七日目(7):悪党、石神に挑む
「ライ!?」
俺は飛びだした。
闇雲に、とにかく前へ。ゴレムの真っ正面に立ち、
「防げ……ぇえええええええ!」
剣を前に突き出す。
直後。二つのイェルムンガルド外殻が、真っ正面から激突した。
がりがりがり! と、剣先のなにもないはずの場所から悲鳴のような音が響き渡り、俺の周囲の大気がきしむ。
そして、とんでもないプレッシャー。
格上だと認めざるを得ない。
現状、俺の神力よりも、あのゴレムの神力の方が少しだけ強い。
つまり、このままだとジリ貧だ。
「おい、あんまり長くは保たねえぞ! 援護頼む!」
「……っ、ええい、簡単に言ってくれるな!」
コゴネルは毒づいて、
「まずは水属性からだ! 行け、アンダイン!」
言葉とともに、コゴネルの手から放たれた水弾がゴレムに向かって飛ぶ。
一見して害のない水の塊にしか見えないそれらは、いともたやすくイェルムンガルド外殻を貫通して、ゴレムの体表を傷つけた。
ゴレムが不快げな咆哮を上げ、イェルムンガルド外殻が威力を失う。
俺は、ふー、と少しだけ息を吐き、
「馬鹿、気を緩めるな小僧!」
「え?」
がぎぃん! と、ゴレムが飛ばしてきた右拳が、バグルルの剣に弾かれて停止、身体に戻っていった。
「敵が外殻を引っ込めたのは、攻撃力に神話の力を集中させたからだ! 正面に突っ立ってたら死ぬぞ!」
「わ、悪い……」
「コゴネル! そっちは無事か!」
「大丈夫だ! ミーチャがなんとかしてくれた!」
「まるまる~!」
と、後ろから元気な声。どうやら左拳はコゴネルを狙っていたようだ。
ゴレムはぎちぎちぎち、と身体を軋ませながら、こちらとコゴネルのどっちを優先的に叩くかを考えているように見えた。
……チャンス。
「食らえ、このライナー・クラックフィールドの必殺剣!」
叫ぶ俺の剣に、光が集積する。
俺は振りかぶって、
「いけええええええっ!」
左肩めがけて、思い切り振り下ろした。
放たれた剣光はまっすぐにゴレムに突き刺さり……そして透過して、はるか向こうの天井に着弾。轟音が響く。
「え? なんで?」
「うわ、あいつ幻術張ってやがる」
「マジかよ! そんなんアリなの?」
「いや、普通はないんだが……たぶん妖術師の魔改造かね。あと、場所がこの燎原だってのも作用してるな」
バグルルは言った。
「じゃあどうすんだ!? 攻撃箇所がわかんねーとどうにもならねーぞ!」
「俺に言われてもなあ。考えるのは苦手なんだよ。
――おいコゴネル! なんか知恵はないか!?」
「俺だってわっかんねーよ! ていうかさっきからミーチャの張ったバリアがきしんでるけど、これ相手から謎の攻撃受けてないか!?」
「さんかく~!」
と、コゴネル達。どうやら、こっちの応援ができる状態じゃなさそうだ。
(どうする?)
俺は自分の使える手を探り、
(そうだ、神託!)
「! バグルル、右上!」
「うおっ!?」
ばきぃん! と、バグルルの大剣が「なにか」をかろうじてはじき返し、
「いい加減にしやがれこの! 破幻共鳴!」
そのバグルルの一喝とともに、ごしゃあっ! と、幻が一斉に砕けて、状況が顕わになった。
「な、なんだこれ!?」
「ゴレムの一部だな! 右拳を飛ばしてきたときと同様、身体の一部を独立射出したんだ! たぶん、本物の左肩もいまは射出されてどっかの空中にある!」
まわりを飛び回る無数の石つぶて――いや、ゴレムの身体の一部を見て、バグルルが言った。
俺はそれを聞いて、また少し探り、
「コゴネル! 左上側のデカいパーツ狙えるか!?」
「なんだって!?」
「それが左肩だ! 細かい幻と原形をとどめない分裂でわかりにくくされてるが、俺の「神託」が教えてくれてる!」
「お手柄だ、ライ! 行け、サラマンダー!」
叫んで、コゴネルは火球をそのパーツに向けて飛ばす。
大爆発と、轟音のような絶叫が走った。
「やったか!?」
「いや、まだ浅い! もっと壊さないと無理だ!
けど確実にダメージは与えてる! このままたたみかけるぞ!」
「わかった……いや、待て。これは!?」
ゴレムが、身体のパーツを次々と、自分の元に戻し始めた。
一見すると防衛的行動。だが、そうじゃないと神託が告げている。
あれは……
「! 全員、伏せろ!」
俺は言葉とともに、ふたたびイェルムンガルド外殻を全力で展開。
直後。神力の塊と塊が激突する、鈍い音がした。
相手は、身体のパーツに神力を加え、それを一斉射出してきたのである。
「ぐっ、ぐぎぎぎ……」
「お、おい、小僧! 大丈夫か!?」
「俺よりコゴネル達だ! あいつらは遠かったから守れてない!」
俺の言葉にバグルルははっとして目をやり……そして、安堵のため息をついた。
「なんだよ、器用に守るじゃねえか、あいつ」
「ギリギリだったがな! ライの言葉がなきゃ即死だったよ!」
「しかく~※」
コゴネルは近くにあった岩を魔術で改造したドームに身を隠しながら、そう叫んだ。横ではミーチャが目を回している。
一安心。そう思った直後に、衝撃が来た。
「ごふっ……!?」
最初、神力の守りを突破されたのかと思ったが、違う。
バグルルの身体が吹っ飛ばされて、俺に横からたたきつけられたのだ。
(くそ、やられた! いくら近くにいるとはいえ、俺自身の身体じゃない。守りが浅かった!)
「親父!」
「へ、へっ……慣れない呼び名すんなっての。ガキがよ」
バグルルは血まみれになって倒れたまま、コゴネルに笑ってみせた。
その様子を見るに致命傷ではなさそうだが、さすがにこれ以上戦えるダメージではない。
俺はなんとか身を起こしつつ、
「コゴネル、バグルルを回収して下がれるか!? 俺が前線を支えている間に!」
「や、やってみる……! ライ、気をつけろ!」
「ああ!」
俺は言って、剣を正面に構え、
「さあ、勝負だデカブツ! このライナー・クラックフィールド様の――」
言葉の途中で。
(え?)
剣が、応えないことに気がついた。
俺の真名に応えて力を集積するはずの剣が、なぜかびくともしない。
もしかして、力を使い果たした?
ゴレムはすでに体勢を立て直している。このままだと、まずい。
(おい、どうした、おい!)
俺は剣に意識を集中する。力を、奥底からさらうような感覚。
そうして、剣閃のエネルギーをひねり出そうとした結果。
俺の意識は、ふっと途切れた。




