進化のレオポルド
「ねぇマスター、森ごと焼き払っちゃダメなわけぇ?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「めんどくさいわねぇ……」
足元に広がる森を見下ろし物騒なことを言うDO。ネ子ちゃんたちが危険な上に猫族まで被害を被るじゃない。
「頼むから焼き払うのは襲ってきた相手だけにしてちょうだい」
「それだと派手さが足りないのよ。もっと華々しく散るところを見たいじゃな~い?」
「いや、見たくないし」
「まったまた~。可愛い顔してあたしより過激なん・だ・か・ら♪」
「……私が狂暴だと言いたいわけ?」
チャキン!
「ちょちょちょちょちょっとちょっとぉ、そんなこと一言も言ってないじゃない。心臓に悪いから剣はしまって~」
「……ったく、可愛い顔はいいとして、過激は誤解しちゃうから気をつけなさいよ」
「は~い(過激なのは事実よねぇ……)」
狂暴説が流れ始めたら住民たちが不安になるじゃない。ただでさえセレンの年齢地雷が広まりつつあるのに、これ以上の不安要素を増やすわけにはいかない。
「そんなことより出現ポイントはもうすぐよ。注意して」
「例の触手が出たって場所? 拘束するのはいいけど、されるのは趣味じゃないわねぇ」
「私だって御免よ」
シュルルルルル!
「来た!」
報告通り、木の枝が足元から迫ってきた。試しに斬り落とすと、斬った先から再び生えてくる。掴まれないように高度を上げ、改めてDOに指示を出すことに。
「何よこれ、気持ち悪いわねぇ!」
「それは同感。だからDO、小範囲で焼き払っちゃって」
「そう? じゃあやっちゃうわね~」
私の攻撃許可に舌なめずりをしたDOが小型の槍を召喚し、尚も迫っていた枝に向けて落とし始めた。
シュシュシュシュ――――ドォォォン!
6つの槍が枝を裂き、その先にあるであろう元凶へと到達。森の一部に円形脱毛症が表れる。
「こんなものかしら?」
「うん、上出来」
「あたしに感謝してよね。GAだったらぜ~んぶ焼き払っちゃうんだから」
いやいや、アンタも同じことしようとしてたわよね? だからこそ小範囲でって指示したんだし。
「はいはい。感謝してあげるから調査しに行くわよ」
「は~い」
地上に降りると、焼け落ちた奇妙な巨木が目に止まる。
何が奇妙かというと、幹のあちこちが不自然に膨らんでるのよ。いったい何が――
「うげぇ、何よこれ……」
「動物の死体――かしら?」
中にあったのは、肉が溶かされ骨が見えている死体だった。多分この植物に吸収されたのね。
そう考えるとゾッとする。一歩間違えばフロッソも同じ目にあってた可能性が高いもの。
「あら、こっちの死体は比較的新しいわ。しかもこれ、獣人のやつじゃない」
「獣人――ってことは……」
猫獣人か犬獣人のものだわ。こんな危険な植物がいる場所に猫族が生活している? これは少々考えにくい。突然変異じゃないなら意図的に出現させられた? どうにもよく分からないし、これ以上の収穫はなさそうね。
「マスター、こっちに足跡があるわよ」
「え? 足跡なんてどこにも……」
「あ・た・し・の能力よ。比較的新しいものなら見えちゃうのよねぇ。多分逃げ延びた獣人じゃないかしら?」
「うん、追いかけましょ」
奇妙な巨木から離れ、足跡を辿っていく。やがて崖に突き当たると、そこで足跡は途絶えているようだ。
「絶壁かぁ。まさかよじ登ったりはしてないわよね?」
「猫じゃあるまいし、猫獣人に同じ真似ができるかしら。それに登った形跡もないし、隠し扉でもあるんじゃないかしら?」
そういってDOが壁を探り始める。けれど私はある視線が気になった。先ほどからずぅっと私たちを見ている奴がいるのよ。
「出てこないの? それとも怖くて出て出られない? さっきから見てるのは気付いてるんだけど」
カサッ……
微かに茂みが揺れた音。身を隠しているのがバレて震えてるって感じかな?
「出てくるつもりはない? なら――」
「ま、待ってくれ!」
慌てて出てきたのは、この星では初めて見る猫獣人だった。拳銃で武装はしてるものの、どこか頼りない感じがする若い男みたい。
「こここ降参する! だから命だけは――」
「待って待って、別にアンタをどうこうするつもりはないわ。襲ってこないならね」
「……え?」
「え……って、そもそもアンタは誰なの?」
「ボ、ボクは猫族のラガマフィーだ。キミたちは犬族の仲間じゃないのか?」
どうやら盛大に勘違いしてるみたい。
「犬族とは関係ないわ。どうも知り合いの故郷がこの辺りらしくてね、そこへ行く方法を探ってたのよ」
「そ、そうなんだ……。でも今は危険だ。猫族の里には犬族の放った刺客が入り込んでいる。下手したら殺されるよ」
刺客か。さっき燃やした巨木と関係あるのかな? ま、あってもなくても同じだけどね。
「刺客がいるなら退治しなきゃダメじゃない」
「え……ま、まぁそんなんだけど……」
「それにアンタは刺客を放置して何してるのよ?」
「だ、だって刺客は強くてこちら側が押され気味だったんだ。だから――」
「隠れてやり過ごしてた――と?」
「うん、まぁ……」
猫耳をクタッとさせて顔を伏せた。ドッヂボールで例えると、玉を避け続けて最後に残った1人みたいな感じよね。
「だったら丁度いいわ。猫族の里に案内してちょうだい。私たちが退治するから」
「え……で、でも」
「遠慮しちゃダ・メ♪ お姉さんたちに任せちゃいなさい。向こうの植物だって倒しちゃうくらい強いんだから」
「ええっ!? 何人も犠牲にして撤退するのがやっとだったあの悪魔の木を!?」
やはりあの木に取り込まれてたのは猫族たちだった。
「ついでに聞くけど、あの木はいったい何だったの? なんであんな場所に?」
「それについては中で話します。ついてきて下さい」
猫族の男性が地面を強く踏みつけると、壁が崩れて下り階段が出現した。
「この先に猫族が?」
「といっても緊急避難場所ですけどね。けれど刺客が入り込んだため、奥がどうなっているかは……」
「それは大丈夫。私たちで片付けるから」
さてさて、ネ子ちゃんの秘密が明らかになるといいけどね。
★★★★★
部下からの声援を受け、ご満悦の犬族リーダー。見た感じはすっかり戦勝ムードで、すでに戦いは終わったかのようにも思える。
俺は今すぐ飛び出したい気持ちを抑え、ザードさんの判断を仰いだ。
「どうします? あの演説をしてる奴がリーダーみたいスけど」
「うむ。奴を捕らえれば詳しく聞けるで御座ろうが、神の眷属という台詞が気になるで御座るよ」
「確かアカツキって奴も神の眷属を自称してたんでしたっけ?」
なんでもアカツキって女は、人を1人殺す毎に1分を巻き戻せるというチートスキルを持っていたらしいな。
って事はだ、あのレオポルドって奴も相応のスキルを持っているに違いない。
「スキルの詳細が分からぬ以上、むやみに突撃するのは危険で御座ろう」
「じゃあもう少し様子見で――――え?」
視線を戻したその時だ。レオポルドの手が激しく光り、その手で部下の1人に触れた。
すると…………
シュィィィィィィン!
「今回の功労者はキミだ。受け取りたまえ、進化の力を」
「お……お、おお……おおおおおお!!」
周りの連中の倍以上にまで全身がムキムキと巨大化し、まるで小型のオーガみたいになっちまった!
「フフ、どうかな? 新たな力を手にした気分は」
「す、凄いです……身体中に力が……沸き上がってくる!」
「そうとも。私の力は進化の力。キミの力を限界まで引き出したのだよ」
「ありがとう御座います! これならどんな敵でも負ける気がしません!」
「うむ。これからの活躍も期待しているぞ」
「はいぃぃぃ!」
とんでもねぇものを見ちまったぜ。まさか力を与えるスキルだとはな。それも進化の力だぁ? まるでミュータントじゃねぇか! コイツはバケモノの集団でも作ろうってのか!?
「ヤバいぜ。コイツを放置すると、取り返しのつかない事になりそうだ」
「某も同意で御座る。かの者に手加減は不要。一気に制圧するで御座るよ!」
「分かったぜ!」
「みゃみゃ~(頑張れ~)」
レオポルドのスキルは判明した。他人を強化する能力なら、精鋭部隊を作り上げる前に叩き潰すまで!
「いっくぜぇぇぇ、カズトスラーーーーーーッシュ!」
「ムン、ベノムスラッシュ!」
ズバン、ズバァァァン!
「「「ギェェェェェェ!」」」
「チッ、まだ刃向かうやつらが居たのか」
舌打ちしながら俺たちに向き直るレオポルド。そんな余裕ぶってて大丈夫か? 油断するつもりはねぇし、一気に片付けるぜぇ!
「カズトよ、某の後ろに!」
「お、おぅ?」
よく分からんがザードさんの指示に従う。先手必勝で暴れた方がいいような――って思ってたらすんげぇスキルを使い出した!
「我が威光を受けよ――ビクトリーレイ!」
シュピィィィィィィン!
「あ……ぅ……」
「ひぃぃぃ!」
「ち、力が……」
な、なんだこれ? ザードさんが放った広範囲の光に触れて、敵全体が弱りだしたぞ!?
「某よりも劣る者を更に弱体化させる光で御座る。さぁ、今のうちに!」
「分かったぜ!」
つまり強烈なデバフが掛かってるんだ。どんどん行くぜぇ!
「クソッ! その強さ、さてはアカツキの回し者だな?」
「それは違うけどテメェの運命は変わらねぇぜ? 覚悟しやがれレオポルド!」
邪魔な雑魚共を蹴散らし、レオポルドに斬りかかる――
ザグッ!
「ぐぅぅ……レオポルド様、今のうちに!」
「すまない、キミの行為は無駄にはせん!」
「あ、待ちやがれ!」
あと一歩というところで、さっきの進化した部下に両手で受け止められた。その隙にまんまとレオポルドは逃走していく。
「ザードさん!」
「承知!」
ここまで来て逃がすわけにはいかない。動けない俺に代わってザードさんが後を追うが……
「戦車隊、殿を!」
ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!
「ぬぅ、邪魔立てするか!」
複数の戦車が進路を塞ぎ、レオポルドの追跡を妨害された。
「フフ、残念だったなぁ? 私はいずれ神になる男だ。今回は私の代わりと遊んでくれたまえ。ではさらばだ!」
あっという間にレオポルドの姿は見えなくなった。しゃ~ない。ここに居る連中だけでも片付けておくか。
そう思い、劣化オーガの部下を倒そうとしたその時! 森の奥から木々を蹴散らし、新たな戦車が出現した。しかもその大きさは……
「デ、デケェ……。まるでマンションが動いてるみたいだ……」
「カズトよ、気を付けるで御座る。この戦車も恐らく……」
「ああ。レオポルドが進化させたってことだな!」
これがホントの超ド級ってやつか。コイツは骨が折れそうだ。




