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ご令嬢との衝突

「――にしても凄かったな~。押し寄せて来た海賊共が泡食って退散しちまうの。お前らも見てたろ?」

「勿論よ~。もっと被害が出るのを想定していたのにあわや殲滅に追い込むんだもの、初めて自分の目を疑ったわ」

「うんうん」


 艦星に帰還すると、目を輝かせたクルーたちによる激励を受ける。あれだけの力を見せつけたからもっとパニクるかと思ったのに意外な反応だわ。


「こりゃ期待のルーキーだ。今夜は派手に歓迎会と――」

「貴様らぁ、静かにせんかぁーーーっ!」


 ガヤガヤとやってるところへあのクソ司令殿の渇が入り、船内がシーンと静まり返る。


「たかが海賊を撃退したくらいで何を腑抜けておるかぁ!」

「し、しかし司令、この子はたった一人で立ち向かい――」

「それがどうした? 敵の主力は逃走した。戦いは終わってはおらん。これしきの事で騒いでおっては先は続かんぞ? 分かったら各自持ち場へ戻れ!」


 私に集っていたクルーたちがサァーッと居なくなり、格納庫まで同行してくれたあの三人のクルーだけがその場に残る。


「ちぇ……。ちょっと騒いでただけじゃねぇか……」

「シッ! 聴こえるわよ? オクモ司令って地獄耳なんだから」


 あのクソ司令はオクモという名前らしい。覚えたくはないけれど、一応は頭の片隅に入れておこう。


「…………」


 あ、目が合っちゃった。


「……フン」

「!?」


 あんのクソ司令、私に視線を合わせてつまらなそうに鼻を鳴らした。労いの言葉くらいかけてくれるなら水に流そうと思ったのに。


「おい貴様、いつまでここに居るつもりだ?」


 ……で、今度は邪魔者扱いですか。


「……私に言ってるの?」 

「他に誰がいる。さっさと自室へ戻れ」

「戻れったって、どこが自室かも分かんないんですけど?」

「……チッ! そこの3人、その小娘に部屋を宛がってやれ!」

「「「は、はい!」」」


 最後は追い出されるような形で部屋まで案内されることに。どこまでも不快なやつね。


「昔はあんなんじゃなかったのにねぇ。どうして怒りっぽくなったのかしら」

「はっ、どうせ更年期障害だろ? 気にするこたぁねぇ。アイリも気にすんなよ?」


 気にはしませんとも。危害が及ばない限りはね。


「ありがとう。え~と……」

「おっとわりぃ、まだ名前を言ってなかったな。俺の名前はダニエルだ」

「ボクはトオル」

「私はポーラよ。よろしくね」

「はい、宜しくお願いします」

「いやいや、ため口でいいって。比較的歳も近いんだしさ」

「分かったわ」


 やや筋肉質なダニエルに、ヒョロ長なトオル、知的なメガネのポーラね。

 三人とも年齢は二十歳前後だし、割りと話しやすくて助かるわ。


「ところでよ、さっき言ってたダンジョンなんちゃら――ってのはどういう意味だ?」

「ダンジョンマスターのこと?」

「おお、それそれ。どっかの地名か?」

「私も気になるわ。その単語は聞いたことないもの」

「うんうん」


 ダンジョンを知らない? まさかこの世界にはダンジョンが存在しないとか?

 だとすると説明するのは難しい。ここはテキトーに誤魔化しておこう。


「えっと……ダンジョンマスターっていうのはね、ベリーキュートな私みたいな女の子を指すの。特に深い意味はないから気にしないで」

「ふ~ん? 地方惑星の固有名詞みたいなもんか」

「うん、そんなとこ」


 ぜんっぜん違うけどね。いずれ機会があれば正体を明かすのもいいかな。


「着いたぞ。ここがキミ達コスモエリートに充てられた居住スペースさ」


 同じゲートが左右交互になる形で通路の奥まで続いていて、その1つ1つが個人部屋になっているんだとか。

 そしてコスモエリート。

 つまり、私みたいな女の子が多く集まってるってわけね。


「上の階は広場になっていて、コスモエリート同士がコミュニケーションを取れるようにしてある。下の階はショッピングモールに繋がってるから、欲しい物があるなら覗いてみるといいかもな」

「但し、下の階には一般人も多くいるから言動には注意してね? コスモエリートだって公にすると畏まっちゃうから」


 そっか。この宇宙船は一般人も生活してるんだもんね。間違っても魔物とか召喚しないように注意しとこ。


「それじゃあ私たちは――っと、危ない、忘れるとこだったわ。突き当たりが空き部屋になってるから、そこを使ってちょうだい」

「これがアイリのIDだよ。部屋のゲートはオートロックになっている。これを無くしたら入れなくなるから注意してね」

「じゃあな、ベリーキュートなダンジョンマスター!」

「うん、ありがとう」


 3人と別れ、空き部屋のゲート横にIDを通す。 このIDは各自に一枚ずつ渡されてて、マイルームのキーとして使用できるらしい。


 ピピッ……プシューーーッ!


「さてさて、中の様子は――おおっと、中々未来的な感じ」


 まず目に付いたのが光源。

 蛍光灯の代わりに光を放つ球体があちこちに浮いてるのよ。これにより室内はとても明るい。


 次に壁面。

 今は淡い黄色系になっているれけど、なんと、任意で色を変えれるらしい。しかも窓が付いていて、ちょうど夕日が差し込んでるわ。

 あ、夕日って言っても疑似太陽よ。宇宙船の中だし、本物は拝めないわね。


 続いてキッチンとバスルーム。

 自分で作ることもできるしオーダーすることも可能で、後者の場合は出来上がると電子レンジから出てくるらしい。勿論お知らせはあの音で。

 バスルームは……うん。10畳間くらいの広さがあって、一人だと広すぎないかと思うくらいね。


 更にリビングと寝室。

 バスルームを更に広くした感じで、大人数でホームパーティーができちゃうくらいよ。

 リビングの壁と寝室の天井には巨大なスクリーンが備え付けてあって、これで好きな番組を見れるらしい。

 使用方法は、視線をモニターに向けて脳内でイメージするだけ。そうすると思考を読み取って映し出される――って、凄いわね。後で試してみよう。


 さて、これらを瞬時に看破したのは、ズバリ()()()()()のお陰。

 そう、私には前の世界で会得した鑑定という便利なスキルを持ってるのよ。

 幸いにしてこの世界でも通用するみたいだし、これからも重宝すると思う。


「気に入った。しばらくはここで生活してみよう。元の世界に帰る方法は、飽きた時にでも考えるってことで――」



 フィンフィン! フィンフィン!


 あ、リビングのモニターが点滅してる。


「え~と、この反応は…………ああ、他の誰かから呼び出しを受けてるのね。はいはい、今出ますよ~っと」


 ブゥン!


「や~っと出たわね新入り。スパロウ帝国の流星って言われてるこのフレディアちゃんを待たせるとはいい度胸じゃない!」


 モニターに映し出されたのは生意気そうな金髪ツインテールの女の子で、年齢は私と同じくらいに見える。


「そのフレディアが何の用?」

「はぁ? アンタねぇ、新入りのくせに先輩であるフレディアちゃんを呼び捨てにするわけぇ? いくら期待のルーキーだからって分を(わきま)えなさい、この茶髪ポニーテール!」


 ……面倒臭いやつね。


「はいはいはいはい、ごめんなさ~い。――それで、何とお呼びすればいいわけ?」

「……な~んか鼻に付く喋り方ねぇ? まぁいいわ。今後フレディアちゃんのことは、エンフェールド家の華麗なる令嬢――流星のフレディアちゃんと呼びなさい」

「……長くない?」

「……言いにくいならフレディアちゃんでいいわ」


 先輩風吹かせてる割にはちゃん付けでいいらしい。本人がそれでいいならいいけども。


「じゃあ今度からフレディアちゃんって呼ぶわ」

「そう、それでいいのよ。アンタの方が立場が下だってことを肝に銘じておきなさい」

「分かった。じゃあまたね」

「うん、また明日――」


 プチュン!


 ふぅ、やれやれ。面倒なやつに目を付けられたわね。


 ブゥン!


「――って待ちなさい! まだフレディアちゃんの用件を話してないわよ!」


 チッ、もう少しでやり過ごせると思ったのに……。


「じゃあ早く話して。夜まで仮眠したいんだから」

「あ、そうだったの? ごめんごめん、すぐに――って、何でフレディアちゃんが頭を下げなきゃならないのよ! ぜんっぜん立場ってものを理解してないじゃない! そもそも初対面なんだから名を名乗りなさいよ名を!」


 あ~、そういえば言ってなかったっけ?


「私はアイリよ。今後ともよろしくね、フレディアちゃん」

「ふ~ん? アイリね、覚えたわ。じゃあさっそくだけど、これから格納庫で模擬戦するわよ」

「模擬戦?」

「そう。アイリが海賊を追い払ったってクルー達が言ってるけれど、フレディアちゃんは認めない。認めて欲しかったら1VS1で勝負しなさい!」

「なら認めなくてもいいわよ。じゃあね」

「そう。ならまた明日――って、そうじゃないのよ! 何でもいいからフレディアちゃんと模擬戦しなさい!」


 はぁ……仕方ない、軽く相手をしてやろう。


「分かった分かった。とにかく戦えばいいのね?」

「そうよ。私の方が格上だってことを思い知らせてやるんだから! 間違っても新入りが早く馴染めるように親睦を深めようとか、期待の新人だから真っ先に仲良くなってみんなに自慢したいとか、あわよくば友達が少ないフレディアちゃんにも親友が出来ちゃうかもとか、そんなことは一切考えてないんだからね!」

「…………」


 本音が駄々漏れなんだけど、ここは気付かないフリをしてあげるのが優しさよね。



★★★★★



『――とまぁ、派手に活躍したせいで模擬戦を申し込まれたわけよ』

『そういう事でしたか』

 

 場所は変わって格納庫にあるアイカが融合しちゃった小型艦の中。簡単に経緯を説明して模擬戦が始まるのを待ってる状態よ。

 そして例の如くアイカとの念話が相手に聴こえることはない。


 ブゥン!


『フフン、逃げずによく来たわね。まずはその勇気を褒めてあげるわ』

『そりゃどうも』


 映し出されたスクリーンの中で、あの面倒なフレディアが腕組みをしている。

 というか、来いっつ~から来たんでしょうが。


『じゃあ今から始めるけど準備はいい?』

『いつでもいいわよ』

『オッケー。カウント0で開始だから、初動が遅れても文句は受け付けないから、そのつもりでね』

『言わないわよ。それより1つ聞きたいんだけど……』


 スクリーンに映るフレディアの背後に、物腰軟らかそうな老紳士が座ってるのよ。

 執事の服装だから、多分……


『ああ、セバスチャンのこと? 一応アイリにも紹介しとくわ。フレディアちゃんの身の回りを世話してくれる執事よ。戦闘でもサポートしてくれるの。フフン、凄いでしょ?』

『セバスチャンと申します。以後お見知り置きを』

『……あ~うん、よろしくね』


 そう言えば令嬢だと明かしてたっけ。でも富豪なら徴兵免除とかされそうな気もするけれど、スパロウ帝国とやらは違うのかな。


『これより、戦闘シュミレーションをスタートします。ステージは本艦星の周囲。互いの出現ポイントはランダムです。10(テェン)(ナイン)(エ~イト)(セブン)(シィックス)――』


 機会音声がカウントダウンを開始する。


 (ファ~イブ)


 (フォ~)


 (スリ~)


 (トゥ~)


 (ワァン)


 (ゼ~ロ)



『スタート!』



 さて、いきなり視界が宇宙へと切り替わったわけだけど……


『アイカ、フレディアの位置は分かる?』

『近くには居ないようです。それより試したいことがありますので、ゴブリンを召喚してみてください』

『ゴブリンを?』

『はい。DPを消費してアップデートした結果、1つの機体として召喚できるようになりました。今回はシミュレーションですが、恐らくは上手くいくかと』


 さすがダンジョンコア。私が居ない間に色々と整えてくれてるみたい。


『サモン、ゴブリン!』


 シュシュシューーーン!


 言われるままに5体ほど召喚してみると、私の知っている赤茶色の肌をしたやつじゃなく、1つの偵察機として周囲に出現した。


 名前:スペースゴブリン

 種族:小型偵察機

 階級:Fランク

 備考:宇宙用に改良されたゴブリンで、戦闘に不向きながらも一応は銃撃も可能。低コストなため壁や囮として使用するのに最適。


『ねぇアイカ、これなら私の方が強くない?』

『そりゃそうですよ。大きさはわたくしと同じでも中身はゴブリンですからね』


 それもそうか。


『じゃあ気を取り直して。ゴブリンたち、フレディアを探してちょうだい』

『『『ギャギャ』』』


 5体のスペースゴブリンを散開させ、私自身も索敵にあたる。

 さぁて、どこに潜んでいるのか……



 ドシュゥゥゥ!


『お姉様、1機撃墜されました。ここから14時方向に50キロ地点です』

『了解』


 さっそく見つけ出すのに成功した。後は軽く撃ち落としてやりましょ。


『ちょっとアイリ、あの小型機はなんなのよ!? あんな兵装見たことないわよ!』

『私専用の偵察機よ。それよりフレディアちゃん、よそ見しててもいいの? もう居場所は特定しちゃったけれど』

『…………は?』


 なぜ――――なぁんて思ってても時すでに遅しよ。隕石(いんせき)の陰に隠れてるようだけど、場所さえ特定しちゃえば――


『燃え尽きなさい――フレイムボム!』



 ドッッッゴォォォォォォン!


『ちょ、な、何よこの爆発は!? こんなに威力があるなんて聞いてな――』


 ボォォォン!


 この魔法はファイヤーストームとは違い、目標地点から半径50メートルほどを焼き尽くす魔法よ。


『ゲームセット。ウィナーはアイリです』


 はい終了~。さっさと帰って仮眠しよう。




 ――と思ったものの、シュミレーション終了後に真っ白に燃え尽きたフレディアを正気に戻すのが面倒だったと付け加えておく。


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