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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
一章 別れがあるということは、出会いだってある
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第21話 自然と訓練


「はぁ、はぁ、……」


 一度立ち止まり、乱れた息を吐き出す。

 次に周りの空気を吸うと、酸素濃度の高い新鮮な空気が肺へと送られた。

 

 そして、前にある狙いに目を向ける。


 何度も深く切り込んだその傷は、癒えることなく残っている。

 倒すには、その傷をさらに抉っていくしかない。

 

 一見そこまで難しくないようにも思えるが、正確な狙いと力が必要なため、実際にやってみるとかなり難しい。

 さらに、剣の角度によっては抉るにとどかず、刺さるだけで終わってしまう。


 実際、それで何回か手を痛めた。

 これが結構痛い。

 しかも、剣が刺さったままになるというおまけ付きだ。


 だから、狙うは1箇所ーー何度も、何度も挑んでつけた傷跡。

 破片が散り、大きく抉れたその中心へ。


 ーー今度こそ、仕留める。


 その意気込みとともに、体を動かした。

 剣を握る腕に力を入れ、横へと向ける。

 それに合わせ、大きく足を踏み出して狙いに向けて走り出す。

 おとなしかった風が、突然牙をむいたかのように当たっていく。


 狙いから目を逸らしてはいけない。

 その一点に集中し、全身を合わせなければ失敗する。

 

 そして、あと少しで手が届くほどの距離まで迫ったとき、待機させていた手を機敏に動かした。

 横に向けていた剣先は、その硬い傷跡へと入り込み、力任せで削り取っていく。

 破片が舞い散っていく中、剣先で少しずつ深く突き刺していく。

 腕の力を、体の重心をうまく動かし、やがて剣が抜けた。


 その作用に体が引っ張られながらも、その傷へと目を向ける。

 確かに、今回のは深くいった。

 傷が広がることなく、より深くえぐれている。


 それでもーー

 まだ、足りない。

 まだ、倒れない…………


「今回の攻撃はいい感じだな」

「……いや、でもまだーー」

「そう焦るな。目標は木を倒すことなんかじゃないだろ?」


 彼女はそう言い、前にあった木の傷を手でなぞった。

 何の変哲もない、日本でよく見たような木だ。

 ただ、そこには俺が必死につけた傷が刻まれている。


 そう。俺の相手は木だ。

 必死になって倒そうとしたが、びくともしなかった。


 確かに俺みたいなど素人が練習もせずに狙った場所へ剣を当出られるはずもない。

 そのための練習なのだろう。

 それはわかる。

 わかるのだが……


 木だと、手への負担が大きすぎる。

 最初の攻撃なんか、刺さりすらしなかった。

 軽く皮を削った程度だ。


 それに、手首は未だ痛いままだ。


「もう少しいい感じの練習方法がありそうなんだけど。騎士団の訓練所とかにもっと負担の少ない的とかないのか?」

「あるにはあるが、なら騎士団に入るか? おそらく目的は果たせなくなるぞ」

「あぁ……なるほど」


 言われてみればその通りだ。

 騎士は強くなるための環境を提供してくれる代わりに仕事が割り当てられる。

 だが、冒険者は全て自分たちで揃えないといけない。

 その代わりに、自由に冒険できるようになるーーあれ?


「レイナって、冒険者だよな?」

「ああ、そうだが」

「じゃあ、なんで騎士団から依頼が来るんだ?」

「冒険者の中でも優秀な奴らは、国から声がかかることがある。だからーー」

「え!? レイナそんな強いのか?!」


 ここにきてまさかの新事実!

 確かにかなり強いように感じていたが、国から声がかかるほどだったとは……


 あれ、じゃあ、そんな強い人に教えてもらってたのか?

 え……、まじか。


「落ち着け。まず第一、私はそんな強くない。あんな化け物みたいな奴らとは比べ物になんない」

「え? そうなの?」

「残念ながらその通りだ。私にスカウトが来たのは探索面での話だ。戦うだけならお前の会ったセレシアやミルナの奴の方がずっと強い」

「あ、やっぱミルナさん強かったんだ」

「そんなわけで、こういった探索に関する依頼は私に来ることが多い訳だ」


 なるほど。 

 確かに、見ていた限りだと状況判断が早いように思えた。


 周りの木々を見る様子、そしてその周辺の知識。

 改めて思い出してみると、その行動にはしっかりと経験と知識を活かしたものがあったーー気がする。

 こじつけと言ってしまえばそれまでだが……


「けど、探索するっていうとこだとレイナはかなり上手いってことだよな?」

「…………」

「ちなみに、そういう時に役立つ知識とかあるのか? ……あ、企業秘密とかなら言わなくてもいいんだけど」


 彼女は、剣の実力もあり、国からお呼びがかかるほどの実力者だ。

 けど、年齢はおそらく俺とほとんど変わらない。

 つまり、それほどの技術と知識を持ち合わせているわけだ。

 

 一方、そんな彼女は俺の質問に対し、どこか迷ったように無言を貫いていたが、しばらくしてようやく口を開いた。


「……誰とも組まないことだ」

「え……?」

「私はずっとソロでやってる。だから、面倒な手間をかける必要がない。気にする必要もない」

「…………」

「他の奴らは基本グループでやってる。だから戦う面では強いが、個人的な行動がやりにくいし、何より何をやるにも一緒じゃないといけない」

「…‥いや、でもソロなんてーー」

「他人を信用できるわけないだろ。いや、私からしてみたら、そんな何考えてるかわからない他人を信用してる方がどうかしてると思うけどな」

「…………あー、あれ、じゃあ、ちなみに俺のことは?」

「どっからともなく湧いてきたやつをどうやって信用しろと?」

「ま、まぁそうだよな……」

「ともかく、そういうわけだ。だから私は戦いが上手いわけじゃない。一人で行動してるからってだけだ。お前も、とっとと信用とか希望とかは捨てた方が長生きできるぞ」

 

 ……。


 人は1人じゃ生きられない。


 そう言ったのは誰だったか。

 歴史の偉人? 中学の先生?

 もう、思い出せないぐらい曖昧なことだ。

 それでも、その言葉だけはしっかりと覚えてる。

 

 幼稚で、他力本願で、無責任な考え方だ。

 それでも、助け合って生きていく。

 1人じゃ解決できないようなことも、助け合えばできる。

 それこそが、人の生き方だ。


 ーーそう思っていたが……今、彼女はその全てを否定した。


 どこか強がっているのだと、本心がバレたくないだけなのだと、一瞬そう縋りもしたが……


 彼女が話してる時、ずっと感情を読み取れなかった顔が、目が、変わっていた。

 いつになく感情が現れ、発する言葉をより強固なものにしていた。


 あれは怒りか、憎しみか……。

 俺にはわからない。

 いい物ではなかった。


 初めて会った時から、きっと何かがあったとはわかっていたが……

 俺が抱いていた彼女の本心ーーどこか優しく、明るいものがあると。

 そう抱いていた希望は、たった今砕かれた。

 彼女が言ったように、希望に意味は無いんだと、思い知らせて来るように。


「……本当か?」

「は?」

「本当に、そう、思って……」

「何度も言わせるな。誰だろうと信用できない。特にお前はな。それと、私は死にたくないからな。そっちが死にかけても、助けてくれると思うな?」


 そう言って、彼女は俺から目を逸らし、歩き出した。


 彼女の本心、それが悪いもので埋まっていると。

 決して分かり合えないぐらい、絶望に染まっていると。

 そう、思い知らされるのと同時に、1つの、それでかつ大きな疑問が頭によぎる。


 ーー他人を信用できない。

 

 だったら……


 ーー希望は捨てた方がいい。


 それなら……


 どうしーー


「グァギャァァァァ!!」


 突然、森が響いた。

 今まで見えていなかった、鳥みたいな生き物が一斉に飛び立つ。

 わずかに地面が揺れ、声が止んでも森は静まり返ろうとしない。

 直後、様々な生き物の声が入り混ざる。

 だが、その声の中にさっきの声は含まれていない。

 聞いているだけでも吐き気がしてくる耳障りで、聞こえる場所からは距離があるのにも関わらず、鼓膜を破ろうとしてくる勢いのあの声が聞こえない。


 つまり、この騒がしい声たちはそれから逃げている生き物のわけで……


「警戒しろ! まだ近くはないが、あれが何かわからない」


 その声で、思考の中から現実へと戻ってきた。

 あまりにも、想像できる生き物の声とはかけ離れていて、まるで現実味がない。


 逆にいれば、それぐらいにやばいのがいる。


 反応に遅れて、今更やってきた緊張や危機感が、体を震えさせる。

 それにどうにか体重をかけえ耐えながら、少し前で槍を構えた彼女向けて声を出す。


「逃げないのか!?」

「今は情報が少なすぎる。相手が何かわからない以上、迂闊に動けない」

「でも! ーー」

「逃げたいなら逃げろ、相手が群れだった時は真っ先に死ぬぞ!」


 そう言われ、どうにか踏みとどまる。

 勝手に1体と思い込んでいたが、群れという最悪の場合もあるのか。

 いや、その時は戦ってもーーいや、レイナを信じよう。

 彼女が信じずに生きできたのなら、俺は人を信じて戦わないと。


 次第に、木々の隙間から、何かが近づいてきている影が見え……


 その時ーー近づいていると認識した時には、すでにその形がわかる程の距離になっていた。


 しかも、あれは見覚えがある。

 ーー最初に会った、あのオオカミだ。


 それが、1匹ーーどころじゃない、3、4匹……

 そんな、前の実に4倍のもの数が、俺たち目掛け迫ってきていた。


「来るぞ!」


 その声とともに、オオカミが飛び上がった。

 そこから見える剥き出した爪、そして口から覗く牙が、この場が穏便に終わらないことを物語っている。

 

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