バミューダの中心
救助要請のあった民間船を奪い返した。一度は敵の手に落ちたものの、偶然にも私の眷族GAを召喚できたのが功を奏した形ね。
襲ってきたワーテール共和国の艦隊も制圧下に置いた(艦内に魔物を召喚してある)し、民間船をセキレイまで連れ帰れば任務完了!
――なんだけど、私の知的好奇心がここ掘れワンワン――いや、掘れる場所はないか。とにかくね、このバミューダ宙域に何か有るって叫んでるのよ。
『え、アイリ君は戻らないのかい?』
「ええ。バミューダ宙域が気になるんで、調査したいな~って」
『う、うん、まぁ、強制はしないけど、あまり深くは入り込まないようにね? 知っての通り自力では脱出できない宙域だと言われてるし、死んで成仏できない船員や乗客がゴーストシップを動かしてるって話もあるくらいだ』
それを調べるのが楽しみなんです――とは言えない。完全に変な子に見られるし。
『大丈夫だとは思うが、フレディア君とリズィ君を残すから何か有ったら彼女たちを頼るようにね』
やれやれって感じに指揮官たちが宙域を離れていく。マシェリーも民間船に乗り移ると護衛艦と共に離れ、私を含む3人がその場に残る形に。
ちなみに護衛艦はGAが遠隔操作で持って行った。
『……で、調査するって本気なの? 誰も近付きたがらない場所なのに』
前方に見える――いや、正確には何も見えない宙域を向いたフレディアが不安を溢す。
「だって気になるじゃない。何年も前の戦艦や輸送船が残ってるんでしょ? だったら知られざる歴史の一つや二つ、眠っててもおかしくはないわ。フレディアは気にならない?」
『気になるかと言われれば気になるわよ』
「でしょ?」
『でもこういうのに強い興味を示すのは男の方だと思うけれどね。歴史の一つや二つよりも、気になる男の一人や二人がいるものじゃないの? 年頃の女子なら』
な、何気に痛いところを……。
『何というかね、アイリを見てると男に興味がないんじゃないかって不安になるわ。まさかアッチの気があるとか言わないでしょうね?』
『ウゲッ!』
「言わないから!」
そこを勘違いされると別の意味でサヨナラしなきゃならなくなる。
それからリズィ、露骨に嫌そうな声を出さないように。
『冗談よ。ま、アイリは親友だから、危険な場所でもフレディアちゃんは付き合ってあげるわ。だから感謝しなさいよね』
「はいはい、ありがとね」
親友だっけ? という野暮な事は言わないでおこう。
『でさ~、どうやって調べるのさ~? まっさかこのまま入り込む気じゃ……』
「偵察機よ」
シュシュシューーーン!
名前:スカウトウルフ
種族:偵察機
階級:Eランク
備考:戦闘能力が低い代わりに機動力が高い。ゴブリンよりはマシ。
取り敢えず3体召喚し、奥へと向かわせた。
DPを貯めなきゃならないから、高ランクの魔物は出さないでおく。
『じゃあ後は結果待ち?』
「ううん。偵察機の視点に切り替えれるから、それで様子を見れるのよ。そっちにもリンクさせるから」
『さっすがアイリ~!』
『ほんっと何でもこなしちゃうわね』
さて、謎に包まれたバミューダの奥底。しかしてその実態は……
『な、何よこれ、あちこちに船の残骸や船そのものが漂ってるじゃない……』
『家具や衣類なんかも浮いてるね~。これじゃまるでゴミステーションだよ~。今日は粗大ゴミの日だっけ?』
二人の感想通り、動けなくなったために取り残された船とその中身がぶちまけられた状態で漂っていた。
それも一つや二つじゃない。かき集めれば星一つが出来上がるんじゃと思われる量がそこらに散らばってるのよ。
「宇宙の墓場って言われてるんだっけ? 正しくその通りだわ」
『そんな宙域を堂々と偵察できるアイリの兵装とは……』
『ちょいとフレディアちゃんや、考えたら負けだよ~。アイリだからで全て解決するくらいに思っとかないと』
全てとは行かないまでも、手広く解決できるなら大満足よ。
ブゥン!
『アイリ、ちょっといい?』
アムールからだ。
「何かあった?」
『うん、バミューダに捕らわれた民間船の船長が、おかしなことを言ってるんだ』
「おかしなこと?」
『本来ならバミューダを迂回するルートを航行する予定だったのが、奇妙な歌声に誘導されてルートを変えてしまったって』
「歌声ねぇ……」
怪奇現象ってやつね。
『聞き入ってしまったら自力では正気に戻れないみたい。だから充分注意して』
「うん、分かった」
プチュン!
『居ましたね、お姉様』
『ええ、居たわね。言っちゃなんだけど、すごくワクワクしてくるわ』
アイカとのやり取りを他人が聞いたら正気じゃないと思うでしょうね。
だけどそれ以上に楽しみなのが、バミューダには魔物が居るってことよ。
『歌が聴こえるってことはセイレーンあたりかな?』
『宇宙にセイレーンというのも不思議な組み合わせですがね。しかし魔物であるならばセイレーン以外は考えられません』
セイレーンはBランクの魔物。イグリーシアではベテラン冒険者ですら手も足もでないほど強い。私は大丈夫だけど、フレディアとリズィには危険すぎるわね。
ピーピ……ピーピピピ……
スピーカーから何か聴こえてくる?
『ラーーーラーーーラーーー♪』
「きた!」
まるで機械が歌ってるかのような歌声が聴こえてきた。
『あ、あれ……こっち?』
『行かなきゃ……』
「マズイ!」
私は神の加護があるからステータス異常は受けない。でもフレディアとリズィは違う!
「行っちゃダメよ!」
ガツゥン!
咄嗟にフレディアの正面に回り込み、進路を塞いで機内へと転移。目が虚になっていたフレディアに万能薬をぶっかけた。
「あ、あれ? フレディアちゃんってばいったい何を……」
「謎の歌声に引き寄せられたのよ。私が同乗してればステータス異常は避けられるから、早くリズィを追って!」
「わ、分かったわ!」
私の機体はアイカに操縦させ、一緒にリズィの後を追う。
「クッ……残骸が邪魔ね」
「落ち着いて。私の機体でリズィを回収するから、フレディアは残骸を片付けて」
「残骸を? それなら任せて。秒速16連射を見せてあげる!」
ズダダダダダダダ!
フレディアが残骸を撃ち払っていき、アイカの機体が先回りを始める。さっきと同じように前へと回り込み、リズィの動きを強引に止めた。
「一瞬だけ離れるわ。リズィを回収するから、戻ったらすぐに離脱しましょ」
シュン!
「き、消えた!? ちょっとアイリ、いったいどこに――」
シュン!
「お待たせ。離脱急いで!」
「――って、戻ってきた!?」
「只の瞬間移動よ。それより早く!」
「う、うん、分かった!」
DPを使用することでアイカも障壁魔法を使えるから、リズィの方は一応安心。
あとはバミューダから離れるとして、私一人が改めて挑むべきね。
『お姉様、偵察を行っていたスカウトウルフが全滅しました。戦艦から魔法が放たれるところがスクリーンに写ってましたので、やはりセイレーンで間違いないかと』
フッ、上等だわ。上には上がいることを教えてやろうじゃないの。
『ね、ねぇ、ちょっと! アイリの機体が勝手に動いてるんだけど、どうなってんの!?』
「オートマ機能よ。リズィは何もしなくて大丈夫だから」
『オートマ機能!? そんな小型艦があるなんて聞いたこと――』
「考えたら負けよリズィ。アイリだからで全て解決するくらいに思っとかないと」
『……うん、そうする』
こうして二人とも考えることを放棄しましたと。説明するのも手間だから大変助かる。
『お姉様、大型戦艦が急速接近してきます。間もなく肉眼でも視認できるでしょう』
『セイレーンが乗るゴーストシップか。アイカの方で落とせそう?』
『なんとも言えませんね。相手はセイレーンですから、魔法防御は高めのはず。DPの消耗を考えると推奨しかねます』
やっぱり一度離脱するしかないか。
「え……な、何……あれ?」
スクリーンを見たフレディアが声を震わせる。
もちろん見たのはゴーストシップ。ボロボロになった戦艦が高速で迫っていた。
「例のゴーストシップよ」
「ゴーストシップ!? クッ……機体の出力が急激に低下し始めてるのもアレのせいね!」
こっちの機体に干渉している? 思った以上に厄介だわ。
『ここはウッチに任せて。アイリの兵装を使えば楽勝っしょ! ほらほら、使い方教えてって!』
と言ってもリズィに魔法が使えるわけがない。無理だから逃げなさいって言おうとしたところで、またアレが発生した。
フィキーーーン!
【宇宙魔力の検出を確認。眷族を解放できます】
嬉しい報告ね。このタイミングってことは、恐らく……
【召喚したい眷族を一体のみ選んでください。選択権は貴女です】
『え……ウッチ? それに眷族って……』
メッセージが指したのはやはりリズィ。感情が高ぶると宇宙魔力とやらが放出されるのかもしれない。
『さっきのGAみたいに召喚できるのよ。頭に浮かんでいるリストの中から選んでちょうだい』
『そうなの~? それなら――』
【選択完了。召喚座標を決めてください】
「ウッチの後部座席だよ~。はい決まり~」
【承認。召喚に移ります】
さてさて、リズィが選んだ眷族は……
【セレンの召喚に成功しました】
なんという偶然か、召喚したのはセイレーンのセレンだった。




