見た目は子供。中身は……
「……ここは……どこ?」
永い眠りから目覚めると、そこは鉄製の壁で覆われた屋内だった。
窓もある。外は真っ暗。どうやら真夜中らしい。
現在地も気になるが、まずは自身に異常がないかを確かめる。
名前:GA
性別:女
年齢:女性に聞くのは失礼らしい。
種族:ギアヒューマン
階級:Sランク
備考:硬い装甲で身を包んだ機械人間。全長は160㎝程度で、白を基調とした装甲に黄色いラインが入っている。頭部表面をスライドさせると、10代前半の少女の顔がある。今現在損傷している箇所はない。
「……異常なし」
行動に支障はないと判断し、周辺の探索に移る。生命体を発見した場合、捕獲して情報を引き出すのを推奨されるため、なるべく殺さないように心がける。
「……!」
ゲートの先に生命体を感知。数は74。人間が62に獣人が12。これよりコンタクトを開始する。
ガシ……
「…………」
ゲートが閉じられたまま開かない。機能は停止しておらず意図的に閉ざしたのだと判断し、やむ無く破壊して進むことにした。
ドガァン!
「「「!?」」」
ゲートの先の74人が一斉に振り向く。誰でもよいが、一番近くにいた獣人にしよう。
「テ、テメェは何者だ? 只の船員じゃないな!?」
「そんな事はどうでもいい。我の質問に答えろ」
「質問だと? ふざけるな! テメェこそおとなしく――」
バキボキベキ!
「ギャァァァァァァ!?」
「軽々しく触れるな。お前はおとなしく質問に答えればいい」
伸ばしてきた手を捻り上げ、そのまま捻きってやった。黙って従っていれば手を損傷することはなかったのに。
「こいつ、抵抗する気か!」
「構わん、撃ち殺せ!」
ダダダダダダダダッ!
アサルトライフルによる銃撃。だが無意味。その程度では我の装甲は撃ち抜けない。よって雑魚。おとなしくさせるため、銃撃してきた何人かを見せしめで殺すことにする。
「何なんだコイツは! 銃弾がまったく効いてな――」
ガッ――――ズダァァァン!
「ゴフッ……」
手前の一人を掴み上げ壁に叩きつけると、首から先がキレイに潰れる。
「……次」
ドゴドゴッ!
「ガッ!」
「ブフッ!」
動きを止めていた別の獣人2人を、すれ違いざまにラリアットで沈めた。
2人とも180度後ろに首をまげるという奇妙なポーズをとり、そのまま動かなくなる。
「……もう一丁」
ガシッ!
「ヒッ!?」
ブチブチブチン!
「グウォアァァァァァァ! う、腕か――俺の腕がぁぁぁ!」
「……うるさい」
ブヂュ!
断末魔が耳障りだったので、のたうち回っていたソイツの頭を踏み潰した。
「う、動くな! 動くとコイツの命は――」
ドヂュ!
「ガ……ァ……」
人質をとろうとした獣人の胴を貫く。情報提供者は多い方がいい。そろそろ大人しくしてくれると有りがたいのに。
ガシャガシャ!
「ままま、待て! 分かった、降参するから命だけは助けてくれ!」
襲ってきた連中の仲間が武器を捨てた。その他の人間はただただ震えるのみ。戦闘の意思はないと見なし、これより情報収集を――
『GA聴こえる?』
聞き覚えのある声で念話が届く。この声は確か……
『……アホ?』
『アホじゃない! アイリよアイリ! いい加減にしないと送還するわよ!?』
それは困る。せっかく復活したのに戻されるのは悲しい。おとなしくマスターと呼ぶことにしよう。
『マスター、現在の状況が不明。襲ってきた連中は全員制圧下に置いているが』
『わぉ、仕事が早いわね。ならマシェリーの両親を見つけて。娘の依頼で助けにきたと言えば通じるから、あとは私が行くまで待機ね。間違っても殺しちゃダメよ?』
『了解。あとで状況説明を求む』
『はいはい、あとでね』
なぜ敵対していたはずのアイリがマスターなのかは不明。しかし敵でないのは有りがたい。
あの人間、我と同じくらい強いからとても怖いので、怒られる前にマシェリーの両親とやらを捜そう。
「マシェリーの両親、居るのなら名乗り出てほしい」
多数の視線が一組の男女に集中する。震えてて言葉を発しないが多分間違いない。なるべく怖がらせないように近付き、スキャンしてみる。
「…………」ジィーーー
「う……ぅ………」
「あ、あなた……」
――――スキャン完了。マシェリーという少女の両親を確認。
但し顔を覗き込んだせいか、極度の恐怖状態にあるもよう。
仕方ない。顔を晒して安心させよう。
シュイン!
「そんなに怖がらないでほしい。襲ってこない限り危害は加えない」
「……え!?」
「……お、女の子……なの?」
全身の震えが収まっていく。顔を晒した効果は大きかったようだ。
「娘に頼まれて助けにきた。つまり2人は保護対象」
「そ、そうか、マシェリーが……」
マスターの言った通り、娘を出したら心拍数が安定してきた。
それが回りの人間にも伝わったようで、緊張が和らいでいくのを感じる。
「マスターからそう伝えろと言われた。もうすぐ来るから待っててほしい」
「分かった」
★★★★★
GAが召喚される一時間ほど前。
「コリドラス艦長、スパロウ帝国の民間船がバミューダにハマったそうです」
「本当か?」
「はい。救難信号もキャッチしたので、事実だと思われます」
これはチャンスだ。なぜそのように危険なルートを選んだのか不明だが、有用な乗客を捕らえるまたとない機会だろう。
「全艦に伝えろ。護衛艦を全て排除して民間船に乗り込めと」
「はい、直ちに伝達いたします」
部下を下がらせ、諜報員から入手した資料に再度目を通す。スパロウ帝国本星から艦星セキレイに移住する貴族がリストアップされており、その中にいる可能性もある。捕らえる価値としては充分だ。
ピピッピピッ!
おっと、カーバー司令からだ。
ブゥン!
『コリドラス、我が艦星ハシボソが帝国の戦闘機により多大な被害が出てしまった。今攻め込まれれば陥落もあり得る。お前には帝国の艦星セキレイに対して何らかの工作を仕掛け、時間を稼いでもらいたいのだ』
お得意の無茶振りか。これだからコネで成り上がった奴は嫌いなのだ。
だが従わないわけにはいかない。立場も然ることながら断った挙げ句に陥落したら、こちらの責任にせれかねんからな。
「ハッ、ちょうど奴らの民間船を捕捉したところです。上手く活用してみます」
『うむ、よろしい。くれぐれも失敗せぬようにな。――ああ、それからハシボソに現れた戦闘機だが、資料を回しておくので確認しておくように。以上だ』
プチュン!
「ふぅ。簡単に言ってくれる……」
ヒラッ!
額に手を当てつつプリントアウトされた資料を手にとる。
そもそもスパロウ帝国の戦闘機がハシボソに被害を及ぼしたのが原因ではないか。その尻拭いを平然とさせるとは、司令としてのプライドが無いも同然ではないか!
――と、いかんいかん、つい頭に血が上ってしまった。
「…………」ズズ……
気を落ち着かせるためカフェオレで喉を潤し、もう一度資料を手にとる。
なんでもエリート部隊であるカーマインを敗走させるほどであり、あわや陥落かという状況にまで追い込まれたのだとか。
それを聞くと帝国が上手く駒を進めているようにも思えるが……
ヒラッ
「件の戦闘機は識別信号を放っておらず、こちらの呼び掛けにも一切応じなかった――と」
別の資料にも目を通していく。件の戦闘機が帝国のものなら動きがチグハグすぎる。艦隊と共に行動していれば、ハシボソはとっくに落ちているからだ。
「まさか……」
連合軍が漁夫の利を狙って実行したか?
我が共和国とスパロウ帝国は二大国家だ。それに対抗するため小国が徒党を組んだ連合があるのだが、位置的に横やりを入れるのは難しい。ならばやはり帝国という事になるか。
ピピッピピッ!
む? カーマインのヴォルフからだと?
ブゥン!
『よぅ、コリドラス艦長殿。審判の時を拝借したいんだが?』
いつもいつも分かりにくい……。要するに時間を貸せと言いたいのか?
「手短に頼む。重要な作戦を任されてるのでな」
『なぁに、時間は取らせんさ。俺たちにも磨いた牙を光らせる機会が欲しいと思ってね』
まともに喋れんのかコイツは……。
「あ~つまりだ。諸君らも加勢してくれると言いたいのだな?」
『その通り』
「敵の護衛艦を撃破してくれるなら歓迎しよう」
『フッ、問題ない。朝より早い飯は格別だ』
プチュン!
オフになる直前の台詞、朝飯前だと言いたかったのか? あの台詞を理解できん奴らも多いだろうにな。
「艦長、間もなく接敵します」
「うむ。手筈通りに頼むぞ」
「了解です」
心強い援護も入った。これなら万一にも失敗はないだろう。
――という予想はズバリ当たり、特にトラブルもなく作戦は成功した。
「艦長、周囲の護衛艦は全て沈黙。民間船の内部も制圧しました」
「ご苦労。乗客と船員を一ヶ所に集めておけ。おって指示を出す。くれぐれも手荒な真似はするな。非戦闘員をいたぶるような愚を晒さないよう厳命しておけ」
「はい、直ちに」
作戦成功だが、これはカーマインの存在が大きく、やはり実力は確かなのだと再認識させられる。
あとはあの言動さえどうにかなれば不満はないのだがな……。
ブゥン!
『どうだい、コリドラス艦長殿。帝国の船は安息を求めて深き眠りについた。ついては彼らの救済をそちらに任せたい。我々は新たな出会いを求めたいのでな』
そろそろ訳すのも面倒になってきたが、民間船はこっちに任せるからカーマインは他に行くと言いたいのだろう。
「此度は助かった。諸君らの働きはカーバー司令の耳に入れておこう」
『清き審判に感謝する』
プチュン!
ふぅ、会話をするだけで精神が磨耗していくかのようだ。できれば二度と会話をしたくない――というか話しかけるな。
「はぁ……。まずは作戦成功の報をカーバー司令に――」
「か、艦長、正体不明の機械生命体が民間船に乗り込んで来たとのことです!」
「機械生命体だと?」
「はい! まるで戦艦のように硬く、近接武器がまったく効かないと!」
帝国の最新兵器か? そのような情報はまったくなかったはずだが……
「艦長、まことに言いにくいのですが……」
「今度はなんだ?」
「民間船に乗り込んだ12人中6人が死亡。例の兵器にやられたようです」
「……何?」
「僅かな時間で半数が死亡したもようです! その後の連絡は途絶えたので、残りの半数は捕虜にされたものと……」
何ということだ、これではミイラ取りがミイラではないか。
「ならば仕方ない。すべての戦闘員を現場に向かわせろ」
「了解しま――」
ズガァァァン!
「「!?」」
突然激しい揺れに襲われ、部下共々壁にもたれ掛かる。直後に部下たちの悲鳴がスピーカーから響き渡った。
「おいまさか……」
いずれも断末魔の叫びであり、何が起こったかは想像するに難しくはない。
バァン!
「クッ!?」
「ヒィィィ!」
俺と部下の2人がいる部屋のゲートが何者かにブチ破られた。入ってきたのは白っぽい装甲で身を包んだ機械生命体。
考えるまでもない。コイツが民間船で暴れたやつなのだろう。
「戦うか降参するかを選べ。戦うを選択した場合は殺してもいいと、マスターから言われている」
「……分かった、降参しよう」
俺に選択肢はないも同然だった。このような強力な存在を隠し持っていたとは、もはやスパロウ帝国に抵抗するのは愚策であろう。




