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無政府ハシボソ

 ここぞとばかりに現れた海賊。護衛艦がいないと見て、強気な砲撃を展開し始めた。


『銃撃してきた獣人は鎮圧しました。街の方に逃げた者もいますが、すぐには戻って来ないでしょう』

「なら海賊に集中しましょ。あ、でも一応はコンタクトとってみて。どうするかは相手を見て決めるから」

『了解。通信を開始します』


 所属不明の母艦に呼び掛けると、すぐに応答してくれた。


 ブゥン!


『なんだぁお前? 小娘がコンタクトしてくるたぁ珍しいこともあるもんだ』


 スクリーンに映されたのは、気の強そうな若い女。口調も粗っぽいし、コイツが首領で間違いなさそう。


「私のことはいいわ。それよりアンタの目的を教えてちょうだい」

『目的だぁ? そんなの決まってら。隙あらば奪うのが海賊ってもんだ。偶然にも1隻だけの民間船を見つけてさ、捕まえてみりゃハシボソが無法地帯と化してるって言うじゃねぇか。だったらやる事は一つだろ?』


 自力で脱出した民間人もいたんだ。そして不運にも海賊に捕まったと。


「捕まえた民間人はどうしたの?」

『乗っていたのは死に損ないの年寄りだぜ? ブッ殺したに決まってら。売れもしねぇし飼うだけ無駄だろ』


 だろうとは思った。もうハシボソにいる民間人には絶望しかないわね。


『それより小娘、テメェの面なら高く売れそうだなぁ? 降参するってんなら命だけは助けてやんぜ?』

「売られるつもりはないし降参もしないわ。逆にアンタもソコソコの値がつくんじゃない? 保証はしないけれど、一度奴隷落ちするのも良い経験かもよ」

『そうやって強気でいられるのも今のうちさ。もうテメェの居場所は特定したからなぁ!』


 逆探知でもしていたのか、すぐに艦隊が港へと入り込んで来ると、砲門を開いてこちらへと向けてきた。


『見えるか小娘? あたしが合図すりゃテメェの小型艦はバラバラさ。分かったらさっさと降りて来な!』


 さてどうしよう。反撃するのは簡単だけど、首領の女は近くにいない。ここの艦隊を殲滅(せんめつ)したら逃げちゃうだろうし、逃がさないようにするには……


『おい、聴こえないのか? 死にたくねぇならとっとと降りろつってんだ!』

「あ~はいはい分かりましたよ」


 投降するフリをして機体から降りる。武装した海賊たちも降りてくると、私を取り囲んで銃を突きつけてきた。

 別に怖くはない。障壁張れば無傷だし。


「こっちだ、ついて来い」


 雑魚に連行された先は、例の女海賊の首領が乗る母艦だった。うん、これは好都合。


「よぅ、コスモエリートの小娘。気分はどうだい?」

「こうしてアンタと会えたんだもの、悪いわけないわ」

「ハッ、肝が据わってんなぁ? この状況で動じないたぁ将来大物になるぜ。だがここへ来た以上はおとなしくするこった。あたしとしても売り飛ばす前に傷をつけたくないんでね」


 さて、そろそろこのおバカな海賊に現実を突きつけてやろう。


「そうね。手加減はするけど、ケガしたらゴメンね」

「……あ? 何言って――グホッ!?」


 まずは鳩尾に一撃入れて怯ませる。その隙に雑魚を蹴散らして――


「フン!」


 ズバズバズバズバッ!


「「「ギャア!?」」」

「こ、こいつ、どっから剣を――ギェ!」


 もちろんアイテムボックスからよ。

 ――と言ってもコイツらには理解できないだろうし、永遠の謎としてあの世まで持ってってちょうだい。

 でもってようやく立ち上がった女海賊に切っ先を向けて――


 チャキ!


「うっ……」

「これで形勢逆転ね。何か言い残すことはある?」

「お、おい待てよ、まさかこのまま殺すってのか!?」

「逆に生かしておく理由はある?」

「そりゃあるさ!」

「ふ~ん? 例えば?」

「そうさなぁ……フッ。ならこんなのはどうだい?」


 サッ!


 ズダダダダダダダダッ!


 女海賊が素早く飛び退いたのを合図に、物陰から無数の銃弾が降り注ぐ。

 激しい銃撃と共に床や壁が抉れ、すぐ近くのパイプにも穴が空くと、蒸気のようなものが噴出した。


「ハッ、詰めが甘いな小娘。こちとら幾多の修羅場を潜ってんだ。そう簡単に死んでたまるかよ!」


 往生際の悪さを見れば納得できる。普通なら私は蜂の巣だし、ここでジ・エンドよ。そう、()()()()ね。

 残念ながら普通じゃないのよねぇ私。さっきも言った通り障壁を張れば防げるのよ。こんな風にね。


「しっかし惜しいことをしたなぁ。あの小娘は上玉だったし、できれば殺したくはなかったんだが――――!?」


 はい残念。漏れた蒸気が収まると、そこには無傷の私が。


「お、おま……なんで、生きて……」

「そりゃ銃弾を防いだからに決まってるじゃない。それよりアンタ、自分の身を案じた方がいいんじゃない?」


 チャキ!


「ヒィッ!?」


 もう一度切っ先を突きつける。

 銃撃が効かないと分かったらしく、雑魚共もすっかりおとなしく――というより怯えてるわね。


「ま、待て、待ってくれ。悪かった、謝るから助けておくれよ!」

「私を殺そうとしたくせに?」

「そ、それは……」

「まぁ私も鬼じゃないし、慈悲をかけてあげてもいいけど」

「じ、じゃあ!」



「ええ。苦しまないように殺してあげる」


 ドズッ!


「ガフッ!?」


 的確に心臓を突いてやった。民間人とか殺してる輩だし、生かしておく理由はないわ。


「さ、次はアンタらの番よ」

「ヒッ!?」

「に、逃げろぉぉぉ!」

「コイツはバケモンだぁぁぁ――グハッ!」

 

 私をバケモノ扱いしたやつから優先的に仕留めていく。

 もちろん港にいる海賊も残らず掃討よ。共和国の連中だけじゃなく海賊にまでありつけるなんて、今日は大ラッキーね。


『お姉様、先ほどの少年が海賊に襲われてます』

『バールが?』

『略奪しに向かった海賊と鉢合わせしたのでしょう』


 これも何かの縁だし助けてあげよう。

 ――ってことで、血塗れの戦艦から港に飛び降り、市街地へと走る。途中で見かけた海賊を斬り捨てるのも忘れない。



「チッ、ショボい食料しか持ってねぇのか」

「やめろ! それはこの子達の――」

「るっせぇ! 俺たちが役立ててやるって言ってんだ、ありがたく思え!」


 ドゴッ!


「ぐっ……」


 現場に着くと、ちょうどバールが蹴り飛ばされる場面に出くわした。海賊は2人か。


「おっし、このガキ3人も連れてくか。多少は金になるだろう」

「ま、待て……」

「あん? まだやるってのか? ライフルすらまともに撃てねぇガキがよ!」


 ガッ!



「ギャァァァァァァッ!」


 足をくの字に曲げてのたうち回る海賊。

 くの字と言っても曲がらない方にだから、心臓がよわい人は見ない方がいいかもね。

 あ、やったのは私よ? バールが蹴られる寸前に正面からゲシッて感じで。


「だ、誰だテメ――」


 ガシッ――ダン!


「グホッ!?」

「アンタらに名乗るほど安っぽくないのよ」


 もう一人の海賊を背負い投げで地面に叩きつけてやった。

 本来ならここでトドメを刺すところだけど、幼い子供には刺激が強すぎるってことで、気絶してるのを確認して放置することに。

 もっとも、目を覚ましたところで母艦は壊してあるし首領も死んでるしで、最悪の目覚めになるけどね。


「キ、キミはさっきの……」

「よかったわね無事で。そっちの3人もケガはない?」

「オラは大丈夫」

「オイラも」

「私も!」


 それはよかった。


「どうして戻って来たんだ。海賊が入り込んでる上に残党軍だって残ってるんだぞ?」

「誰かさんが襲われてないかと思って見にきたのよ。そしたら案の定だったじゃない」

「うっ……」

「こう見えてもアンタよりは強いんだから、私の心配なんかより自分と他三人の事を気にかけなさい」

「すまん……」


 見るからにお人好しそうに見えるし、いざ海賊と対面しても撃てなかったんでしょうね。


 ターン! ターン!

 ズダダダダダダダダッ!


「銃声が近いわね。海賊と残党軍がやりあってるんだわ」

「もう……この艦星もおしまいかな……」

「何を急に弱気になってんのよ」

「無政府状態の艦星なんて宇宙の監獄みたいなものだよ。どこにも逃げ場なんて……」


 バールは私と違って強くはない。いずれは狩られる側になるのは目に見えている。


『アイカ。4人くらいなら大丈夫よね?』

『搭乗人数は問題ありませんが、連れ帰るおつもりで?』

『元の原因が私にあるし、それを考慮すればね』

『了解です。あのおバカな将軍も来たようですし、早く退散しましょう』


 ……おバカな将軍?


『まさかとは思うけど、アゼルバインが来たってこと?』

『はい。すぐ近くの宙域に跳躍してきました。ハシブトの攻略に失敗して戻ってきたのではと推測します』


 こうしちゃいられない。共和国の残党と海賊がやり合ってるのに、そこへ帝国軍も加わるとか地獄絵図そのものだわ。

 何より私自身がアゼルバインに目撃されるわけにはいかない。


 シュゥゥゥゥゥゥ!


『お待たせしました。すぐに脱出しましょう』


 アイカが迎えに来てくれた。


「!? この機体は!」

「私の小型艦よ。帝国に亡命するなら連れてくけど?」

「亡命するよ。こんな地獄みたいな場所には留まっていられない。みんなもいいかい?」

「うん」

「おぅ!」

「うん!」


 あっさり決まったわね。いや、幼少の子は亡命の意味を理解してないかもだけど。


『全員乗りましたね。ではお姉様』

『オッケー。座標転移(ハザードワープ)!』


 シュン!



「はい到着~」

「え? ここは……」

「艦星セキレイよ。巨大な赤い物体が見えるでしょ?」

「そ、そんなバカな! ハシボソからセキレイまでは2日はかかる距離だよ!?」

「でも着いたじゃない」

「いや、それがおかしいんだって!」


 例えおかしくても真実は一つ! どうなに遠くても、セキレイまでなら一瞬で着きます。

 これ、私の中では常識だから。


「格納庫に入ったら司令と話してくるから。それまではここに居てちょうだい」

「うん、ありがとう。え~と……」

「あ、まだ名前を言ってなかったっけ。私はアイリ。誰もが恐れるダンジョンマスターよ」


 お節介だったかもだけど、ちょっとした人助けってことで。


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