レバニラ
お題
・漫画
・土
・バニラ
我が家の猫の名はレバニラという。丸々と太った毛並み艶やかで健康なオス猫である。色は白。来た日の夕食がレバニラだったからという大雑把で愛のない理由から名付けられた。バニラアイスクリームみたいな色だからバニラにしようと言った私の主張はあっさりと退けられてしまった。
みんながレバニラ、レバニラと呼ぶのですっかりそれが自分の名前だと覚えてしまって私が一人反抗してバニラと呼んでも微塵も反応しない。というかやつは私のことが嫌いな節がある。げせぬ。間違いなく一番かわいがってやったのは私だというのに。一番撫でてやったし餌を与えていたのも私だし、母の掃除機やらに追い立てられて逃げ出してきたときには部屋に退避させてやった。のになぜいまとなっては私が撫でようと近づくてツンと顔を振って視線を逸らし指の触れる前にそっと逃げ出すのか。あれだろうか、犬は自分に甲斐甲斐しい人間を自分より下の階級だと思い見下すそうだが、猫版のそんな感じだろうか。かなしい。
母や兄の部屋ではぴしっとしているくせに私の部屋では読みかけの漫画に粗相すること数知れず。おかげで私は新刊の漫画を買わなくなりすっかり捨ててもよい古本ばかりを買い集めるようになってしまった。しかし旧作の漫画もよいものだった。
パソコンの前に居座りべちんとシャットアウトボタンを長押しし電源を落とすこと数知れず。読みかけの5ちゃんねるまとめの不倫や厄介な人物がしっぺ返しを食らっているのがオチを読む前に何度も吹き飛ばされた。まあ他人がざまぁされてるのを眺めて喜ぶのはあまり趣味のいいこととは言えないだろうか。
私が起きるのが少しでも遅ければ「しゃあ」と噛みついて餌を強請る。そのせいで私の腕には歯型が絶えず、そのうち噛みつかれるのを恐れて妙に早起きになり、無遅刻無欠席で皆勤賞を頂戴してしまった。
なぜそんなに私が嫌いなのだと問いかけても尻尾でぺしんとはたくばかりでろくに返事をしない。それなら私も嫌いになってやると決めたはいいが、相手は猫である、かわいい。無理だ。嫌えん。かわいい。ずるい。
やつは丸々と太った健康な猫であり、晩年までよく動いていたのだが所詮は猫である。
どんなに長生きしたとしても寿命は二十年といったところ。
私が十歳の頃に我が家にやってきたレバニラだが、ある日突然姿が見えなくなって飯時になっても現れずに我が一家はテレビの裏から庭先、家の軒下に至るまで埃塗れ土まみれになって探し回った。ついぞレバニラは見つからなかった。そのうち帰ってくるだろうという結論になりそれを待つことに決めたのだが、ふとなにか虫の知らせのような予感があって私は吊り下げてあったバッグを開けた。レバニラはそこにいた。もう体温は残っていなかった。つやつやもふかふかもしていなかった。
さてはて、いつのまにそんなところに入ったのやら。むろん、貴様の気づかんうちにだ、とレバニラが若干馬鹿にしながら尻尾を振って応えた気がした。勿論気がしただけであった。
母に発見を報告すると「ああ、やっぱり最後はあんたの傍にしたんやね」と哀し気な微笑みを浮かべてレバニラの身体を撫でた。
私もレバニラの冷えた体を撫でてやった。
書いたはいいけれどあまりお題に沿っていなかったので同じお題でもう一作書きます。