不運と悲報
「はいお疲れ~」
「「ふにぅぅぅ……」」
小型艦から下りた2人(リリとララだっけ? ゴメン、正確には覚えてない)が目を回してへたり込む。彼女たちはマシェリーの取り巻きで、ついさっきまで宇宙の旅を楽しんでもらってたのよ。私の小型艦にコスモエリートを乗せると、DPが手に入るからね。
『お姉様、今の2人で20ポイントです』
チッ、シケてるけど仕方ない。何もないよりはマシよ。
「乗りたくなったら言ってちょうだい。なんならもう一度――」
「「いいです、けっこうです、それじゃあさいならーーーっ!」」ビュン!
チッ、逃げられたか……。ちょっとアクロバティックに動いただけなのに、根性が足りないわね。
「仕方ない。じゃあ他に乗りたい人は――」
ズザザザザッ!
「…………」
言った瞬間、物凄い勢いで私の周囲から人が居なくなる。
「何で逃げるの?」
「逃げるに決まってる! 何なんだあの遊園地のアトラクションのような動きは! 怖くて目も開けてられん!」
「こればっかりはフロッソに同意かな~。あんな体験は二度とゴメンだよ」
「「「そうよそうよ!」」」
フロッソやレイアが中心となり、抗議の意思表明をしてきた。
「でも楽しかったでしょ?」
「うむ、その通り――って違うわ! あわや艦星にぶつかるところをスレスレで飛んだりとか、とてもじゃないが心臓が持たん!」
「しかも回避直前に「ヤバッ!」とか言ったよね? あれで一気に血の気が引いてったんだけど!」
「プロじゃないんだし、そういう事もあるわよ」
「「エリートだろ(でしょ)!」」
むぅ……これじゃあ誰も乗ってくれそうにないなぁ。新たな眷族も召喚できなかったし、物足りなさが脳裏を駆けめぐる。
「……ったく、フレディアからもなんとか言ってくれ。アイリの親友なのだろう?」
「なんで私に振るのよ。そう言うフロッソも心の友じゃない」
「だが親友の方が比重が大きい」
「心を打つのが心の友でしょ」
「うんうん、ならこうしましょ。間を通って二人とも乗るって事で――」
「「絶対に嫌!」」
うっわ~傷つく。ここまで信用されてないなんて、友達なんか幻よね…………チラッ
「嘘泣きしようとしても無駄だぞ?」
「このくらいで傷つくアイリじゃないもの」
チッ、見破られたか……。
「それにフレディアちゃんはお出かけする予定なの。パパとママを専用機に乗せて、セキレイ周辺をグルっとね」
「でもフレディアの機体じゃ狭いでしょ? 私のなら広々としてるから寛げるわよ」
「そう? ならお言葉に――って乗るわけないでしょ!」
チッ、おしい……。
「……コホン。悪ふざけはこれまでとして、例の女性はどうなったんだ? 昨日の時点では名前を知っただけで、以降の進展はないのだが」
「アカツキさんね」
正確にはサオリ・アカツキだっけ。シモザワ指揮官と同期だった元コスモエリートの女性で、今はどこかで司令官を勤めてるって話だった。
アイカが情報収集を進めてるから、そのうち詳細が分かると思うけど。
「いずれ分かるだろうから楽しみにしてて」
「いや、楽しみというか、気になって仕方がない」
昨日の三人からコスモエリート全体に情報が渡ってて、サオリ・アカツキとは誰ぞ? って話になってたりする。
「みんなモヤモヤしてて落ち着かないんだよ。早く分かればレイア得意のコスプレで指揮官を悩殺しちゃうんだけどな~」
実はレイアの趣味はコスプレで、たま~に街頭でゲリライベントをやってるんだとか。
一般人もコスモエリートだってことは知っていて、陰ではコスプレイアと言われてるらしい。
それでも指揮官の意思は固そうだけどね。
『お姉様、サオリ・アカツキの所在地が判明しました。同時に厄介な情報もありまして』
『厄介なのはコスモエリートも同じでしょ。指揮官の事になると目が変わるし。それで今はどこにいるの?』
『セキレイとウグイスの間です』
『間って……』
ウグイスとはセキレイの後方にある艦星で、そことセキレイの間って事は……
『まさかセキレイに向かってる?』
『ご名答です。共和国のハシボソを落としたことで戦況が変化しましたからね。例のサオリ・アカツキが多数の戦艦を引き連れてるようで、この機に共和国内部へと進行するつもりなのでしょう。送られてきたタイミングは前回ハシボソを陥落させた直後のようですが』
結果的にナイスタイミングらしい。ほんっとあのバカ将軍にデカイ面されるのは癪だけどね。
『到着までどれくらい?』
『3日くらいですね。ウグイスを出たばかりだったようですので』
今から予想しておく。3日後は嵐になると。
『それで、厄介な情報ってのは?』
『あちこちの帝国領に調査員を派遣してるようです。なんでも最近現れた強力な生命体を探し回っているとかで、皇帝直々の命令だそうです』
何かを探してる? しかも皇帝が命令してまで?
『何とも曖昧ですが、一つだけ確かな事が言えます』
『それは?』
『お姉様がそれに当てはまるという事です』
……確かに。まさか私を召喚したのは皇帝だったり? いや、それにしては身形や人相の情報がないし、強力な生命体ってだけじゃ漠然とし過ぎている。もっと情報が欲しいわね。
『他に情報はないの? 探してる理由とか、誰が探してるかとか』
『ないですね。情報統制かもしれません』
スパロウ本星に行かないと無理っぽいか。こっちは後で考えよう。
ズゥゥゥン!
「「「!?」」」
重い衝撃により格納庫が揺れ、コスモエリートやクルーたちが何事かと天井を見上げた。まさか敵襲!?
『アイカ!』
『今の衝撃は港からです。外に敵影はありません』
『港で!?』
ズゥゥゥン!
『くっ……いったい何が起こってるの!?』
『先ほど亡命してきた共和国の輸送船が港に入ったはずです。恐らくは……』
敵兵が紛れてたと。
『誰でもいいわ、港に行って暴れてる奴を仕留めてちょうだい!』
『港へは我が近い。すぐに向かう』
『頼んだわGA。私も行くから』
こうなると今後の亡命受け入れは易々とは行かなくなる。自国の民間人にも迷惑かけるとか、ホンッとクズみたいな連中ね。
「ちょっと港に行ってくるわ」
「港に? 先ほどの衝撃は港からか?」
「察しがいいわねフロッソ。どうも亡命してきた連中の中に敵兵が紛れてたらしいのよ」
「そんな!」
最後に大声をあげたのはフレディアだった。
「パパとママが港で待ってるのに!」
言うや否や脇目も振らずに走り出す。
私も後を追い、港に到着した時にはすでに鎮圧された後だった。
大勢の野次馬を掻き分けていくと、輸送船の近くで血塗れになっている獣人が20人ほど横たわっているのが目に飛び込んでくる。
「犯人はコイツら」
「……でしょうね」
ドヤ顔で傍らに立つのはフリフリの服を着たGA。もしかしてその服を気に入ってる?
「ちなみに今回の犠牲者が向こうに集められている」
不運にも港に居合わせた民間人に死人が出たんだとか。下船した敵兵がライフルやロケットランチャーをデタラメにブッ放したらしい。
「フレディアお嬢様ーーーっ!」
「セバスチャン!」
フレディアの執事が慌ただしく駆け寄ってきた。
「セバスチャン、パパとママを知らない? さっきから呼び出してるのに繋がらなくて」
「その事ですが、落ち着いてお聞きください。フレディア様のご両親は敵兵の無差別射撃によりお亡くなりになりました」
「え……」
あろうことか、身近な人間に被害者が出てしまった。




