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そこはスペースファンタジー

 異世界イグリーシアに転移転生してから早2年。私こと天前愛漓(あまさきあいり)は名前をアイリと名乗り、最強最悪のダンジョンマスターと呼ばれる存在となった。

 最強ランクの魔物とも言えるバハムートとリヴァイアサンを始め、多くの眷族を従えた私に敵う存在などなく、自由気ままな生活がこの先も続く――と思われたんだけど……


「まさか宇宙に飛ばされるとはねぇ」


 自室で寝ていたはずなのに気付けば人1人が横になれるカプセル内に寝かされていた。ご丁寧にお気に入りのワンピース姿で。

 透明な上部からは宇宙船の中にいる事がハッキリと分かる。何せガラス張りになってる天井から宇宙がこんにちはをしてるから。


「周囲の様子は……」


 宇宙を眺めるのもほどほどに、上体を起こして周囲を見渡す。

 他にも私のいるカプセルと同じものが並んでいて、ザッと30は有る感じ? けれどいずれも中身は空で、この部屋に居るのは私1人みたい。

 他に見えるものと言えば、奥にある通路くらいね。


「よっ――と。このまま居ても意味はなさそうだし、他に誰か居ないか見て回ろう」


 カプセルから降り、通路の奥へと進んでいく。いきなり襲われる可能性も考慮し、足音を立てないよう忍び足で。

 まぁ襲われたところで返り討ちにする自信はあるけれどね。



「…………す!」



 ん? 誰かの話し声?


「…………しろ!」

「ですが…………ます!」

「…………りません!」


 耳を澄ますと緊迫した雰囲気の会話が聴こえてくる。

 更に近付いてみると、通路の先には学校のグラウンドを半分くらいにしたフロアになっているのが見え、100人近くのクルーが各座席のモニターを見ながら必死に作業を行っていた。


「敵艦隊主力接近、14時方向に集中しています!」

艦星(かんせい)に近付けさせるな! 何としてでも食い止めろ!」

「10時方向から別動隊、側面に回り込もうとしています!」

「出せる艦は全て出せ! 海賊ごときに落とされればとんだ笑いものだ!」


 あらら。どうやらこの宇宙船、海賊に襲われてるらしい。

 というか宇宙って海賊がいるのね。宇宙だけあって戦艦持ってるんだろうし、地上の海賊より強いのかな? 基本海賊や盗賊はザコしかいないし、ちょっと興味あるわね。

 よし、思いきってコンタクトをとってみよう。


「ん? おい、カプセルルームから小娘が出てきたぞ。ついでだ、そいつも出撃させろ」


 フロアに出たところで、軍服を着たオッサンが私に気付いた。

 しかも初対面の私を勝手に戦わせる? 最強最悪なダンマスである私を使おうとするとか、随分と生意気なオッサンね。


「ですが司令、カプセルから出てきたという事は適性試験に通ってないという事であり、出撃させたところで戦闘は……」

「構わん。何もできなくとも盾代わりにはなるだろう。さっさとしろ」

「わ、分かりました!」


 数人の若いクルーが私を囲み、揃って頭を下げてきた。


「ごめんね? まだ戦闘訓練も受けてないのに……」

「すまないな。あのクソ司令の言うことは絶対なんだ。酷だとは思うがぶっつけ本番で学んでくれ」


 どうやらクソ司令のオッサンの命令で戦闘に駆り出されるらしい。

 クルーたちは不安がっているけれど、眷族は最強だし私自身も弱くはないし、戦闘なら問題ない。

 ここがどういう世界なのかも興味あるし、海賊とやらを殲滅させてやろう。使われるのは(しゃく)だけども。


「何をブツクサ言っている? さっさと小型艦に乗せろ!」

「「「は、はいぃ!」」」


 クソ司令に怒鳴られ、そそくさと退散するクルーと私。向かう先は格納庫で、小型艦とやらに乗せられるらしい。

 今のうちに軽く情報収集しておこう。


「あのぉ、質問があるんですけど」

「なぁに?」

「私ってどうやってここに来たんですか? 記憶が混乱していて思い出せないんです」

「そうなの? でもねぇ、送られてくる女の子は訳ありな子が多いらしくてね、素性は一切開示されてないのよ」


 あらま。キッチリと情報統制されてるらしい。


「我が()()()()()()は機密が多いのさ。少しでも他国を出し抜くためにね。聞いたことあるだろ? 【武力無くして平和は来ない。進むも退くも武が頼り】って陛下の言葉をさ」


 陛下ねぇ……。白いものでも黒と言えば黒になる。そんな感じかな。


「俺は学歴を期待されて内務に回されたが、大半の男たちは白兵戦のために徴兵され、女たちはオペレーターとして集められている。子供だって例外じゃない。少年兵は(のち)の英雄候補として日々白兵戦の訓練を受けているし、少女たちは――」


 話の途中で格納庫に着くと、IDカードみたいなのをゲートに通す。


 ピピッ……プシューーーッ!


 左右にスライドしたゲートの先には、全長5メートルほどの小型艦がズラリと並んでいた。


「――小型艦を操縦するために集められた。非力な少女に白兵戦は不向きだし、慣れるなら若いうちってのが理由なんだとさ」


 子供まで戦闘に駆り出されてるとか、戦力に余裕がない証拠よね。

 ま、おかげ様で堂々と戦えるから感謝してるけど。特にこれから実験台になってくれる海賊の皆さんにはね。


「さぁ、好きなやつを選んでちょうだい。それくらいの自由は認められてるわ」

 

 選べって言われても違いがよく分からない。

 みんな似たり寄ったりで形が微妙に違うだけだし、ここはテキトーに――



『お姉様、こちらです』

「っ!?」



 脳裏に直接響く少女の念話。この声はダンジョンコアであり妹分でもあるアイカの声ね。

 

『まさかアイカまで飛ばされてきたの?』

『そのようです。詳しくは後ほど話しますので、今はわたくしの居る小型艦に搭乗してください』

『分かった』


 ダンジョンコアと私は一心同体のようなもので、アイカが壊されれば私も死ぬ。

 ならアイカが居る小型艦を選ばない理由はない。


「この艦にします」

「了解。こう言っちゃなんだが無理はしないようにな」

「うんうん。テキトーに逃げ回っているうちに他の戦艦が追い払ってくれるよ」


 追い払うねぇ……。

 別に殲滅(せんめつ)しちゃっても構わないのよね? ――なぁんて言ったらフラグになったり? それはそれで楽しみだわ。


「あ、そうそう。搭乗席の前にコントロールコアっていう水晶みたいなのが浮いてるから、それを使って操縦するの。まずは射出口(しゃしゅつこう)まで移動してみて」


 さっそくコックピットを開けてみると、ハンドル――いや、この場合は操縦桿かな? それの代わりにダンジョンコアが浮いていた。


『――ってアイカ、いつの間にコントロールコアに転職したのよ?』


 そうよ。ダンジョンコアであるアイカが赤い光を放って目の前に浮いているのよ。


『転職した覚えはありません。気付けばこの小型艦と融合していたのです』


 どうやら私と同じらしい。

 あ、ちなみにだけど、アイカとの会話は念話で行ってるため、他のクルーには聴こえていない。


『そんな事より射出口に向かいましょう。わたくしの意思では動かせないので、お姉様が操作してください』

『どれどれ……』




『――って、どうやんのよ? 念じても動かないんだけど』

『お姉様に才能が無いからでは?』

『……はっ倒すわよ?』

『冗談です。念力ではなく魔力を送り込んではいかがでしょう? それをエネルギーとして動かせるかもしれません』

『なるほど』


 試しにアイカを使って魔力を送り込んでみた。

 すると――



 スィーーーーーー!


「動いた!」

『見事です、お姉様』


 魔力と連動しているためか、ものの数分で自由自在に動かせるようになった。


「凄いわ! 初めてでこんなスピーディーに覚えるなんて過去に例をみないわよ!」

「ああ、こいつぁ驚いたぜ……」

「こらなら戦闘もなんとかなるかもね。――よし、射出するよ!」


 さぁ、いよいよね。

 宇宙を間近に見るのは初めてだし、久しぶりにワクワクするわ!


 シューーーーーーッ!



「はぁ……行ってしまったか。無事に帰還できるといいが……」

「そうだね。本当はあんな若い子にまで戦わせたくはないんだけれど」

「無事を祈りましょ。私たちにできるのはそれだけ――――あら?」

「どうした?」

「この引き継ぎファイルによるとね、カプセルルームには誰もいない事になってるのよ。だとしたらあの子、いったいどこから……」

「どうせ記載漏れだろ? 気にすんなって」

「そうそう。報告するのも手間だし、居たことにしちゃえばいいさ」

「それもそうね」



★★★★★



 シューーーーーーッ!


 まるでスキージャンプを選手の目で見てるかのような感じに滑走し、10秒後にはトンネルを抜けて宇宙へと躍り出た。

 

「凄いわこれ、本物の宇宙だわ」


 見渡す限り真っ暗な空間が広がっていて、恒星による僅かな光しか見えない状態よ。


『さっきの子、聴こえる?』


 あ、オペレーターの女性からだ。


「はい、聴こえてますよ」

艦星(かんせい)の裏側では戦闘が激化してるの。敢えて貴女は反対側に射出したから、敵に見つからないように逃げ回って』


 かんせい? さっきもクソ司令とやらが言ってたっけ。

 何のことかと首を捻ってると、事前に調べていたアイカが教えてくれた。


艦星(かんせい)というのは、わたくしたちが乗っていた宇宙船の事です。その宇宙船が星の役割を果たしており、船内には1万人くらいの民間人が生活しております』


 やけにデカイ船だと思ったらそういう事。

 なら落とされたら略奪されちゃうだろうし、さっさと反対側に行って海賊を蹴散らして来よう。


『あ、さっそく発見』


 反対側へと進むにつれ、モニターに赤い反応が現れ始める。

 艦星とその周囲に取り巻く緑のは味方だろうし、赤いのを全部消しちゃえばいいのよね。


『ちょ、ちょっと待ちなさい、さっきの子! まさか敵艦に突っ込む気!?』

『さっさと引き返せ! ドンパチに巻き込まれるぞ!?』

「大丈夫ですって。いざとなったらすぐ逃げますから」


 ごめんね、オペレーターの人たち。でもちゃ~んと撃破してくるから。

 まずはテキトーな魔物を召喚して――



 ※ERROR! 条件を満たしていないため、宇宙空間への召喚は行えません。


『あ~』

『どうしました?』

『警告くらった……。多分だけど、酸素やら魔力やらが不足してて召喚できないっぽい』


 考えてみればそうよね。宇宙に召喚してもそのまま窒息死するだけだもの。


『それなら私が戦うまでよ』


 魔力を流し込んで動かしてるんだし、魔法を放つようにすればいけるはず。


『お姉様、10時方向からも接近してきます。艦星の側面を突こうとしているかと』

『実験したかったとこだし、丁度いいわ――』


 ダンジョンマスターは魔物を召喚するだけじゃないのよ。

 魔法だって――



『消え去りなさい――ファイヤーストーム!』



 ゴォーーーーーーッ!



 ボボボボボボボボン!


 射撃の代わりに放った火柱が直線に延びた先で広範囲に広がっていき、展開しようとしていた敵艦を満遍なく貫く。

 これにより、側面に回ろうとしていた数十隻の敵艦が消滅した。


『……呆気ないわね?』

『小型艦でしたからね。所詮は海賊ってことなのでは?』


 なぁんだ、つまんないの。


『ですが今ので少量のDP(ダンジョンポイント)が貯まりました。どうやらこの小型艦で敵を倒せばDPを獲得できるようです』


 それは朗報。

 もっと稼いで小型艦をチューンナップしよっと。


『す、すげぇじゃねぇか、さっきの子! まさか戦闘経験者なのか!?』

「まぁそんなところです」


 むしろ地上では万単位で殺してきてるけどね。


『威力も凄いわ! まるで魔法みたい!』

『ああ! こんな兵装ができるコスモエリートは見たことないぜ!』


 はい魔法です――と、心の中で答えておく。

 そしてまた新たな単語が。


『アイカ、コスモエリートって?』

『マニュアルによりますと、未成年の女の子だと白兵戦には不向きということから、戦艦を操縦する役割を与えてるようですね』


 ってことは、友軍機に乗ってるのは殆どが女の子なんだ。


『それよりお姉様、正面に展開していた敵艦隊が長距離離脱をしそうです』

『逃がすか――ファイヤーストーム!』


 ボボボボボボボボン!


『やっ――てないか……』

『はい。殿(しんがり)で残った部隊を撃破しましたが、本隊は跳躍(ちょうやく)により離脱しました』


 雑魚のくせして逃げ足だけは早いわ。この辺は地上の賊も同じね。


『ほ、本当に凄いわ、さっきの子! まさか小型艦だけ――しかも1隻だけで追い払っちゃうなんて!』

『まったくだ。相手が海賊じゃなけりゃ勲章ものだぜ!』


 勲章はいらないなぁ。まだこの国に肩入れするか決めてないし。


「ところでですね、さっきの子という呼び方はそろそろ遠慮してほしいんですが……」

『あ、ごめんなさい。引き継ぎに貴女の名前が乗ってなかったものだから。じゃあ改めて名前を伺っても?』

『私はアイリ。最強最悪なダンジョンマスターのアイリよ』


 こうして宇宙での新たな冒険が始まろうとしていた。


アイカ「皆様こんにちは、ダンジョンコアのアイカです。ここでは本編で補足しきれなかったヶ所を説明していきたいと思います。1話目にしてさっそく造語が出て参りましたので、ここでおさらいしましょう。今回は艦星かんせいについてです」


 ・艦星とは、大型艦や超大型艦を1つの星と見立て、そこで生活できる環境が整っている艦のことである。

 普通の星と違い移動することが可能なので、攻め落としたい星に近付いて前線基地として機能させるのに大いに役立つ。

 当たり前だがコストが大きいので、落とされれば多大な損失となる。


アイカ「こんなところですね。今後も造語が出るたびに説明していきますが、他に知りたい情報などが御座いましたら作者に直接言ってやってください。気まぐれで答えてくれるかもしれません。それではまた来週~」

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