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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
三日目~五日目:悪党と岩巨人の姫君
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五日目(5):悪党、意見を述べる

「これだけあればいいんですよ。後はまあ、自分の息のかかった貴族の娘あたりに適当に『生贄』を継承させて、自分か、あるいはさらに上の黒幕あたりを指名させるんでしょう。それが誰かはわかりませんが」

「し、しかし、『生贄』の継承には儀式が必要で、先代の同意がなければ受け継ぐことはできないはずでは……」

「したことにすればいい(・・・・・・・・・・)でしょう。重要なのは『生贄』の指名を得た者が皇帝になるというルールだけです」


 あまりにもあっさりとキスイが言った言葉に、カシルは絶句した。

 横で聞いていた俺も、だいたい事情は理解できた。


「つまり相手は、キスイを暗殺(・・・・・・)してペンダントを奪い取り、それで『生贄』をねつ造するのが目的だということか?」

「暗殺でなくても構いませんよ? なんなら集落にいたものを、岩巨人かそうでないかを問わずに皆殺しにすればいい。その方が変な目撃者がいなくて後の処理が楽でしょう?」

「で、ですが! お言葉ですがア・キスイ、我々の主もいきなりの襲撃はしませんでした。私の勧めに従い、まずは少人数での御身の誘拐を――」

「なんであのとき、わたしがあなたたちとはち合わせしたと思います? あそこ、集落の中でもかなり深い位置でしたよね?」

「それは……」

「答えは簡単。もう攻められていた(・・・・・・・・・)からですよ。わたしよりも先に予知したジロロの指示で、正面入り口にバリケードを作っている最中に襲われたそうです。作りかけのバリケードのおかげでなんとか持ちこたえたようですが、危険なのでいったん奥に下がれと言われ、下がった先であなたと出会ったんです。

 つまり……あなたの認識はともかく、雇い主殿は最初からこちらを殺す気だとしか思えないんですよ」


 キスイの言葉に、カシルは下唇を噛んで、無言。

 キスイはそれを見て、ふう、と吐息してから、


「ですので、ここからはカシル、あなたに対する質問です。

 いまの事情を勘案した上で『岩巨人としての義務を果たす』という言葉を、もう一度言えますか? カシル……いえ、ヴァロックサイトの君」

「自分は……」


 カシルはためらいがちに、しかしそれでもはっきりと言った。


「自分は傭兵である以前に岩巨人です。もし『生贄』への不敬を働き、害そうとする不届きな岩巨人がいれば――『生贄』を守るために身命を賭すは、当然の使命」

「…………」

「ですが同時に『そうでなければ』別の問題です。我が雇い主への誤解があり、実際には『生贄』への敬意を欠かしていないとなれば、自分は傭兵としての契約義務を果たす必要があります」

「まあ、そうでしょうね」


 キスイは、当然のことのようにうなずいた。


「元から、無条件で和解できる相手とも思ってはいません。そしてそれはわたしにも同じことです」

「と、おっしゃいますと?」

「わたしは『生贄』ですが、それと同時にあの集落の祭り役の一人でもあります。ですから、もし帝国が『生贄』を手に入れるために、集落の民を切り捨てようとするのであれば……」


 キスイはカシルの目をはっきり見て、言った。


「わたしは、あなたの敵となる」

「……肝に銘じます」


 カシルはうなだれた。

 俺は、ややこしい話してるなこいつら、と思いながら、


「……カシルを皇帝にしちまえばいいんじゃないか?」


 さらっと言った言葉に、二人はきょとんとした。


「え、なんでです? ライさま」

「いや、なんか名門貴族だって話だったし……没落してても一応、皇帝にはなれる程度の家柄なんじゃないか?」

「いやいやいやなに言ってんだおまえ。私が皇帝になってなんの意味がある?」

「誰も納得しない」

「……はい?」

「誰も納得しないだろう。帝国を離れた『生贄』が認定する、没落した貴族の『皇帝』。誰も納得しない」

「いや、それはそうだろうが。それになんの意味が?」

「だからあ」


 俺は言った。


「岩巨人がなんで『生贄』でもめてるかって、皇帝の地位に価値があるからだろ。皇帝の地位に価値があるから、任命権を持つ『生贄』が狙われるんだ。じゃあ、その価値を暴落させれば誰も『生贄』の身柄なんて求めなくなって、それでキスイたちの問題は解決だろ」


 二人とも、あっけに取られたようだった。


「いえ、ライさま、それはそうですが……『生贄』の役割はそれだけではなくてですね」

「知ってる。でもいちばん政治的にもめてるのはそこだろ。いまの皇帝の権力を根本からひっくり返せる力を持っている――じゃあ、その力を放棄すればいい。そして放棄する最も簡単な方法は、皇帝を適当に任命しちまうことだ」

「いや、簡単に言うがな、ライナー。そもそもなんで私なんだ?」

「帝国に地盤持ってるから」

「…………」

「集落の連中は、帝国と縁を切って百五十年。いまさらそこで皇帝が任命されても帝国側は『見なかったことにする』ことができる。

 けど、カシルは帝国に実家があるんだろ。だから無視できない。誰も納得できないのに、形式的には完全に整っているんだよ。そうすると帝国側には、もう後はひとつしか道はない。――『生贄』が持つ『皇帝』の選択権を、否定せざるを得なくなる」

「……おまえ、わかっているのか? それは岩巨人族の帝国にとって、すさまじい大事件になるぞ」


 カシルはうめくように言った。


「民衆の間では、いまでも『生贄』に対する信仰は根深い。その根幹を帝国の上層部が否定してしまえば、とんでもないことになる。よくて反乱、悪くすると内戦だ。何万人死ぬかわからない大惨事になる」

「そうだな。キスイの集落と『生贄』が以降安全になる代わりに、岩巨人族全体はひどいことになる。だからカシルは皇帝になりたくないってわけだ」

「いや、なりたくないというか……」

「重要な話だから言っておくが、『カシルがなりたくない』んだよ。なる資格云々という話なら、キスイがうなずけば済む話だ」

「…………」

「で、だから次に考えるべきは、この原案をカシルに納得できるプランに修正することだ」


 俺はにやりと笑った。


「条件はすでにわかっている。カシル、おまえの望みはたしか、乱れている帝国の政治を糾したいって話だったよな?」

「そ、そうだが……」

「だからその条件をクリアしつつ、帝国の内戦を防げる案があればいいんだろ?」

「いや、だからな? そんな魔法みたいな案があるわけが……」

「たとえば、名前変えたらどうだ? 『教皇』とかどうよ」


 俺の言葉に、カシルは困惑した表情になった。


「いや、どうよと言われても……」

「つまりな、いま皇帝がいるのに、皇帝がもう一人できるから問題が起こるんだろ。だから制度を変える。皇帝は世俗の政治を束ねる。そして『生贄』が選んだ『教皇』は信仰の世界を束ねる。そして最後に、『教皇』は皇帝が道を違えない限り、世俗の政治に干渉しない」

「……それで、どうなる?」

「まず第一に、皇帝は『生贄』からのお墨付きを回復できる」

「あ……なるほど」


 キスイがつぶやいた。


「たしかに。この体制を敷いた時点で、『生贄』は現皇帝を追認した(・・・・)ことになりますね」

「そう。そして第二に、『教皇』は皇帝のやり過ぎに対する牽制装置(・・・・)になる。つまり、『おまえらがあまりにひどかったら権力取り上げるぞ』という形で、首輪をつけられる」

「なるほど……そんな手があるんですね」

「あの、ア・キスイ。なんだか普通に説得されているようですが、これ、かなりの綱渡り案ですよ? わかってますか?」

「わかってますよ、カシル」


 キスイは言って、カシルに向き直った。


「でも、あなたもわかってますよね? 綱渡りということは、渡りきれる可能性(・・・・・・・・)があるってことです」

「いや、それはそうですが……一歩間違えれば大戦争ですよ?」

「はい。だからただちにこの案を採用しよう、とは言いません。

 ですが、面白いです――ライさまの案は、面白い」


 キスイは言って、小さく笑った。


「実際のところ、我々は岩巨人の常識に囚われすぎて、見落としているところがあるのかもしれない――そんな可能性を感じました。

 特に、皇帝の任命権を無価値化できるならば、『生贄』を帝国が狙う理由がなくなるというのは、面白い視点です。ですよね、カシル?」

「……まあ、そこは同意します」

「案外、もし再び岩巨人族が『生贄』を受け入れる余地があるとすれば、その道が最善なのかもしれませんよ。検討に値すると、わたしは思います」


 キスイはあごに手を当ててそう言って、それからふと我に返ったように、


「ところで、もうだいぶ歩きましたけれど。竜母さまの住まいはまだでしょうか?」

「いや、俺に聞かれてもな。そもそもこのあたりにいちばん詳しいのって、キスイじゃないのか?」

「わたしもしょせんは祭り役ですから……竜母さまとの面識もありませんし。ジロロがいてくれればなんとかなったんですけど」

「二人とも、少し静かに」


 カシルの言葉に、俺たち二人はぴたりと言葉を止めた。

 カシルは油断なくあたりを見渡すと、数歩前に進み、


「えいっ」

「あいたっ!?」


 蹴っ飛ばした岩が、くぐもった叫び声を上げた。

 いや、岩ではない。

 見た目はトカゲ……? いや、あわてて立ち上がったところを見ると、二足歩行する生物のようだ。砂小人、あるいは爬虫人とか呼ばれる種族がこんな外見だという噂は聞いたことがあるが……そちらの体色は緑色だと聞いていたので、こいつは別種族だろう。


「あ、あわわわわ……」

「やはり擬態か。貴様、何者だ? 先ほどから我々の会話を盗み聞きしていたな?」


 カシルに剣を向けられ、その生き物はひぃ、と悲鳴を上げた。

 一方のキスイは少し首をかしげて、


「いえ、ちょっと待ってくださいカシル。この方は……」

「あ、あああああなたはもしやご高名な大巨人さまでは!? お願いします助けて怖い!」

「え、わわわ!?」


 情けない言葉を吐きながらにじりよってくる生き物に、キスイはあわてて俺の後ろに逃げた。

 俺は、よくわからない、という顔をしながら、


「で、結局こいつなんなの?」

「えっと、たぶん……竜母さまです」

「は?」


 言われて俺は、その謎生物をまじまじと見た。

 謎生物の方は俺を見て、ひぃ、とまた叫ぶと、


「こここ、この神格パターンはまさかバルメイス神!? ひいいい殺される! 助けて!」

「あー、待て待て。とりあえず最初の疑問に答えろ。おまえ、竜母なの?」


 言われて、謎生物はこくん、とうなずいた。


「は、はい……一応竜母ですけど、あの……もしかしてバルメイス神、ご記憶がないので?」

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