眷族会議①
「――というわけで、より現状を詳しく把握するため、第一回眷族会議を開きます」
周りが寝静まったところを見計らい、眷族3人を自室に集めた。すでに人間離れしてるのがバレつつあるとはいえ、余計な情報をばら撒きたくないからね。
「会議ですか~?」
「そう。例えばイグリーシアはどうなってるの~とか。私が居なくなって混乱してるんじゃない?」
「いえいえ~。アイナさんが上手く引き継いでくれてまして~、何の混乱もありませんよ~♪」
「せやな。寧ろアイリはんが居なくなってたのに気付かんかったわ。そない気にせんでも大丈夫やで」
早くも会議を終わらせたくなってきた。何の混乱もないですって? そんなバカな。アイナお姉ちゃんみたいに天然ボケ入ってる人がまとめられるわけが――。
あ、一応補足するわ。アイナお姉ちゃんは血の繋がった実姉よ。最終兵器を身に纏った超人で、私や眷族たちよりも強いという理不尽な存在だったりする。なんでそんなに強いのかは省略。
「お姉ちゃんのお陰で混乱がないのは分かったわ。だけどダンジョンコアであるアイカがこっちに転移してるんだから、ダンジョン機能が使えないはずじゃない?」
「それがよ~分からんのやが、アイカはんならイグリーシアにも居りまっせ?」
「……は?」
「アイナはんが言うにはアイカはんとは別の魂が入り込んでるらしくてな、本来のアイカはんとは情報を共有しとらんみたいに言うとったな。ぶっちゃけアイナはんが新たなダンマスとして君臨しとるようや」
つまり私のダンジョンはお姉ちゃんのものになったと? しかもなんの支障もなく運営できてると。
「他の眷族も素直に従っとるし、庶民の間でもアイナはんのファンクラブも出来上がったりと大好評やな」
「早い話が~、アイリ様が居なくても~、問題はな――」
「待てぃ! 私を要らない子みたいにいわないの!」
納得いかない部分は目を瞑るとして、あっちのダンジョンは問題ないと。それならのんびりとこっちの世界を探索できるわね。
「……コホン。イグリーシアのことは置いといて、こっちの世界の話をしましょ。アイカお願い」
『ではでは。今現在も小型艦のコントロールコアと融合した状態にあるわたくしですが、端末を通しての情報吸い上げを行い、おおよその現状を知ることができました。要点をまとめると――』
この宇宙は主に3つの勢力に分かれていて、互いに戦争状態にある。
・スパロウ帝国……一応は私たちが属している国で、戦力を拡大し続ける共和国に危機感を募らせた者が多く集まる国でもある。
人種としては人間が多いが、近年は共和国からの亡命も多く獣人も増えつつある。
【武には武を】が皇帝陛下のお言葉らしい。
・ワーテール共和国……複数の種族が入り乱れている国で、種族対立も多いみたい。それらの矛先を逸らすために国外に向けて団結している節があるとか。
人口が多いだけに、【1人が戦死する間に2人が生まれる】という言葉が存在するらしい。
・連合軍……スパロウ帝国とワーテール共和国に対抗するため、小国が集まって結成された連合国家。
危機感が強いだけに内部での争いは殆どなく、国同士の関係も非常に良好。
しかし軍事力は他2国に差をつけられた状態にあり、帝国と共和国が潰しあっている間に何とか追いつこうと悪戦苦闘している。
・その他の小国……連合に属さない小国で、いまだ中立を保っている。2大国家から離れているため、危機感がないのかもしれない。
・海賊……国籍不明の輩が集まったならず者集団。取り引きによっては国に荷担して他国を襲う――なんてことも。
しかし自由奔放が彼らのモットーであり、取り引きの後でも襲う時は襲う。
『このような感じです』
「ふむふむ……」
海賊は問答無用で狩ってもいい感じかな。むしろ感謝されそうよね。
それ以外とは積極的な戦闘を避けようかと思う。スパロウ帝国に属しているれど、帝国に身を捧げるつもりは毛頭ない。
但し、襲ってきたなら話は別よ。徹底的に叩き潰して残らずDPに変えてやるわ。
「他に情報はある?」
『そうですね…………あ、一つ気になる情報がありました。スパロウ帝国の軍事局から得た情報なのですが……』
軍事局とは、兵器開発部、物資調達部、人事編成部の三つを束ねる組織のことよ。
それぞれの役割は――――まぁ、読んで字の如くよ。
『そこの人事部門において、悪魔降臨の儀式を度々行っているらしいですね』
「はぁ? 悪魔の降臨?」
『はい。軍事技術が発達している今において何故と思うでしょうが、どうやら異世界には未知の生命体が多くいると盲信している者がいるようです』
「それは少々厄介ね」
何せ盲信していることが事実なだけに、偶然にも魔物を召喚してしまうことだってあり得るのよ。
「何かが召喚された事実とかはある?」
『これまでに何体かの生命体を召喚してるようですね。しかし局長がアナログ人間なのか、詳細は記されておりません。まさに一部の者しか知らないトップシークレットではないでしょうか』
トップシークレットとか言われたら余計気になるじゃない。そのうち直接乗り込んで突き止めてやろう。
『次にワーテール共和国についてですが、ま~アレですね。国内は酷いの一言ですよ』
「そんなに酷いの?」
『はい。帝国と戦争中でありながらも一部では内戦状態にあるのだとか。他の小国にも触手を伸ばしてるようですし、もう無茶苦茶ですね。放っておいてもそのうち崩壊するのではないかと見ています』
崩壊した後が大変そうだけどね。
「せやかてアイカはん、そないチャランポランな国を追い詰めるんに、何でまた帝国は苦労しとんのや? とっくにケリがついててもおかしないんちゃうか?」
『それは歴代の皇帝が強かだっただけです。世代交代の度に徐々に衰えていき、今じゃ親の遺産を食い潰しているだけ。そのため貴族間でも皇帝派と反皇帝派に分かれており、中々戦局が進まない原因となっております』
聞いてる限りだと、どっちもどっちって感じよね。
『ちなみにアゼルバイン将軍ですが、現皇帝の妹を嫁にしてるらしいです』
アゼルバインとは、アムールに下の世話をさせようとしたゲス軍人よ。いっそのこと嫁にチクってやろうかしら。
あんなのが居る限り帝国に未来はないわね。
「ところでアイカ、よくワーテール共和国の情報を入手できたわね?」
『はい。最近捕虜にした艦長が居ましたよね? その者が乗っていた戦艦から端末を抜き取ったのです。正確にはGAにやらせたのですがね』
「…………」コクコク
なるほど。有効活用できてなによりだわ。
GAも素直に従ってるし、なぜかフリッフリな服を着てるのはスルーしてあげよう。
『それからDPの調達に関してですが、コスモエリートを搭乗させると僅かながらも入手できるようです。今後は積極的に乗せてみてはいかがでしょう?』
やらない理由はない。特訓に付き合わせるとかテキトーに言って強引に乗せちゃおう。
「その意見を採用。アイカには苦労かけるだろうけど」
『いえいえ。わたくしとしてもDPが貯まるのは望ましいですから』
フィンフィン! フィンフィン!
「あ、呼び出しだ」
リビングのスクリーンをオンにする。呼び出してきた相手は指揮官だった。
『深夜にすまない。共和国の民間船が多数現れたので、立ち会いをお願いしたい』
「別に構わないけど、何で共和国のが?」
『アゼルバイン将軍が共和国の艦星ハシボソを制圧した後、すぐに次の艦星に向かったようでね、チャンスとばかりに残党がゲリラ戦を展開したらしい。ところが……』
指揮官が表情を曇らせる。あの将軍の言動なら予想がつくわ。
「将軍は戻らず、残った守備隊だけでどうにかしろ――とか言ったんでしょ?」
『……概ねその通りだよ。中々鎮圧できずに庶民の被害が増すばかり。安眠できなくなった彼らは亡命を決断したらしい』
「事情は分かったわ。すぐに行くから」
『ありがとう。格納庫で待ってるよ』
オクモ司令の許可も取ってあるようで、私と眷族3人も格納庫へ向かい、すでにセキレイ内部へと誘導されていた10隻もの民間船を見上げる。
深夜という理由もあり、クルーも少数。下船後に暴れだす輩がいたら、すぐにでも取り押さえなきゃね。
「おかしいな、救難信号を受け取った時は9隻だと聞いたが……」
「土壇場で増えたとか?」
「いや、それなら脱出の時点で分かってるはずだよ。数え間違いならいいんだが……」
顔をしかめた指揮官が先頭の民間船を見上げる。
向こうの代表者――鹿獣人の老人がちょうど降りてきたので、再度確認を取り始めた。
「この度は亡命を受け入れていただき誠にありがとう御座います。この恩は――」
「あ~すまない御老体。事前に聞いていた数とは違うようだが、何かあったのかな?」
「はい、その件ですが、わたくしが募った民間船は9隻で間違いありません。しかし出航してからしばらく経つと、急遽最後尾の1隻が合流してきたのです」
聞けばどこにでもありそうな話。でも指揮官は違う見方を示した。
「亡命許可はハシボソの守備隊も了承済みだ。しかし緊急での亡命をすぐに許可するとは思えない」
「じゃあ最後の1隻は……」
「守備隊の制止を振り切って強引についてきた。もしくは守備隊そのものが撃破された。そう考えるのが妥当だよ」
守備隊からの連絡もないし、真っ黒毛ッ毛ね。セキレイでのゲリラ活動が目的か。
『GA』
『……スキャン完了。最後の船には武装した獣人が乗っている。少量の爆発物もあり、多分マスターの考えてる通りだと思う』
ならやることは一つよ。
「ホークとセレンは民間人の誘導を」
「了解や」
「分かりました~♪」
「GAはあの1隻に突入し、内部を完全制圧ね」
「御意」
フリフリな服を着たGAが民間船の下部を破壊し、単身で突入していく。
ほどなくして「ギャー!」とか「やめてくれぇ!」とか聴こえてきたけれど、騙し討ちしようとした輩に遠慮はいらない。みんな仲良くDPになってちょうだい。
「やはりアイリ君がいてくれてよかったよ。キミがいるからボクも安心できる」
「…………」
爽やかスマイルで今の台詞よ。もうね、絵に描いたような天然ジゴロって言えばいい? これは他の子も勘違いするわ。
「はいはい。その台詞は意中の女性に言ってあげて。間違っても他のコスモエリートに言ったらダメよ?」
「う……うん、気を付けるよ」
さぁて、降って湧いたチャンスよ。今ならハシボソの共和国残党を蹴散らしても問題はない。
『お姉様、出撃ですか?』
『ええ。ちょっと散歩にね』




