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後には引けない

「許さない……絶対に許さない!」


 フラフラと漂いつつもたどり着いた場所は格納庫。目的は共和国の連中を血祭りにあげること。このままじゃ自分がおかしく――いえ、既におかしくなってるのかもね。

 今なら共和国の庶民ですら躊躇(ためら)いなく殺せると思う。貴族であれパパとママは庶民同然だもの、私だって敵国の庶民を殺しても文句は言わせない。


「おい、キミキミ。ここの操作パネルはクルー以外は触れないよ。それにこんな夜更けに何をしに――」

「ゴメンなさい……」



 プシューーーッ!


「ウグッ!? ………………クッ」



 ドサッ!


 薬を嗅がせたクルーが深い眠りに落ちる。他のクルーに気付かれる前に射出口を開けて……


 グィーーーン……


「よし、今のうち!」


 音が鈍いのが幸いして、他のクルーは気付いていない。身を伏せて専用機まで近寄り、こっそりと搭乗――――はせず、反対側にあるアイリの専用機へ。

 ここでも音を立てないように静かにタッチして、コックピットに――



「うそ……開かない?」


 私たちコスモエリートの機体は全て共通で管理されていて、手で触れるだけの指紋認証になっている。アイリの機体だって例外じゃないのになぜ?


「くっ……」


 時間が惜しい。アイリの機体なら高性能だと思ったけど、やっぱり自分の機体に――



 スィーーー


「え?」


 開いた!? まさか故障――――いや、乗っ取り防止は万全だし、例え故障だとしても勝手に開いたりはしないはず。

 でも……


「ありがとう、アイリ」


 願いが通じたのだと勝手に解釈し、礼を述べつつコックピットに乗り込む。アイリの機体だもの、予想外の秘密が隠されててもおかしくはない。本人に直接言えないのがとても残念。


 サッ


「出力ブースト。一気に射出口から出る」


 シュゥゥゥゥゥゥ――――ゴォッ!


「グッ!?」


 凄まじい加速性能により軽く仰け反る。やっぱり選んで正解だった。このまま外へ――


『ちょっと貴女、何をやってるの!? 出撃許可は出てないわよ!?』


 女性クルーに気付かれた。でも今さら降りる気はない。


『ちょ、ちょっと聞いてるの!?』

「……聞いてるし知ってる」

『し、知ってるって……それにその機体はアイリのじゃない。勝手に持ち出したらダメよ!』

 

 ダメだって事は分かっている。でも()()()()()をした手前、今さら協力してなんて言えるわけない。



~~~~~



「…………」


 港での悲報を聞いた私。次に目が覚めたのは寮の寝室だった。ショックで気を失った後にセバスチャンが運んでくれたんだと思う。

 時刻は23時を過ぎでいて外はすでに真っ暗に。テーブルにはセバスチャンの用意した晩御飯がメモ書きと共に置かれていた。


『今は時間が必要だと判断し、わたくしの口からは多くを申しません。ですが何も口にしないのはお体に障りますとだけ申し上げておきます。一日でも早くフレディアお嬢様に笑顔が戻りますように』


 気遣いは凄くありがたい。だからこそセバスチャンまで巻き込むわけにはいかない。

 これからやろうとしてる事はただの殺戮(さつりく)。これは私の手でやらなければならないのよ。



 カチャ……


「…………」


 目についた写真立てを手に取る。パパとママが私の専用機の前で笑っていて、その手前では恥ずかしそうに顔を背けた私もいた。

 これは適性試験に合格した直後の写真で、この時は私よりもパパの方が大はしゃぎをしてたっけ。


 コト……


 写真立てを戻すと、顔も洗わず外へ出る。他人に見られたら散々泣いた後だってバレるかな? いや、暗闇で見えないか。

 でも正面からなら――


「あ!」

「……フレディア?」


 バッタリと合った相手はアイリだった。


「今から行こうと思ってたのよ。その……大丈夫かなって……」

「う、うん、フレディアちゃんは大丈夫だから」


 なぁんて嘘。涙は乾いても怒りは簡単に収まらないもの。

 目の前相手が共和国のやつなら捨て身で襲いかかってるところよ。


「大丈夫って……目が真っ赤じゃない。少し休んでた方が――」

「だから大丈夫だって。フレディアちゃんの事はきにしなくていいから」

「気にするわよ。友達なんだら――」

「いいってば! ()の事は放っておいて!」

「それが心配なんだって――」

「いいって言ってるでしょ!」



 バチン!


「イタッ! ……フ、フレディア?」

「アンタに何が分かるのよ! 昨日まで居た家族が突然死んだ悲しみが他人に分かるわけないでしょ!」



 気付けば手が上げてしまっていた。アイリは悪くないのに、おもいっきり頬を……。


「ゴ、ゴメン!」


 その場から走り去るのが精一杯だった。乾いたはずの目尻を涙が伝っていく。

 それは後悔の涙。親友だとか言っておきながら八つ当たりするなんて最低だもの、もうアイリからは親友とは思われてないでしょうね。


「…………クッ!」


 なぜこんな事に――と思い返せば怒りが再燃してくる。

 それもこれも全部共和国の奴らが悪い。アイツらさえいなければパパやママは死んではいなかった。だから!



~~~~~



「悪いとは思ってる。けれど仇を取れなんていえないもの、せめてアイリの力の一部でも借りれれば……」


 そうすれば一人でも多くの命を奪える。この手で散らせてやる!


『……よく見たら貴女――フレディアね。事情は知っているけれど、それとこれとは――』

「――別なのは承知の上よ。だから()()()()()のは自分一人でいい」

『犠牲? ――って、まさか貴女!』


 シュゥゥゥゥゥゥ――――ゴッ!


 自分勝手なサヨナラは言えない。心の中だけで静かに別れを告げ、セキレイから飛び出した。

 必死に呼び掛けてくる女性クルーの声を遮断し、記憶にある座標を入力していく。


「ハシボソは帝国が落としてるはず。なら向かう先はハシブトよ」


 ハシブトとはハシボソの後方にある艦星のことで、そこを越えれば共和国の惑星群が見えてくる。

 今なら守備も強化されてるはずだし逆に好都合よ。より多くの犠牲者を出せるしね。


「跳躍開始!」


 ゴッ!


 手前のハシボソを無視する形でハシブトを目指す。この場合は普通の跳躍よりも多くの時間を要するけれど、私が乗ってるのはアイリの機体。大した時間はかからないはずよ。


 ピコンピコンピコン!


「え……まさか敵影反応? ――ゲートアウト準備!」


 コントロールコアが敵の存在を知らせてきたので、急遽アウトポイントを探す。

 すぐに見つかったポイントにゲートアウトすると、見たことのある共和国の輸送船が5隻ほど固まっていた。周囲には三倍近い数の護衛艦も見える。


「コイツら……!」


 忘れるわけはない。何食わぬ顔で港に入り、無差別テロを起こした輸送船と同じ型だもの。


 ピピッピピッ――――ブゥン!


 向こうも気付いたようで、艦長らしき男の獣人がコンタクトをしてきた。


『帝国の小型艦に告ぐ。我々は無益な争いは望まない。おとなしく投降するのなら、貴殿の命は保証しよう』


 投降ですって? バカらしい。これから殲滅する相手に投降するわけないじゃない。


「こっちはアンタらを殺しに来たのよ。そんな寝言は永眠しながら言ってちょうだい」

『殺しにだと? フン、たかが1隻で何ができる』

「できるわよ。こうやってね!」


 私が認めたアイリの機体よ。最大火力で消し飛ばしてやる!


「ファイヤーストーム!」



 …………、



「――出ない!?」


 いくつもの火柱が立ち上がり、敵に向かっていく兵装だったはず。

 くっ……やっぱりアイリじゃなきゃダメだっていうの?


『どうした、怖くて動けなくなったか?』

「違う!」


 こうなったらいつもの兵装で戦うまで。


「ギアチェンジ!」

『む? 小型艦が小型機に……ま、まさか貴様、コスモエリートか!』

「今さら気付いても遅いわよ――フルバーストミサイル!」


 ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!



 ドゴォォォン!


「よし、まずは1隻!」

『チッ、沈んだか……。しかしまだ1隻。単機で攻めてきたのを後悔するんだな!』

「それはこっちの台詞よ。たかが一機だと高を括った事、後悔しなさい」


 沈黙した1隻の横を通りすぎ、奥の輸送船へと突っ込む。数は全部で5隻。これなら単独でも――



 シュシュシュシュシュ!


「しまった!?」


 輸送船の影から小型機が現れ、不覚にも奇襲を受けてしまう。

 距離を取ったところで通信が届いた。


 ブゥン!


『その機体、見たことがあるぞ』

「……アンタ誰よ?」

『忘れたか? 我が名はヴォルフ。遊撃隊カーマインのリーダーだ』

「カーマイン!」


 コスモエリートに対抗して編成された遊撃隊じゃない! なんだってこんなところに。


『貴様により与えられし受難。今こそ乗り越えてみせよう』

「くっ…………」


 一騎当千と言われてるカーマイン。いや、寧ろ上等じゃない。道連れにするには丁度いい相手よ!


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