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哀れな海賊

「野郎ども、久々に暴れるぜぃ!」

「「「うおおおっ!」」」


 突然だが俺の名はデューク・マウンテン。小惑星に隠れ家を持つ宇宙海賊の頭領だ。

 ここんとこ民間船を襲う機会がめっきり減っちまってな、金もねぇ食い物もねぇときて奪った女共を売り払っていたんだ。


 そしたらよ、風の噂じゃスパロウ帝国の艦星の1つに護衛艦が少ねぇところが有るって言うじゃねぇか。

 最近じゃどこもかしこも戦闘の連続で、民間船ですらキッチリと護衛されてるからな。

 全力でかかりゃ落とせるだろうが、獲られるもんが少ねぇんじゃ話にならねぇ。だからこそ俺はその噂に飛び付いたのさ。


「見えてきやしたぜお頭ぁ、例の艦星でさぁ」


 偵察機から送られてきたデータを解析し、100キロ先にある超大型艦が例の艦星だと判明した。


「護衛艦も少ねぇし、噂は本当だな」

「へぃ。正しく天の声ってやつでさぁ」

「オメェ、神を信じてやがんのか?」

「そんなん信じちゃいませんや。ですが神が居るってんなら、俺らに情報が流れた時点で大マヌケってやつでさぁ」

「それだな!」


 俺も神とやらを信じないが、一応は礼を言っとくぜ。

 ありがとよ。手に入れた女共は責任もって可愛がってやんよ。ま、ブスとババァは勘弁だけどな!


「ただ1つ気になるのが噂の出どころでさぁ」

「出どころだぁ?」

「へぃ。連合軍や共和国軍とかなら分かるですが、もしもスパロウ帝国が出どころなら罠の可能性も……」

「はっ、バカバカしい」


 お高くとまった帝国貴族が海賊相手に罠を張る? あり得るかっての。連中の目には海賊の二文字は見えてねぇのさ。どうせそこらのゴミと同等の認識だろうが、逆に有難いってやつだな。


「例え罠だろうと手薄にゃ違ぇねぇ。だったらよ、乗るしかねぇだろ? このビッグウェーブによ!」


 波があるのは海だけじゃねぇ。宇宙にだって波はある。それを乗りこなすのが海賊ってやつさ。


「お頭らぁ、連中こっちに気付きやしたぜ!」

「おっし、作戦開始だ。先発隊が護衛艦を引き付けてるうちに別動隊を側面に回せ!」

「へぃ!」


 何もバカ正直に戦う必要はねぇ。要は艦星を落としちまえばいいんだ。それさえ達成すりゃ残りの護衛艦は逃げるしかねぇからな。


「お頭ら、例のコスモエリートですぜ?」


 護衛艦を援護するようにすばしっこい小型艦が現れた。噂じゃパイロットの殆どが若い女らしい。

 生け捕りにして売っ払えば金にはなるだろうが、それだけのために被害を出しちゃあ本末転倒だ。

 

「ちぃと惜しいが集中砲火で黙らせろ。こっちは全ての戦力を投入してんだ、どのみち長くは持たねぇだろうさ」

「へぃ。護衛艦は後回しでコスモエリートを優先で狙いますぜ」


 数分後。思った通りに事は運び、コスモエリートの損傷が大きくなった。

 ま、数の暴力ってやつだ。いい社会勉強になったろうよ。

 一応は降伏勧告してやろうか? どうせ頷かないとは思うがな。


「お、お頭らぁ!」

「あ? どうした、そんな泡くった顔しやがって」

「べべべ、別動隊が、別動隊がぁぁぁ!」

「ああ、ようやく回り込んだか」


 護衛艦は引き付けてっから艦星の横はガラ空き。残念ながらのジ・エンドってやつだ。

 勝負は下駄を履くまで分からないって言葉がどこぞの国にあるようだが、鉄下駄履いてもこの状況は(くつがえ)らんだろう。


「そんじゃあ土手っ腹に穴空けて――」

「べ、別動隊が……壊滅……しやした……」

「…………は? 壊滅だぁ?」


 コイツは何を言ってやがんだ? 別動隊とはいえ全戦力の3割ある。それが一瞬で壊滅なんざあり得ねぇっての。


「バカなこと言ってねぇで内部に――」

「嘘じゃねぇんでさ! スクリーンを見てくだせぇ! 横に回った別動隊がキレイサッパリなくなってるんでさぁ!」

「…………は?」




「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? どどどどういうこった! いったい何が起こってやがる!?」


 さっきまで有った緑の反応がスクリーンから消えてやがる。

 他の反応は残ったままだし、故障は絶対にあり得ねぇ。


「別動隊、応答しやがれ! いったい何があった!? ……………………チッ!」


 マジで応答がねぇ。まさか本当に……


 いや、罠の可能性は絶対にねぇ。命懸けでバカを晒すほどのオツムじゃねぇはずだ。


「どどど、どうしやすお頭ぁ!?」

「落ち着け! まだ終わったわけじゃねぇんだ。ここは素直に退却して出直せばいいだけだ。跳躍準備を急ぎやがれ!」

「へぃ!」


 どんなトリックを使ったか知らねぇが、今は引くしかねぇ。

 戦力を減らしての逃走たぁ俺も焼きが回ったもんだ。


「アウトポイントを確保しやした。跳躍まであと10秒で――――え?」

「ど、どうした?」

「ひ、ひ、ひ、火柱が、きょきょきょきょ巨大な火柱が迫ってきやさぁ!」

「んだとぉ!?」


 見れば遠くに見えていた赤い粒が急接近してくるじゃね~か!


「何してやがる! さっさと跳躍しやがれ」

「あと3秒でさぁ!」



 2!



 1!



「跳躍開始でさぁ!」



 ズドォォォォォォォォォ!



「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」



 戦艦全体が激しい炎で包まれ、床に擦りつけるように顔を伏せる。

 炎だけじゃなく衝撃も凄まじい。まるで艦砲を撃ち込まれたかのような振動だ。

 こんな威力を遠くから? いったいどんなカラクリだ。



「お、お頭。どうやら跳躍が間に合ったみたいですぜ……」

「あ、ああ……」


 汗を拭いつつ顔を上げる。見慣れた宙域(ちゅういき)が外に広がっているのを確認し、ドッと肩の力を抜く。


「助かった……」


 何年振りかにそう呟く。

 こんだけ肝を冷やしたのは10年以上も前のことだ。

 駆け出しの俺が帝国の艦隊に追い回された時だったか? あん時も仲間を見捨てて間一髪で逃げ延びたっけな。まさか今になって似たような状況に置かれるとは……。


「……被害状況を報告しろ」

「へ、へぃ。戦力の消耗率はザッと7割でさぁ。しかも偵察機が全滅した上に残った殆どが護衛艦とくりゃ、活動は当分お預けでさぁ」


 はっ、こりゃあ良い。まるで駆け出しの当時そのものだ。

 あん時は逃げ延びた先でも他の海賊とやり合ってよ、最終的にねじ伏せて傘下に置いたんだっけな。

 そっからトントン拍子に大勢力を築いてったのが俺様――デューク・マウンテンだ。


「おぅし、こっから捲るぞ」

「…………へ?」

「もう一度挑むって言ってんだ」

「ほほほ、本気ですかい!?」


 本来なら二度と関わらないのがセオリーだろうが、生憎と理解のある性格じゃねぇ。

 やられたらやり返すのが海賊のやり方よ。今までと同じようにな!


「殺られた連中の(とむら)い合戦だ。さっきの宙域に戻るぞ」

「…………いいんですかい?」

「何度も言わせるな。今ごろ連中は油断してるに違ぇねぇ」


 差し詰め追い払って一息ってとこだろう。逃走したら二度と現れないとか思ってたりしてな。

 つまり、今が攻め時ってやつなんだ。


「食ってやろうぜ、冷めないうちにな!」

「へぃ!」



 再び舞い戻った俺たちは、護衛艦を先頭にしてゆっくりと近付いていく。一応はステルス機能もあり、派手に動かなきゃバレる心配はねぇ。

 が、さすがに距離が縮まると目視で見つかるのも時間の問題。


「お頭ぁ、帝国の護衛艦が接近してきやすぜ」


 見つかったようだが、これは想定内だ。


「おっし、このまま突っ込め。妙な炎が飛んでくる前に艦星に乗り込むんだ!」

「了解でさぁ!」


 距離は充分。少ない護衛艦なんぞ無視すりゃいい。コスモエリートは厄介だが、こっちの護衛艦が相手してるうちに――



 ドゴォン!


「「「!?」」」


 な、なんだこの衝撃は! まるで巨大な隕石にぶつかったかのような揺れだったぞ!?


「た、大変ですお頭ぁ。右側面に大穴が空いちまって、戦艦が傾いてまさぁ!」

「んだとぉ!? いったい何が――」


 ドゴォン!



 また同じ衝撃が襲ってきやがった!


「ダ、ダメでさぁお頭ぁ! 空気が物凄い勢いで流出してまさぁ!」


 マ、マズイ、これじゃあ戦闘どころじゃねぇ!


 ドゴォンドゴォンドゴォン!


「ぐぉぉぉぉぉぉ!」

「どどど、動力装置が炎上! 燃料タンクに燃え移るのも時間の問題でさぁ!」


 クソッ、爆発炎上じゃ助からねぇ!


「総員、小型艦に乗り移れ!」

「「「へぃ!」」」


 貴重な大型艦だが命には代えられねぇ。高い授業料だと思って諦めるしかねぇな。


「お頭ぁ、全員乗り移りましたぜ。いつでも跳躍できまさぁ!」

「おぅし、跳躍開始ぃぃぃ!」



 ――――プチュン!



「…………どうだ、脱出したか?」

「へぃ。どっからどう見ても隠れ家の隕石群でさぁ」



「はぁぁぁ……」


 ため息と共に全身の力が抜けていく。1日で二度も死にかけるとか、とんだ厄日じゃねぇか。手下も戦艦も殆どが宇宙(うみ)藻屑(もくず)だ。これじゃあ何にもできやしねぇ。


「しゃあねぇ。失ったもんはデカ過ぎたが俺たちは生きている。何度でも成り上がってやろうじゃねぇか!」

「「「…………」」」



「あん? どうした、感動で声も出ないってか?」

「そ、そうじゃないんでさぁ。ススス、スクリーンに敵艦が――」

「んだとぉ!?」


 かじりつくようにスクリーンへと張り付く。

 そこに映ってやがったのは、鋭い角が先端に付いている小型艦5隻が真後ろに迫っているところだった。


「バカな! 跳躍でキッチリとまいたはずだ。ここを特定した国だっていまだにねぇ。まさか通常航行で追ってきやがったってのか!?」


 あり得ねぇ――断じてあり得ねぇ! 跳躍ってのは一瞬で1000キロ以上飛べるんだ。それを尾行するなんざ、どの国だって不可能だ。


 ドズゥゥゥン!


「ぐぉっ!? ま、まさか連中、体当たりで壊す気か!?」


 ドズゥゥゥン!


「ひぃぃぃぃぃぃ!」

「おおおお頭らぁぁぁ!」

「つ、通信を繋げ! こうなりゃ降伏一択だ!」


 ドズゥゥゥン!


「ぐぁぁぁっ! は、早くしろぉぉぉ!」

「ダ、ダメでさぁ! 信号に応答なし! 後ろの5隻は完全に無人でさぁ!」

「んなっ!?」


 ドズゥ――――ボォォォン!


 俺が最後に見た光景は、火ダルマの状態で宇宙に放り出される手下と自分自身だった。



★★★★★



「――なぁんて事になってるかもね~」


 フレディアの部屋で夕食をつまみながら、海賊の最期を予想する。

 拘束が無理なら殺してもいいって命令してるから、不運にも宇宙に放り出されてるかもね~。あ、このお肉美味しい。


「どうしたのアイリ?」

「いや、何でもないわ。フレディアの実家はお金持ちなんだな~って。ステキな執事もついてる事だし」

「そりゃもう凄いわよ? パパったら私のためだけにセバスチャンを雇ったんだもの」


 そうなんだ。元々実家にいたわけじゃなかったのね。


「それに私がコスモエリートになるために大金を積んだとも聞いてるし、目的のためなら金に糸目はつけないって感じよ」


 いやいや、大金を積んだって、それもう賄賂(わいろ)なんじゃ……。


「だからね、決めたのよ。将来私はパパを護れるくらいに強くなろうって。いつか()()()スパロウ帝国の流星って呼ばれるようになってやるわ!」


 過程はどうあれフレディアにとってプラスになってるなら何も言うことはないかな。

 ……あ、1つだけ有った。


「今()()()って言ってたけれど、実際は呼ばれてないってこと?」

「(ギクッ!)! な、何言ってるのよアイリ。今はダメでもいつかは流星って呼ばれるようにと思って――あ」


 は~い、フレディアアウト~!

 でも叶うといいわね。友達として応援してるわ。


「……コホン。アイリ、この後まだ時間は有る?」

「有るけどどうしたの?」

「記憶が混乱してるって言ってたでしょ? 何か手伝えることはないかなって」

「ああ、それならこの艦星について詳しく教えて」

「オッケー。親友のために徹夜で教えてあげる」

「いや、徹夜しなくていいから」


 然り気無く親友にランクアップしてるし。悪い気はしないけれど。


フレディア「はい。というわけで、さっそくお勉強しましょうか」

アイリ「ちょ、どうなってんのこれ? 何で後書きに――」

フレディア「本編でやったら読者がダレるじゃない。ささ、時間は有限なんだからビシバシいくわよ!」


【アイリたちの居る艦星の名前を教えてください】


フレディア「名前はセキレイよ。他にもメジロとかアカハラとかいっぱい艦星があるらしいわ」

アイリ「そんなの本編でサラッと言えばいいだけじゃない」


【スパロウ帝国ってどんな国ですか?】


フレディア「人間が8割近くで、残りの2割が獣人という感じの国ね。場所によっては差別も有るらしいわ」

アイリ「アムールは大変ね」


【本国はどこにあるので?】


フレディア「物凄く遠い場所――としか言えないわね。少なくとも気軽に行ける距離じゃないわ」

アイリ「敵国との中継地だものね」


【跳躍って?】


フレディア「だんだんと聞き方が雑になってきてない? まぁ言いけど。跳躍っていうのは現在地から特定の場所まで一気にワープすることを指すの」

アイリ「どこでも行けるわけじゃないってこと?」

フレディア「その通り。宇宙をまんま海だと仮定して、足の踏み場がある陸地が特定の場所って感じ。つまり、陸地に向かって大ジャンプするのが跳躍なのよ」


【アウトポイント】


フレディア「上で説明した特定の場所のことよ」

アイリ「ふぁ~ぁ。そろそろ寝ていい?」

フレディア「真面目に聞け!」


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