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小麦と葡萄酒

 目の前一面に広がる黄金色の小麦畑。見る者全てに否応なく豊穣の実りを見せつけるその繁栄には、1つの条件が課せられていた。この一面の小麦畑……だけではなく、全ての実りは領主である伯爵一家が交わした、契約の果てに約束されたモノ。それを成就させ続けることで領民達は確かな安寧を得ていたが、それは同時に彼らも伯爵家へ定期的に見返りを用意しなければいけないことを暗に意味していた。

 そして……今代の伯爵家の跡取りはどうやら、運悪く「契約の咎」を身に宿して生まれてきてしまった「因果の子」のようだ。……肥沃な大地と潤沢な恵雨をもたらす代わりに数代に1度、異形となって現れる跡取り。そして跡取りが成人すると同時に、領内の娘から必ず花嫁を出さなければいけない。今年の小麦も実に出来がいい。しかし、今年は……その収穫祭も花嫁選びのせいで、決して目出度いだけのものではなくなりそうだった。


「とうとう、ラジル様も成人召される……どこかから娘を嫁に出さなければならないが……」

「花嫁の条件は16歳〜18歳……ということなのだが」


 収穫祭の最終日。出来立ての葡萄酒を皮袋から注ぎつつも、男達の気分は晴れない。いくら相手は伯爵家の跡取りとは言え、異形の者の花嫁になぞ、誰がなりたがるものか。ましてそんな年頃の可愛い娘を手放さなければならないとなれば、家族の悲しみも並大抵のものではないだろう。


 通称・アオヘビ伯爵、ラジル・ブライトフィートは生まれた時から全身が青い鱗で覆われ、顔もヘビそのものの姿をした「因果の子」として生を受けた。その姿は遥か昔の伯爵家が領土の永久の富と豊穣を望んだ強欲が故に、代償として与えられた罰が形となって現れたものだが、血脈が続く限り栄華も約束されるとあれば、領内ぐるみでそれを成就させようとなるのは自然なこと。しかし、それには定期的に花嫁という名の「生贄」が必要になる。


「まぁ、とりあえず……今回の役回りはメイソンの所だ。あいつのところから、1人出させるしかないだろう」

「……そのための順番だからな。……遣る瀬ないとはいえ、仕方がないか」


 きっと立候補を募ったところで名乗りを上げる者などいない……そんな当然の「忌避」から、ずっと昔に作られたルール。ブライトフィートには4つの豪農が存在しており、その家々には繁栄を享受するための対価として、伯爵家に「因果の子」が生まれた場合は順番に娘を差し出す義務が課せられている。それはある意味で年貢以上に重い代償に他ならないが、こうして余す事なく恩恵を受けている以上、それを避ける術はもう既にない。……散々甘い汁を吸ってきたのだから今更、そこから1抜けた……は当然通用しないワガママだった。


 今頃メイソン家はきっと、葬式かと思われるくらいの悲嘆に暮れていると思われるが……その心痛お察ししますと、男達は顔を見合わせる。それでも今回は「災難」を回避できて良かったと、彼らは胸を撫で下ろす。彼らにとって、それは確かに他人事ではないにしても、やはりどこまでも無関係なことには違いなかったのだ。

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