キャンプ場の噂【短編ホラー】
私の地元には、海を臨むキャンプ場がある。キャンプをする人や海水浴をする人、山も近くにあるので山登りをする人もいる。景色もよく、夏には人気のキャンプ場として賑わっている。だが……地元の人はあまり近づかないし、キャンプなんてする人はいない。それは、ある噂のせいだ。その噂とは……自殺者が引き寄せられるというものだ。
初めて聞いたのは、学生の時だ。近所のスーパーの店長が、自殺した。自分の車の中で密室状態にして、一酸化炭素中毒。なぜ自殺したのかは分からないが、話題になったのは場所が例のキャンプ場だったからだ。そこで初めて、私はそのキャンプ場が自殺の名所だという事を知った。過去にも、崖から飛び降り、海に身投げ、木で首つりなど様々な自殺者がいたそうだ。
「……はぁ」
ある日、私は恋人にフラれ、傷心の中フラフラとそのキャンプ場を訪れていた。その時の心理状態がどうだったのかは分からないけど、まともではなかったと思う。キャンプ場の駐車場は山を登ったところにもあり、そこから崖に出て、高所から海を眺めるところがある。私は以前恋人とそこに来ていたことを思い出し、車を停め、崖へ向かう。あまり人が来ないのか、草が生い茂り、虫が多い。
「もっときれいなとこだったと思うんだけどな」
思い出が美化されているんだろうか。私は草を掻き分け、崖にたどり着く。
「はぁ」
相変わらず、綺麗な景色だ。遠くに大きな風力発電の風車が見え、眼下には海水浴をする人達。私は一人をそれを眺めていると。
「ん?」
ふと、何かが目に入る。それは、人影。それだけならおかしくないのだが、人影は海の上にいたのだ。
「魚か何かの影?」
よく見ようと目を凝らす。人影はこちらに手招きをしている。やはり、海の上に立っているようにしか見えない。
「何あれ……」
ゆらゆらと手招きをする影は、不気味で、怖くなった私はその場を後にする。行きと同様草を掻き分けて車を停めた駐車場に戻ろうとするけど、
「あれ?」
まっすぐ歩いたのに、元の場所に戻ってしまった。さっき景色を眺めていた崖だ。人影は、まだ見える。
「………」
でも、少し違っていた。影は、近くなっていた。私は走って駐車場へ向かうけど、やっぱりまた元の崖に戻ってきていて。
「う……」
海の上にいた影は、いつの間にか崖の上に立っていた。
「嫌……!」
とにかくここを離れたくて、草を掻き分け、駐車場じゃなく別の場所へ向かおうとする。
「あ!?」
焦って足がもつれ、こけてしまう。急いで立ち上がろうとしたけど。
「っ!?」
目の前に広がっていたのは、崖の下に広がる岩場だった。ここからの高さは10メートル以上はあるように見える。あと一歩前に出ていたら、崖から落ちていたかもしれない。命の危険を感じ、振り返ると。
「もう少しだったのに」
影は、私の目の前でそう呟き、消える。呆然と影がいたところを見ていたけど、ようやく動けるようになった私は、草を掻き分けて車に戻る。あれはいったい何だったのか。いや、きっとあれは……あれが、噂の元凶なのかもしれない。
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先日も、自殺者が出た。崖から身投げをして亡くなったそうだ。私ももしかしたらあの時……噂は今も、消えない。
完