【3話】後悔
へろーないすとぅーみぃーとぅー
少し小話を挟んで
ーーー三年前
【神】の放った咆哮は千里丘を破壊した。加えて周りの人間も微塵も残さず消滅。
戦線は完全崩壊した。
日根野は膝を地面に着き絶望。
戦線で戦っていた戦闘員の殆んどは日根野の教え子であった。それ故に自らの采配に対する後悔は多大なものであったに違いない。
生駒山戦線が崩れたことにより大量のファンタズマは大阪市街地に流出。
戦況の回復を望めぬと理解した日根野は自らを殿におき、全ての隊へ撤退命令を出した。
しかし、それすらも間違いであった。
アスピドケローネの存在である。
四国へ撤退したチームは大阪湾にて蹂躙されたのだ。その結果、生き残りは半分にまで減少。
なんの成果も得られず、大阪も陥落目前といったところになった。
***
日根野は【神】が作っていったクレーターを目にして胸を痛める。
撤退命令を出した後も何名かは殿に名乗りを上げ、彼に付いてきたのだが、もういない。
それがまた彼を後悔の沼へより一層、深く沈ませる結果となった。
この3年間で行ったことは意味のない抵抗。
なんの活路も見出せぬまま時間だけが過ぎていき、現実の無情さを感じさせられるのみであった。
彼からは徐々に感情が磨り減っていき、いずれ壊れた人形のようにただ死を待つ存在になり果てるのも時間の問題となっていた。
それは何も悲しいことではなく、現実を受け入れるという良い機会だと感じてさえいる時点で壊れきっているのかもしれない。
そして今日も日根野は隠れ家から出、のそりのそりと足遅に害悪を探しに出かけるのであった。
***
千里丘は自分の隊に対して一切心配はしなかった。
それは池田の奇跡とも言える『勘』を信じてのことだ。
池田という女は戦闘能力だけ見れば身長の割に高くはなく、我が隊においては一番下だろう。
しかしヤツの幸運がなければ五、六回は全滅していたに違いない。それ故に千里丘隊を心配する必要は皆無なのだ。
千里丘、池田、貝塚、大正、島本。たった5人のチームであったが、残した功績は大きい。
数多のS級ファンタズマの討伐に成功してきた実力派チームである。
その正体は凶悪犯罪者の集まり。
死刑を言い渡された彼等は《スクード》に引き渡され多くの死を乗り越えてきた。
言ってしまえば死に損ない達である。
だから心配する必要はない。ヤツらの生命力は異常なのだから。
長瀬には「薄情だねぇ」と言われだが、今、心配すべきは己のことの方である。
そう、鬼の巣の下にあるこの施設だ。そして今居る場所。
よくもまあ、3年間、見つからなかったなと思うのだが、それはそれで好都合である。見つかっていないのなら抜け出すのは簡単なのだから。ゆっくりと長瀬と千里丘は下山していく。一応、酒を忍ばせて。
まぁ、これだけ丁寧に説明したのだから見つかるフラグがたっていてもおかしくはないだろう。
「(このクソ野郎が)」
千里丘はかつてないほどの憎悪を長瀬に向ける。
***
「僕専用枕がないとねれないんだよね。」
と言い出したのは下山が完了してからであった。
勿論、千里丘は先を急ごうとしたのだが、この場において『研究者』であるコイツを置いていくのはまずいと判断したので、駄々をこねるオッサンと共に渋々引き返すことにしたのだ。
『研究者』とはファンタズマを解体、解析し出現時における被害予測であったり、弱点を明示する《スクード》所属の人間たちのことを言う。
長瀬はその中でも異質で、ほぼ全てのファンタズマの知識を備えている化け物なのだ。
千里丘も数多の強敵と合間見えてきたが、無論、長瀬の知識には及ばない。
それ故にここで捨てるような軽率な真似は言語道断、死を意味するのである。
まぁ、それが間違いだったわけで。
山に足を踏み入れた時に見つかってしまったのだ。
そのまま山頂まで連行されて、今、鬼の主人の目の前にいるということだ。
備えあれば憂いなしとはよく言ったものだ。
考えても見れば人間2人、武器も持たずに出歩くなど軽率極まりない。
***
ここは山頂。長瀬がいた施設の真上である。
冷や汗を滝のように流す男2人を差し置いて口を開いたのは鬼の主人であった。怪訝な面持ちで。
『えっ、何用?』
「そう思いますよね」と思った。丸腰の人間が自分たち鬼の領地に足を踏み入れたんだから普通はそう考えるよね。俺でもちょっと心配するもんね、コイツら頭おかしいんじゃねぇの?ってな。
「枕を取りに来ました。」
長瀬が行った!なんかもう一周回って尊敬するぜ!コイツはあれだ、アホだ。とてつもないアホだったんだ。
千里丘は必死で笑いを堪える。
(吹き出したら殺される吹き出したら殺される吹き出したら殺される)
『ぶふッ!クククッ!アッハッハッハッハ!』
(めっちゃウケたんですけど)
千里丘の内心はカオス。長瀬は未だ冷や汗を垂れ流しっぱなし。
詰んだ。そう思った時、鬼の頭は予想外の発言をする。
『知っておるぞ貴様ら!お前たちはあれであろう?この山の中でコソコソと暮らしておった人間であろう?』
バレてた。普通にバレてた。
『今朝方、出て行ったのでな、あぁ~死にに行ったわ、と思っていたら、なんと!「枕を取りに帰ってきました」だぁ?お前らはこの地獄で旅行でもするのか?いいぞ面白い!気に入ったわ!コソコソと何かしておってのぉ、小賢しいだけの人間かと思えば、とんだ馬鹿がおでましとはな!」
次は恥ずかしさで冷や汗が止まらない。
だが、少し安心したと言えば嘘ではない。あと一押しで生きて帰れそうだ。
まぁ、世の中、そんなうまく事が運ぶわけはなく。そもそも人間の理屈が鬼に適応されるわけもなく。
安心はまたも冷や汗に塗りつぶされた。
『よし!では、殺し合おうか!』
千里丘の運命やいかに!
まだ続きます故、是非次回も見て行ってください、よろしくご期待ください!