、龍車が来るまで時間がある。それまで休憩だ」


 そう言って、レイナと組んでから何回目かわからない静寂が訪れた。


 ひとまず、呼吸が落ち着くまでは休憩しよう。

 そう思い、ペースを乱さずに息を吸い、吐き出す。


 少しずつ喉の痛みが無くなっていき、声が出せるまで回復してきた。

 そして、その少し枯れた声でどうにか話題を切り出す。


「あのバケモノは、橋を渡ってこないのか?」

「橋には結界が張ってあるらしい。具体的にどう言ったものかは知らないが、アレも橋までは渡ってこないだろ」


 その言葉に何か返事をしようと思ったが、うまく言葉が出ずに、頭が僅かに縦に揺れただけだった。

 それほどまでに、あの出来事は印象的すぎた。


 別に人を殺したわけではない。

 それでも、刺した肉の感触や張り裂けていく内臓は紛れもない本物だ。

 …………。


 また会話が続かないまましばらく経つと、レイナが立ち上がった。


「ーーどこか、行くのか?」

「すぐ戻る。少し待ってろ」


 そう言い放って、歩いて行ってしまった。

 もしかしたら、一緒に行くべきだったのかも知れないが……今の弱々しい声と疲れ果てた体では、結果は変わらなかっただろう。


 そうして、再び何か聞くこともなく、行ってしまった。

 

 彼女の背が、少しずつ遠くなっていくのを見守りーーそして、見るのをやめた。

 今度こそ、本物の静寂が訪れる。


 結局、俺はーー彼女をずっと当てにしていたわけだ。

 死ぬ直前のような場所に立ち会っても……まだ、現実から目を背けていたらしい。

 今、やっと思い知らされた。


 思い出したように、腰の剣を抜き、まじまじと眺める。

 そこには、赤黒く変色してきた血がついたままだ。


 ーーもう、逃げられない。

 この方法を使うなら、こんなものは日常茶飯事のはずだ。

 命を奪い合うーーそれが、冒険者という職業の生き方なのだから……。



 しばらく、何も考えずにぼーっとしていた。

 考えることに疲れ、感情すらも出さずにひたすら無の時間を送っていた。


 そうしていると、後ろから何やら音が聞こえてくる。

 小刻みに、そしてどんどん大きくなっている。


 だが、それを確認する気力がない.

 その瞬間をただ茫然とと待ち続ける。

 それがほぼ間近まで迫っていきーー


「せめて少しでも警戒しとけ」


 そんな力の入ってない声が、後ろから聞こえた。


 そこでやっと彼女の方へと振り向く。

 相変わらず、彼女は無表情で、何も変わったところはない。

 だが、その手には赤く染まった何かが握られていた。

 

 すると、彼女はその場に座り、茂みの上にそれを置いた。


「うっーー」


 思わず、声が漏れてしまった。

 今置かれたものには、手足が、尾が付いている。

 つまり、何かの生き物だ。


 それがーー首から先がない状態で横たわっていた。


 しかし、彼女はそれを気にすることなく、辺りに散らばっている木々の枝を集めている。

 

 俺の食べていたご飯だって、こうやってできている。

 生きるために……そうだ、生きるためには必要なことなんだ。


 そう考えているうちに、彼女は枝を集め終わっており、指先から現れた炎によって火をつける。

 乾燥した枝は、瞬く間に燃え移り、すぐに火は大きくなった。


 そのゆらめく炎を眺めていたら、その隣から音がした。

 見なくてもわかる。

 生き物に刃を入れたのだろう。


 見たくはなかったが、その方向へ視線を移す。

 すると、その動物に短剣を突き刺す彼女の姿ーーそれと、内臓のようなものが転がっていた。

 それが、少しずつ増えていく。

 器用にに骨や内臓に皮などの食べれないものだけを取り出し、肉の部分だけを枝に刺していく。

 

 そして、そこまで終わったら火にかける。

 昔行った、魚釣りでも同じ光景を見たものだ。


 ーーあれ?

 じゃあ……

 魚と動物、それらはほとんど変わらない。

 どちらも生きていて……


  それなのに……

 

「はっきり言うぞ。そんなくだらないことで悩んでるぐらいなら、この仕事は向いてない」

 

 まるで、俺の思ってることが全てわかっているかのように、そんな言葉をかけてきた。

 相変わらず感情を読み取れないが、その口調だけは少し強い。


「何がやりたいかなんて興味ないが、中途半端だ。やる気だけじゃ、殺せない。躊躇ったら死ぬ」


 その言葉を返せず、火に通されて暗い色になっていく肉を眺めていた。

 肉を裂き、内臓を潰し……


 正直、もう思い出したくもない。


 ……なら、もしあのバケモノだったらどうだっただろうか。

 もし、倒したとしたなら……倒した後に来るのは今のような葛藤か。

 それとも、ゲームのボスを倒したような達成感か……


 ーーこの世界は、ゲームなんかじゃない。

 

 1つ1つのことに向き合って、1度切りの命を守っていかなければならない。


「ーー」


 俺が言葉を発しようとする直前、焼けた肉を俺の前に差し出してきた。


「これが、さっきまで生きていたものの味だ。食べるかは勝手だが、しっかりと覚えとけ」


 そして、串のようにしている木の枝の先を渡された。

 少し焦げがあるぐらいの、絶妙な焼き具合だ。

 見ているだけでも、食欲を掻き立てられる。

 

 しかし、この肉はさっきまで動いていた。

 命があり、意思がありーー


 そのことを考えーー噛みついた。

 香ばしい香りがより濃くなり、硬すぎない肉から出る熱い肉汁が口内を満たしていく。


 ーーそれでも、そのおいしさをうまく味わうことができない。


 1口、また1口と齧り付き、その量を減らしていく。

 ソレの生きていた姿を想像しながら食べていく。

 そして、また一口食べようとした時、木の枝にはもう肉は残っていなかった。


 疲れから来る空腹を紛らわせるほどではなかったが、少しの休憩には勿体無いぐらいの満足感だ。

 

「ーーレイナ、」


 俺が彼女の名前を呼んでも、彼女は返事をしない。それでも、横目に俺の方を見てくれている。


「やっぱり……俺にはこれしかない」


「ーーそうか」


 そう言い残し、彼女は立ち上がった。

 そして、足で乱暴に焚き火の跡を崩し、立ち去ろうとする。

 

 変わらず、俺のことなんて気にせずに先へ進んでしまう。

 振り向くことすらせず、元来た方向へと歩いていく。


 俺のことなんて眼中に無いようで、しっかりと向き合ってくれている。


 そして、また先に立ち去ろうとする彼女の腕をーー


 後ろから思いっきり掴んだ。


「レイナが人を信じられないなら! ……そんなやり方だって言うなら、俺はーー人を信じて、強くなってやる!」


 と、言い切ってすぐに、羞恥が込み上げてくる。

 また、痛々しいことを言ってしまった。


 たっぷり5秒の沈黙が世界を支配する。

 彼女の返答が来る前に、俺の顔は赤く染まってきてしまった。

 そして、ようやく彼女の口が開きーー


「あっそ」


 と、最も関心のなさそうな言葉が返ってきた。


「え……? あ、あれ?」


 そんなに興味持たれないようなことだったか?

 感情的になったとはいえ……そこそこ勇気がいる台詞だったはずなのに……


「自殺がしたいなら勝手にしろ。この世界では、そんな思想がまかり通るほど甘くない。……バカな目標を掲げた奴から死んでいく」

 

 そう言い切ると共に顔を元の方向へ戻し、再び歩き出してしまった。

 心なしか、さっきよりも歩くスピードが上がった気がする。


 また、俺の考えてることが筒抜けかのようだったがーー相手の考えを読んで先に答えを言うのも、彼女が得てきた能力なのかもしれない。


 口では散々突き放してくるが、実際に彼女は見捨てたりしていない。


 あれ? ……そうだよな。

 

 うん。

 多分そのはずだ。


 さっきだって、助けてくれた。

 遠ざけながらも、信用できないと言いながらも、いざとなれば助けてくれる。


 その行動から僅かにのぞかせる気遣いをーー

 彼女の心に眠る、悠菜のような優しさをーー


 何より、彼女自身をーー


 俺は信じることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ