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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
三日目~五日目:悪党と岩巨人の姫君
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五日目(9):決戦! 岩巨人の司令官-2

「お、おい!?」


 止めようとした俺は、すさまじい神気に打たれ、瞬時に棒立ちになった。

 おそらく、その場にいた他の全員も。

 キスイが――女王クイーンの力を、本気で解放している。

 止められない。誰も。彼女に口を出すことを畏れ、みんな沈黙してしまっていた。

 そして、それは敵も同じこと。

 涙を流してひれ伏す兵士がいた。剣を放り捨ててへたり込む兵士がいた。跪き、祈りを捧げ始める兵士がいた。

 防御陣地を越えて、ゆっくりと敵に向かって歩いていく彼女を……誰も、止められなかった。


「どうやら、わたしに用があるみたいですが」


 キスイは決して大きくはない、しかしよく通る声で、言った。


「それで、どの岩巨人がわたしを殺そうというのですか?」

「くっ……こ、殺せ! こんな偽物の『生贄』に惑わされるな!」


 チリギリは叫んだが、まわりの兵士たちは動くことができない。

 キスイはふう、と息を吐いて、


「降伏しなさい。『生贄』は、岩巨人同士の争いを望みません。そしてあなたたちには、わたしを殺せない」

「ぐうっ……っ……」


 畏敬と恐怖、そして屈辱に顔をゆがめるチリギリ。だが、なにもできない。

 なにもできない……の、だが。

 違和感を覚える。


(なんだ、こいつ。まだ万策尽きたって顔じゃない。いや……)


 むしろ。なにかを狙って……?

 と、そこで。


(……ライ。ライ!)

(え?)

(俺だ。コゴネルだ! 風の魔法で声を届けてる)


 言われて視線を向けると、コゴネルは焦っているようだった。

 俺は思わず小さい声になりながら、


(なにかあったか?)

(右上見ろ。使い魔だ! 妖術師め、こういうとき用に暗殺用使い魔を同行させてやがった!)

(え? うわ、マジだ!)

(悪い、ア・キスイを頼む! この神気の中でまともに動けるのは、同格の神格を持ってるおまえだけだ!)


 言われ、俺は弾かれたように走り出した。


「ちょ、ライ!?」

「リッサ右上! できれば撃墜してくれ!」

「え、あ!?」


 どうやら気づいたらしいリッサの声を後ろに、俺はキスイへと走り、


「……え? わ!?」


 キスイが気づいて、後ろを向いたところを、とっさに押し倒した。

 直後、背中を敵使い魔の放った熱線がかすめるのを肌で感じる。


(前に聞いた通りだ。神格防御は魔術には効かない。くそ、厄介な!)

迅雷ライトニング・ボルトっ!」


 ずどん! と音がして、使い魔が雷光をまとった矢によって打ち落とされた。


(危なかった……ギリギリだったぞ)

「でやーっ!」

「おわっ!?」


 がぎぃん! と、チリギリの剣を俺の剣がかろうじて受ける。


「く、予定は狂ったがいまなら殺せる! 全員、この小娘を殺せー!」

「テメ、魔術師と組んで暗殺しようとした次はこれかよ!」

「うるさい小僧! 『生贄』の神器さえ取り戻せば莫大な報奨金と、宰相の地位が約束されているんだ! いまさら引けるか!」


 さらに小物くさい台詞を吐きながらぎりぎり押してくるおっさん。

 まわりの岩巨人たちも神秘による束縛は解けたものの、いきなりの展開についていけずに困惑している。

 キスイはみじろぎして、それからその身体を起こし、


「……やれやれ。神ごときに借りを作ってしまうとは、キスイめ。とんだ未熟者よな」

(あっ)


 やばいことが起こってしまった。

 たぶんキスイ、俺が押し倒したときにどっかを打って気を失ってしまったのだろう。そしてその結果……


「よい。よくわらわを守った、小僧。ここから先は――大巨人たる、わらわの出番だ」

「いや、やめとけって。おまえ加減とかできないだろ」

「する必要があるか?」


 にっこり、笑ってキスイ。……いや、キスイではないか。

 チリギリは展開にまったく気づいていないようで、


「いまだ! いまのうちに矢でも剣でもいい、この小娘を――」


 ばがっ、という若干間抜けな音がして、チリギリの右の地面が爆ぜた。

 およそ人がひとりは入るであろう、大きな穴。そんなものがいきなりできて、大量の土がまわりに飛び散る。

 え? という困惑した顔で、チリギリが固まった。


「む? 当たらんか。意外と照準が安定せぬな」

「おまえ……これ、イェルムンガルド外殻か?」

「うむ。防御だけではなく、物理攻撃にも転用可能であるぞ。要は、()()()敵が潰れてくれればよいのであろう?」

「ひ、ひいいいっ、化け物!」

「む、なんと不敬な! あ、こら逃げるな! 照準が定まらぬと言ったであろう!」


 逃げるチリギリを追って、キスイが走りながら次々と衝撃波を出す。が、ばこっ、ぼごっ、とまわりの地面を破壊するばかりで、当人には当たらず。

 カシルはおそるおそる、後ろから俺に声をかけてきた。


「あれはなんだ、ライナー? ア・キスイが、まるで別人のようなのだが……」

「俺も詳しくは知らないけど……キスイ曰く、『生贄』は人格を複数持つことが多いらしくてな。あれがキスイの第二人格。当人は女王クイーン本人を自称している」

「自称ではないわこのたわけっ。わらわを馬鹿にするなっ」

「あ、馬鹿、よそ見すると……」

「え? あっ」


 べしゃあっ、と、キスイが顔面から地面に激突した。

 そりゃあ、これだけ地面が荒れていたら、よそ見をしていたら足を取られるというものである。


「あ、ア・キスイ! 大丈夫ですか!?」

「きゅ~……」


 カシルが慌てて抱き起こすが、キスイは今度こそ完全に気絶してしまっていた。


「ふ、ふははははっ」


 突如として笑い声が上がったので見ると、チリギリが高笑いをしているところだった。

 その甲冑は、先ほどのキスイの攻撃の余波でボロボロ。下はパンツ丸出しの惨状だったが、当人は意に介していないようだ。


「一時はどうなるかと思ったがこれで解決! さあカシル、とどめを刺すのだ! そして『生贄』のペンダントをこちらに――」

「えいっ」


 ぽがん! と音がして、チリギリが一撃で地面に沈んだ。

 拳を振るったリッサは、


「もうしつこいと思ったから黙らせたけど……いいよね?」

「いいんじゃないか?」

「いいと思う」


 俺とカシルは間髪入れずに答えた。




 こうして。

 岩巨人の集落を騒がせた『戦争』は、その司令官が捕らえられるという形で、あっさりとした終局を迎えたのだった。

【どうでもいい余談】

 実はコゴネルが今回使ったのは声を届けるだけの魔法なので、ライの声はコゴネルに聞こえてません。

 コゴネルはライが聞こえている様子を見て推測で声を伝えているので、会話が成立しているように見えるのは完全にただの偶然です。

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