コスモエリート? いや、ダンジョンマスターです
「……仕方ないから認めてあげる。間違いなくアイリは強かった。期待のルーキーと言われるだけあるわ」
意外にもあっさりと負けを認めた。偵察機を使うなんて卑怯だ~とか喚くと思ったのに。
「認めてくれてありがと。じゃあ部屋に戻っていい?」
「ちょ、ちょっと待ってって! ほ、ほら、せっかくこうして模擬戦をする仲なんだし、アイリさえ良ければほら……あ、あれよ……」
「あれ?」
「だからその……あれだってば!」
私に背を向けたと思ったら急にモジモジしだす。そこへ見かねたセバスチャンが、私にソッと耳打ちしてきた。
「フレディア様はついつい癖で高圧的に振る舞ってしまい、同じコスモエリートからは良く思われていないのです。アイリ様さえ宜しければ、是非ともご友人として接していただきたく思います」
あの接し方ならそうなるわね。私とてもお姉ちゃんや眷族たちに会えない寂しさもあるし、友達になるくらいなら全然ありよ。
「これからもお友達としてお願いするわ、フレディアちゃん」
「え……い、いいの? ホントに!?」
「嫌なの?」
「そ、そんなわけないじゃない! せっかくできた友達を手離すなんて、そんな勿体ないことできないわよ。そんなのバチがあたるわ!」
よほど友達に飢えてるのね……。
「だからこれからはフレディアって呼び捨てにして」
「分かった。じゃあ改めて宜しくね、フレディア」
「うん、宜しく!」
ギュッ!
差し出した手をフレディアが強く握り返す。
その満面の笑みを見るかぎり、生意気で刺々しかった最初の雰囲気は微塵も残っていない。
「よぉし、今日はアイリの歓迎会をするから、ディナーは期待していいわよ!」
「奢ってくれるの?」
「もちろんよ! もうすぐ晩ご飯の時間だし、私の部屋で――」
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ、
「「「!?」」」
突如鳴り響く警報で、その場に緊張が走る。
『緊急招集、緊急招集。敵艦隊の接近を確認。コスモエリートは直ちに格納庫へ集まるように。繰り返す、コスモエリートは――』
機会音声の指示が格納庫に響く。どうやら晩ご飯の前に一働きしなきゃいけないらしい。
「ごめんねアイリ? 歓迎会は後回しになりそうだわ」
「フレディアのせいじゃないんだし、細かいことは気にしないの」
「ありがとう。もうすぐ指揮官たちも来るだろうから、ここで待ってましょ」
「指揮官?」
「ああ、そっか。アイリはまだ会ってないんだっけ。この艦星にはオクモ司令とは別に、現場で指揮をとる人が居るの。名前は――」
プシューーーッ!
「おや? ボクが最初だと思ったのに、すでに集まってるとは感心感心」
「あ、シモザワ指揮官」
背後のゲートから現れた若い男性。ちょうど話していた人物が現れたみたい。
「最初に集まってくれたのはフレディア君に、それから……」
「アイリです。今日からコスモエリートに配属されました」
「ああ、キミがアイリ君か。オクモ司令から話は聞いてるよ。ボクはタケル・シモザワ。タケルでもシモザワでも好きな方で呼んでくれ」
「はい、分かりま――」
――と、そこへ何故かフレディアが耳打ちしてくる。
「ああ言ってるけど、間違ってもタケルって呼んじゃダメよ」
「……なんで?」
「ほら、シモザワ指揮官ってハンサムじゃない? コスモエリートの多くは恋人として狙ってるのよ。下の名前で呼ぶってことは親しさをアピールすることに繋がるし、他のコスモエリートに対しての宣戦布告と見なされる。だから絶対に下の名で呼ぶのは厳禁なの」
うっわ~、それは面倒臭い。確かにハンサムだけど面倒事に巻き込まれたくないし、ここは助言に従っておこう。
「お、どうやら他の子たちも来たようだね」
それから次々に私と同世代の女子たちが集まってくる。やがて全員が集まったところで軽く自己紹介を済ませ、各自の小型艦へと搭乗していく。
『各自準備はいいね? これより押し寄せてきた敵艦隊を撃退する。艦星の護りは護衛艦に任せて、我々は敵司令官が居るであろう大型艦を目指すことになる』
ピピッ……
現在の状況がスキャナー映像で映し出される。
艦星からやや離れた位置で護衛艦(緑)と敵艦(赤)との戦闘が発生していて、奥の方にも敵艦隊が確認できる。恐らくは敵本隊よ。
というかあれね。攻めてきた艦隊って、さっきの海賊じゃない。機体の認識信号がまるっきり同じだもの。
『今回は4人1組の小隊で敵にあたる。組み合わせは――』
30人近くいるコスモエリートを各々振り分けていく。
私の小隊は偶然にもフレディアが含まれ、他には青い髪をショートカットにしたリズィって子と、銀髪で虎獣人のアムールって子で組まされることに。
ちなみに宇宙で獣人を見たのは初めてね。
クルーを含めて他のみんなは全員人間だったから、この世界では珍しいのかもしれない。
『――以上の組み合わせでいく。いくぞ、ボクの後に続いてくれ!』
指揮官に続いて次々に射出されていく。
私の小隊も射出されたところで重要なことに気付いた。
「そういえばリーダーはどうしよう。一応は決めておかないと」
『は~い、だったらアイリでいいと思いま~す!』
「……え、私!?」
元気よく名指ししてきたのはリズィ。そしてフレディアもリズィに同調してウンウンと頷く。
『分かってるじゃないリズィ。模擬戦して分かったけれど、アイリの強さは本物よ。私が保証するわ』
『あれあれ~? 他人をまったく褒めないフレディアちゃんが珍しいね~。でも実際に強さを確かめたんなら問題なしだよ。ドントウォーリー♪ アムールもそれでいいよね?』
『…………』コク
最後に黙っていたアムールに水を向ける。すると黙ったままコクリと頷いて見せた。
『はい決まり~、もう決まり~、リーダーという面倒くさ~い役割はアイリに決て~い! ドンドンパフパフ~♪』
「ちょ、ちょっと待って――」
『な~に? 不満なの~? そもそも言い出しっぺなんだから諦めも肝心だよ~』
「ぐぬぬぬ……」
おのれリズィ、まんまと面倒ごとを押し付けてきたわね。彼女の口の上手さは異常だわ。
『ははっ、馴染んでるようでなによりだよ。ギクシャクしてると作戦遂行に悪影響だし、小隊としては理想な形だ。でもここから先は命の奪い合い。決して油断はしないこと。いいね?』
『『『了解』』』
指揮官だけあってまとめるのが上手いわね。
あのオクモとかいうクソ司令よりよっぽど信頼されてそう。
『よし、他のみんなも聞いてくれ。第1小隊から第7小隊までは正面から向かい、できるだけ敵を引き付けてくれ。その間に第8小隊が側面に回り込み、敵の大型艦を襲撃する。では散開!』
私たち以外の小隊が互いに距離を取りつつ敵艦に向かう。
偶然か必然か敵の本丸に向かうのは私たち第8小隊に決まり、シモザワ指揮官も後ろから援護する形で共に前進を始めた。
「今さらだけど、みんなは戦闘大丈夫なの? 目の前で撃破されたりとか……」
『あ~~充分に有り得るね~』
「ちょっ! そんな簡単に――」
『なんせウッチら3人はコスモエリートの中でも問題児って扱いだからさ~。だからこそ指揮官が付いてきてるわけだし~』
なるほどね。新人や劣等生でも指揮官つきならフォローは万全ってとこか。
でもそれはそれで納得いかない。元の世界じゃ何人ものクソ勇者や道を踏み外した転生者を始末してきたんだから、保護対象として見られるのは過小評価よ。
『よし、上手く側面に回ったようだね。他の小隊が護衛艦を引き付けてるうちに――』
あ~もぅ、回りっくどい!
「ファイヤーストーム!」
シュボーーーーーーッ!
ボボボボボォォォン!
『『『…………え?』』』
僅かに残っていた護衛艦隊を焼き尽くし、敵の側面は丸裸に。
「ほら、邪魔物は消えましたよ? 次はどうするんです?」
『え……あ……い、いや、しかし……え?』
『指揮官、諦めてください。これがアイリの実力なんです』
『……経験者は語るってやつ?』
『…………』
指揮官を含めた4人がポカーンと眺める。こういう光景には見慣れてないのかもしれない。
いや、慣れてもらわなきゃ困る。だってまだ本気出してないし。
『ア、アイリ君、キミはいったい……』
「あ~、そういう反応も分かるんですが、今は敵艦を沈めません?」
『そう……だな、うん。よしみんな、敵の大型艦に向けて――』
突撃――って感じに言おうとしたところで正面側の護衛艦がこちらに急行してきた。
『マズイな、さすがに数が多すぎる。ここは一旦引き上げよう』
『『『了解』』』
他の4人が引き返そうとする中、私だけはその場に留まる。
来るんなら蹴散らすまでよ。
「ファイヤースト――」
『お待ちくださいお姉様。あの護衛艦の背後にはコスモエリートの小隊もいます。下手したら巻き込んでしまいます』
――というアイカからの警告。
なら仕方ない。まとめて焼き払って――なぁんて鬼畜なことは言わないわよ? 出会いは大切にする性格だし。
『アイカ、DPの余裕は?』
『百単位での召喚なら可能です。迎撃しますか?』
『お願いするわ。何を召喚するかは任せるから』
『了解です』
シュシュシュシューーーン!
名前:プラネットゴーレム
種族:中型要塞艦
階級:Cランク
備考:動きは鈍いが防御能力は非常に高く、レーザーや小型ミサイルも連発できるため放置するのは危険。落とさなければ先には進めないだろう。
守備にもってこいのゴーレムよ。Cランクといってもぶっちゃけフレディアよりも遥かに強いし、10隻もいれば充分。護衛艦ごときが突破できるはずないわ。
『足止めには最適ね』
『足止めどころか壊滅に追い込みますがね』
どっちにしろ邪魔者はこっちに来れない。
「指揮官、今のうちに前進します」
『し、しかし……』
「ちゃ~んと撃破してきますから。なんなら敵の総大将を生け捕りにしましょうか?」
『……あ~分かった。その辺はアイリ君に任せるよ。ボクなんかより遥かに強そうだし、キミなら大丈夫だろう』
何かを悟ったらしい指揮官が、他3人と共についてくる。どうやら深く考えないことにしたらしい。うん、とても賢明ね。理解が早ところは指揮官としても優秀なのかも。
『ところでアイリ、総大将を捕えるってどうやるのよ? アンタの強さは分かるけど、まさか直接乗り込む気じゃ……』
「……そっちの方が早いかな?」
『ちょっ!』
「冗談よフレディア。あの大型艦を沈めれてやれば、小型艦で脱出するでしょ? そこを捕まえてやればいいのよ」
乗り込んでもいいけど艦内を捜索するのは面倒だしね。
――ってことで……
「フレイムキャノン!」
――――ドゴォォォン!
土手っ腹に炎の砲弾を撃ち込み、穴が空いた場所からメラメラと炎上を始めた。
もちろんこの間にもミサイルが飛んでくるけど、回避するのはまったく問題ない。
「デカすぎて一撃じゃ沈まないか。なら何発でも当てるまでよ!」
ドゴンドゴンドゴンドゴン!
ファイヤーストームより威力が高いし、そろそろ沈むかな?
『わ~ぉ、アイリってば容赦ないな~。オマケに妙な戦艦まで召喚するし、本当にルーキーなの~?』
「ルーキーよ。こっちの世界に来てからはね」
『住む世界が違うってやつ? か~、言ってくれちゃっても~!』
リズィは比喩表現だと思ってるでしょうね。
けれど本当に世界そのものが違うから、ここでは初心者で間違いない。
尚、本人の強さとは比例しないものとする。ここ重要よ?
『凄いな……。狙われてるにも拘わらず一方的じゃないか。こんな戦い方をするコスモエリートは初めて見たよ』
『私、こんなに強いアイリに突っかかって行ったのね。これじゃあ命知らずじゃない……』
まぁね~。魔物を戦艦にして召喚するやつなんて私だけでしょうよ。
『……アイリ、中型艦が1隻。今にも跳躍で離脱しそう』
「ありがとアムール」
多分総大将で間違いないわね。何度も攻めてくる命知らずはここで死んでもら――いや、待てよ? もしかしたら賞金とか出るかもしれないし、何とか生け捕りにしてやりたい。
『アイカ、追跡できる魔物を召喚して』
『了解です』
シュシュシューーーン!
名前:マークスマンガゼル
種族:小型特攻艦
階級:Dランク
備考:スピード重視の戦艦で、追跡行動にも向いている。正面の装甲が強力なため、敵艦に体当たりすることも可能。
正面がバッファローの角みたく鋭くなっていて、突っ込まれると凄く痛そう。というか穴が空くわねマジで。
『5隻もいれば充分だと思われます』
『オッケー。じゃあマークスマンガゼル、敵の対象を追跡してちょうだい。可能なら拘束、無理なら始末しちゃって』
私たちは艦星に帰還して吉報を待ちましょ。
リズィ「フレディアだと思った? はいざんね~ん、ほいざんね~ん。今回はお喋り大好きリズィが説明するよ~。さっそくお題に行ってみよ~!」
【コスモエリートとは?】
リズィ「は~い、また出てきたね~造語。作者は造語考えるの楽しい~♪ とか言ってるらしいけど、あんま気にしないでね~。でもってコスモエリートなんだけど、我がスパロウ帝国は多方面で戦争中なんだよね~。あ、これ、まだ本編では語られてないんだっけ? まぁいいや。で、戦力不足の解消とパイロットの育成を兼ねて、若い人たちに白羽の矢が立ったの。集められた若者は適性検査を行われ、それをパスできた者だけがなれる特別な存在――それがコスモエリートなんだよ~」
【シモザワ指揮官もコスモエリート?】
リズィ「間違ってはいないよ~。男子の場合は白兵戦の戦闘員として集められるケースが多いけど、中には指揮官候補として配属されたりもするらしいね~。晴れて指揮官になった男子は、コスモエリートではなくコスモタクターって呼ばれてるね~。あ、これもまだ出てきてない造語だっけ? まぁいいや」
【コスモタクターってハーレム野郎?】
リズィ「そだね~。ウッチを含めて若い女の子ばっかりだし~、一部からは嫉妬の眼差しを送られてるんじゃないかな~。それこそアレだよアレ、リア充爆発しろ~ってやつ。ちなみに噂だと、コスモタクターはコスモエリートたちを上手く囲うために用意された――とか言われてるらしいよ~。事実シモザワ指揮官はイケメンだし~、本当にそうなのかも~なんて思っちゃうよね~」
【リズィもシモザワ指揮官を狙ってるの?】
リズィ「ンッフフフゥ。それは~ひ・み・つ♪ あ、確かフレディアは気になるとか言ってたような……」