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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
四章 行動する愚者は、操られていることすらわからないままにある
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第99話 改変と取引

「あのさ」

「何?」

「イーグルって、本名?」

「なわけないじゃん」

「まぁそうだよな。ちなみに、なんでそんなコードネームにしたんだ?」

「へぇ、なら、あんたは自分の名前を自分で決められたの?」

「つまり、いつの間にかその名前が定着してたと?」

「そ、だからあたしは知らない」

「それなら本名を教えてくれよ。どうせ人前でイーグルって呼ぶわけにはいかないんだろ?」

「よくわかってるじゃん。でも本名か、そうね。今は、ミルナ・ラーレスクかな」

「……お前」


 静かなホテルの一室。

 ここは元々、ミルナさんが取ってくれていた宿だった。

 俺はこの部屋、そしてミルナさんは隣の部屋だ。

 だが、その隣の部屋には誰もいない。


 ……あの後、いくら待っても、ミルナさんが帰ってくることはなかった。


 帰ってこなかったということは、そういうことだ。

 生きてるか、死んでるかすらもわからない。


 探しに行きたい。

 でも、俺が戻ったところでできることはない。


 ーーもしも、これが漫画の主人公ならば、敵の本拠地に殴り込みでもして、かっこよく彼女を救い出したりするのだろう。


 でも、俺は違う。

 武器を持ったところで、結果は何も変わりやしない。


 ミルナさんは本当にすごい。

 彼女の望みは、運悪く叶ってしまった。

 俺とは違って。


「お前は、いつまでここにいるんだ?」

「お前って呼ぶんだったら、新しく名前を教える必要はなさそうだね」

「……答えろよ。人の名前を借りてるんだったら」


 そして、このイーグルというやつは、しばらく安全なところに身を置いていたいらしく、ミルナさんが予約したホテルにズカズカと入ってきた。

 そして、教えてもいないのに予約していた彼女の名前を受付で名乗り、部屋を奪い取ったというわけだ。


 こうやって教えてもいない情報を未来から仕入れてくるのは、本当に気持ち悪い。

  

 ともあれ、そういうことでイーグルという少女がこの部屋にいるわけだ。

 勝手にミルナさんの名前を名乗ったのは少しくるものもあったが、命の恩人だ。

 追い出すわけにもいかず、とりあえず色々とお互いに説明しあっている。


 俺が狙われている理由、俺を助けた経緯。

 これからのことも話したい。


「まだ未定。強いていうなら、いい未来が見えたら、かな」

「そうか」

「もちろん、あんたの待ち人が来たら出てくよ」


 俺は、どうするのがいいのだろうか。

 きっと、王国まで帰れば奴らは追ってこないだろう。

 でも、それだとミルナさんはーー


 それに、俺1人で王国に戻った時、周りはどんな反応をするだろうか?

 特に、王のグレイルと騎士団あたりは怖い。

 もしかしたら、今度こそ無事では済まされないかもしれない。


「ーーで、結局あんたが狙われてる理由はなんなの?」

「俺にもわからない」

「そんなことないでしょ。あんたの今の顔、そして感情。それは自分にきっかけがあると自覚してる証拠」

「なら、未来の俺から聞けばいいだろ?」

「それが答えてくれない。意外に口が硬いんだね」

「ところで、先の未来を見たんだったらーー」

「あんたの待ち人は帰ってこない。そして、この予言は外れない」

「ーーっ!」


 必死にはを食いしばり、怒りを鎮める。

 ここで感情に身を任せたところで、なんの解決にもならない。


 この少女は命の恩人だ。

 だが、俺が気に食わないのはそういうところにある。

 人の命をなんとも思っていないような、そんな。  まるで興味なさそうな態度だ。


 だから、価値観の違いから来る怒りを必死に抑える。


 そんな時だった。


 ポケットから、振動がした。

 それと同時に、警告音のようなものが鳴り響く。


「出なよ?」


 少女のその言葉に従い、ポケットに手を突っ込む。

 そして、ようやくその原因がわかった。

 通話鏡だ。しかも、ミルナさんから貰った。


 それは、紛れもなく見るなさんから連絡が来たということだった。

 つまり、彼女は生きている。

 俺は、直ちにその手鏡を耳につけた。


「もしもし!」


 実は城にも置いてあったのだが、使ったことがなかった。

 だから、会話の初めになんと言うのかも、耳に当てるのかどうかもわからなかった。

 全て、地球にあった携帯の感覚だった。


 それが、今回は功を奏した。


「もしもしだぁ? まさか、この後に及んでふざける余裕があったとはな!」

「お前……」

「おい、ツラ見せろよ? お前に現実を見せてやる」


 結論、その声はミルナさんではなかった。

 トラウマのよう脳に焼き付いて、もう2度と聞きたくないそれだった。


「どうした? 早くしろよ? この女がどうなってもいいのか?」


 その言葉を聞いて、嫌な予感がした。


 それは、俺ですら容易に予言できた未来だった。


 しかし、全ての選択肢は奪われていた。

 恐る恐る、鏡を耳から離し、視界に入れる。


「あ……」

「よかったな! 感動のご対面だ!!」


 その顔は、悪意に満ちている。

 だから、俺は悪魔だと思った。

 その桃髪も、この凶悪さに加担しているように思えてしまった。


 ソイツは、やはりあの時の女だった。


 だが、今はそれすらも気にならない。

 悪意に満ちた表情よりも、悪意に塗れてしまったものがーー人がいた。

 言葉だって意味をなさない。

 この絶望の前では。


「ミ、ミルナさん……」


 彼女が手に持っていたのは、ミルナさんの髪だった。

 三つ編みに編まれていた髪は雑に解かれ、先の方を強引に握っている。


 髪を持たれた彼女の顔は苦しみに染まり、声ともならない音を発していた。


 服はボロボロになり、アザや怪我が目立った彼女の待遇は考えるまでもなく悪いものだとわかる。

 まるで、拷問を受けていたようだ。

 

 女は、ミルナさんの髪を引っ張って、無理やり鏡の前に彼女の姿を映す。


「ほら、痛そうだろ? 可哀想に。お前が一人で逃げたせいで」


 鏡にアップで映った彼女の顔から、俺は目を逸らしてしまった。

 あまりにも苦しそうで、あまりにもーー

 俺のせいだ。


「ミカ、ワ……く、ん」


 彼女が、小さく声を出した。

 弱々しく、苦しそうに。

 だがーー


「黙ってろよ、立場がわからないか?」


 その言葉の直後、画面からミルナさんが消える。

 俺とほぼ同時に、何かをぶつけるような音が響いていた。

 まるで、誰かを殴っているような。


「やめろよ……、やめろ!」

「お、やっと話す気になったか。でも、何かを要求するんだったら、それに釣り合うぐらいの要求を飲むのがスジだよなぁ」


 そう言うと、女は何かを取り出した。

 不気味に輝くそれは、画面越しでもわかる。


「やめろやめろ! やめてくれ!!」


 それでも、女の動きは止まることを知らない。

 再びミルナさんの髪を引っ張り、鏡に映る高さまで頭を持っていく。 

 そして、その喉元に手に持ったそれを押し当てた。


「や、め……」


 それが僅かに喉に食い込み、鮮血が首筋をと辿っていく。


「わかった! 言うことを聞く! なんでもする! だから、もうやめてくれ……」


 そこまで言うと、ようやく女の手が止まる。

 そして、手に握っていたナイフをどこかに投げ、ミルナさんの髪をその場で離した。

 鏡から発せられる音には、彼女が地面に打ち付けられる痛々しい音が残っていた。


「言ったな? もし破った瞬間、この女はーー」

「わかったから! 早く要件を言えよ!」

「んじゃ、お前とこの鏡越しで会話するのはこれで最後だ。よく聞いとけよ」

「なんだ?」

「明日の正午に、シーガル廃墟の一番高い建物まで来い。ただしお前1人だ」

「……っ!」

「どれかが破られた時点で、この女は殺す。で、王国に帰られる前に、お前も殺してやるよ」

「なら、せめてーー」

「話は以上だ」


 そう言うと、突然鏡が割れた。

 あの女との通話も切れる。


「うわ、結構大変なことに巻き込まれたね」


 人質を取られた。

 まさか、こんな刑事ドラマのようなことが現実で起こるなんて。


 こんなことが、許されていいのかよ……


「あんたがここからいなくなるなら、この部屋は好きに使ってもいい?」

「お前も、ちょっと黙ってろよ!」

「へぇ、命の恩人にそんなこと言っちゃうんだ」

「……確かに、助けてもらったことには感謝してる。けど、今は話しかけないでくれ」

「それで? あたしが黙ってればどうにかなるの? どうせ何もならないにでしょ。あんたのその感情的なところは、未来で仇となる日が来るよ」

「……」

「これは魔法を使ったからじゃない。何度も見てきたから言える、魔法に頼らない予言。だから、こんなところで取り乱すより、もっと時間を有益に使ったほうがよくない?」


 そんな少女の言葉に、俺は返すことができなかった。

 正論だった。


「お前、もしかしてこの未来も見たのか?」

「うん」

「なら、なんで言ってくれなかったんだよ!?」

「だって、伝えるメリットがないじゃん。どちらにせよ、あんたはあの事実を知った瞬間からこうなってた」

「クソ! メリットがなくたってーー」

「そういうとこ。早死にするよ?」


 勘違いしていた。 

 

 この少女は、俺を助けたくて助けたわけじゃない。

 自らの利益のために、俺を助けたのだ。


 善意ではなかったのだ。

 俺なんかに、元から興味なんてなかったんだ。


 この少女は、今まで会ってきた仲間と呼べる存在とは違う存在だった。


「……確認なんだけどさ、俺はシーガル廃墟っていうところに行くんだけど、一緒に着いてきてくれたりはしないよな」

「しない」

「それは、お前にメリットがないからか?」

「そう」

「なら、メリットがあればいいんだな?」


 だから、この少女が自分の利益のために生きているなら。

 自分のために情報屋なんてものをやっているなら。


「イーグル、俺はとっておきの情報を持ってる」


 ーー引っかかるはずだ。


「取引しよう。俺が出すのはーー異世界の情報だ」


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