戻って参りました
スパロウ本星を離れ、数日かけてセキレイへと戻ってきた私。
なぜ転移しなかったのかって? 全長1キロもあるコスモアイリーンはさすがに無理よ。
ちなみにマリアたちは私についてきてくれるらしいから、すでに居住区に住んでもらってるわ。イグリーシアに近い中世っぽい住居は概ね好評で、オットーたちに至っては毎日ダンジョン探索をしてるわね。
低級な魔物しか出ないから、身体を鈍らないようにするには丁度いいみたい。
そんな彼らをコスモアイリーンに残し、セキレイにて同僚たちと再会したんだけど……
「――っというわけで……ヤッホーみんな、たっだいま~! 元気してた~?」
「みゃ~~」
「「「はぁ……」」」
華々しい帰還をしてみせたのに、コスモエリートのみんなは深いタメ息で応える。指揮官やクルーたちまで苦笑いだし、もうちょっと別の反応が欲しいところね。
「もっとこう――おっかえり~とか、寂しかったよ~とかないの?」
「数年後ならその反応だったろうな。しかしながらお前は常識を覆した。その現実に我々は呆れを通り越したのだ」
御存じ、コスモエリートのまとめ役であるフロッソがメガネをクイッと持ち上げつつ答えてくれた。他のみんなもウンウンと相槌を打っている。
「数年間も監獄に入ってろって? 冗談じゃないわ。そんなもの、数日体験すれば満足よ」
「監獄星に放り込まれて満足したのか……」
私にとっては体験ツアーを兼ねた情報収集だもの、それさえ済めば用済みよ。
「さっきも言ったが、お前には常識が通用しないのか?」
「常識って?」
プチン!
「どこの世界に監獄から数日で帰還する奴がいるというのだ! いいか? ジェイラーだぞジェイラー。刑期を終えて出てくる者は殆どいないとされるジェイラーだ。そんな場所から――
ヤッホーみんな、たっだいま~! 我輩元気です~♪
――みたいに言いながら、当たり前のように帰ってきたのだ。これがおかしくないと言えるか!?」
「モノマネ上手いわね」
「うみゃ~~」
「うむ、ありがとう。――いやいや、それはどうでもよい。我輩が言いたいのはな、いかにも旅行から帰ってきました~的な感じに現れたのがおかしいと言いたいのだ。そんな不可思議な話がどこにある?」
――って言われてもねぇ。
「ここにあるじゃない」
「それがおかしいといっでっ――ゲホッゲホッ!」
「どうどう、落ち着いてフロッソ。アイリの非常識は今に始まったことじゃないからさ~」
「そだね~、アイリだもんね~。――はい、お茶飲んで落ち着いて~」
むせたフロッソの背中をリズィが擦り、メイドコスをしたレイアがお茶を出す。
そんなに非常識かな~?
「あ、その顔、非常識じゃないとか思ってる? 外に止まってるデッカイ戦艦を見て、常識を越えてると思わない方が少数派だよ。あれ、アイリのでしょ? 他の子は混乱してたけど、ウッチは一目でアイリのだって分かったよ」
さっすがリズィ、目敏いわね。さっきの非常識発言は水に流してあげちゃう。
「その通り、私の戦艦よ。名前はコスモアイリーンで、内部には居住区やダンジョンがあるのよ。後で乗せてあげるから感想聞かせてよね。それから――」
「あ~すまない、ちょっといいかな?」
話の途中でシモザワ指揮官に止められた。
「戻ってきて早々すまないが、現在のセキレイは司令不在の状態なんだ」
「……へ?」
「……みゃ?」
「オクモ司令がハシボソに転属させられたんだよ。アイリくんが連行された直後にね」
共和国を追い込むために無理な変動を行ったと。
「そして今、帝国内部は複数の派閥に分かれて争いが起こっている。ボクらも司令も身動きが取れないんだ」
指揮系統が滅茶苦茶になってるだろうし、どこにつくとか安易に言えないでしょうね。
けれど大丈夫。帝国から離反すれば、そんな悩みは即解消。さっそく悪魔の囁きを行ってみる。
「ねぇみんな。帝国から離反する気はない?」
「「「えええっ!!?」」」
ま、当然の反応か。
「でもよく考えて。次の皇帝が決まるまで定期便は途切れたままよ? このままじゃ食糧難になるのは目に見えてるわ」
セキレイでも自給自足ができているとはいえ供給量は多くない。スパロウ本星からの供給は当分お預けだろうし、今すぐ救済するなら私のダンジョンシステムを使う以外にない。
「いつまで続くか分からない内戦を見守るくらいなら、こっちから縁を切ってやりましょ」
「……つまり、アイリくんなら食糧の当てがあるんだね?」
「もちろん!」
「みゃ~~す」
「分かったよ。ただ待ってるくらいなら行動を起こした方がいい。ボクはアイリくんについて行くよ」
意外にも指揮官の決断は早かった。この人の性格ならもっと悩むと思ったんだけど。
「意外だと思った? 指揮官の中で踏ん切りだついたんだと思うよ。あの女との関係がね。あ、ウッチもアイリに付いてくよ? 元スパイだった身としては寧ろありがたいし」
洞察が鋭いリズィの耳打ちで納得する。アカツキに対する感情の変化があったらしい。
「ふぅ……。指揮官が言うなら仕方ありませんね。我輩も従いましょう」
「――とか何とか言いながら、最初から決まってたんでしょ~? このこの~♪」
「茶化すなレイア! 我輩は真剣に――」
「はいはい、そういう事にしとこ。ちなみにレイアもアイリ側につくから♪」
フロッソとレイアも私の方に。
「そもそも選択肢なんて無いようなもんじゃない? 共和国が巻き返してくる可能性もあるんだから、フレディアちゃんとしてはアイリ一択だわ」
「その通りですわ。わたくしマシェリーも御一緒させていただきます」
「「私たちも付いて行きます!」」
「行かねばならぬ我が道なれど、それは1つに限らない。時には逸れるも必然か」
フレディアとマシェリーに取り巻き二人、相変わらず難しいことを言ってるジェレミーも付いてくるみたいね。
クイクイ
「ん?」
「……ボクも」
袖を引くのは虎獣人のアムール。彼女も付いてきてくれるみたい。
以降も確認を続けるとコスモエリートやクルーは全員が付いてくることになり、住民の確認作業へと移った。
「10日間のうちに全住民が移住することになったよ」
そりゃそうなるわよね。意地張って居座っても意味ないし。
ちなみに指揮官の言う移住とは、コスモアイリーンに住むって意味よ。居住区はアイカに任せてあるわ。
『アイカ、セキレイの人たちが移住するって』
『把握してます。街を丸々コピーしますので、生活環境は問題ないと思われます』
こっちも大丈夫そうね。
「でさでさぁ、さっきから気になってるんだけど~、その猫はどったの?」
「にゃにゃ?」
「ああ、この子ね。帝都の資料室で寂しそうにしてたから連れてきたのよ。名前は――」
どうしよう、名前を決めてなかったわ。
んん~~~
「……ネ子よ」
「「「ネコ……」」」
その瞬間、体感温度が絶対零度に陥った。草は枯れ、大地も荒れ果て、世界は破滅へと向かわんとして――
バシッ!
「イタッ!?」
「リズィ、変なナレーション入れないこと」
「いや、だってさ、ネコの名前がネコって、聞かされるこっちが困惑するっしょ! 見てみなよ、肝心のネコも元気ないしぃ」
「……に、にゃ……ケホッケホッ……」
そう言われると一気に老け込んだように見える。いつの間にか杖ついてるし、どっから持ち出したやら。
「……コホン。とにかく、この子はネ子で決定よ。雌みたいだし、いいじゃない」
「アイリがそう言うなら……。でも本当にいいの? ウッチがつけるなら――」
「いいの! それより今は司令が居ないんでしょ?」
哀れみの視線がネ子に向けられる中、強引に話題を変えてみた。
「そうだった。何とかオクモ司令を助けられないだろうか?」
「できなくはない――けれど了承するかは本人しだいよ」
資料室で見た内容が正しいなら、新しく移ったハシボソを何がなんでも護ろうとするはずよ。強引に拉致するのも気が引けるし、話してみないと分からない。
『お姉様、オクモ司令のことですが、少々急いだ方がよろしいかと』
『はぁ……。ま~たピンチなわけ?』
あれでも根は真面目な人だし、助けてあげますか。
リズィ「もし雄だったら何て名前に?」
アイリ「悲鳴斗」
リズィ「雌で良かったね~」
ネ子「にゃ~~す!」




