監獄惑星ジェイラー3
狂気の運動会に勝利し、無事に檻へと戻ってきた。
本来なら強制労働へと続く予定だったんだが、それは素行不良の軍人がやってくれてるだろう。ギプスをしながらな。
時間もできたことだし、改めてアイリに疑問をぶつけてみるか。
「なぁアイリ、お前さん本当に何者なんだ? どう考えても普通じゃないよな?」
「見ての通り、ごく普通の美少女だけど?」
「見た目の話じゃねぇ!」
だいたい自分で美少女とか言うな。
「さっきも言ったけど、只のダンジョンマスターよ」
「「「いやいやいや!」」」
ダンジョンマスターな時点で普通じゃねぇし。しかもあの強さだろ? ダンマスかどうかなんて関係ねぇ気がするぞ。
「何で強いかは聞かねぇ。せめて何をして捕まったのかを教えてくれ」
「あ、それは簡単よ。生意気な上官がいたから喧嘩売ったの」
「「「…………」」」
上官に対して生意気って……。しかも自分からふっかけるとか、やっぱり普通の感覚じゃないような……。
「でも惜しかったわ。もう少しで――」
「逃げ切れたのに――ってか?」
「――いや、殺し損ねたのよ」
「「「…………」」」
もしかしてコイツ、見た目以上にヤバイ奴なんじゃ……。要注意扱いも分かる気がする。
「あ、あのぉ……アイリ様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「待ちたまえカズト。アイリ閣下の方が良いかもしれん」
「お前らなぁ……」
分かるけどさ、お前ら男だろう? 同世代の女に対して腰が低すぎやしねぇか? いや、ホント分かるけども。
「アイリでいいわよ。畏まられると話しずらいし。それより情報収集に協力してほしいんだけど、お願いできる?」
「勿論だぜ!」
「ボクも協力は惜しまないよ」
「あたしも構わねぇよ。協力の見返りに脱出させてくれるんだろ?」
「当然よ。よほどの悪人じゃない限り助けるわ」
「フッ、決まりだな」
カズトもレミオールも乗り気だ。
そりゃそうか。その気になりゃアイリだけでも脱出できそうだしな。どうやって脱出するかは不明だが、看守を半殺しにして輸送機を強奪しても不思議じゃねぇ。
★★★★★
ゴソッ……
「…………」ピクッ!
その日の深夜。檻の外から何者かの気配を感じて目を覚ます。
これでも女だしな。そういう可能性が有ることは百も承知だ。
そう、性的に襲われるって意味な。
「ん……」
ゴロン
外に向かって寝返りを打ち、薄目で正体を探る。特に多いのが看守から鍵をくすねて侵入しようとするゲス野郎だ。手癖の悪い奴らはどこにでも居るのさ。
「…………(見慣れた囚人服。やっぱゲストは囚人か)」
意外かもしれねぇが、看守が襲ってくる可能性は低い。
理由は単純。囚人との密約を疑われるからだ。下手すると看守の立場から即日囚人への流れだってあり得るしな。
「……ぶだ。……ってやがる」
「……し。てばや……るぞ」
相手は4人か。狙いはアイリだな。1組で堂々と抜け出してくるたぁ誉めてやりたいが、流れに身を任せるつもりはない。
昼間は助けられたし、今度はあたしが助けなきゃな。
「……よし、一気に行――」
「そこまでだゲス野――」
「フン!」
ゴギッ!
「うっ…………ぐ……」
「うひっ!?」
またしても変な声が出ちまった。起き上がったアイリが手をかけようとした野郎にアッパーカットを放ちやがったんだ。
モロに顎を変形させたゲス野郎が口を押さえて涙目に。相当な激痛を味わってるな。
「チッ、2人も起きてるとは!」
「構わねぇ、力ずくでやっちまえ!」
「おぅよ!」
バカだなぁ。目の前でやられた奴の顔が見えてないのか? ブサイクな顔が更にブサイクになってんだぞ? それでも尚挑むとか――
ガシガシッ!
「「!?」」
「頭割れても知らないからね――」
ゴツン!
「「「ぐわぁ!」」」
「――と」
昼間も圧巻だったが今回も凄いな。
何をやったかってぇと、左右にいた野郎の顔を引っ掴んで、真ん中にいた野郎の頭部に打ち付けたのさ。当然野郎共は悶絶するわな。
「私を襲おうとはいい度胸じゃない。美少女だから仕方ないとはいえ、許される行為じゃないわ。失敗したらどうなるか、分かってるのが当然よね?」
「くっ……」
「ヤベェ……ヤベェよコイツ、人の動きじゃねぇ!」
「だから言ったんだ、看守の口車に乗るべきじゃないって!」
ん? 気になるワードが出てきたな。
「アイリ、どうやら看守が絡んでるみたいだぜ?」
「だと思ったわ。こんな非力そうな奴らが看守から鍵を盗むなんて想像できないもの。どうせ昼間の軍人が報復のために送り込んできたんでしょ」
なるほど。裏で繋がってる軍人は多いと聞くし、昼間の連中はあからさまだったしな。
「……で、背後にいるのは誰?」
「このA棟を管理してる看守だ。名前はボルス。そいつからアイリを始末するように言われたんだ。だから……」
「囚人を殺せと言われて実行に移したわけか。こりゃ情状酌量の余地はねぇな」
「そ、そりゃ躊躇ったさ! でも釈放って条件がチラついたら最後には飲むだろ?」
「絶対に出られないって思ってたところに転がり込んできたんだ。このチャンスを逃せるわけないだろう」
そりゃ身勝手ってもんだ。実行せずにバラしてくれりゃ見逃すのもやぶさかじゃないが、殺そうとしてきたなら話は別だ。
「アイリ」
「分かってる。――看守さーーーん!」
アイリが大声をあげると、すぐに看守共がスッ飛んできた。しばかれた4人を見ると事情を察したようで、そのまま連行していく。
最後に1人だけ残った看守が振り向き、詳しい経緯を問いただしてきた。
「さて……改めて聞くが、どちらが招き入れたんだ?」
「「は?」」
意味が分かんねぇ。あたしらが誘ったとでも言いたいのか?
「なぁにが楽しくてあんな連中を誘い込まなきゃならねぇんだ! 向こうが勝手に――」
「マリア、ストップ。コイツの名前」
ヒートアップしかけたあたしを制し、左胸に付けているネームプレートを指した。
ああ、なるほど。この看守がボルスか。
「なんだ、俺に文句でもあるのか?」
「大有りだよクソッタレ。テメェの差し金だってことは知ってんだ。さっきの奴らが白状したからな」
「フン、お喋りな奴らめ……。だが知ったところでどうする? 俺を殺すか? そんなことをすれば即処刑だ。誰も貴様らの話を信用しないだろう」
「チッ…………」
コイツの言う通りだ。殺しちまったら今度こそ終いだ。
どうしようかとアイリに視線を――え?
「ふ~ん? 自分を盾にするんだ? なるほどなるほど~」
「ア、アイリ?」
なぜか楽しそうに笑ってやがる!?
「なら仕方ないか。コレを使いましょ」
取り出したのはロボットに見える何か。更に紫色の水晶玉を胸部に埋め込む。
……グググググ!
「はいできた~」
「「!?」」
なんだこれ!? 目の前の看守とそっくりになったじゃねぇか!
「いいい、いったいどういう事だ? なぜ俺がもう1人……」
「アンタの偽者よ。見分けがつかないから、本人が居なくなったところで誰も気付かないわ」
「マジか! ってことは――」
「!」ビクッ!
視線を看守へと向ける。何をするのか分かったらしく、即座に逃げ出そうとするも……
ガシッ!
「ヒッ!?」
「逃げちゃ困るのよ。アンタが2人もいたら混乱するじゃない」
「や、やめろ、はな――むぐぐぐ……」
「――というわけで、協力的じゃなかったアンタはここで消えてもらうわ」
ゴギッ!
なんの躊躇いもなく首をへし折った。そして何処かへと転移し、死体を破棄して戻ってきた。どこへ棄てたかはしらないが、絶対に見つからない場所らしい。
宇宙にでも棄ててきたか? 死体が浮遊してるとかマジで怖ぇ! 怖すぎるから聞かねぇぞ!
「これでよし。じゃあアンタはボルスとして頑張ってちょうだい」
「承知しました」
ボルスにそっくりのロボットが引き上げていく。こうも簡単に成り済ませるとか普通じゃ考えられねぇ。もうマジでアイリは常識に当てはまらねぇな。
「くか~、くか~」
「スゥ……スゥ……」
何度かデカイ声出してんのによく寝れるよなぁ……。ある意味コイツらも普通じゃねぇのかも。
「腐った軍人に腐った看守。フフン、それでこそやり甲斐があるってもんだわ」
アイリはアイリで楽しそうにしてるし。
機体に搭乗した途端に暴走したりしないだろうな? 脱獄できるかどうかはアイリにかかってるんだ、頼むから正気でいてくれよ。




