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大脱出!

 ドタドタドタドタッ!


「マズイよアイリ、警備隊が来る!」

「落ち着いて。ちゃんと考えてあるから。サモン・ゴブリン」


 シュシュシュシューーーン!


 名前:ゴブリン

 階級:Fランク

 種族:人型魔物

 備考:魔物の中でもポピュラーな部類に入る。単体だと弱いが、集団で襲いかかる事が多いので注意が必要。


「……え、な、なにこのバケモノは?」

「私が召喚した魔物よ」

「魔物ぉ!? しかも10体以上も!」


 普通のダンジョンマスターとは違う私は自身が持っているスマホを使用することにより、ダンジョン以外でも魔物の召喚を行えるのよ。

 なぜスマホを持っているかは秘密ね。美少女には秘密が多いの――って、やってる場合じゃない。


「うわぁ! バ、バケモノ!?」

「なななな、なんだコイツらは!?」


 駆けつけた警備隊が腰を抜かして驚いている。


「アンタらの遊び相手よ。じゃあごゆっくり~♪」


 気が動転しているリズィの手を引き、素早く部屋を出た。直後に恐怖で染まった叫び声が聴こえてくる。うん、楽しんでくれてるようで何より。


「ね、ねぇ、アイリってホントに何者なの? 絶対に普通の人間じゃないよね?」

「普通じゃないけど、どこにでもいる一般的な人間よ」

「いないよ! 絶対にいないから!」

「ここにいるじゃない」

「それがおかしいんだってば!」

「そんなことよりマシェリーよ。アイツも助けるから場所の誘導をお願いね」


 辛うじて正気を保っているリズィに案内させ、マシェリーを救出しに向かう。

 召喚したゴブリンが上手く引き付けているらしく、監禁場所に着くまでに出くわした敵はたったの2人。もちろん素早く斬り捨ててやったわ。


「あの部屋にマシェリーが居るよ。だけど見張りが――」

「ファイヤーボール!」


 ボムッ!


「ゲハッ!」

「倒せば問題ないでしょ?」

「うん、まぁ……はい」


 部屋の前にいた見張りを燃やし、ロックされているゲートの前で剣を構えると……


「フン!」


 ズバズバッ!

 


 ズズズズ…………スパァ…………


「も、もぅマジでヤバくない? ゲートを真っ二つにしちゃうとか、最早ゲートの意味がないじゃん……」

「意味はないわね。私にとっては。それよりマシェリーは――――ん?」


 確かにマシェリーはいた。但し、部屋の真ん中でへたり込み、宙を見上げてボーッとしてる状態で。


「ゴメンねマシェリー、ウッチのせいで巻き込んじゃって! アイリが助けに来てくれたからもう大丈夫だよ。ほら、早く立って――」



「もういい……」

「マ、マシェリー?」

「もういいのですわ……」

「いいって、いったい何が――」


 バシッ!


「もう放っておいてくださいまし!」


 リズィの差し出した手がおもいっきり払いのけられる。


「平民ごときの施しなど、絶対に受けませんわ!」

「アンタね、こんな時にまでイキった真似して何になるのよ。平民だろうが何だろうが助かるなら万々歳でしょ!」

「だったら貴女たちだけ助かればよろしいのですわ! もうわたくしに構わないでくださいまし!」


 あ~~~もぅ、こうなったら無理やり連れてこうか? だけど機体の中で暴れ出したら、そっちのが危険よね。


「やっぱりウッチの事を怒ってるからだよね……」

「どうだろ? 何か違うっぽい気もするけど」

「元はウッチの責任だし、もう一度説得してみるよ」


 意を決したリズィが再びマシェリーに近付く。


「あ、あのねマシェリー。共和国の奴に脅されたとはいえ、マシェリーを騙して連れてきたのは謝るよ、本当にごめんなさい。これは完全にウッチのせい。土下座でも何でもするから一緒に帰ろ?」

「……はぁ。今さらそんな事は気にしてませんわ」

「……え?」


 意外にも拉致された事は怒ってないらしい。


「わたくしが許せないのは自分自身ですの。アイリに復讐することで頭をいっぱいにした自分にも責任がある。そうでしょう?」


 付け入る隙を与えたという理由ならその通りね。まさかマシェリーの口から飛び出すとは思わなかったけれど。


「これは罰なのですわ。だから――」

「いや、だからって逃げない理由にはならないでしょ。取り巻きの2人も必死こいて捜してたわよ? 今ごろ艦星じゃ大騒ぎになってるだろうし、罰を受けるなら艦星で受けなさいよ。始末書なら一緒に書いてあげるから」

「…………」


 スクッ!


 黙って聞いていたマシェリーが(おもむろ)に立ち上がる。


「なんだか意固地になってるのがバカらしくなってきましたわ。敵に捕らわれる事の比較対象が始末書とはなかなか斬新でしてよ」

「……バカにしてんの?」

「これでも褒めたつもりでしたが」

「その台詞、模擬戦の時にも聞いたわ」

「あの時と今は別でしてよ? 今回はキチンとお褒めしましたもの」


 それって模擬戦の時はバカにしてたってことなんだけど……まぁ細かい事はいいか。


「――で、立ち上がったってことは帰るってことでいいのね?」


 ギュッ!


 改めて手を差し出すと、強く握り返してきた。


「艦星までのエスコート、よろしくお願い致しますわ」

「それでいいのよ」


 でも素直に頭を下げるとは思わなかった。これまでのイキった雰囲気が無くなってるし、性格が丸くなった?


「ついでだから一つ聞きたいんだけど、どうしてイキってたわけ?」

「それは戦争で亡くなった兄の遺言に従っていたからですわ」

「「遺言?」」

「ええ。息を引き取る直前、わたくしに残した言葉がありますの」



『マシェリー、俺が死んでも全力で()()()



「――と」

「「…………」」


 マシェリー、多分だけどそれ、おもいっきり勘違いしてる……。



★★★★★



 リズィとマシェリーを救出し、小型艦へと乗り込む。敵の船内はいまだに混乱している最中だったようで、どさくさ紛れに脱出してやったわ。


「本当にゴメン、2人とも!」

「もういいのですわ。こうして助けに来てくれたんですもの、終わり良ければ全て良しとも言いますし」

「だけど最後まで気を抜いちゃダメよ? 追手が来ないとも限らないんだし」


 跳躍によりだいぶ共和国よりの座標に来ちゃったし、ここから戻るのはちょっと面倒。


『お姉様、座標転移(ハザードワープ)を使えばよろしいのでは?』

『座標転移か……』


 この座標転移というのは、一度見た場所ならどこにでも瞬時に移動できるというスキルよ。

 但し、行きたい場所をイメージできないと上手く発動しないため、下手すると全然違う場所に飛んでしまう可能性もある。

 地上なら問題ないんだけど……


『宇宙だと似たような背景が広がってるじゃない? 星の位置とかが微妙でイメージするのが難しいのよ』

『それは盲点(もうてん)でしたね』


 セキレイの見た目も頭に入ってないし、帰ったら慣らしておこう。


『おや? 後方から急接近してくる機体がありますね』

『まさか追手? 混乱の最中に追手を差し向ける余裕があるとは思えないけれど』


 ――等と念話でやりとりしていると、何かを思い出したリズィが声を上げた。


「忘れてた! カーバー司令の元にはカーマインっていう少数精鋭の遊撃隊が居たんだ!」

「「カーマイン?」」

「対コスモエリートのために編成された遊撃隊で、4人という少数で中隊1つを圧倒するって話だよ。揃いも揃って戦闘狂(バーサーカー)らしいから、見つかる前に逃げなきゃ!」


 カーマインという遊撃隊は4人編成。追手の数は……


『接近中の機体は4機。どうやら間違いなさそうですね』

『マジか~。跳躍で巻ける?』

『それだとリズィとマシェリーが宇宙に放り出されてしまいます。小型艦とはいえ一応はダンジョンですので』


 マズった。2人は小型艦(ダンジョン)への侵入者って扱いだったんだ。何らかの対策を施さなきゃ跳躍で振り切るのは不可能。


 ピピッピピッ!


 アンノウンから通信? タイミング的にみて恐らく……


 ブゥン!


『貴様らだな? 我が同胞の船を沈めたのは』


 スクリーンに映ったのは、片目に眼帯をつけ頬に傷のある狼獣人。いかにも戦闘が好きそうな顔をしてらっしゃるわ。


「襲ったのは確かだけど、沈んだところは見てないわね。落とすつもりはなかったのに(もろ)すぎじゃない?」

『フッ、確かに脆いか。ならば貴様らに朗報だ。決して脆くはない俺たちが相手をしてやろう。輸送船相手じゃ満足せんだろう?』

「別に戦いたくて戦ってるわけじゃないのよ。アンタらカーマインと一緒にすんな」

『ほぅ? 俺たちを知ってるのか。ならば貴様らも同類。いざ、血の沸き立つ闘いを繰り広げよう』


 なぜそうなる!


『知ってるのは名前だけよ。マジで一緒にしないで!』

『ならば出会いの印に祝砲を送ろうじゃないか』

『そんなんいらないっての!』

『俺の名はヴォルフ・オードネル。貴様らの血肉でカーマインの如く染め上げてやろう。いくぞ!』


 あ~もぅ、面倒な連中に見つかっちゃったわ!


「マズイよアイリ! カーマインのリーダーは片目の狼って言われてるんだ。あの眼帯を見る限り本物だよ!」

「分かってるから落ち着いて」


 跳躍で逃げれないなら撃破するまで。

 但し、私は帰還を優先するから、代わりの相手を用意してあげよう。


「サモン・ウルフ!」


 名前:ブラックウルフ・シューター

 種族:ステルス戦闘機

 階級:Dランク

 備考:動きが素早くレーダーでも探知されにくいのが特徴。視界から突然消えるスニークアタックというスキルは、初見で見破るのは困難を極めるだろう。


「嘘ぉーーーっ!? アイリが戦闘機を呼び出した! どうやったらそんな兵装身に付けられるの!?」

「是非ともご教授願いたいですわ」

「私にしかできないから聞いても無駄よ」


 さて、このステルス戦闘機。カーマインがチート野郎でもない限り撃破は難しい。連中には精々苦労してもらおう。


『な、なんやコイツら! どっから出てきよった!?』

『マズイぞリーダー、コイツら速ぇ!』

『チッ、よく分からんが先に倒さなきゃならねぇようだな』


 かなり強いはずなのに、互角にやりあっている。眷族を召喚できれば圧倒できそうね。


「それじゃあカーマインの皆さん。生きてたらまた会いましょ」

『まて、逃げるのか貴様!』

「逃げるに決まってんでしょ。こっちはアンタらに構ってるほど暇じゃないのよ、この中二病野郎。じゃあね」


 プチュン!


 これでよし。また追ってきたら、その時は私が相手をすればいい。


「凄いよアイリ、どんどん距離を離してる。まさか跳躍なしで逃げ切るとか、ホントに常識破りよね」

「アイリのように成るにはどうしたらよいのでしょう?」

「成らない方が幸せよ」


 いずれはバケモノ扱いされるだろうしね。

 いや、そんな事より始末書よ。今さらながら帰るのが嫌になってきた……。


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