二人の朝
朝、コーヒーの匂いに誘われてベットから起き上がる。
優しい顔したあなたがいて、私は毎日笑顔で一日を迎えられる。
おはようのキスをして、毎日照れた顔を見せてくれるあなた。
いってきますのハグも、そのとき感じるあなたの匂いも。
全てが愛おしくて、何もかもが完璧に見えていた。
この幸せがずっとずっと続くように、どれだけ神様にお願いしただろう。
「おはよう」
耳元でささやく言葉。
休日のあなたが起きないように、おはようのキスは後でにしよう。
早起きは苦手だったのに、あなたの顔を見る楽しみを知った、早起きは三文の得とはよく言ったものだ。
コーヒーを入れて待っているのは、先に起きたほうと決まっているから、今日は私の番だ。
いつも通り、ポットに手をかけようとした、その時。
パタン。と扉の音が聞こえた。
はっとして顔を上げる。
少し寝癖のついた髪の毛がかわいらしいと思う。
何も言わずに、寝ぼけた顔でリビングに入ってくるあなた。
真っ直ぐに向かったのは、ソファーじゃなくて、写真たて。
「どうしたの?」
私がそういうけど、あなたは何も答えず、ただただ写真を見ている。
そこに写るのは、去年の冬に二人で行ったイルミネーション。
綺麗だ、よく撮れてるって言って、あなたが現像して飾ってくれたものだ。
「その写真、まだそんなに気に入ってるの?」
シン、と静まり返る部屋。
どうして返事してくれないんだろう。
そう思って、あなたに一歩、また一歩と近づく。
すっと、右手があなたに触れそうになる、けど。
その手は、あなたの体をするっと突き抜けた。
息が止まりそうになる。
「いや・・・っ・・・」
声にならない声が、脳内を駆け巡る。
あなたに届かなかった手が震える。
そうだ、私、あの日。
皮肉にも、あなたの身体に触って思い出した残酷な現実が、私とあなたの今の関係をハッキリさせた。
あなたに伝わらない声、もう拭ってもらえない涙、もう抱きしめてあげられない身体。
ここにいるの、あなたのそばにいる、だからそんな顔して私の名前を呼ばないで。
震えながら崩れ落ちるあなたのそばにいても、私は何もしてあげられないんだね。
「ねぇ、泣かないで・・・」
あなたの体温を感じない、あなたに触れることはできない。
だけどそれでいい、私はあなたのことをそれでも抱きしめたい。
いつかあなたが誰かと幸せに笑えるその日まで。
私のことを見えなくていいよ。
だけど、もう少しだけ、一緒に悲しませて。
私たちの幸せがなくなってしまったことを。
そしていつかあなたには、私を思い出にしてほしい。