三日目(5):悪党、姫と話す
そんなこんなで気がついたら部屋だった。
(圧倒されてしまった……)
いや、自分でもなにに気圧されたのか、よく理解してないのだが。とにかくすごかった。
呆然としているあいだにあれよあれよと案内され、泊まるべき客人の部屋に案内されてしまった次第である。
窓付きの上等な部屋だ。
この集落がどういう構造かは未だわかっていないが、太陽の光が入る窓がある部屋というのは、特別なものなのだろうということくらいは予想できる。
(神扱いってことなのか……居心地悪いなあ)
自分の功績でもないもので特別扱いされるのは、なんともむずがゆい。
とりあえず、剣だけを壁に立てかける。俺の荷物でかさばるものと言ったらいまはこれだけ。そして、集落を歩き回るのに帯剣しているのは、いろいろとまずそうだ。
「よし!」
というわけで、俺は集落を見学するべく、部屋を後にした。
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そして、迷いました。
「どこだよ、ここ……」
考えてみれば当たり前のことなのだが、人間である俺は、洞窟を歩き慣れてない。
そして、土地勘もない。そうなると迷って当然ではある。
幸い、洞窟の大半では淡く光る苔がそこかしこにあって、明かりには困らないのだが。いま自分がどこにいるかを知るのには、役に立ちそうもない。
まあ、岩巨人を見つけたら聞くしかないかなあと思いつつ、洞窟をてくてく歩く。
たとえ誰も見ていなかろうとも弱みを見せるな、というのがクラックフィールド家の家訓である。いまの俺の姿は、迷っているとはまったく想像できない堂々とした歩みに見えるだろう。
……そんなんだから救助されないのでは、という疑問は、この際見なかったことにしておく。
と、開けた場所に出た。
「ここは他よりも明るいんだな……」
「誰です?」
「ん?」
声に振り向くと、そこには、見知った……といっても、さっき見たばかりの、彼女がいた。
えーっと……名前は……
「ア・キスイ。だったっけ? たしか」
「あはは。キスイでいいですよ。「ア」は、岩巨人族が『生贄』に対して用いる尊称ですから。
あなたは、ライナー・クラックフィールドさま……ですよね?」
「ライでいいぞ。それで通ってる。
……ていうか、その名前はどこで知ったの?」
「神託による未来予知で、あらかじめ聞くであろう名をたぐり寄せたんです」
「そんなことができるのか。すごいな」
「いえ、たぶんライさまもできるんじゃないでしょうか? 慣れの問題だと思いますけど……」
ちょっと戸惑ったように、キスイ。どうやら、予想外の反応をしてしまったらしい。
「キスイはそういうの、慣れてるのか?」
「はい。集落に現れる大きな災いを予知するのも、わたしの仕事ですから。
ライさまには、そういった仕事はないんですか?」
「期待してもらって申し訳ないが、俺がバルメイスの剣を抜いたのはたったの二日前だからな。いまのところ、隊商の護衛くらいしかしてないよ」
「そうだったんですか」
目を丸くして、キスイ。
「神力がずいぶんとこなれているように見えたから、てっきりベテランの方かと思いましたが。適性があったってことなんでしょうか」
「俺にはよくわからん。そもそも、神力とやらを感じることもできないし」
「二日しか経験がなかったらそうですよね、普通。
なるほど……でしたらライさま、どうぞ奥に。簡単ですけど、わたしがその力の使い方を少しだけお教えします」
「いいのか? いや、迷い込んだのはこちらだけど、ここって部外秘の場所だったりするんじゃ……?」
俺は周りを見渡しながら、少しだけ遠慮気味に言った。
なにしろ、その広間には、ものすごい雄大な壁画がいくつも描かれているのだ。
明らかに、さっきまでいた場所とは違ってなにかを祀るための施設。俺は場違いだ。
だが、キスイはにっこり笑って、言った。
「大丈夫でしょう。わたしの客人に文句を言う人は、この集落にはいません」
「…………」
意外と強権的だな、この子。




