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……スパイ?

 こっちの世界に転移した次の日。初日の慌ただしさが嘘のようにのんびりとした雰囲気が艦内を支配していた。


 格納庫のクルーたちは談笑しながら作業してるし、広場で寛いでるコスモエリートもちらほら。聞けば昨日が異常だったらしく、前線も遥か遠くとなればこうした日々が基本なのかもしれない。


 じゃあ普段は何してるのって話になり、興味本位でみんなに聞いてみた。


「ボクたちクルーは非常時にも備えなきゃならないからね。最低限の人員を残して遊びに出たりって感じかな」

「ダニエルとポーラがお出かけしてるのね。トオルは非常要員?」

「そんなとこ。昨日の戦闘で派手にやられた機体もあるし、早めに直さなきゃオクモ司令の頭に角が生えちゃうよ。ハハハッ!」


 台詞の割には楽しそうに作業しているわね。


「トオルってこういう作業が好きだったり?」

「あ、分かるかい? 部屋に籠ってもプラモデルの作成しかやることがないし、性に合ってるんだと思う」

「それ、何となく想像できる。部屋中に完成したプラモが飾られてるんでしょ?」

「う~ん、そうでもないかな。組み立てじゃなくて()()()()()()()()()()のが趣味だから、部屋というより作業場みたいなもんだよ」


 思ったよりマニアックだった。


「もし興味があるなら遊びにおいでよ。あ、そうそう、この間放送された新しいアニメのプラモを製作中で――」


 話が長くなりそうなので、適当に切り上げよう。次はフレディアにしよっと。


「フレディアちゃんはショッピングの日なの。そろそろ新しいお洋服が欲しいし――て、別にデートとかじゃないわよ? できれば指揮官と御一緒できれば~とか考えてるわけじゃないんだからね! それから絶対に尾行とかしないこと。いいわね!?」

「はいはい」


 人差し指をギュッと突きつけてからショッピングモールへと向かっていく。まずは本音をベラベラと喋らないように努力すべきね。

 同じくベラベラと喋るリズィは……


「ウッチ? 街に出掛けて情報収集だよ~。ニューモデルのアクセサリーやバーゲンセールの情報なら任せてちょいちょい!」


 噂好きなのもあり、あちこちと走り回ってるらしい。最近まで別の艦星にいたらしいし、見るものが新鮮に写るんだとか。


「伊達にコスモエリートの情報通とは言われてないよ~」

「ふ~ん? ここに来たばかりなのに詳しいんだ?」



「う"……うん、まぁ……いろいろと……ね」


 あれ? 急に歯切れが悪くなった。


「え~と……じ、じゃあまたね~」


 なぜか逃げるように走り去るリズィ。

 まだこの艦星に馴染んでないのかな? いや、あれだけハイテンションなのを見ると無関係か。

 そこいくとアムールなんかは物静かよね。


「……ボク? 特に何も」


 そう言ってベンチに腰を下ろし、木に止まった野鳥や広場中央にある噴水を眺める。

 遠くには他のコスモエリートだって居るのに、1人で寂しくないんだろうか?


「いつも1人なの?」

「……1人で居るのは他の人に迷惑をかけないようにするため」

「迷惑って、まさか居るだけで迷惑になるわけじゃ――」

「その子の言うことは本当ですわよ」


 会話に交ざってきたお嬢様口調。振り向くと、赤髪をツインテールにしたコスモエリートのマシェリーが、取り巻き二人を連れて近付いてくるところだった。


「マシェリーだったわね? それはどういう意味なの?」

「スパイが紛れ込んでいる可能性があると、スパロウ帝国本星から通達されているからですわ」

「……スパイ?」

「そう、スパイですわ。コスモエリートの中に紛れている可能性があると通達されていたのですわ。それが2週間ほど前で、アムール達がやって来たのがつい先週。つまり、アムールにはスパイ容疑がかけられているのですわ」


 なるほどね。スパイだと疑われてるだけに、他人との接触は迷惑がかかると。


「そして私も容疑者と……」

「ええ、昨日までは」

「――というと?」

「あわや艦星陥落という窮地(きゅうち)をスパイが救うはずありませんもの。言わば貴女は実力で潔白を証明したのですわ」


 知らぬ間にスパイ容疑をかけられ、知らぬ間に晴れていたらしい。


「まぁ私のことはいいとして、アムールがスパイと決まったわけじゃないでしょ? さっき自分で言ってたじゃない。アムール()が先週やって来たって」

「はぁ……戦闘は強くても頭はよろしくないのですわね……」


 イラッ!


 初対面のフレディアといいコイツといい、どうしてツインテールには生意気なのが多いんだろう。


「じゃあ頭のいいマシェリー、是非とも教えてちょうだい」

「簡単なことですわ。先週やって来たのはリズィとアムール、そして貴女を合わせれば3人だけ。通達された予測スパイは1人のみ。リズィとアイリは人間でアムールだけが獣人。敵対しているワーテール共和国には獣人が多い。ここまで話せば理解できるのではなくて?」


 何かあるのかと思ったら、実に単純な理由だった。


「下らない考察をどうも。聞くだけ時間の無駄だったわ」

「クッ……わたくしをバカにしているので?」

「バカにはしないけど、単純すぎる考えは視野を狭めるわよ。だいいち新しく来た人がそうだと断定できないし、マシェリー自身がスパイじゃないと言い切れる?」

「ぐぅぅ、新人のくせに生意気な……。いいでしょう、そこまで言うなら好きになさいな。精々アムールに寝首を掻かれないよう注意することですわね。ではごきげんよう」


 ふぅ、うるさいのが居なくなったか。


「気にすることないわよアムール」

「……うん、ボクは大丈夫。それよりアイリもボクと一緒に居るのは避けた方がいい」

「どうして?」

「ど、どうしててって……」

「境遇からスパイだと疑う者もいれば、そんなことを気にしない者もいる。私は後者。それでいいじゃない」

「……そう」


 俯いて黙り込むアムール。けれど猫耳だけはヒョコヒョコと動いていて、少なからず喜んでいるのが分かる。


「少なくとも私は信じてあげるから、困ったことがあったら相談しに来なさい」

「……うん、ありがとう」


 これでよし。仲間のケアはしてあげなくちゃね。

 それにしても……


「スパイか……」


 アムールからは後ろめたさは感じられなかったし、スパイの可能性はかなり低い。

 でもコスモエリート全員を調べたわけじゃないし、探索がてら探ってみよう。



★★★★★



 場所は変わって再び格納庫。さすがにアイカのメンテは他人任せにできないし。


『ほう、スパイですか』

『取り越し苦労ならいいんだけどね。せっかく楽しんでるところに水を差されたくないし、少しずつ探ってくつもりよ』

『わたくしの方でも探れればよかったのでしょうが、生憎と端末からの情報収集しかできそうにありません。スパイの方はお姉様にお任せします』

『ええ。任せといて』


 その代わりアイカにはDPを使って小型艦のチューンナップをしてもらおう。

 何せ私が搭乗する小型艦がダンジョンそのものと化してるから、チューンナップが進めばいずれ艦星規模の大きさにできるはず。

 うん、今から楽しみだわ。


『ところで眷族の召喚はできそう?』

『まだ無理ですね。何度確認しても魔力(マナ)不足だと警告されます。最悪は召喚できない可能性も視野に入れてください』

『そう……』


 普通の魔物ならともかく、眷族まで戦艦に改良する気にはなれない。こっちはしばらく様子見ね。


「あら、こんなところに居ましたの」

「その声は……マシェリー?」


 さっき会ったばかりなのに、ま~た赤髪ツインテールが出てきたわ。付属品の取り巻き二人もいるし。


「さすがにおバカでも、名前を覚えられる程度の頭はお持ちでしたか」


 イラッ!


「いちいち挑発しないと気が済まないわけ?」

「これでも褒めたつもりでしたが」

「どこがよ! いい加減にしないとハッ倒すわよ!?」

「あら嫌だ。これだから野蛮な平民は嫌なのですわ。なんでも暴力で解決しようとするその姿勢、反面教師にピッタリですわね」


 ……チッ、確かに一理あるか。けれど挑発されっぱなしなのは気に食わない。


「……で、私に何か用? これから戦闘訓練なんだけど、相手になってくれるとか?」

「まさか。わたくしは自分の専用機の様子を見にきただけで、貴女の手伝いをする義理はありませんもの」

「ふ~ん……」



「怖いのね」

「…………」ピクッ!


 ウッシッシ、効いてる効いてる。


「な、何を言うかと思えばそのような――」

「ま、仕方ないわよね~。新人に負かされたとあっちゃ、メンツ丸潰れだものね~」

「…………」フルフルフル


 両手が小刻みに震えている。もうひと押しね。


「逃げるんなら仕方ないわ。()()に用はないからさっさとどっか行って」

「クッ、言わせておけば!」


 よし、挑発成功。


「いいでしょう。そこまで言うのなら相手になって差し上げますわ!」

「そうこなくっちゃ。こっちは私1人でいいから、そっちは3人でいいわよ。設定もお任せするわ」

「言いましたわね? あとで取り消そうとしても応じませんわよ?」

「構わないわ。どうせ私が勝つし」

「口の減らない……。――ほら貴女たち、ボサッとしてないでさっさと搭乗なさい!」

「「は、はい!」」


 まだ完璧に操縦できるわけじゃないし、こうしたトレーニングは今後も必要になってくる。

 特に今回は本気でかかってくるだろうから、私的にはありがたい。


『わたくしたちの準備はよろしくてよ』

「こっちもいいわよ。じゃあシミュレーション――」



『「スタート!」』


 さ、あの生意気な赤髪ツインテールの鼻っ柱をへし折ってやろ。


『今回のステージは豪雪地帯が多い惑星パトラッシュですわ。一年の大半が吹雪いているため、視界がかなり悪くてよ』


 シミュレーションとはいえ地上を見るのは久々ね。宇宙とは違って重力が加わるから、感覚をそっちに戻さなきゃだわ。


 バスバスバスバスッ!


「くっ、突然ビームライフルが!?」

『あらあら、随分と痛そうですこと』

「アンタがやったのよアンタが!」

『いいえ、わたくしはまだ手出ししておりませんわよ?』


 ――ってことは、取り巻きのどちらかね。

 反撃と行きたいけれど崩れた家屋が点在してるだけで、姿はどこにも見えない。加えて吹雪きの中だし、余計に見つけ難いわ。


 バスバスバスバスッ!


「くっ、またなの!?」

『ほら、早く反撃してごらんなさいな。何もしてこなければ退屈でしてよ』

「……チッ」


 仕方ない。見えないのならあぶり出すまで!


「ファイヤーストーム!」


 付近をテキトーに燃やしてみたものの、手応えもなく敵影もない。どうやら近くにはいないらしい。


『おかしいですお姉様。わたくしの方でも探っているのですが、反応がまったくありません』

『反応がない?』

『はい。まるで我々しか存在しないかのようにも感じます』


 言われてみればそんな気もする。

 被弾した時も思ったけれど、何もない場所から突然銃撃されたように感じたのよ。

 あ、まさかマシェリーのやつ!


『アイカ、シュミレーターをハッキングできる?』

『できなくはありませんが――――ああ、()()()()()()ですか!』

『ええ、()()()()()()なんだと思う』


 シュミレーションの設定はマシェリーに丸投げしたから、()()()()()()()()()にもできるはず。いわゆるチート設定にしてるに違いない。


『ハッキングに成功しました。お姉様の睨んだ通り、マシェリーたちの機体はこの場に存在してません』


 やっぱり!


『しかもゼロ距離での攻撃が可能な設定のため、いつでも被弾し放題って感じですね。すぐに変更しますので、しばしお待ちを』


 バスバスバスバスッ!


「クッ――しまった!」

『フフ、無様ですわね。わたくしをバカにした報いですわ。おとなしく降参するのなら許してあげても宜しくてよ?』

「フン、するわけないでしょ」

『ならば仕方ありません。そろそろフィナーレと行きましょうか』


 シュシュシューーーン!


『あ、あら?』

『え……嘘!?』

『そんな、機体が勝手に!?』


 マシェリーと取り巻きの機体が目の前に現れた。アイカが上手くやってくれたみたいね。


「さて、覚悟はいいかしら?」

『クッ、よく分かりませんが撃破すればわたくしの勝ち。――落ちなさい!』


 ゼロ距離で現れる大量の小型ミサイル。でもそのくらいは予測済みよ!


「ルーンガード!」


 ピターーーッ!


『そ、そんな! ミサイルが固まってる!?』


 この特殊障壁に触れた飛び道具は、少しの間動きが止まるのよ。その間に楽々回避可能ってわけ。


「これで終わりよ――フレイムボム!」


 ドッッッゴォォォォォォン!


『『『キャーーーーーーッ!』』』

『戦闘終了。勝者アイリ!』


 よし、悪は滅びた。これで少しは懲りたでしょ。


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