表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大阪FANTASISTs  作者: あるきめです。
過去編
1/8

プロローグ1

はじめまして。では、ないのですが、一応はじめまして。あるきめです。です。

 大阪FANTASISTs


「ったっはー!まじかよ!そこでここに置くかね?普通。」


 ここはとある建物の地下室。


 ガラスのテーブルの上にはオセロが置かれ向かい合うように2人の男女が睨み合う。


 その近くには「キケン」と書かれているのにもかかわらず無造作に開け放たれたロッカー。その中には数丁のピストルと弾が分けて入れられている。


 先に言っておくが、ここは警察署ではない。そんな小規模な組織ではない。


「あのーちょっと煩いんだけど。」


 ヌッとソファーの影から顔を出した女は苛立ったような顔をしている。

 ここは地下室。とてもよく響く。


 ギギギッと錆びたドアが開かれる。


「隊長、いますかー。」


 暗闇の先から現れた身長175センチ程ある女が声を放つ。


「見回りじゃないっすか?もう1年も出てないのに健気ですよねってギャアア!・・・たははぁまた負けた。」


 どうやら第6085次オセロ大戦が終結したらしい。女側は膝を抱えてシュンとなる。


「飽きもせずに6000回もオセロしてる方がよっぽど健気ですよ・・」


 6000回もオセロをする。別に健気に使命をこなしているわけではない。


 皆さんも御察しの通りただただ暇なのだ。


 彼らの仕事に必要不可欠な害敵(ファンタズマ)がここ一年、朝の通勤ラッシュ時に梅田駅で起きた無差別殺傷事件以来、一切の出現が確認されていない。


 それも世界規模でだ。


 それまで毎日のように害敵駆除に勤しんでいたのに急にいなくなったもんだから、そりゃあもう、暇で暇で仕方がない訳だ。


 まぁ、一切いないわけじゃない。

 この地下室でも飼っているウサギ型ファンタズマである。


「大山さーん、ごはんですよー。」

(ウサギ型の名前はフォレスト大山。みんなからは「大山さん」と呼ばれている。)


 そう言いながら部屋に入ってきた男を見て175センチの女、「池田」はズカズカと歩み寄り自分より小さい上司に対して言い放つ。


「千里丘隊長!支部長が呼んでましたよ!電話に出ないってカンカンだったんですからね!」


「隊長、また飯の約束すっぽかしたんですか?」


 オセロで6085戦全勝の男、「大正」は目の前の女、「貝塚」に対し嘲笑を浮かべながら口を動かす。


「えっ、まじ?日根野さんそんなにキレてた?」


 千里丘の顔に焦り(の演技)が見える。


 全敗の貝塚が涙目になりながら質問を投げる。


「てか、なんでいっつもたいちょーって見回りとか行ってんですか?『ファンタズマ』なんてもう1匹も出てないじゃないっすか。」


「手薄になった時に敵は現れるって相場が決まってんだよ。ほんで、俺が見回りしてたら知能の高いファンタズマは出てこれないしな。ははは。」


「やっぱ、《オーバー・10》の殺戮放浪警棒さんの言うことは違いますねー。」


 ソファーで寝ていた目つきの悪い、ついでに毒舌の少女、「島本」は起き上がらずに皮肉が込められた千里丘の通り名をつぶやく。


 それに対し千里丘は少々嬉しそうだ。


「んじゃあ、俺は日根野さんのところに行ってくるけど、誰かついてくる?」


「日根野さんの絡みだるいから、パス」


 まじかーと言いながら千里丘は部屋から出て薄暗い廊下を歩いていく。


 天井に設置された蛍光灯は切れかかっているのかチカチカと点滅している。

 廊下の突き当たりにあるエレベーターに乗り込み地上へと向かう。



 そこは大阪の○○駅にあるとあるエレベーター。



 本来それに地下フロア行きのボタンなどない。






 駅から出て少し歩いたところで急に千里丘は口を開く。


「約束をすっぽかしたのは謝りますが、別に尾行しなくてもいいでしょう。」


 建物の陰から1人の男が姿を現した。

 全身がスーツに包まれた男だ。


 革靴でコツコツと音を鳴らしながら千里丘のもとまで歩み寄る。


「やっぱり気づかれたか、なにで俺に気付いたんだ?」


「ニオイで。」


「犬かよ、」


 年齢が30も離れているのにも関わらず、実は結構仲の良い2人である。


「それにしても約束をすっぽかすとはいい度胸だなぁ?クソガキ。」


「お詫びに奢りますよ、ココなんてどうですか?」


 千里丘は親指で隣の建物を指差す。


「最近人気のランチ。インスタ映え間違いなしらしいですよ。そういうの結構好きでしたよね、確か。」


「あぁ、そうだが、ココ完全予約制だったろ?」


「とってます。」


「時間、間に合ってるのか?」


「はい、ちょうど今ですが。」


「お前、ほんとツンデレだよな」


「何故そうなる。」


 2人は入店し席に着く。そして始まるのは近況報告と世間話だ。


「ここ一年ほんとなんも出ねーよな。」


「うちの隊が自堕落になってしまって、たまったもんじゃないです、ほんと。でも出ないのならそれはそれで平和で良いんですけどね。」


「ほんとにそう思うか?」


「それは俺の家族を殺した『ヤツ』のことを言ってるんですか?それなら心配ないですよ。」


 日根野が目を細くする。


「何故?」


「『ヤツ』は世界の使者、最初2回の出現での目的は人類の殺減のみ。

 ヤツらは世界が危機に瀕しない限り現れない。

 逆に言えば世界が危うい状態になれば必ず出現するということなわけですよ。」


「なるほど、まぁヤツには来て欲しくはないんだがな。。。超SS級ファンタズマ、『神』。」


「赤十字軍遠征、世界大戦という大規模攻撃をも凌いだ忌々しい『神』を倒すためにヤツと同じ力で対抗しようとしているのはかなり乙な話ですよね。」


 しばらくすると料理が並べられる。


 空腹で若干、げっそりしていた日根野は急にがっつくことなく冷静にSNS用の写真を撮り、それから死に物狂いでムシャムシャと頬張る。

 さながら獣である。


 2人がいるのはオープンテラス席であり、そこからは大阪の街の一角を眺めることができる。


 それにしても平和。


 オカルティックな謎の生命体と戦っていた1年前がとても懐かしく感じる。


 千里丘の所属する《スクード》はそういった説明不能な生物を駆除する秘密結社である。


 謎の生命体は『ファンタズマ』と呼ばれ、人類の天敵とも言う。


 千里丘は《オーバー・10》という世界で10人しかいない内の一人で、かなりの精鋭であり、先程、日根野の追跡を感知したのもそのチカラの一端である。


「ふぅ、うまかった。」


 日根野は満足気に息を吐く。


 会計を済ませ(結局、日根野が払った)、大通りを歩き始める。


「そういえば、要件があるとか言ってませんでしたっけ?」


 日根野は忘れていたと言わんばかりの顔をしながら、スーツの内ポケットから封筒を取り出す。


「次は仕事のお誘いだ。」


 ***


 私立佐竹台学園は有名進学校として日本中に知れ渡っている。

 中高一貫で、大学をもつ巨大な学園。

 そんなエリート校では最近、こんな噂が流れているという。


「夜中の9時に北館に行くと鬼に襲われる。」



 誰もが馬鹿馬鹿しいと思うだろう。

 というか彼らもきっとそう思っていたに違いない、被害者が出るまでは・・・。


 ***


 まだ肌寒いような気がしなくもない四月上旬。


 《スクード日本、近畿地方支部、特攻部隊隊長》は制服に身を包み、ぎこちない足取りでとある高校の門をくぐる。


 ここは私立佐竹台学園。


 自分には学校など一生縁のない建物だと思っていたのにと、ぐちぐち言いながら職員室へと向かう。


「失礼します。転入生の千里丘です。長瀬理事長先生はいらっしゃいますか?」


 取り合ってくれたのは若い新任であろう男の先生。

 彼に連れられ職員室の隣へと移動する。

 扉を叩き、中に入る。

 新任教師はとても謙譲的な態度で挨拶をし、千里丘を置いて退室した。


 高級な革の椅子に座りコチラを見据える男は開口一番こう言った。


「久し振りだね、『死に損ない』。相変わらず礼儀がなってないね、会えて嬉しいよ。うん。」


 千里丘は来客用の椅子に深く腰掛け、足を組み、小馬鹿にするような態度で返事をする。


「久し振りです。あなたこそ相変わらずの変態趣味をお持ちのようでで虫唾が走りますよ。」


 千里丘が見据えているのは大量に積まれた段ボール。


「やはり、君の観察眼は素晴らしいね。うん。」


「『研究者』はどうしてこう、変態しかいないのか疑問で仕方がないんですが。」


 研究者とは《スクード》所属のファンタズマ研究者のことだ。この目の前にいる変態野郎もそれに該当するわけである。


「話は日根野支部長から聞かせてもらっているよ。うん。まさか、我が校で鬼が見つかるとは嬉しくて仕方ないね。うん。」


 被害者が出ているのにも関わらず不謹慎な野郎である。


「で、一応、潜入ということなのですが俺はどこに行けばいいのですか?」


「君が行くのは高校2年5組だね。うん。目撃者と同じクラスだね。うん。」


 目撃者とは被害者の友人。

 事件時、体を引き裂かれた友人の隣にいた子のことである。


 ***


 千里丘は理事長室をあとにし担任に連れられて教室へ向かう。


 外に出るときは常に特殊警棒と電気警棒を装備し、防弾チョッキ2型で身を保護し、時はに短剣を忍ばせ、「もしも」に対応できる格好なのだが、ここではそんなものは持ってこれない。


 せいぜい、特殊警棒一本。こんなもので一体何と戦えるんだか・・・と、ちょっと悪態をついていると教室の前まで来た。


 ***


 扉を開け、挨拶をする。(ここでの内容は恥ずかしいので割愛させて頂く。)


 ***


 千里丘隊は今日も暇を極めている。

 オセロは第7000次に突入し、目つきの悪い少女は遂に座禅を組み始め悟りを開きにかかる始末である。


 と、唐突に座禅少女が口を開く。


「暇」


 今まで自分を偽り楽しそうにオセロをしていた二人の精神が崩壊する。


「「それ言ったらおしまいでしょうガァァァァア!!」」


 それに対して目つき悪座禅少女が眼を限界まで開き

「うるっせぇぇええ!!んなもんわかってるよ!!」


 3人揉みくちゃになって激しい格闘戦が勃発するがそれもすぐに終わりを告げる。声を出すのも、動き回るのもしんどいのだ。そして3人、定位置に戻って行く。


「ウフフ、オセロ、タノシーナー」


「ソウダネ」


「・・・」


 もはや涙目。


 ***


 天王寺 道春は神童と呼ばれていた。


 何不自由ない生活を送っていた。


 だが、それは唐突に終わりを告げた。家族が友達がバケモノに殺されたのだ。


 その矛先が自分に向こうとした時、自分と歳の近い少年がバケモノを撃退した。


 それ以降、自分も強くなりたくて、《スクード》に入り、《オーバー・10》となった。


 《スクード》に身を置き始めた頃から学校には行かなくなった。


 そして、今ではそれが当たり前のように感じている。


 こりゃ、自分には一生縁のない建物だな。と思っていた矢先、上からの命令でまさかこんな仕事を任されるなんて・・・。


「お腹空いたから食堂でも行くか。」


 そう言って席を立ちぷらぷらと歩き出す。


 ***


 千里丘は午前の授業を終え、昼食調達のため売店へ向かう。

 私立なだけあって建物が綺麗で独創的だなぁと見渡す。ステンドグラスって、洒落すぎだろ。


 そしてなにより、人が多い。大勢の話し声が合成されとてもうるさく感じる。


 食堂に到着し、売店でメロンパンとコーヒーを購入し適当に座って昼食をとる。


 聞こえてくる笑い声、聞こえてくる喧騒、千里丘は肘をテーブルについてメロンパンの袋をいじりながら、「平和だなー」と思う。


「あ?」


 不意に後ろを振り返る。なにかゾッとするような視線を感じたからだ。


 そこにいたのは少年である。1つ年下だろうか。

 少年は眼を見開きものすごい勢いで腰を曲げ大声で言い放った。


「初めまして千里丘さん!自分は天王寺っていいます!お会いできて光栄です!」


 うるさかった食堂内を天王寺なる少年の声が席巻する、注目は俺たちに向けられた。


 千里丘は天王寺なる少年の耳を掴み引きずるように食堂から逃走した。


 ***


 最近の学校は転落防止の為に屋上を閉鎖しているところもよくあるのだが、最上位アクセスキーを貰っている千里丘たちは難なく足を踏み入れることができる。



「で?君は阿呆なのか?それとも馬鹿なのか?潜入中に目立ちすぎるとは一体誰に教育されたんだお前は!」


「阿呆でも馬鹿でもありません。天王寺です、先輩。それと僕の上司は日根野支部長です。」


 はぁーっとため息を吐いてイライラ成分を口から吐き出す。


「じゃあ天王寺くん?君はどこの所属で、どうしてあんな軽率な行動をとったのか教えてくれるかな?」


「はい、僕は《近畿地方支部、地域安全課》所属であります。先程は無礼を働き申し訳ありません。僕は数年前、先輩に命を救って頂きましたので、つい興奮してしまいました。」


 千里丘は天王寺の話を軽く流しつつ足先から頭先までを舐め回すように見つめる。


 コイツは自分を〈オーバー・10〉の1人だと言っている。しかし、まだ、1()2()%()程度だそうだ。


 千里丘は怪訝な面持ちでガキの顔を見る。


「どうしましたか?先輩。」


 不思議そうな目で顔を覗き込む。


「いや、何でもない。気を取り直して情報共有といこうじゃないか。」


 ***


 日が沈み始めた刻、千里丘は一人廊下を歩く。


 先程の情報共有は天王寺(アイツ)を見る為の口実に過ぎない。

 いくつか嘘を混ぜたが、結構危うい嘘でも鵜呑みにする馬鹿だった。

 ああいう奴に下手に動かれると、折角、立案した作戦を破綻されかねない。

 できればご帰宅願いたいのだがなぁ。


 事件現場であった場所に到着する。

 夕陽が差し込みオレンジに染まる。当日は血で染まっていたらしいが、目撃者がコレを見れば事件を想起するやもしれんな、などと考えてみたりする。


「ニオイは流石に残ってないか。」


 千里丘の力を持ってしても残留情報を読み取るのは難しそうだ。


 とりあえず『12時に北館』にいるのが最も良い策のようだ。


「という訳で夜間に校内で待機することになった。」


「そうだねぇそれが無難だろうねぇ。うん。」


 研究者は片手でルービックキューブを転がしながら応対する。

 理事長室。ダンボールの数に変化はない。今まで通りの変態趣味だ。


「それでは失礼する。」


 そう言い残し踵を返す。

 報告会を終了しドアノブに手をかけたところで長瀬が口を開く。


「世界って退屈だよね。」


 男の口から聞いたこともないような憂鬱を感じ取った。千里丘はドアノブに手をかけたままでいる。


「どうしてそう思う?」


「僕はね、アクシデントが大好きなんだ。でも、それらは全て人の手によって迅速に解決されてしまう。必然的に僕は楽しみを失う。」


「当然だな。お前の様な変態に世界が傾いたら、崩壊は免れんだろう。」


「そうだね。うん。それはダメだ。苦しむ人間が居てのアクシデント。崩壊なんて望まないね、うん。」


「・・・話は終わりか?」


 千里丘は軽く顔を後ろに向ける。

 奴の顔は夕日の逆光でよく見えなかったが、笑みの歪みであった事に間違いはない。


「君は世間話もできないのかい?」


 その日の夜、校内に残っていた千里丘が鬼に遭遇することはなかった。


 ***


 つづく

読んでいただきありがとうございます!


できれば本編まで読んでください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ