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惑星レイブン

「はぁ……ヤレヤレだな」


 目の前の状況を察した俺――モフモフは、軽く肩を竦める。召喚されて早々、赤毛の若い女が複数のガラの悪い男に囲まれてるからだ。しかも人気の無い森とくりゃやりたい放題だろうしな。


「……で、念のために聞くが、俺を()()()のはアンタだよな?」

「は、はい、そうです!」


 口には出さないが、助けを乞う面をしてるのが丸分かりだ。しかし俺1人に対して周りは6人。巻き込むのも申し訳なく思ってやがるんだろう。

 だがしかしだ。()()とはいえ、俺が召喚されたのには訳があるはず。召喚した女がピンチとなりゃ助けなきゃならねぇ。


「おいテメェ、まさかとは思うが、俺たちから獲物を横取りする気じゃねぇよなぁ?」

「ケガしたくなかったらとっとと失せな!」


 まんま台詞が三下のそれだが、わざとそうしてやがるのか? 自分から雑魚アピールとは失笑もんだ。

 どら、ちぃとばかし力の差ってもんを教えてやろうじゃねぇか。



「失せるのは――」

「あん?」



 シュン!


「テメェらだ」



 ドスドスッ!


「う"……」

「ごぉ……」


 まずは近くの2人に拳を叩き込む。俺の動きに他の4人は気付いちゃいねぇ。

 ならばと奥の奴へと飛び蹴りをかます。



 ドゴッ!


「ぶへぇ!?」

「「「!?」」」


 ここでようやく残りが気付き、何事かと俺に注意を向けた。

 つっても……



「遅ぇんだよノロマが!」



 ドスドスッ!


「「ギェッ!」」


 5人体に拳の痕をキッチリとつけやった。胴体が凹んでやがるし、しばらくは起き上がれねぇだろ。

 でもって腰を抜かした最後の1人を静かに見下ろし……


「え……ひ、ひぃ!?」

「おいおい、さっきまでの勢いはどうした? それに獲物がどうとか言ってたよなぁ? 詳しく聞かせてもらおうか」

「わ、分かってます分かってます! その女はアンタにくれて――」



 ダンッ!


「ふいぃ!?」


 見当違いな答えが飛び出たところで反射的に地面を踏みつけた。


「……獲物ってのはどういう意味だ?」

「そ、そんなん決まってるじゃねぇか。ボルドー様だよ、ボルドー様がソイツを殺せと命じたんだ。最終的に殺すなら好きにしていいってんで引き受けたのさ。ボルドー様は言うには、ソイツを殺せば()()()になれるらしいからな」


 完全体? まるで普通の人間じゃないみてぇな言い方だな。


「アンタも依頼を受けた側だろ? なら報酬を山分けでどうだ? もちろんその女はアンタにやるよ。トドメさえ刺してくれりゃそれでいいんだ」

「……山分けだぁ?」

「あ、い、いや、冗談だ! 1割、1割でいい。残りはアンタにやるからよ、な? いい話だろ?」

「フッ……」


 俺を同類扱いか。節穴もここまでくると救えねぇ。だからキッチリと教えてやることにする。



 ベギッ!


「ンンンギャァァァァァァッ! お、俺の足がぁぁぁ! な、何しやがる!?」

「あ? テメェら見てっとヘドが出んだよ。だから身の程を教えてやったんだろうが。だいたいな、テメェが取引を持ちかけれる立場だと本気で思ってやがんのかゴルァ!」


 怒鳴り散らしたが、両足を折られた激痛で聴こえてねぇなこりゃ。


「まぁいい。この女は保護するとして、テメェらはそこで寝てるんだな」

「ま、まっでぐでぇ! ごのままじゃ立ち上がれねぇじ、野盗に襲われぢまう!」

「へッ、同類だろ。仲良くしてやれ」


 尚も喚く男を尻目にその場を離れる。とりあえずは事情を聞きながら町を目指すことに。


「先ほどはお助けいただき、本当にありがとう御座います。アナタ様がいなければ私の命はなかったでしょう」

「気にするな、偶然だ。それに様付けで呼ばれるほど偉くはねぇ」

「ですが恩人には違いありません。差し支えなければお名前を伺っても?」


 そういや名乗ってなかったな。名前を聞いてゲラゲラと笑うやつのせいで、自分から名乗ることは殆どねぇんだ。

 だが様付けよりはマシかと考え……


「モフモフだ」

「はい、ありがとう御座います。モフモフさ――――え?」



「モフモフだ」

「あ、あの……モフモフ……様?」

「様はいらん。モフモフでいい」

「で、では…………モフモフさん……でいいですか?」

「……ああ」


 相手は不思議がってるが、正真正銘俺の名だ。これは主人であるアイリの姉御に付けてもらった大切な名前だからな。バカにするやつは力で黙らせてきたぜ。

 ちなみに黙らせた相手第1号は鳥頭のホークだ。


「それでアンタは……」

「あ、すみません! 自己紹介がまだでしたね。私はマゼンタ。ボルドーとは双子で妹になります」

「双子だと? さっきの奴らはボルドーに頼まれたとか言ってた気が……」

「はい。そのことですが――」


 マゼンタが言うには自身と姉は予期せず不思議な力を授ったため、それをめぐって殺し合いに――というよりも一方的に命を狙われてるらしい。

 授かったのは3年くらい前だったらしいが、脳裏に知らない女の声が響いたんだとか。

 その時の声の主は、ボルドーとマゼンタに半分ずつ力を与えるから互いに命を懸けて戦えとほざいた。ボルドーに狙われてんのはそれが原因らしい。


「血の繋がった妹を狙うたぁ酷ぇ姉だな。お前さんの味方はいねぇのか?」

「いないことはありませんが、私に肩入れすると彼らも巻き添えになります。だから敢えて遠ざけているのです」

「つってもよ、死んじまったら意味ねぇだろ。見た感じ丸腰だし、そんなんで逃げ切れるのか?」

「それは……」


 十中八九逃げれねぇな。小さなバッグを肩から下げてるが、どうせ中身は僅かな食料だろう。こんなんじゃ遠くにゃ行けねぇし、途中で力尽きるのが目に見える。


「ま、どうせ当てもなく彷徨ってる身だ。安全な場所まで護衛してやる」

「ありがとう御座います、でも本当によろしいんですか? モフモフさんのご家族さんも心配なさっているのでは……」

「なぁに、いいってことよ。家族同然の姉御たちは遥か彼方の星にいるしな」

「っ! す、すみません! 私ったら軽率な発言を!」

「?」


 何故だかすんげ~謝られた。変なこと言った覚えはないんだが。


「それより暗くなる前に森を抜けねぇとな」

「はい。あ、でも……」

「ん?」

「森を抜けたところに町があるのですが、その町はすでに姉の支配下なのです。森の方が安全な気も……」

「いやお前さん、魔物が怖くねぇのか……」


 俺が居れば大丈夫だろうが、それにしたって若い女が言う台詞じゃねぇ――なぁんて言ったらクスクスと笑われちまったぜ。


「フフフフ! 魔物って、おとぎ話に出てくるゴブリンとかですか? それなら大丈夫ですよ。ここは異世界じゃなくって現実世界なんですから、魔物よりも野犬の方が危ないです」

「そ、そうか……」


 この世界には魔物がいないらしい。マゼンタの前で人化を解くのは極力避けるか。ビビって失神されても困るしな。



 でもってその日の夜。アイテムボックスから取り出した寝袋でマゼンタが寝息を立て始めた。そう、アイテムボックスだ。

 最初は必要ないって断ったんだが心配性な姉御に強制的に付与されてな、今まで使う機会がなかったが、まさかここで役立つとは。


『ね? 有って良かったでしょ?』

『へ、へぃ……』


 姉御からの念話に情けない顔で肯定する。事実このアイテムボックスは姉御のとリンクしてて、欲しいものを伝えれば瞬時に用意してくれる優れものだ。


『それで姉御、この星――レイブンって言いましたっけ? ここは他の惑星より文明が遅れてるってマジなんで?』

『ええ、大マジよ。武装した連中も剣だったでしょ? 他じゃ拳銃が当たり前だもの』

『そ、そうっすか……』


 低文明と聞いてやる気が削がれていく。どうせなら強力な武装をした連中とやり合いたかったがな。


『あ、でもね、レイブンの王家は惑星の収入を独占してるし、強力な兵器を隠し持ってるって噂よ?』

『っしゃぁぁぁ!』


 俄然やる気が出てきたぜ!


『それからね、惑星レイブンまでかなり時間を要するから、その辺でテキトーに遊んでてちょうだい!』

『…………え』


 くれぐれも忘れられないことを願おう。


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