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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
一日目:悪党と抜けない剣
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一日目(2):悪党、行き倒れる

(…………)


 よし、無視しよう。ていうか、隠れよう。

 なんか倒れてるのを見られて声をかけられるのも面倒だ。俺は街道の隅から森の方へ隠れようとして、


「って、うわあ!?」


 森から飛び出てきた、謎の獣にのしかかられた。


「うおおおお、テメエこの俺に不意打ちとはいい度胸、って、なんか臭っ!?」


 じたじたと、野生のなんかよくわからん獣と格闘する俺。


(く、くそっ。ここんとこなにも食ってないから力が……!)

迅雷(ライトニング・ボルト)!」


 ばしゅうう! となにか焦げ臭いものが獣の上を横切り、獣はあわてて俺から離れ、森へと逃げていった。

 見ると、さっきの神殿勤めご一行の女が、小さな弓を構えている。たぶんあそこから、雷撃の加護が付加された矢を放ったのだろう。

 ……結局見つかってしまった。くそ。


「大丈夫!? キミ、怪我はない!?」

「ああ、まあうん。じゃ、俺はこれで」

「いや、森の方に行かないでよ! またさっきみたいな獣に襲われたらどうするの!?」

「はっはっは。その状態で森は自殺行為ですなあ。街道を外れれば、そこは狼を初めとした野生動物の根城です。先ほどのようなキツネに襲われて悲鳴を上げているようではとてもとても」

「うるせえ。ああもう、だから関わりたくなかったのに……」


 筋肉ダルマの言葉に、俺は渋面で返した。

 矢を撃ったとおぼしき女が、俺のそばまでやってきて言った。


「こんなところでなにをしてたの? キミ」

「見りゃわかるだろ。行き倒れだ」

「近くの街まで送ろうか?」

「いらん。神殿は嫌いだ。あっちいけ」

「なんで!?」


 ショックを受けたように言う女。

 と、横から口ひげが、


「どうせ犯罪者でしょう。関わるのはやめておきましょう」


 と言った。

 女は振り返って、


「サフィートさん、そういう決めつけはよくないですよ」

「合理的な推理です。そも、このあたりでは街と街の間の距離も近く、通行も容易で、旅人が行き倒れるほど離れておりません。にもかかわらず倒れているというのは街を追放されたか、あるいは官憲から逃げたか。そんなところでしょう」

「言ってくれるな。事情も知らないくせに」


 俺は頭をさすりながら、言った。


「なんだ。反論があるなら事情を言ってみろ、小僧」

「成金の家に忍び込んだらそいつが飼ってた魔物数十体に襲われて、逃げるために街を出ざるを得なくなった」

「はっはっは。斬新な言い訳だ……言い訳?」


 途中から口ひげの声は疑問符を帯びたが、そこに横からぬっと手が出てきて俺はえり首を掴まれた。


「まあいいから回収しましょう。行きがかり上、ここで狼の餌にするわけにもいきますまい」

「ちょ、おい! テメエ離せこの、オラ!」

「はっはっは。手前はこれでも鍛えておりまして、そんな小さくて飢えた身体の攻撃ではまったく効きませ、ぐはっ!?」


 笑いながら片腕で俺をつり上げていた筋肉ダルマがのけぞった。どうも偶然、いいところに俺の足が当たったっぽい。

 そして、するりとその手から俺の身体が離れて、


(あ、やば。受け身、取れな――)

「危ないっ!」


 女の声。そして。

 ぽすっ。

 という音と共に、俺の視界が真っ暗になり、頭がやわらかいものに包まれた。


「お?」

「え?」


 すとん、とその拍子にうまいこと足から着地する俺の身体。

 どうやら、女の方に落ちる身体を受け止めてもらったらしい。

 それはいいんだけど。


(なんか、こう、うん……)


 この弾力性があってそれでいて柔らかい、頭を包む特徴的な感触は……

 俺は恐る恐る、自分の顔を埋めていた場所から少し上げて、上を見た。

 ぶるぶるぶる、と怒りらしきもので震えながら、笑顔で拳を固めている女がそこにいた。

 俺はこれからの自分の運命を密かに覚悟しながら、


「前から思ってたんだけどさ。

 いわゆるこういうラッキースケベ案件って、その後の境遇を考えるとカケラもラッキーじゃねえよな?」

「いいからとっととボクの胸から顔を離せ馬鹿あああーーーーーーーー!」

「ぐはあああああーーーーーーーーーーっ!?」


 叫び声と共に俺は腹に衝撃を受けて、身体をくの字に折って吹き飛ばされた。



--------------------



「……とりあえず、どうします?」


 完全に気絶して倒れた小僧を見下ろして、ポエニデッタ神官が言った。

 口ひげの男、サフィートはひげをいじりながら、


「私の意見は述べた通りです。どうせこの小僧は犯罪者ですし、放っておきましょう。魔物がなんとか言ってましたがたぶん聞き間違いです」

「ふむ、そう言いますがなパリーメイジ神官補。これで彼を見捨ててしまって、後でその話が彼から市井に拡散したりでもすれば、神殿の威信に関わる大問題になりかねませんぞ?」

「……この場で小僧にとどめを刺して埋めるというのは?」

「わはは、それではこちらが犯罪者ですなあ!」


 筋肉ムキムキの男、スタージン神官はそう言って陽気に笑った。


(……やはり、この男は苦手だ)


 サフィートは思った。神官として不適切な言動をほのめかしつつ、実際には倫理的な一線をきっちり守る。

 つまりは出世できないタイプである。そしてそれはもう一人もそうだった。


「ポエニデッタ神官はどうお考えで?」

「うーん……どうしましょう。見た目からしてまだ子供ですし置いていくのはちょっと……けど、連れていくにしても、中途半端に放り出すわけにも行きませんよね」


 女、ポエニデッタ神官はそう言って、サフィートの方を見た。


「サフィートさん、なにかいい知恵はないですか?」

「……そうですな」


 サフィートは考えた。小娘に見えても相手は神官である。であれば無碍にはできない。そう、出世して追い抜いてしまうまでは。


「追い抜いてしまいさえすれば……ふふふ」

「サフィートさん?」

「おっと失礼。では途中で追い越した隊商がいたでしょう。彼らに預けてはいかがでしょうか」

「あ、なるほど! さすがはサフィートさんですね!」

「方針が決まりましたな。では、手前が彼を抱えましょう」


 言ってスタージン神官は、小僧の身体をひょいっと抱え上げた。

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