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恋敵

 アイカに乗り込んだフレディアを無事帰還させることに成功した。本来ならお説教――って流れになるところを無事だったんだから何よりって感じで済ませといたわ。眷族の召喚とDP獲得に貢献してくれたんで。

 その代わり……


「ねぇRUオジ様~。こっちとこっち、どっちのお洋服が良いと思う~?」

「どっちでも良い――じゃダメなのかい?」

「ダメダメ。ちゃ~んと好みに合わせなきゃ楽しくないじゃない」

「その好み――ってのは……」

「もちろんRUオジ様よ!」

「そ、そうかい」


 代償として、あんな感じの桃色空間を形成されちゃったけど。復讐の鬼と化すよりはよっぽど健全だと思って諦めよう。


「……で、フレディア。服を選ぶのににいつまでかかってるわけ? 早くしないと置いてくわよ」

「もうちょっとだから待ってて~」


 今日はフロッソが立案したコスモエリートの親睦を深める会に参加しなきゃならなくて、そのための服を選んでる最中なのよ。それを何でか時間をかけてらっしゃるのがフレディアってわけ。

 何をするにもRURUって、シモザワ指揮官はどうしたのかと聞いたら、これからは渋いオジ様がトレンドだとか言い出した。

 うん、まぁ本人が良いならそれでいいわ。


『……マスター大変。アミューズメントパークにて、軍の関係者からナンパを受けている』


 マシェリーに同行してるGAから念話だ。ナンパくらい、軽く受け流せばいいのに。


『無視したらダメなの?』

『……うん。コイツら権力をチラつかせてくるから非常に悪質。許可さえ貰えればいつでも殺れる』

『殺るのは最後の手段よ。気持ちはわかるけども』


 さて、どうしようかと首を捻ってると、気になる事が頭に浮かんだ。

 オクモ司令は素行の悪い奴には厳しいと有名なのよ。その中で素行の悪さを出せば、更迭されるか最悪は除名されかねない。

 じゃあなぜ――となるのが普通よね。


『お姉様、昨日の深夜に多数の戦艦が到着してますので、セキレイに詳しくない軍人が街に繰り出してるのではないでしょうか?』

『その可能性が高いわね。なら――』


 ちょっと待った。戦艦が多数? いったいどこから――――



 そうだ、思い出した!


『サオリ・アカツキが来てるのね!』

『その通りです。娯楽の少ない船旅でしょうから、帝国兵のガス抜きを兼ねて外出を許可しているのではないかと』


 それで羽目を外されちゃ迷惑この上ない。


『軍人だからと何しても許させるわけじゃないって事を教えてやろうじゃない。相手が権力を振りかざすなら、こっちも拳力を振りかざしてやるわ。もしくは剣力』

『それだとGAがやろうとしてる事と同じでは……』

『半殺しで済ませるに決まってるでしょ』

『左様で……』



 着替え中だったフレディアを強引に連れ出し、待ち合わせ場所へと急行した。大人数で固まっているコスモエリートと向かい合う形で、同じくらいの人数がいるガラの悪そうな男たちが目につく。

 一般人も距離をとるほどの関わってはいけないオーラが(にじ)み出てるわね。


「来たかアイリ。彼らが1日付き合えとしつこくてな。何度も断ってはいるのだが……」

「酷いんだよコイツら。断るなら命令違反で報告するとか言うんだからさ~」


 フロッソとリズィが耳打ちしてくる。ジェレミーとアムールが肩に手を回されて嫌そうにしてるし、代表してガツンと言ってやろう。



「なぁいいだろ? 出逢いってのは大切にするもんさ」

「むさい男との出逢いは願い下げである。気安く触れるな」

「……同じく。不潔な男には近付きたくない」

「ハハハッ! 汗臭いのは男の勲章さ。女だらけだと麻痺しちまうからなぁ。俺たちみたいな男が居ると――」

「ちょっとアンタたち!」

「うおっ!?」


 ジェレミーとアムールに(まと)わりつく連中を強引に引き剥がし、二人を庇うように正面へ立つ。

 邪魔した瞬間は舌打ちしつつも、()()()な私を見て目の色を変えてきた。下心が見え見えで気持ち悪い連中ね。


「周りが迷惑してるのが分かんないの? 断ってるんだからどっか行きなさいよ」

「ヘィ、断るって言ったかい? そいつぁ考えを改めるべきだぜ。取り返しがつかなくなるしなぁ。へへへ……」


 茶髪の無精髭男が薄ら笑いを浮かべる。同じグラサン野郎でも、RUのような爽やかさは微塵も無い。

 鑑定スキルを当てるとサオリ・アカツキの副官でジョニー・スティンガーと出た。こんなやつが副官? もっとマシな人材はいなかったのかと言いたい。


「……気をつけてアイリ。この人たちはスパロウ帝国の軍人。言う通りにしないと軍規違反になるって……」

「まっこと卑怯極まりない。先ほどからのイヤらしい視線も耐え難い。さっさと何処かに行ってほしいものだ。マジで」


 この二人は胸が育ってらっしゃるからね。他の面子よりも目立って――――あらヤダ、なぜかこの二人に殺意が向いてしまう。

 

「……コホン。とにかく、権力を振りかざすのはオクモ司令が許さないわ」

「ああ、あのカタブツか。アイツは理解してないのさ。俺たち軍人にゃモチベーションとなるものが必要だってな」

「ナンパするのがモチベーションになるとでも言いたいわけ?」

「そいつぁ違うな。言うなればもっと大事なものを得るためさ」


 バッ!


 さりげなく顔を寄せてきたので透かさず距離をとる。汚い顔を近付けるなっての。


「――と、反射神経がいいな? 並の兵士じゃできない動きだ」

「アンタが鈍いのよ」

「ハハッ、そうかいそうかい。なら姉ちゃん、俺らも鍛えてくれよ。腰の動きを念入りにな」

「「「ギャッハハハハハハ!」」」


 私たちの前でジェスチャーして見せるとか、ほんっっっと~に下品。というかブチ○してやりたい。一人半殺しにすればおとなしくなるだろうか。


「下品なジョークなら他でやって」

「わりぃわりぃ。だが全てがジョークってわけじゃねぇぜ? 何せ俺たちゃ軍人だ。戦場に立てば必ず3つのものを失う。分かるか? 汗と涙とアドレナリンだ。これらを補充するのも作戦行動ってやつさ」


 うん、まったく分からない。


「特にアドレナリンは重要さ。恐怖を振り払い、果敢に立ち向かう。例えば……とある密室で俺とお前の二人きり。当然怖いわな?」

「そうね」

「あれま、即答かよ……まぁいい。そん時にだ、恐怖に打ち勝つためにアドレナリンってやつを分泌するのさ。俺に対して恐怖を感じないようにな」


 だからイヤらしい顔を近付けるなっての。小声で(ささや)く素振りも気持ち悪い。


「さて、お前はどうされたい? 優しく抱きしめられたいか、それとも力強く押さえ付けられたいか」

「どっちもされたくないわ。強いて言えばアンタを半殺しにするかもね」

「ヒュウ♪ 言うねぇ。威勢がいい女も嫌いじゃないぜ? 俺としてももチョイ胸が育ってる方が理想だしな」


 コイツ……半殺しと言わずに全殺しにしてやろうか。


「それにな。お前に選択肢はねぇぜ? 強いて言や俺の上で腰を振るか、俺の前で尻を振るかの二択だ。そんくらいなら選ばせてやる」


 そろそろ我慢の限界だわ。二度と女性に触れられないように両腕を斬り落として――



 ザワザワザワザワ……


「――と、なんだぁ? やけに向こうが騒がしいなぁ?」


 剣を取り出すか迷ってたところ、アトラクションの一つで騒ぎがあったらしい。


『すまんマスター。腐れ軍人のナンパ野郎がフレディアにしつこくてな。チョイと手を捻ってやったら喚き出しやがった』


 RUの念話で何があったかを把握した。フレディアの姿が見えないと思ったら、二人だけで遊んでたらしい。


「大変だリーダー、ウィラーのやつが負傷させられた!」

「何ぃ?」

「ナンパ相手の連れの男にやられたらしい」

「チッ、なめやがって。お前ら行くぞ!」


 マズイ、ジョニーたちがフレディアたちのところに向かってしまった。


『RU、フレディアを連れてその場から離れなさい。面倒なやつがそっちに向かったから』

『了解。フレディアの部屋に連れ帰るぜ』


 ふぅ……。あっちはこれでいいわね。


『はぁ、やっと解放されたか。助かったよアイリ。我々だけではどうにもならなかった』

『ホントホント。お礼に好きなキャラクターのコスプレしてあげちゃう』

『いいわよ別に。それよりあんな連中は忘れて早く遊びま――』

『すまないキミたち』


 不意に黒髪の女性に話しかけられた。


『この辺りで軍の関係者がケガをしたらしいのだが、何か知らないだろうか?』

『軍人ですか? それなら――』


 ――と、言いかけて思いとどまる。軍人を探してるとか、少なくとも一般人のすることではない。


『失礼ですが、貴女は?』

『おっとすまない。先に名乗るのを失念していた。私の名はサオリ。サオリ・アカツキだ』


 私を含むコスモエリート全体の視線が集中型する。

 まさかの恋敵とバッタリ遭遇とはね。


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