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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
一章 別れがあるということは、出会いだってある
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第23話 躊躇いと選択


 進むにつれ道は険しくなっていき、足元も謎の草や倒木のせいで安定しない。


 そんな中をレイナに引っ張られ、走っていくが……


「あっ!」


 ついに、ツタのようなものに足を取られ、躓いてしまう。

 そのまま彼女と手が離れ、大きく前方へ投げ出された。

 慌てて手を添え、どうにか顔から落ちることはなかったが、ぬかるんだ泥で全身が汚れてしまった。


「流石にこの辺りなら大丈夫そうだな」


 そんな俺に目もくれず、彼女は周辺の景色を見回していた。

 そして、倒れた俺の体を無理やりに起こし、肩ぐらいまでの直径がある倒木の影に隠れる。


「声を出すな。気付かれる」


 その短い忠告に頷いて返し、跪く態勢で頭を隠した。


 ここの地面は日光に当たらないせいか、湿気がすごく地面も泥のようになるほどの水分を含んでいる。

 なので当然、服などが泥まみれになってしまうが、今はそんなことどうでもいい。

 

 なにせ、あのバケモノが近くにいるのだ。

 姿こそ見えなかったものの、異様なほどの森の静けさ、そしてそんな静寂の中でただ1つ響く足音こそが、その存在を確定している。


 しばらく動かずにじっとしているが、この異様な気配はなかなか消えてくれない。


「あの化け物、俺らを探してるのか?」

「分からないな、判断するには情報が少なすぎる」


 あれに気づかれないよう、小声でどうにか会話する。

 いまだに近くにいるということは分かるのに、どれくらいの距離があるのかも、何が目的なのかも分からない。

 中途半端な情報だけが漂うせいで、下手に行動できない。


 できるだけ、気配を消していなくなる瞬間をひたすらに待つーーそのつもりだったが……


「まだ動けるか?」


 その質問が来た時、さらに事態が複雑になっていることを察した。


「動けるけど……戦うのか?」

「いや、逆だ。逃げる」

「でも、俺たちを探してるなら、ここで隠れてる方がーー」

「違う。いくらなんでもこっちを探してるだけなら、奴は動かなさすぎる」


 確かに、言われてみればその通りだ。

 気配こそずっと感じるが、こっちへと近づいてる感じはしない。

 つまり、あの化け物がここに居座り続ける理由の見当が全くつかなくなったというわけだ。


 ……だが、逃げるとなったらまた新しい問題が出てくる。


「逃げれる場所って、あの橋しかないんじゃ……」

「それが問題だ。どうやっても奴のいる方向に向かうことになる」

「それなら、いなくなるの待ってた方がいいんじゃ……」

「そうだな、それに関しては否定できない。いや、むしろその可能性の方が高いかもしれない」

「じゃあ、なんでーー」

「これはあくまでも最悪の可能性だが、ヤツは群れの仲間を待ってるのかもしれない」

「えっ?」

「聞いたことないか? ゴブリンとかも、強い個体が先頭して、安全を確保したうえで残った群れを進ませるんだ」

「それなら……」

「これはあくまでも可能性の一つでしかない……が、決断は早い方がいい」

「…………」

「私の指示でお前まで動かそうとは思ってない。どうする?」


 いきなり、重大な決断を迫られた。

 んな無茶な……と、愚痴をこぼしたいところではあるが、勝手に動いてしまいそうな彼女が.指揮権を俺なんかに渡してくれるほどなので黙っておく。


 ひとまず、どちらの選択死にも危険は潜んでいる。

 前者は、あの化け物に一度接近しないといけない。

 また、後者は可能性こそ少ないもののもしそうであったら積みだ。


 …………。

 化け物は、俺たちを探してはいない。

 だが、周りの生き物が全ていなくなってしまうほどの脅威だ。

 

 じっくり10秒使って頭を捻り、レイナに確認するべく口を開いた。


「もし、あれ1体と戦うことになったら、勝率はどれくらいある?」

「……そうだな、姿が見えないから何とも言えないがーーあの巨体なら時間を稼げて数十秒だ」


 数十秒……!

 つまり、出会ったらほぼ負けの状況だ。


 だが、彼女はそんな中でこの可能性を提示した。

 今まで彼女が経験してきたことからの推測だろう。


 彼女は、彼女のやり方でずっとやっている。

 なら、俺は……彼女が否定した人を信じるやり方でやらなくては。


「レイナの推測を信じる……」


 小さくそう言うと、彼女はどこか迷ったように目を逸らしてから、


「わかった」


 と、短く返した。


 あの化け物が具体的にどの位置にいるかは分からないが、森の端を歩いていけば鉢合わせする可能性は大分低くなるだろう。

 だが、森の端に出るにつれ周りはどんどん開けていく。

 その上、森の周りを通る川にはあそこ以外橋はかかってなく、泳ぐなんてもっての外だ。


 つまり、化け物から離れて歩くほど見つかりやすくなるのだ。

 これぞ理不尽のスパイラル。


 まぁ、そこはレイナがうまく間を取ってくれるだろう。


 そう思ってるうちに、彼女が動き出した。

 1度あたりを見渡して、音を立てないように小走りで前に進んでいく。

 その背から離れなすぎないように、俺も動き出す。

 

 できるだけ、近くにある木に隠れながら静寂の広がる森を横切る。

 時々ある足音が緊張を誘い、負った傷が動きを鈍くする。

 そんな中でも、彼女は自分のペースで突き進んでいた。

 俺のことも少しは気にして欲しいところではあるが……。


 だが、そんな彼女が突然止まり、急いで手前にある木にその姿を隠した。

 釣られて、俺も目の前にあった木へと身を隠す。


 その直後、再び耳障りな咆哮が耳に入った。

 大地を震わせ、周囲から命あるものを追い払う、強烈な威嚇だ。


 ……いや、待て。

 そもそも、何のためにこうも吠えてるんだ?

 こんな森の表部に、あれと渡り合えるほどの生物はいるのか?


 もし、威嚇や攻撃のためじゃないとするなら……


 その考えが浮かんだ瞬間、焦りが生まれた。

 こんな入り組んだ森の中、どうせ見つからないだろうとどこかで思っていた自身の甘さを呪う。


 ーー時間がない。


 そう思い、少し先にいる彼女の元まで慎重に、できるだけ早く近づく。

 

 その時だ。

 奥にある木と木の隙間から、何か動くものが僅かに見えた。

 高い木々が小さく見えるほど巨大で、恐ろしい。

 体の一部だけだが、それだけでもやばいとわかる。

 

 それが目に入った瞬間、慌てて彼女の隠れている木の影に飛び込んだ。

 一瞬動いただけだったが、異様に疲れた。

 俺の推測を伝えようとしたが、呼吸が乱れ、うまく喋れない。


「音を立てずに、木に隠れながら進め。橋が見えたら走れ」


 そんな俺の状況がわかったのか、彼女は短く伝えてさらに先へ進んでいく。


 この少しの間にも、化け物の動きは活発になっており、何回も足音が耳に入ってくる。

 だが、幸運なことにこちらは近づいてきてはいない。

 

 音のする方向を確認し、タイミングを見計らいながら彼女の後を追っていく。


 そしてーー


 遠くの方に、渡ってきた橋が視界に入った。

 まだ少し距離はあるが、見えただけでもかなり安心できる。

 

 再び彼女へと追いつき、目線を動かして確認を取る。

 すると、彼女は俺の意図をしっかりとくみ取って、頷き返してきた。


 橋は、森の入り口にかかっている。

 だから、そこまで行くには遅かれ早かれ視界が開けている場所を通らないといけないことになる。

 ここが、勝負どころだ。


 すると、彼女が軽く手を挙げた。

 おそらく、静止の合図だ。

 できるだけ姿が露見しないように注意深く化け物のいる方を見る。


 そしてーー


 彼女がその手を下げた。


 その瞬間、俺と彼女はそろって走り出す。

 森の出口が近いところでは、地面から出っ張った根などが少なく、比較的走りやすい。

 俺たちの存在にまだ気づいていないのか、聞こえる足音は遠ざかっているように感じる。


 かなりの数の木々を追い越し、必死に彼女について行く。

 少しずつ息が切れ、体の痛みが目立つようになってきた。

 ただ、そんな俺のペースに合わせているのだろうか、彼女の背は離れていかない。


 そして、ようやく森から抜けられるときーーあの足音が突然鳴り止んだ。

 それが気になって、反射的にその方向を振り向いてしまった。


 前にも、こんなことがあったのにーー


 その視界に広がっていたものは、あの化け物なんかではなかった。

 意外と距離は空いていたらしく、木々に隠れてどこにいるかも分からない。

 しかし、その代わりに、目を背け、見たくなかったものが見えた。

 

 横たわる、数匹のオオカミの死骸だ。

 その内2つは何か大きいものに踏まれた形跡があり、潰された上に内臓や見たことのないものが穴という穴から飛び出している。

 肉片の周りには血だまりができており、見るだけでも気持ち悪い。


 生きていた時の姿が想像できないほどにグチャグチャになっているが、あのうちの1体は確かに俺が殺したのだ。

 …………。


 それから、再び目を背け、橋へとひたすらに走った。


 余計なことを考えないように、全力でーー


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